軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

控え室のドタバタ

久々に受けた依頼は、クルト王国にある山奥の村からの救援要請だった。

その村唯一の水源となっている川から用水路を引いて供給されている水が、土砂崩れによって寸断され村に水が供給されなくなったとのこと。

土砂を除けるにしても人力では時間がかかるし、山奥なので多くの人員を連れて行けない、とのことで俺たちに依頼が出されたのだ。

まあ、こういうのは俺向きの依頼だな。

山奥にも空を飛んでいけるし、魔法で土砂を排除することもできる。

クルト王国にゲートで向かった俺は、そこから浮遊魔法で現場に直行、土砂はすぐに排除できた。

しかし、山奥であるためいつまた土砂崩れが起こらないとも限らない。

そうなっても大丈夫なように、川から引いている用水路を、万が一のときに点検などができるように、人が入れる大きさで地下化した。

かなり丈夫に作ったので、今後土砂崩れが起きても大丈夫だろう。

そうして仕事をこなし、村人たちから感謝の言葉を受けた俺は、久しぶりの達成感に意気揚々と事務所に帰ってきた。

そこで、思わぬ報せを受けることになった。

「はあっ!? シシリーが王城で産気付いた!?」

その報せとは、王城に遊びに行っていたシシリーが産気付き、そのまま出産することになったという報告だった。

「なんですぐに報せてくれなかったんですか!?」

思わず大きな声でそう言うと、カタリナさんが申し訳なさそうに言った。

「すみません。アウグスト殿下が、シン様に伝えると仕事に集中できなくなるだろうから終わるまで伝えるなと……それに、陣痛が始まったばかりなのでまだ時間がかかるから、仕事が終わってからでも間に合うと仰って……」

確かに、カタリナさんの言う通り、仕事中にそんな連絡を受けたら気もそぞろになって集中できなかったかもしれない。

陣痛が始まってから産まれるまで時間がかかるのも確かだし、オーグの判断は正しいんだろう。

正直、オーグの判断は正しいと頭では理解しているけど、シシリーが大変なときになにも知らずに依頼をこなして達成感を感じていたのが、どうしようもなく罪悪感を感じるのだ。

ともかく、俺は急いで王城へ向かうためオーグに連絡をした。

『アウグストだ』

「俺だ! もう産まれたか!?」

無線通信機に出たオーグに向かってそう聞いたのだが、無線通信機の向こうでオーグが溜め息を吐いたのが分かった。

『シンか。せめて名乗ってくれ。一瞬誰だか分らなかった』

あれ? 名乗ってなかったっけ?

「あ、ああ、悪い。それよりシシリーは? 大丈夫なのか?」

『まだ分娩中だ。今はいつもの部屋にいるからすぐに来い』

「分かった」

俺はそう言うと、すぐにゲートを開いた。

ゲートから指定された部屋に行くと、そこではシルバーたち子供四人がソファーに座っており、その前にエリーが腰に手を当てて仁王立ちしていた。

シルバーは俯いているし、シャルやヴィアちゃんたち年少組はグズグズと泣いている。

なにこれ?

