軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恥ずかしい事をしてしまいました

魔物の討伐を訓練に加えてから数日が経過した。

小型、中型、大型、災害級と次々と討伐していき、討伐による報酬もどんどん増えていった。

その討伐報酬から戦闘服の代金という事で皆からお金を貰った。

俺は要らないと言ったんだけど、施しを受けるだけでは申し訳ないと強硬に主張され、結局口座の残高は元に戻った。

むしろ魔物の討伐報酬も少なからず入っていたので、逆に増えた。

前世では常にカツカツの生活をしていたから、大金を得ても何して良いか分かんないんだよなあ。

そんな事をアイリーンさんに言ったら、しょうがないなという顔をされた。

「経済的に余裕のある人に娘を嫁がせるのは、親としては好ましい事ですからね、シン君の資産が増えていくのは私としては願ったり叶ったりよ。もし資産運用に困ったら相談しにいらっしゃいな。こう見えても領地経営までしてる子爵家ですからね」

「はあ、ありがとうございます」

「クロード夫人、シンにはこれから世界中に配備される通信機の利権も入ってくる。商会を立ち上げた方が良いと思うのだが」

「それもそうですね。シン君、導師様のお知り合いで誰か商会の方いない?」

「何でばあちゃんなんです? じいちゃんじゃなくて」

「アラ、シン君知らないの? 今世間に出回ってる生活用の魔道具は、殆ど導師様が発明されたのよ?」

「それは聞いた事ありますけど」

「その利権は?」

「あ……聞いた事無かったです」

「導師様の発明品も、それこそ世界中に広まってるのよ?個人で管理出来るものではないわ。恐らくどこかの商会を通してるはずよ」

「あ……だからトムおじさんなのかも」

「トムおじさん?」

「トム=ハーグっていう、ハーグ商会の代表です。昔からよく家に来てて、昔じいちゃんに世話になったって言ってたんですけど、じいちゃんじゃなくてばあちゃんだったのか」

「ハーグ代表と知り合いなの!?」

話を聞いていたアリスが声を挙げる。

そういえばアリスのお父さんってハーグ商会の経理担当だっけ。

「うん、言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

「ハーグ商会ですか。なるほど、確かにあそこは魔道具の種類も質も他とは一線を画する商会ですね。導師様の取引商会はそこでしたか」

あ、何かばらしちゃいけない事ばらしちゃった?

そこへ温泉から上がって来たばあちゃんが通り掛かった。

「ばあちゃんごめん、トムおじさんの事ばらしちゃいけなかった?」

「ん? ああ、別に構いやしないよ。トムと取引がある事は別に秘密じゃないからね」

良かった……アイリーンさんの口振りだと、ついに取引先を見付けた! みたいな雰囲気だったから……。

「ンフフ、シン君って可愛いわねえ、からかい甲斐があるわあ」

「クロード夫人も分かりますか。シンは思い通りの反応をしてくれるので、ついからかってしまうんですよ」

「分かりますわ殿下」

「ちょっと! オーグ! アイリーンさん!」

「ほら」

「ええ」

「え? これも?」

なんて事だ! お義母さんまで加わったら弄られ放題じゃないか!

「もう、お母様その位にしてあげて下さい。シン君が可哀想です」

シシリーが俺を援護してくれた。いいぞ! 頑張れ!

「アラ、ご免なさい。旦那様をからかわれたらいい気はしないわね」

「旦那様……」

なんて事だ! シシリーまでお義母さんの術中に嵌まってる!

戦力にならなくなったシシリーに愕然としたが、クロード家の人達とは良好な感じで過ごしていた。

結局、通信機についてはトムおじさんに指導を受けつつ、自分で商会を立ち上げた方が良いという結論に達した。

まあ、まだ緊急連絡用にしか使われてないし、急ぐ必要は無いんだけどね。

そうしている内に王都での婚約披露パーティの日がやって来た。

会場はクロード家の王都屋敷で、クロード家の招待客とウォルフォード家の招待客を招いて婚約披露をするのだ。

クロード家側は何人来るか分かんないけど、ウチは俺の誕生日を祝ってくれた面々と、担任のアルフレッド先生が加わる位。

数が少ないけど大丈夫かな?

