軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事務所にて

「ただいま戻りましたあ!」

「戻りました」

「ああ、おかえりメイちゃん、エクレール君。今日はどうだった?」

夕方のアルティメット・マジシャンズの事務所。

俺はそこで、アルティメット・マジシャンズの業務とは関係ない仕事をしていた。

いや、最近のアルティメット・マジシャンズは、事務員さんたちが優秀なので俺が見る書類とか無くなってきてるんだよ。

各国でも将来有望なエリートを送り込んできたみたいだし。

元々は力を付け過ぎた俺たちに対する監視という名目だったけど、俺たちに疚しいところなど全くない。

事務員さんたちも、そういう疑いがないと分かると普通の業務に邁進してくれた。

毎年行っている新規入団試験も六回に及び、新入団員も研修を経て現場に出れる人材も増えてきた。

そうすると、俺が出る依頼が無くなってしまい、こうして事務所には詰めているけどやることがないという状況が生まれた。

いや、なんかもう、完全に俺の手を離れて独立していってる気がするな。

まあ、元々それが目的で団員や事務員を増やしたんだけどね。

最近俺がしてる仕事といえば、もっぱら新しい魔道具の制作とそれのアップグレード。

……ウォルフォード商会でやれよって内容です。

ただなあ……商会の方はアリスのお父さんであるグレンさんが社長として切り盛りしてくれているから、こっちよりも仕事がないんだよ。

ここなら、たまに緊急案件ということで出動要請が出ることもあるから、特に商会の方で用事がないときはアルティメット・マジシャンズの事務所で色々しているのだ。

俺は、マジコンカーの改良案を練っていたのだが、その作業を中断して帰ってきたメイちゃんとエクレール君を出迎えた。

「今日は久々の魔物討伐案件だったですけど、数が多くて大変だったです」

「今日伺った地域は、人の手が入っていない場所が多かったですね。もしかしたら魔物が大量発生しているかもしれません」

「マジか。じゃあ、その地域の領主に注意喚起しとくか」

「お願いします」

「それじゃあ、上申書を作成して提出するから、なるべく早く報告書出してね」

「分かりました」

こうして現地から帰ってきた団員から話を聞いて、改善できるところがあれば国や領主に進言や注意喚起するのも俺の仕事。

とはいえ、平民である俺から伝えても各領主は貴族なので進言を邪険にされるかもしれない。

なので、俺がすることは団員の報告書をもとに詳細な上申書を作ってオーグへ上申すること。

あとは、アールスハイド王家の名で領主や各国に連絡が行く。

自分たちで対処できるならしてもらった方がいいからね。

そうしないと、自分たちでなにもしない、依存体質が生まれてしまう。

自分たちでなんとかして、それでもなんともできなければ俺たちに依頼が回ってくる。

数年続けて、ようやくこういった形式が取られるようになった。

はじめの頃は、なんでもかんでも引き受けてパンクしかかっていた。

魔物ハンター協会に依頼を振り分けで、ハンターたちに依頼をこなしてもらうという形式も、ここ数年ですっかり定着した。

そのお陰か、ハンター協会には魔物討伐以外の依頼が直接持ち込まれるようになった。

まさに、異世界ラノベによくある冒険者ギルドのような業務形態になってきたんだよな。

今のところランク制度などはないけど、依頼の内容によっては信頼のおけるハンターに受けてもらいたいものもあるそうなので、その内ランク制度か、信頼度、貢献度制度が生まれるかもしれないな。

