軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

工房に行きました

理性を保ったままの魔人が現れた。

その事は王国上層部を揺るがす大事件になった。しかし、つい最近新たな魔人が現れ討伐されたばかりだ。今、この事を公表すると決して無視できない混乱が起こる可能性が高く、上層部は頭を抱えた。

その後、王都中を捜索したが結局シュトロームを見つける事は出来なかった。警備隊、軍務局総出の捜索にも関わらずに。

その結果、シュトロームは既に王都を離れているという判断が下り、新たな魔人出現の発表は一時見送られた。

短期間でこの問題が解決出来ればそのまま国民発表は行わない。但し、長期化すると判断されれば公表する。知らずにいる方が危険だからだ。

そして、リッツバーグ家は、シュトロームの自白からカートが実験台にされた事が確定した為、罪には問われず逆に被害者として扱われる事になった。しかしリッツバーグ家当主は息子が騒動を起こしたのは間違いないとし、財務局事務次官の座を辞職した。

理由が公表出来ない為、表向きは息子が亡くなり妻が心労で倒れてしまったので、その養生の為自領に戻るという理由を発表した。

事情を知らない者からは無責任だと非難する者もいたが、事情を知る上層部は彼に同情的であった。幸いリッツバーグ家にはまだ二人の息子がおり、彼等が成人するまで協力は惜しまないと申し出る者もいた。

結局この騒動はシュトロームに全ての罪が被せられ、王国中に指名手配される事となった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「なあ、オーグ」

「何だ?」

「シュトロームの目的って何なんだろうな?」

昨日の警備隊詰所での騒動から明けた翌日、今日は週末で学院は休みだ。

昨日は結局ビーン工房には行けなかった。警備隊の事情聴取があり、終わった頃には既に日も落ちていた。なので翌日に改めて訪問するという事で昨日は解散したのだ。

今日はトニーの都合がつかない為、いつもの面々で工房に向かう事になっていたのだが、オーグは当たり前のように朝から家に来ていた。王子様って暇なのか?

「さあな? 分かっているのは、人為的に魔人を生み出す実験をしていたという事だけだ。それしか分かっていないが、それが分かっていると考えられる事は無数にある。どれか一つに絞るのは難しいな」

「だよなぁ……」

目的は分からないけど、やってる事の内容から推測される事が多すぎる。

魔人を増やして王都攻略? 世界征服? それとも人類の滅亡を願うか?

「分かんない事考えてもしょうがないか」

「そういう事はプロの大人に任せておけばいいんだ。昨日のオルト捜査官みたいな優秀な者が揃っているんだからな」

「おお、オルトさん格好いいよな。昨日の件ってオルトさん一人で炙り出したって?」

「まあ、彼は特別優秀だな。警備隊の犯罪捜査部では毎年検挙率ナンバーワンだからな」

「んじゃあ、こういう捜査は大人に任せて俺達は学生らしく振るまいますか」

直接巻き込まれない限り、普通は事件と関わり合いになる事などない。自分で捜査を始めて事件を解決するとか物語の話だ。普通はプロの捜査官が魔人を討伐したとはいえ学生に協力を仰ぐとは考えにくい。

現場にいた俺達はある程度事情を知っているが、今現在の捜査の進捗状況など教えてくれる筈もない。

というか、昨日帰ったらばあちゃんに「またトラブル抱えてきたね! いい加減におし!」と怒られた。俺のせいじゃ無いのに……これで捜査に首を突っ込んだら、どんだけ怒られるか想像もつかない。シュトロームの行方や目的は気になるがそんな恐ろしい事はしないのだ!

「シン、そろそろ行かんで良いのかの?」

「あ、もうそんな時間?」

一旦シシリーの家に集まり、その足でビーン工房を目指す。午前中に集まって、昼はオリビアの店で食べようという事になってる。

「じゃあ行ってきます。お昼要らないから」

『行ってらっしゃいませ』

使用人一同に見送られ、オーグ達とゲートを通る。シシリーの家に用意されている部屋に着いた時にトールから話し掛けられた。

「しかし、シン殿の屋敷の使用人の方たちは優秀な方が多いんですね」

「あ~……あの人達、公募で集まって貰ったんだけど、応募者が殺到したらしくてね、選抜戦をしたらしいんだ。それを勝ち抜いて来た人達だからねえ……」

「……なるほど。使用人のドリームチームですか」

「ドリームチームって……」

「どうしたんですか?」

俺達の声が外に漏れていたんだろう、逆ノックをする前にシシリーが部屋に入って来た。

「いや、シン殿の屋敷の使用人は凄いなと……」

「ああ、確かにそうですね。いつの間にか側に居ますし、さりげなくフォローしてくれますし」

「使用人選抜戦を勝ち抜いた、使用人のドリームチームらしいです」

「それでドリームチーム……」

貴族の人間がウチの使用人を絶賛している。あれが普通だと思わない方がいいらしい。最近慣れてきてたからな。

「それはそうだろう。シンの所の女中頭のマリーカは元王城の女中だ、私も幼少の頃は世話になった。執事長のスティーブはハーグ商会の人間でトム=ハーグの右腕と呼ばれた男だし、いつも門番に立っているアレックスはドミニク警備局長の一番弟子だった男だ。そんな私でも知っている連中が、あの家で一堂に介している所を見た時はさすがに驚いたぞ」

え? そうなの? そんな凄い人達が応募してきたのか……改めて爺さんとばあちゃんの人気が分かるな。

「後、料理長のコレルは有名なレストランでも料理長だった筈だ」

「コレルさんの料理美味いもんなぁ」

「そんなのばっかり食べてて大丈夫かしら。今日行くオリビアの家の店だって相当有名なんだからね、変な事言わないでよ?」

「言う訳無いじゃん!」

マリアから失礼な事を言われた。

皆が俺をどう見てるのか気になります!