「本当に……何を言ってるんでしょうね、シン殿は……」

「数は少ないけど質が……」

「国王陛下に前騎士団総長、騎士団と魔法師団のアイドルに王都一の商会代表。本人は賢者様と導師様の孫。アルフレッド先生が可哀想」

「リンさんの言う通りですね。私なら招待拒否するかもしれません……」

「先生にはフォローしてあげないといけないわねぇ……」

……そういえばそうか。森の家に来てた時は肩書きなんて知らなかったから、そんなに偉い人達だという感覚が無いんだよなあ……

研究会のメンバーも今日は制服を着て参加する。家族も来るんだそうだ。

そして着替えようかという時……。

皆が集まってる部屋の扉がノックされた。

「はい」

俺の返事で開かれた扉の向こうに立っていたのは、三人の男女だった。

「お兄様! お姉様!」

「おお、シシリー! ひさ……」

「あーん! シシリー久しぶりー!」

「また可愛くなったわねえ!」

「あぅ……お姉様……苦しいです……」

「久しぶりに可愛い妹に会ったのよ!? ちょっと位我慢なさい!」

「そうです! その可愛い妹の婚約披露パーティだなんて……お父様からお話を聞いた時、お姉ちゃんすっごく哀しかったんですからね!」

うわあ……お姉さん方、シシリーの事超可愛がってる! これはあれか? アンタなんかにはうちの可愛い妹は相応しくない! って言われるパターンか?

「アナタがシン君?」

「は、はい!」

「ふーん……」

うおお……見られてる……メッチャ見られてる!

「……はあ、私の超可愛い妹に手を出した男は、どんな奴だろうと難癖付けてやろうと思ってたのに……」

「賢者様と導師様の御孫さんで、イケメンでお金持ってて、賢者様を越える魔法使いだなんて……どこに難癖付けりゃ良いのよ……」

「あ、どうも……」

おお? 何か回避したっぽい!

