軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親の背を見て子は育つ

シルベスタが早退した翌日、アレンは登校した教室で不機嫌な顔をし、シルベスタの席の横で腕を組んで立っていた。

席に着いているシルベスタは困惑顔である。

なぜなら、彼らの前に昨日絡んできたクラスメイトたちが揃って頭を下げていたからである。

「その……すまなかった、ウォルフォード」

「ご、ごめん……」

謝罪を口にするクラスメイトたちは、どこか納得していない表情をしている。

心が籠っていない。

こんな形だけの謝罪に意味があるのか?

そんなことを思っていたが謝罪してきたのも事実。

それにシルベスタがなにも言わないから、アレンが口を出す話でもない。

なのでアレンは不機嫌なのだ。

そもそも、このクラスメイトたちがシルベスタに謝罪しているのはそれぞれの父に叱責されたため。

昨日のうちにアレンから父ウェルシュタイン侯爵に学院での出来事が報告され、先日ウォルフォード家に招かれ、ウォルフォード信者になっていたウェルシュタイン侯爵が激怒。

シルベスタに絡んだ子の家に直々に抗議の通信を入れたのだ。

ちなみに、シンはシルベスタに絡んだ子がどこの子か聞き出せなかったため抗議してなかった。

ともかく、ウェルシュタイン侯爵は『お宅では養子のことを貰われっ子と言って差別しているのか? しかもそれを、奇跡の子であるシルベスタに向かって言うなど言語道断。今後の付き合いも考えねばならない』

突然そんなことを格上であるウェルシュタイン侯爵直々に言われた各家の当主たちは驚き、当家ではそんな差別は行っていない、とにかくことの真偽を確かめるので待って欲しいと言い、息子たちを呼び出した。

そして、息子がウォルフォード家の養子であるシルベスタに対し、明らかに差別する発言をしていたことが発覚。

当主は烈火のごとく怒り、中には手をあげられた子もいた。

それからすぐにウェルシュタイン侯爵に折り返し連絡をし、息子には厳重注意と厳しい再教育をすることを約束し、どうにか侯爵の怒りを収めてもらい、息子には学院に行ったら誠心誠意謝ってこいと命令した。