「分かりましたか? これからは軽率な行動は慎むように。いいですね?」

エリーは、子供たちに怖い顔をしながらそう言い聞かせた。

「はい……ごめんなさい」

シルバーは、落ち込んだ顔をしながら神妙に頭を下げ、エリーに謝っていた。

シャルたちは……。

「ぐすっ……ひっ……ごべんなざい……」

「ごめんなさい、おかあさま……」

「うっ、ひっ!」

三人とも泣きながら謝っていた。

「おいオーグ、なんだこれ? 子供たちがなんかやらかしたのか?」

エリーが子供たちを叱る光景を、ただ静かに見守っていたオーグに訊ねる。

するとオーグは、真剣な顔をしながらこちらを向いた。

「ああ。あまり褒められた行動ではないことをしてな。まあ、結果的にそれがいい方向に向いたのだが……」

オーグは腕を組みながらそう言うと、俺に顔を近付けた。

「そのことで少し話がある。ちょっといいか?」

「ああ」

オーグに連れられて部屋の端に行く。

「で? 話ってなんだ?」

「ああ……」

オーグはそう言うと、シルバーたちが起怒られている事の顛末を話してくれた。

部屋で遊ぶことに飽きた子供たちが、お城探検隊と称して城の探索を始めたこと。

ディスおじさんの部屋に行ったあと、ヴィアちゃんとシャルがオーグの部屋に行くと言って飛び出して行った。

それを追いかけて行った騎士とメイドが、二人を見失ってしまった。

さらに、それを追いかけて行ったシルバーたちまで迷子になった。

それは確かに怒られる案件だなと苦笑していると、オーグの口からとんでもないことを知らされた。

迷子になったシルバーが城の中庭に迷い込むと、そこにはエリーやシシリー、子供たちを殺害しようと計画する男たちがいた。

その話を聞いた瞬間、賊に対しての憎悪が心の中で膨れ上がった。

「落ち着け。見ての通り、子供たちも、エリーもウォルフォード夫人も無事だ」

オーグはそう言うと、続きを話し始めた。

賊の殺害計画を聞いてしまったシルバーはどうにかして逃げようとするが、その場にシャルたちが現れて賊たちに気付かれてしまった。

あやうく殺されかけたシルバーたちだったが、俺が渡した魔道具を起動させ賊の攻撃をしのいだ。

その場に駆け付けたシシリーによってその犯人たちは捕まった。

そして、賊を捕縛したタイミングでシシリーが産気付いたとのことだった。

そうか……子供たちが怒られていたのは、子供たちだけで勝手な行動をしたからか。

護衛の騎士やメイドを振り切ったシャルとヴィアちゃん。

その姿を見失ったのに、自力でなんとかしようとしてしまったシルバー。

マックスはとばっちりだな。

あらましを説明し終わったオーグは「しかし」と言って腕を組んだ。

「それにしても、ウォルフォード夫人はどうしてすぐに駆け付けられたのだろう?」

シルバーたちのピンチにシシリーがすぐに駆け付けたのだ不思議だったのか、オーグが首を傾げている。

「ああ、シルバーが魔道具を起動しただろ?」

「あのときは無茶なことをと思ったものだが……結果としては最善だったな」

「実は、魔道具に起動したら連動して発動する魔道具をシシリーに持たせていたんだ」

俺がそう言うと、オーグは納得した顔をした。

「なるほど。シルバーが魔道具を起動したことを察知したウォルフォード夫人が、索敵魔法で場所を突き止めたのか」

「結婚前から、エリーとの打ち合わせとかで王城にはよく来てたから、ゲートですぐに駆け付けられたんだろ。ホント、色んなことが上手く噛み合ってくれた結果だな」

「ああ、そうだな」

ようやくこの状況について話終わったとき、俺のことをじっと見つめている子供たちに気が付いた。