「ほっほ、ウチの孫はどうじゃろう? 認めて貰えたかの?」

「当たり前さね。アタシの孫だよ?」

「え?」

「もしや賢者様? 導師様?」

「シンの祖父のマーリンじゃ」

「祖母のメリダだよ」

爺さんとばあちゃんが自己紹介をしたら二人のお姉さんは直立不同になった。

「ご、御挨拶が遅れまして申し訳御座いません! シシリーの姉でクロード子爵家長女のセシリア=フォン=クロードです!」

「お、同じくシシリーの姉でクロード子爵家次女のシルビア=フォン=クロードです! 御会いできて光栄ですわ!」

さっきまで俺を値踏みしてた視線とは違い、憧れと尊敬を含んだ目で爺さんとばあちゃんを見てた。

「ほっほ、孫のお嫁さんのお姉さんじゃ、そう固くならんと」

「そうさ、これから家族になるんだ、堅苦しいのは無しだよ」

「け、賢者様と導師様の家族……」

「ああ……夢じゃない?」

「シシリー!」

「なんですか? セシリアお姉様」

「良くやったわシシリー! シシリーをお嫁に出すなんて考えられなかったけど……これは最高よ!」

「そうね! 最高の相手を見付けたわねシシリー!」

「シン君!」

「は、はい!」

「私は長女のセシリアよ。シシリー共々宜しくね!」

「私は次女のシルビアです。私も宜しくお願いしますわ」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」

「アラ、性格も良さそうじゃない」

「そうね、どんな出会いがあったのか知りたいわ」

さっきまでの可愛い妹を盗られたという咎めるような視線から一変し、爺さんとばあちゃんの家族になれるという事で一気に祝福ムードに変わったお姉さん達。

急に騒がしくなったな……。

長女のセシリアさんはシシリーを成長させてアイリーンさんに至る途中って感じ。三人並ぶと成長の過程みたいで面白いな。

次女のシルビアさんはセシルさん譲りの綺麗な金髪のショートカットで、青い目もセシルさんにそっくりだ。

二人とも美人だな。

それより、どうしても気になる事がある。

「あの……」

「どうしたの? シン君」

「何か聞きたい事でも?」

「ええ、あの……そちらで蹲ってる方は……」

そう、さっき最初に部屋に入ってきてお姉さん方に押し退けられた男性……多分……いや間違いなく……。

「ロイスさんでは?」

「き、気が付いてくれたのかねシン君!」

「そりゃまあ……シシリーのお兄さんですし、気になりますよ」

「そうかい! いやあ頼りになる義弟が出来て嬉しいよ! あ、私はロイス=フォン=クロード、クロード子爵家の長男だよ」

お兄さんもこちらが気付くと急に元気になった。

……普段はお姉さん達に相当虐げられてるんだろうなあ……。

「シン=ウォルフォードです。宜しくお願いしますロイスさん」

「こちらこそ! そして賢者様、導師様、初めまして、クロード子爵家の長男、ロイス=フォン=クロードです。これから宜しくお願い致します」

「メリダだよ、こちらこそ宜しくねえ」

「マーリンじゃ。ロイス君」

「は、はい!」

「……君の苦労はよう分かる……頑張るんじゃぞ!」

「賢者様……う、ありがとうございます……」

何か感動の一場面みたいな事が起きてる。

爺さんもよく空気扱いされてるからなあ……シンパシーを感じてしまったのだろう……。

頑張れ爺さん! ロイスさん!

「まったく、シンの周りはいつも騒がしいな」

「え? ア、アウグスト殿下!?」

「何故こんなところに!?」

「何でも何も、私はシンと同じ研究会のメンバーで二人の友人だからな。いてもおかしくはないだろう?」

「そ、そうなんですか?」

「あ! 申し訳御座いません! 殿下を無視するような事になってしまって……」

「ああ、気にするな。さっきも言ったが今日は二人の友人としてここにいるからな」

「二人をくっ付けた張本人ですしねえ」

エリーの言葉にお姉さん方は驚いた様子でオーグに礼をした。

「そのような御尽力を頂いたとは露知らず、大変御無礼を致しました」

「そして、二人を仲介して下さった事、姉として御礼を申し上げます。ありがとうございました」

その様子に慌ててロイスさんも膝をついた。

「で、殿下! 御挨拶が遅れまして申し訳御座いません。そして此度の事にも感謝を申し上げます。ありがとうございました」

爺さんと随分と意気投合していたみたいだ。

空気同盟……哀しい同盟だなあ……。

俺達は着替えがまだなので、皆は会場の手伝いをしてくると言って部屋を出ていった。

「はあ……緊張しました」

「実のお兄さんとお姉さんなのに?」

「お姉様達には、私の相手を決める時は見定めてあげるって言われてましたから……シン君なら大丈夫って思ってましたけどいざとなると……」

「まあ、なんて言われるか分かんないもんね」

「お爺様とお婆様のお陰ですね。アッサリ認めてくれました」

お爺様、お婆様と呼ばれた二人はニヨニヨしてる。本当に嬉しそうだな。

シシリーも着替えの為に退出し、俺も着替えを終わらせる。

いよいよ時間となり、着替えを終えたシシリーが部屋に戻ってきた。

青いドレスは身内だけのパーティの時より大人っぽくなり、フリルは殆ど無くなった。

髪型は前と同じくアップにしており、アクセサリーは前回より豪華になってる。

ほんのり化粧もして、一層大人っぽくなったな……。

「じゃあ、行こうか」

「はい」

俺達は腕を組んでホールに向かう。

爺さんとばあちゃんは後ろから着いて来てる。

ホールで待っててもいいんだけど騒ぎになるかもしれないとの事で、俺達と一緒に登場する事にしたのだ。

ホールに近付いてくると……うわ、凄い人数の気配がする。何人来てるんだ?

なんかザワついてるし。

あ、そういえばディスおじさんは? まさかもうホールにいるのか?

『皆様大変長らくお待たせ致しました。今回の主役二人の登場です。どうぞ温かい拍手でお迎えください』

拡声の魔道具を通してセシルさんの声が聞こえ、ホールの扉が開かれた。

なんか……前世で参加した先輩の結婚披露宴みたいだな。

扉が開くと大きな拍手で、迎えられた。

なんか花道みたいなのが出来てて、そこを通って行った先にセシルさんとアイリーンさんとディスおじさんがいた。

やっぱりいた。そりゃザワつくわ。

爺さん、ばあちゃんよりこっちを気にしろよ!

俺達の祝いの席だというのに、突っ込みたい衝動に駈られて大変だ!