なので、彼らは朝一でシルベスタに頭を下げたのだ。

登校してきてすぐにこの状況になったシルベスタは盛大に困惑しているので苦笑しか浮かんでこない。

サラッと謝ってどっかに行ってくれれば良かったのに、シルベスタの隣で仁王立ちして彼らを睨んでいるアレンがいるので、許可が出るまで頭を下げっ放しなのだ。

どうしようかと悩んだシルベスタだったが、とにかく自分がなにか言わないと治まらないと考え、思い切って口を開いた。

「えっと……別にもう気にしてないから、いいよ」

「……本当か?」

「うん。だから、もう頭上げて。アレンも、そんなに睨まないでよ」

シルベスタは頭を下げているクラスメイトに声をかけて頭を上げさせたあと、隣でずっと睨んでいるアレンにも声をかけた。

アレンは、ムスッとした顔をしながらもシルベスタに応えた。

「……お前はそれでいいのか?」

「確かに昨日はショックだったけど、それについては解決したし、解決したことをこれ以上責めるのも可哀想でしょ」

シルベスタがそう言うと、アレンは長い息を吐いた。

「まあ、お前がそれでいいんなら……」

「うん、ありがとうアレン」

「いや。それよりお前たち」

「「「はい!」」」

自分たちより高位のアレンに冷たい目を向けられながら声をかけられたクラスメイトたちは、内心で震えながら直立不動で返答した。

「シルバーが許すって言っているからこれ以上追及はしない。だが、お前たちの考えはアールスハイド貴族としてあってはならない考えだ……二度はないぞ?」

「「「は、はい!!」」」

「もういい。散れ」

「「「はっ!」」」

侯爵家嫡男として教育を受けているアレンの睨みは、とても初等学院一年生、齢六歳の少年のものではなく、アレンの指示通りにパッと散っていった。

その様子を見ていたアレンは、改めてシルベスタに向き直った。

「シルバー、本当にこんな簡単に許して良かったのか?」

「うん、いいよ。それに、昨日のことならもう大丈夫。おとうさんとおかあさんに、本当のことを教えて貰ったから」

それを聞いたアレンは、さっきまでの不機嫌顔はどこにいったのか、興味津々な顔をした。

「そ、それって、物語の内容を本人から直接聞いたってことか!?」

「え、あ、うん。そうなんだけど……アレンは、僕がウォルフォード家の養子だって知ってた?」

「ああ。有名な話だからな」

「やっぱり、そうなんだ」

世間ではシルベスタがシンたちの養子であることは有名……だとは昨日聞いたが、アレンのあまりにもアッサリした言い方に本当なんだと確信した。

「僕、全然知らなくて」

「あー、そういえば、お前シン様たちの物語読んだことないって言ってたな」

(え!?)

アレンの言葉に、二人の会話に耳を傾けていたクラスメイトたちは耳を疑った。

幼い頃から当たり前のように読んできた物語を、当事者の息子が読んだことないなんて信じられない。

クラスメイトたちの心が一つになった瞬間だった。

「でも、おとうさんたちの言うことも分かるよ。なんか、僕の赤ん坊のころの話も載ってるんだよね?」

「え? ああ、確かに、物語の最後の方に出てくるな。魔人領で唯一生き残っていた男の子で、その母親がシン様たちに赤ん坊を託すって話」

「僕も、自分が出てくる話は、恥ずかしくて人には見せたくないかな……」

シルベスタはそう言いながらアレンを見る。

当然ながらアレンもクラスメイトたちも、それこそ本が擦り切れるほど読んでいる。

クラスメイトたちは、シルベスタと同じクラスだと知った瞬間、あの物語に出てくる男の子と同じクラスだと密かに興奮していたのだった。

ちなみにアレンもその一人である。

先日、アレンとクレスタが遊びにきたときにその本は皆読んでいると聞かされていたため、恥ずかしいと思いつつも、もう手遅れであるとシルベスタは諦めている。

「昨日ね、おとうさんからそのときのことを聞いたんだ」

シルベスタのその言葉に聞き耳を立てているクラスメイトたちの身体が自然とシルベスタとアレンの方に近寄っていく。

皆、興味津々なのだ。

「僕を産んだおかあさんは、命懸けで僕を護ったって。僕の事をお願いしますっておかあさんに託したんだって。だから僕は、貰われっ子なんかじゃないって。おとうさんとおかあさんの本当の子だって言ってくれたんだ」

そう言うシルベスタの顔には無理をしている感じはなく、アレンはそこでようやく本当の意味で安心した。

安心しつつ、アレンはシルベスタの様子をよく観察する。

たった一日でシルベスタの雰囲気が少し大人びたように感じる。

実際、そのシルベスタの雰囲気に、クラスの女子たちは「ほぅ」っと見惚れている。

自分たちにとっては既に知っていることで、それも他人事なのだが、当事者としてはそういう訳にはいかないだろう。

それを乗り越えたシルベスタは、精神的に大きくなったような印象を受けた。

「それにしても、やっぱりシン様は凄いな。簡単にシルバーを立ち直らせちゃうんだから」

「うん、おとうさんは凄いよ」

そう言うシルベスタの顔は、シンへの尊敬の念で溢れていた。

アレンは、自分の父親をそんな風に尊敬できるのは凄いなと思う。

自分も、父のことは尊敬しているが、畏れている面もあるし、疎ましく思う面もある。

まあ、それも先日のウォルフォード家訪問以降薄れてきているが……。

純粋に父を尊敬できるシルベスタとシンの関係がアレンはちょっと羨ましく思う。

そんなアレンに、シルベスタはまるで知られてはいけない秘密を告白するようにアレンに顔を寄せて囁いた。

なんだろう? そう思ったアレンもシルベスタに顔を寄せた。

「ねえ、知ってた? おとうさんも、マーリンお爺ちゃんの本当の孫じゃないんだって」

「え?」

どんな秘密が聞かされるのかと身構えていたアレンは、思わず硬直した。

「お前、そのことも知らな……ああそうか。その話は『新英雄物語』の一巻に書かれてたんだっけ」

「そんなに何冊も出てるの!?」

「ああ。シン様の幼少期……賢者様に拾われて魔法の手ほどきを受けるところから、王太子殿下との出会いや、仲間の皆様との出会い。ああそれから、シシリー様との出会いや恋愛模様なんかも書かれてるぞ?」