そんなことを考えながらオーグに提出する上申書の用意をしていると、カタリナさんから声をかけられた。

「シン様、先ほどウォルフォード商会から書類が届きました」

「あるがとう」

カタリナさんから書類を受け取った俺は、書類に目を通した。

ちなみに、この書類は郵送されてきたり誰かが持ってきたわけではない。

アルティメット・マジシャンズの事務所と王城の間で使われていた書類の転送装置を一般にも開放したので、それを使って送られてきたのだ。

まあ、前世でいうところのFAXだな。

違うのは、送られてくるのがコピーではなくて現物であるということと、対になっている転送装置同士でないとやり取りができないこと。

今のところ、番号を設定して色んなところに自由に書類やもののやり取りをできるようにする予定はない。

ゲートの魔法を付与してあるので、転送されるのは現物そのものであるし、もし小さい高級品……例えば金貨や宝石などが転送された場合、追跡するのが困難になるからだ。

対になっているのなら、送った先がすぐに分かるからね。

という装置を使って送られてきた書類に目を通す。

書類の内容は、近々魔道具を取り扱っている商会同士で会合をするので出席してほしいという依頼だった。

会議の内容は、最近になってクワンロンから魔石が大量に輸入されたことで、魔道具士が魔石を使った魔道具の開発に積極的になった。

ただ、普段から魔石を使わないことを前提とした魔道具の開発しかしてこなかったので、魔石の有効な使い方が分からない。

無茶な使い方をして事故が起きる前に、魔石の使い方について議論したいという内容だった。

今回開発したマジコンカーにも使ったけど、最近は本当に魔石が安価で店頭に並ぶようになった。

そのお陰で、俺は前から作りたかった常時点灯している照明器具や空調器具、氷を作る必要がなく常時冷やす冷蔵庫、全自動洗濯乾燥機などを開発し販売し始めた。

俺は魔石を自分で作れたので、昔からこういう魔道具は作っていて、自宅でのみ使用したりしていた。

で、この度世間一般にも魔石が出回り始めたので、家で使っている家電……じゃなくて生活魔道具を解放した。

結果は、大流行した。

そういった商品のお陰で、今魔石利用魔道具は凄く熱いのだ。

すでに魔石利用魔道具の販売をしているウチにまで話が来たのは、技術の独占はよくない。皆にレクチャーしてほしい……ってところだろうな。

そうなると、俺の返事は一つ。

俺はペンをとり、書類に記載されている『参加・不参加』の項目に〇を入れ、ウォルフォード商会に送り返した。

「あれ? 随分と返送が早いですね。あんまり重要な書類じゃなかったんですか?」

書類転送装置はカタリナさんの席の近くにある。

彼女はアルティメット・マジシャンズの事務長的な立場にいるので、事務所に来る書類には真っ先に目を通すためこの席なのだ。

それと、こちらから送付する書類のチェックもしている。

俺の場合は、商会の機密に関わることがあるのと、そもそもコレを作ったのは俺で、コレを使わなくても自分のゲートで直接送れるから、チェックしようがしまいがあんまり関係ないからチェックされてない。

俺が書類にすぐサインをして送り返したので、内容を知らないカタリナさんは不思議に思ったのだろう。

「ああ、なんか今度魔石を利用する魔道具についての会議をするので出欠確認の書類だったから」

「そうなんですか。まあ、今更ですよね。シン様ほど魔石の取り扱いに長けている方はいらっしゃいませんもの」

「そうかな? まあ、そんなわけでね」

「はい、不参加ですよね?」

「いや? 参加するよ」

「はい!?」

俺の返事を聞いて、カタリナさんだけでなく、周囲で作業していた他の事務員や、報告書を書いていたメイちゃんとエクレール君まで目を見開いて俺を見ていた。

「え、なぜです? 魔石をどうやって使うのかを議論する集まりですよね? なぜシン様が出席する必要があるのでしょうか?」

「そうです。シンお兄ちゃんはすでに答えを知ってます。魔道ランプとか空調とか作ったです。今更出る必要ないじゃないです?」

「そうだね。俺には必要ないね」

「……シン様、もしかして」

何かに気付いたエクレール君が、まさかという顔をして俺を見ていた。

「うん。魔石をどう魔道具に使うのかレクチャーしてくるよ」

『えええっ!?』

俺が魔石利用のレクチャーをしてくると言うと、事務所中から悲鳴が上がった。

「な、なんでですのん!? 今のとこ、魔石を使った魔道具で大儲けしてるのはシン様のとこの商会だけやないですか! なんでその利益をドブに捨てるような真似するんですか!?」

そう言って叫んだのは、エルス自由商業連合国出身の元商人でマリアの旦那であるカルタスさん。

利益に厳しいエルス商人らしく、俺の所業にショックを受けていた。

「別にそんなつもりはないよ。それに、同業他社が出てきたって、先駆けっていうのはそれだけでアドバンテージだからね。それに……」

「それに?」

「開発者が増えたら、奇想天外な発明品が出てくるかもしれないだろ?」

俺がそう答えたら、カルタスさんは目を見開き口をポカンと開けて呆然としていた。

まあ、エルス商人ならそういう反応になるだろうな。

苦笑しながらカルタスさんを見ていると、妻のマリアがカルタスさんに近付き、肩をポンポンと叩き正気に戻した。

「諦めなさい。あれがシンよ。利益や周りの迷惑も顧みず、自分の興味のあることに全力を傾ける。私も、高等魔法学院時代に何度その気持ちを味あわされたことかっ!」

利益はともかく、周りの迷惑って……反論しようにも、心当たりがありすぎて否定することはできなかった。

カルタスさんを正気に戻すために肩を叩いたマリアだったが、過去を思い返していくうちにヒートアップしてきたのだろう、カルタスさんの肩をギリッ! と掴んでいた。

「いたいいたい! マリア、力入れすぎやって!」

「あ、ごめん。昔を思い出して、つい力が入っちゃったわ」

「ああ、いや、別にかまへんよ。それより、シン様、あれで正気なんやね」

「ええ。残念ながらね」

正気を疑われてた!?

マリアは、フォローしているように見せつつ貶めるという高度なテクニックを使ったな。

そういえば、俺がなにかをする際、一番文句を言っていたのがマリアだったな。

あの頃は、本当に世間の常識に疎くて、周りにも沢山迷惑をかけたと思う。

けど、出会ってからもうすぐ十年も経っているのに、いまだに根に持っているのか……。

ま、まあ、カルタスさんのお陰でマリアも落ち着いたみたいだし、あとはカルタスさんに任せておいていいかな。

そう思って自分の席に戻ると、メイちゃんとエクレール君が報告書を持って待っていた。

「お待たせしました! 今日の報告書です!」

「ご確認ください」

「ありがと。今日はもう上がっていいよ」

「はい! じゃあ、失礼するです!」

「お疲れ様でした。それでは、また明日」

「ああ、お疲れ様」

こうして二人を報告書を提出すると、そのまま帰宅した。

俺は、報告書をもとに上申書を作成しながら、先ほどの書類について考えた。

今まで魔道具制作の知識を披露するのはビーン工房のみだった。

しかしそれは、業界全体で見たらあまり良いことではない。

なので、本当は俺の知識をある程度は放出するつもりではあった。

だが、俺には他に商会とのコネもないし、魔石を使った魔道具の制作手順を教えますよ、というのはいかにも上から目線に感じていて、中々実行に移せなかった。

それが、向こうから言い出してくるとは。

俺は渡りに船だとばかりに、会議当日を待ちわびた。

そして、その会議以後、魔道具の開発スピードが格段に加速することになるのだった。