爺さんとばあちゃんも保護者の列に加わり、ディスおじさんの言葉で式が始まった。

「この度のシン=ウォルフォード、シシリー=フォン=クロードの婚約は、ディセウム=フォン=アールスハイドが立会人となりこれを承認するものとする。両家とも異論は無いか?」

ディスおじさんの言葉に黙って頷く爺さん達。

「それでは、両人を婚約者と認め、ここに承認するものとする」

その言葉に会場は拍手に包まれた。

「堅苦しい挨拶はここまでにしようか、それでは皆の者グラスを持て。前途ある二人の将来を祝して……乾杯!」

『乾杯!』

ようやく婚約披露パーティが始まったのだが、それからが大変だった。

シシリーを昔から知っている親戚の人が大勢来て祝福していってくれたのだが、俺は初対面の人達ばっかりだったので、精神的にグッタリしてしまった。

「よお、おめでとうさん。やっぱり付き合ってたかお前達」

「まあ、あの様子を見てそう考えない者はいないでしょうからね。おめでとうシン、シシリーさん」

「ジークにーちゃん……クリスねーちゃん……」

「なんだ、グッタリしてるな」

「初対面の人達ばっかりだから緊張しちゃって……」

「シンでも緊張する事があるんですね」

「クリスねーちゃんは俺を何だと思ってるのかな!?」

「悪いシン、俺も思った」

「非道い!」

前回参加出来なかったジークにーちゃんとクリスねーちゃんが来てくれてようやく一息付いた。本当に緊張しっぱなしだったよ。

「久しぶりだなシン。あの小さかった子が婚約するとは、私も歳を取る訳だ」

「あ、久しぶりミッシェルさん」

「ふむ、変わらず鍛練しているようだな」

「まあ、今はこんな状況だからね。準備は怠らないようにしないと」

「よろしい、いい心がけだ」

「あ、紹介するね、俺の婚約者になってくれたシシリーだよ」

「は、初めまして剣聖様! シシリー=フォン=クロードと申します。この度シン君と婚約させて頂きました。これから宜しくお願い致します」

「初めましてお嬢さん、ミッシェル=コーリングです。シンは赤子の時から賢者殿達と一緒に面倒を見てきたからね、甥のように接している。お嬢さんもそのように接してくれると嬉しいね」

「は、はい! 光栄です!」

そういえばシシリー……っていうか研究会の面々とは初対面だったな。シシリーがメッチャ感動してる。

「おめでとうございますシンさん、お久しぶりですね」

「あ、トムおじさん、お久しぶりです」

「フフ、あの小さかったシンさんが婚約ですか……時が経つのは早いものですね」

「皆それ言うよね、自分では結構な時間が経ってると思うんだけど……」

「子供の内はそうですよ。それに他所の家の子は成長が早いというじゃありませんか。それにしてもシンさんは成長が早かったですけどね」

「そんなに早かったんですか?」

トムおじさんの話に興味を持ったのか、シシリーが話に入ってきた。

「おや、御挨拶が遅れまして申し訳御座いません。お嬢さん、私はトム=ハーグ、どうぞお見知りおきを」

「シシリー=フォン=クロードです、こちらこそ宜しくお願い致します。それで、シン君の成長が早かったって仰ってましたけど、どういう事ですか?」

「ああ、私はマーリン様のお宅に日用品等を定期的に持って行っていたんですがね……」

「え? 代表自らですか?」

「ええ、マーリン様とメリダ様は大恩ある御方。他の者に任せる訳にはいきません。それで、毎回シンさんに本を持って行っていたんですが……行く度に本の難解度が上がっていきましてな……本当に頭の良い子でした」

「へえ、そうなんですか」

「最終的には、魔法の最高研究機関である魔法学術院の論文まで読み始めて……しかもそれに対しての意見を求められるんです。あの時のマーリン様とメリダ様、それに陛下まで狼狽えている様子は今でも忘れられません」

「そ、そんな事が……でも想像出来ますね」

「そうでしょう? 訪れる度にそのレベルが上がっているんです。そりゃあ時が経つのが早く感じるものです」

シシリーとトムおじさんが変な所で意気投合してる。

違う世界に来たからね……知りたい事が一杯あって……だから時が経つのが遅く感じたのかな?