アレンの言葉を聞いたシルベスタは、彼にしては珍しく嫌そうに顔を顰めた。

「両親の恋愛模様は知りたくないな……」

「なにを言っているのですか!!」

養子とはいえ、両親で間違いない二人の恋愛模様は、子供としてとても受け入れられるものではなかった。

すると、それまで口を挟んでこなかったクレスタが二人の会話に乱入してきた。

「シン様とシシリー様の恋模様はアールスハイドの……いえ、全世界の女の子たちの憧れなんですよ!? そんなご両親に育てられたシルバー君のことが皆羨ましくて仕方がないというのに! 当の本人がそんなことを仰るなんて!!」

普段のクレスタからは想像もできない熱弁振りに、シルベスタもアレンも完全に引いている。

「はっ!? わ、私としたことが……」

二人の様子を見て我に返ったクレスタが、顔を真っ赤にしてしおしおと俯いた。

「あ、ああ、いや、うん。クレスタさんがおとうさんとおかあさんのことを尊敬してるのはよく分かったよ」

「あう……」

「クレスタにそんな一面があったとはな……」

シルベスタが苦笑しながらクレスタをフォローすると、アレンがごく自然に真っ赤になって俯いているクレスタの頭を撫でた。

「ほら、もう気にしないで顔をあげろ」

「……」

「クレスタ?」

アレンに頭を撫でられて増々顔を真っ赤にしているクレスタが顔を上げられるはずもない。

そのことに気付かないアレンはクレスタの顔を覗き込んだ。

「ひゃうっ!」

「クレスタ! お前、顔が真っ赤じゃないか! 熱があるのか!?」

ここでその定番の台詞かよ!

と、様子を伺っていたクラスメイトが心の内で叫んだ。

その様子にシルベスタは苦笑しながらアレンに声をかけた。

「クレスタさんは大丈夫だから。とにかく、ちょっと離れたら?」

「なんだと!? なんでお前にクレスタの体調が分かるんだよ!?」

「いや……僕だけじゃなくて、皆分かってると思うけど……」

嫉妬なのか本当にクレスタが心配なのかは分からないが、分かったようなことを言うシルベスタにアレンが噛みつく。

しかしシルベスタは、呆れた顔をしながら周囲を見渡すだけだった。

「え?」

シルベスタの言視線を追い周囲を見渡すと、皆「うんうん」と首を縦に振っていた。

「え? なんで?」

「あ、あの……アレンしゃま……」

勇気を振り絞ってアレンの名前を呼んだクレスタが噛んだ。

増々赤くなるが、頑張って言葉を紡ぐ。

「ほ、本当に大丈夫ですから。なので、その……あたま……」

「え?」

そこでアレンは、ようやく自分が自然とクレスタの頭を撫でていることに気付いた。

「わあ! す、すまない!」

「い、いえ!」

お互いに真っ赤になって俯き合う二人。

その二人を、シルベスタも含めたクラスメイトたちは、生温かく見守っていたが、シルベスタは妙案を思い付いた。

「あ、クレスタさん。そんなにおとうさんとおかあさんの話が聞きたいなら、また家に遊びにきて直接聞いたらいいんじゃない? アレンも一緒にさ」

「「はあっ!?」」

シルベスタの発言に、さっきまで赤い顔をして俯き合っていたアレンとクレスタが、二人揃ってシルベスタの方を見た。

とても息が合っていた。

「ほら、ヴィアちゃんがまた二人を誘ってって言ってたし、ちょうどいいじゃない」

「ちょうどいいってお前……」

「王女殿下からの誘いをちょうどいいって……」

シルベスタからの提案に、そういえば断れない招待があったことを思い出した二人。

しかもそれを切っ掛けにしてシンとシシリーに話を聞けばいいとか言う。

さっきまでいい雰囲気だった二人は、今度は二人揃って暗い顔で俯き合う。

その光景にシルベスタは首を傾げ……。

「あれ? 僕、なにか変なこと言った?」

と言った。

この場面をシンの知り合いが見ていたらきっとこう言うだろう。

『シルバー君は、シン君にそっくりだね』と。