その顔は、若干怯えているように見える。

そういえば、さっき少し殺気を漏らしてしまったな……。

それに怯えているのだと思った俺は、子供たちに笑顔を見せた。

「ぱぱぁっ!!」

子供たちを安心させようとしたら、シャルが飛び付いてきた。

「おっと」

慌ててシャルを抱き留めると、シャルはえぐえぐと泣きながらしがみついてきた。

そんなにエリーが怖かったのか……。

そう思っていたのだが、どうも違うらしい。

「ぱぱ! ままをたすけて!」

涙と鼻水で顔をデロデロにしながらシャルがそう懇願してきた。

そうか、シシリーは賊を捕縛してすぐ産気付いたと言っていた。

その場にシャルたちもいたのか。

シャルの様子から、尋常ではないシシリーの様子を見て不安になってしまったんだろう。

ふと子供たちを見ると、シルバーも不安そうに俺の側にきて俺の服を摘まんでいた。

俺は、子供たちを安心させるためシャルの背中をポンポンと叩き、シルバーの頭を撫でた。

「大丈夫。パパがママのこと絶対に守るから」

俺がそう言うと、シャルはさっきまで泣いていたのが嘘のように笑顔を見せた。

まあ、顔は涙と鼻水でデロデロのままだけど……。

「ぱぱがいたらあんしんだね!」

そう言って抱きついてきた。

あ、服に鼻水が……。

そう思ったが、不安そうだったシャルのために、したいようにさせていた。

そして俺は、まだ俺の服を摘まんでいるシルバーと視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。

するとシルバーは、また怒られると思ったのか、一瞬身を竦めた。

しかし、シルバーたちはすでにエリーからしこたま叱られていた。

これ以上叱るのは違うかなと思った俺は、シャルを抱っこしたままシルバーを抱きしめた。

「おとうさん?」

「オーグから聞いたよ。シルバー、シャルたちを守ったんだって? 偉いな、さすがシルバーだ。パパの自慢だよ」

抱きしめながらそう言うと、シルバーはもぞもぞと身を捩った。

「おとうさん、恥ずかしいよ」

「なんで?」

「だって、みんな見てるのに……」

皆の見てる前で、抱きしめられて褒められるのが恥ずかしかったらしい。

「おにーちゃん、かっこよかったんだよ!」

シャルはそう言うと、俺の腕から降りてシルバーに抱きついた。

「わっ」

急に抱きつかれてシルバーは驚いた声を出すが、シャルはそんなことに構わずすぐに離れ俺の方に向き直った。

「おにーちゃんねー、バッてしゃるたちのまえにきてー、ブワッてなんかだしてー、しゃるたちたすけてくれたの!」

身振り手振りで一生懸命俺にシルバーの活躍を伝えようとしてくれるシャル。

その動きが可愛くて、思わず微笑んでしまう。

「しるばーおにいさま、かっこよかったですわ」

ヴィアちゃんまで側に来て、そっとシルバーに寄り添った。

シルバーを見るその目には、明らかな恋慕の情が見て取れた。

え? ヴィアちゃん、まだ三歳だよね?

物心付いてるかどうかも怪しいのに、もうそんな目でシルバーを見てるの?

おじさん、ビックリだよ!

ほら、ヴィアちゃんのお父さんも苦い顔してるよ!

マックスは、なにも言わないけどキラキラした目でシルバーを見ている。

完全に憧れのお兄ちゃんを見る目だな。

「モテモテだな、シルバー」

俺がそう言うと、シルバーは赤い顔をしてそっぽを向いた。

恥ずかしかったらしい。

そんなシルバーを見てニヤニヤしていると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

もしかして産まれたか!?