「あ、そうだトムおじさん、後で相談があるんだ」

「おや、なんでしょう?」

「ええと……声を掛けといてなんだけど、ばあちゃんとアイリーンさんに詳しい話を聞いてもらっていい?」

「ええ、良いですよ。早速行ってきましょうか」

そう言ってトムおじさんはばあちゃんとアイリーンの所に向かった。

「……ウォルフォード……」

「わ! ビックリした。どうしたんですか? アルフレッド先生」

何かゲッソリした感じのアルフレッド先生が後ろに立っていた。

「どうしたもこうしたもあるか! お前達の婚約披露パーティに招待してもらえたのは嬉しいがな、なんで……なんでウォルフォード家の招待客なんだ!」

「え? いけなかったですか?」

「……他の招待客は?」

「ええと……ディスおじさんにミッシェルさん、ジークにーちゃんとクリスねーちゃんにトムおじさんかな?」

「そこに何故俺が入る!?」

「え? 先生だから?」

「もうな……その面々と同列に並んでるんだ……周りからの嫉妬の視線が痛いし怖い!」

「あっれえ? アルフレッド先輩じゃないっすか?」

「ジークフリード! 大きい声で名前を呼ぶな!」

「クク、良いじゃないですか。シンの担任なんですから、堂々としてれば」

「……気楽でいいなお前は……」

「まあ俺は昔からシンの事、弟みたいに接してましたからね。招待されてないと逆に凹んでたとこです」

ジークにーちゃんの言葉にこそばゆいものを感じたが、俺も兄のように接していたので、同じ気持ちだったと嬉しくなった。

「私も弟のように思ってますよ」

クリスねーちゃんもそう言ってくれた。

「ありがと、クリスねーちゃん」

「どういたしまして」

後半はそんな風にホッコリしながらパーティは進んだ。

アルフレッド先生は居心地悪そうだったけど……。

そして、その後何の問題も無くパーティは終了した。

……てっきり「お前はシシリーさんに相応しくない!」とか言う奴がいると思っていたんだけど、そんなイベントは起こらなかった。

国王様公認だからな……。

何人か俺を視線で射殺そうとするくらい睨んできた奴はいたけど……。

そして翌日はオーグの誕生日と立太子の儀式だ。

儀式は王城の前にステージを造り、国民に公開される。

その際、先程セシルさんが使った拡声器……というか通信の魔道具の応用なんだけど、マイクとスピーカーを用意した。

マイクには『音声送信』、スピーカには『音声受信』と『拡声』を付与した。

さっきセシルさんは試運転がてらそれを使ったのだ。

そして当日。

「おお……オーグが王子様っぽい」

「あの……っぽいじゃなくて王子様です……」

儀式用の衣装に身を包んだオーグを見て、ついそんな台詞を吐いてしまった。

「……なんだろうな、皆の前でこういう格好をするのが恥ずかしくなってきたぞ」

「アウグスト様、シンさん達に毒され過ぎですわ……やっぱりそうなのかしら?」

「おおい! 昨日婚約披露パーティまでしたでしょ!」

「……まあ、いいですわ。それよりアウグスト様、これからこういう機会は増えて行くのですから、元の感覚を取り戻して下さいまし」

「ああ、分かっている」

今日は皆制服ではなく先日渡した戦闘服に身を包んでいる。

実は一緒にステージに上がり儀式の様子を見る事になっているのだ。

そして王城前のステージは人で一杯になり、いよいよオーグの立太子の儀式が行われた。

『我が息子、アウグスト=フォン=アールスハイドよ。汝は王太子となりこの国の為、国民の為に身を粉にして邁進する事を誓うか?』

『私はこの国の為、国民の為に命を捧げる事を誓います』

『うむ、よう言うた。アウグスト、汝を王太子と認める。国民の為に努める事を期待する』

『畏まりました』

マイクを通してスピーカーから拡声された二人の言葉が広場中に響いた。

ステージ前に集まった国民達から大歓声があがる。

そうして立太子の儀式が終わろうという時、一人の兵士がステージ脇に駆け込んできた。

息も絶え絶えで、全力で走って来たと思われるその兵士は、他の兵士の制止を振り切って叫んだ。

「御報告申し上げます! 先程スイード王国から通信が入りました!」

スイード王国とは、帝国、王国共に国境を接する、いわゆる周辺小国と言われる国だ。

そこから通信が入り兵士が血相を変えて飛び込んできた。

という事は……。

「スイード王国に魔人が多数出現! 交戦状態に入ったとの事です!」

予想通り、ついに魔人が行動を開始したとの報告だった。

「馬鹿者! 儀式の最中にそのような報告をするとは何事だ!」

「よい! その者を咎めるな」

声を掛けたのはディスおじさんではなく、オーグだった。

「殿下……」

「よく知らせてくれた。魔人出現の報は何より最優先される情報だ。遠慮して報告が遅くなる事の方が問題だ」

おお、オーグが王子様っぽい。

オーグの言葉はマイクを通して皆に聞こえている。

集まった国民達は魔人の出現にざわつき始めた。

『皆、落ち着いて聞いて欲しい。たった今、隣国スイード王国に魔人が現れたとの報告が入った』

オーグは広場に集まった国民達に説明し始めた。

『だが心配するな。魔人に対抗する手段を、我々は既に持っている』

そう言ってオーグは俺の顔を見た。

その瞬間に理解した。

これはパフォーマンスだ。

ついに魔人が行動を開始した事に、強い不安を持つ国民に希望を持たせる為の措置だ。

『シン!』

オーグが大きな声で俺を呼び、それに応えてオーグの隣に並んだ。

『彼はシン=ウォルフォード、私の友人であり、かの英雄マーリン=ウォルフォードの孫であり、先日現れた魔人を既に倒した新しい英雄である』

オーグの話を国民が固唾を呑んで見守っている。

『私は……我々はこのシンと共に研鑽を続け、ついに魔人に対抗するだけの力を得た!』

オーグは俺以外の研究会のメンバーも後ろ手に手招きして呼び寄せた。

『我々は既に災害級の魔物を単独で討伐出来るまで成長した!』

「災害級を単独討伐!?」

その言葉に、国民より兵士達の驚きの方が大きかったみたいだ。

『そうだ! 報告によると人工魔人は災害級とほぼ同じ強さらしい、そんな奴等に我々が遅れを取ると思うか!?』

本当は災害級より少し強い位って報告したんだけどね。ほぼって言ってたし、嘘ではないか。

『我々はすぐさまスイード王国に向かい魔人共を討伐してくる、安心するがいい!』

そう言ってオーグは着ていた儀式用の服を脱いだ。

その下には既に研究会の戦闘服を着ていた。

なんで準備してんだ?

(シン、お前も何か言え)

(俺も?)

(それと、何かチーム名を考えろ。研究会の名前じゃ不安が残る)

(今かよ!?)

マイクがあるので耳を寄せて小声で呟く。

何かって何を!?

『……皆さん安心して下さい。俺は魔人とは既に対戦し、問題なく倒しています。ここにいる皆はそれと十分対抗出来る力を持っている。俺達……』

えーと、何にしよう?究極魔法研究会だから……ダメだ! これしか思い浮かばない!

『……俺達、『アルティメット・マジシャンズ』が必ず魔人を討伐してきます』

うおお! やっちまった! なんだよアルティメット・マジシャンズって!? 直訳じゃねえか! 何より痛々しいよ!

発言してしまった事に大後悔をして、ステージ上で顔を真っ赤にしていると……。

『うおおおおおお!!!』

急に大歓声が起きた。

「クク、『アルティメット・マジシャンズ』か、中々いい名前じゃないか?」

「お、お前……こんな時まで」

「おっと誤解するな、そんなつもりじゃない。今回は本当に偶然だ」

「本当かよ……」

「それより、派手に出陣するぞ。国民に希望を持たせる為にな」

「ああ、分かった」

派手な出陣……となるとこれしかないか。

俺は、全員に浮遊魔法を掛けると宙に浮いた。

実験しといて良かった。

皆自分で風の魔法を使い位置を調整している。

さっきまで歓声を挙げていた皆はその光景にもう一度言葉を失ったようだ。

『では……『アルティメット・マジシャンズ!』出陣!!』

『おお!!』

全員で返答し、各々風の魔法を起動して出陣して行った。

そして……後ろでは再度大きな歓声が挙がっていた。

……その名を大声で呼ばないで!