そう思って足音の行方を気にしていると、ノックもなしに扉がバーンッ! と開いた。

そのことに皆がビクッとしたが、飛び込んできた人影を見て脱力してしまった。

なぜなら……。

「シシリーお姉ちゃんが出産するってホントですか!?」

飛び込んできたのが、アールスハイド高等魔法学院の制服に身を包んだメイちゃんだったからだ。

「まだ産まれていない」

オーグがそう言うと、メイちゃんはホッと息を吐いた。

「はぁ、良かったです。急いで帰ってきた甲斐がありました」

そう言ってニッコリ笑うメイちゃんの後ろから、また足音が聞こえてきた。

「メイ姫様! 先に行かないでくださいまし!」

「そうですよ! はぐれたら僕たちどこに行っていいか分からないんですよ!」

メイちゃんに文句を言いながら部屋に入ってきたのは、二人の男女。

二人も、高等魔法学院の制服を着ている。

その二人は、部屋に入った途端、オーグとエリー、ヴィアちゃんがいることに気付いて固まった。

「あ、あわわ……こ、これは大変なご無礼を!!」

「も、申し訳ございません!!」

二人……アグネスさんとコリン君は、身体を二つ折りにするのではないかという勢いで頭を下げた。

「二人とも気にするな。どうせメイに付き合わされたのだろう? 全部メイが悪い」

「なっ! なんでですかお兄……さま?」

アグネスさんとコリン君に罪はなく、全部メイちゃんが悪いと言い切ったオーグに文句を言おうとしたメイちゃんだったが、オーグの顔を見て言葉の後半が萎んでいった。

まあ、そうなるよなあ……。

今のオーグ、メッチャ怖い顔してるもん。

「あの……お兄様?」

「……王城の廊下をはしたなく走り、ノックもせずに扉を開け放つか……」

「ひっ!」

メイちゃんが短く悲鳴をあげる。

オーグは怒りに顔を歪ませ、身体中から小さく放電している。

その様が……滅茶苦茶、悪の親玉っぽいのだ。

メイちゃんが悲鳴をあげるのも分かるなあ……子供たちも怯えてエリーにしがみついている。

「これは……お仕置きだな」

「ひいっ! その状態で触らないでください! 触ったら!」

「触ったら?」

「感電す……ピギャアッ!!」

パチパチと放電した状態のオーグに頭を掴まれたメイちゃんは、悲鳴をあげて倒れた。

まあ、とは言っても、本当に感電させたら死んでしまうかもしれないから、低周波治療器並みの電力しか使ってないだろうけど。

それでも、強力な低周波治療器って痛いんだよなあ。

床に倒れ込んだメイちゃんを見て、アグネスさんはコリン君に抱き着いて震えている。

もしかしたら、あのお仕置きが自分にも向くかもと思っているようだったが、オーグのお仕置きはメイちゃんだけで終わった。

「うう……ごめんなさいです……」

「まったく……お前はヴィアの手本にならないといけない存在だろう。姪に情けない姿を見せてどうする」

「あ、ヴィアちゃんただいま!」

オーグの説教も堪えていないのか、ヴィアちゃんを見つけると子供たちの方に駆けて行った。

その後ろ姿を見て、オーグが深い……本当に深い溜息を吐いた。

「……お前たちには苦労をかけるな……」

アグネスさんとコリン君に声をかけるオーグは、本当に疲れた様子だった。

「い、いえ。メイ姫様にはいつも助けられておりますので……」

「その、迷惑とかは……あの……」

アグネスさんとコリン君もフォローをしようとしているのだろうけど、迷惑をかけられていないとは言えないんだろうなあ。

「……本当に済まない」

オーグはそう言って二人に頭を下げた。

「や、やめてください殿下!!」

「ほ、本当に! 本当に気にしていませんから!」

王太子に頭を下げられるなんて、二人にとっては拷問に近いんだろう。

大慌てでオーグをフォローしている。

そんなことになっている元凶と言えば……。

「おかえりなさいませ、めいねえさま」

「ただいまー!」

「あはは! めいおねえちゃん、ぴぎゃっていった!」

「むぅ! 忘れてくださいシャルちゃん!」

「おかえりー」

「わあ、マックス君も来てたですか。お久しぶりですね!」

メイちゃんのせいで苦労している三人をよそに、子供たちと戯れている。

幼児たちにまとわりつかれて楽しそうだ。

「メイお姉ちゃん、おかえりなさい」

「ただいまシルバー君。シルバー君はこっち来ないです?」

「ぼ、僕はいいよ……」

メイちゃんにまとわりついている幼児たちから、シルバーは距離を置いている。

別にシルバーがメイちゃんのことを嫌っている……というわけではない。

メイちゃんは、今高等魔法学院の三年生。

もう十八歳だ。

出るところは出て、引っ込むところは引っ込む理想的な体形をしている。

順調に成長していくメイちゃんを、アリスは歯ぎしりしながら見ていたなあ……。

それに、メイちゃんはアールスハイド王家の人間で、オーグの妹。

見た目は完璧な美少女だ。

自我が確立し、男女の違いも認識しているシルバーにとって、年上の綺麗なお姉さんに抱き着くのはもう抵抗があるんだろう。

俺にはシルバーの気持ちがよく分かるのだが、メイちゃんはほんの一、二年前まで喜んで抱き着いてきていたシルバーが、急に距離を取るようになったと感じているらしい。

そのことを寂しく感じているのか、こういうときのメイちゃんの行動はいつも一緒だ。

「そんなこと言わないで、ほら! ギューッ!」

「わあ!」

強引に抱き締めるのである。

シルバーは、メイちゃんに抱き着かれて困惑している。

嫌、というより恥ずかしがっているなあれは。

顔が真っ赤だ。

そんなシルバーの様子を見ていたヴィアちゃんが、プクッと頬を膨らませてシルバーとメイちゃんの間に割り込もうとしている。

「めいおねえさま! はしたないですわ!」

しかし、メイちゃんには通用しない。

「ん? ヴィアちゃんもギューッ!」

「わあ!」

ヴィアちゃんも巻き込まれた。

「めいおねえちゃん、しゃるも!」

「ぼくも!」

「あはは! みんなまとめてギューッです!」

……スゲエなメイちゃん。

しかし、それでいいのか? アールスハイド王国の王女様。

そのあまりの自由っぷりに、エリーも溜息を吐いている。

あれは、もうなにを言っても無駄だと思っている表情だな。

オーグも同じ顔をして溜息を吐いているし、アグネスさんとコリン君は苦笑いだ。

メイちゃんの乱入でワチャワチャしていると、また廊下を走ってくる足音が聞こえてきた。

開けっ放しだった扉の向こうに現れたのは、息を切らせたメイドさんだった。

メイドさんは息を整えると、俺を見て満面の笑みを浮かべた。

「御産まれになりました! 元気な男の子で、母子ともに健康です!」

その言葉が響いた直後、部屋は大歓声に包まれたのだった。