「今日はビーン工房と石窯亭に行くんだって?」

「あら、良いわね」

セシルさんとアイリーンさんだ。今日は休日仕様なんだろう、少しラフな格好をしてる。セシルさんは相変わらず格好良いな。アイリーンさんも、シシリーの上に姉二人と兄一人産んでるとは思えない。

「石窯亭は何でも美味しいけど、お昼に行くならサンドイッチだね。軽くトーストしてあるから香ばしくて、挟んであるチーズがトロっとして……絶品だよ」

「シシリー、ビーン工房に行くならウチに御用聞きに来るように言ってくれない? 色々頼みたい事があるのよ。それと石窯亭のお昼はパスタよ」

「サンドイッチだ」

「パスタよ」

ああ、夫婦の間に火花が散ってる! シシリー何とかして!

「それじゃあ皆さん行きましょうか」

まさかの放置!?

「あ、ああ。シシリー、あれ放っといていいの?」

「いいんですよ。その内仲直りして、いつの間にか甘い雰囲気を振り撒くんですから」

そうなのか。羨ましいな、子供四人もいるのにまだラブラブなのか。

「じゃあ行きますか」

そうしてシシリーの家を出てビーン工房に向かう。その道中オーグから声が掛かった。

「とりあえず、シンを政治利用や軍事利用しないと父上が宣言しているがな、シュトロームはお前を狙ってくる可能性もある。この際色々と装備についても相談しとけ」

「だから、それだと小遣いじゃ足りなくなるんだって」

「資金については父上に進言しておこう」

「おい、良いのかよ?」

「シンには申し訳ないんだがな、今回の事は我が国の事だけじゃなく人類の存亡に関わる可能性がある。今の所、実際にシュトロームと対等にやり合えたのはお前だけだ。マーリン殿ならやり合える可能性はあるがそれも可能性の話だ。いざとなると……お前に頼る可能性がある」

「人類の存亡……」

確かにその通りだ。さっき俺もその可能性を考えた。シュトロームの最終的な目的は分からないが、カートを実験台と言っていた。という事は魔人化させる実験を行っていたという事だ。

そしてその実験は成功していた。

という事は魔人の量産が出来てもおかしくない。というより、それが目的だろう。問題はそれで何をするかという事だ。

「本当に……どこまでも迷惑を掛けてくれるな」

「全くだ」

「人類の存亡を迷惑って……」

「拙者達とは脅威の感じ方が違うので御座ろうなあ……」

「まあ、あの量産型魔人にあんまり脅威を抱いていないのは事実だし。俺よりシュトロームに狙われる他の人達の方が心配だわ」

「その事に関しては一応の手は打ってある」

「例の指名手配か?」

「ああ、罪状は『国家反逆罪』になっているがな。あながち間違いではあるまい」

確かに、国家の……というか世界の脅威である魔人を量産しようとしてるんだ、確かに間違いではない。

「それに奴の容姿は分かりやすいからな、赤い目を隠さなければいけない以上あの眼帯は大きな目印になる」

なるほど、となると王国ではシュトロームが暗躍出来る可能性は低そうだ。

「とは言っても魔人だからな。油断は出来んが……」

「まあ、とりあえずは撃退したんだし暫くは行動は起こさないだろ。その間に色々と準備を進めておけばいいさ」

研究会の方でレベルアップを図ってもいいしな!

「……何か良からぬ事を企んでないか?」

「今一瞬寒気が……」

「シン君ちょっと悪そうな顔をしてましたよ?」

「これは……」

「嫌な予感がするで御座る」

何だよう。世界の危機が迫ってるんだ、皆でレベルアップしたっていいじゃない。しかし、今の所は内緒だ。

「んー? 別に変な事は企んでないよ?」

「……何かは企んでいるという事か……」

何故バレた!?

「い、嫌だなあ、なんにも企んでないよ?」

「目が……」

「泳いでいるで御座る」

これはいかん。問い詰められたら白状してしまいそうだ。これはさっさと工房へ行かねば。

「ほ、ほら! 早く行こうぜ! 喋ってると遅くなっちまう」

誤魔化せたか?

「はぁ……後で問い詰めるか」

駄目でした!

そんなやり取りをしながら歩いていると、ようやくビーン工房に着いた。二日掛かったからか、妙に遠く感じるな。

たどり着いたビーン工房は有名なお店だけあって大きな店だった。大きさは郊外のコンビニ位か。三階建てで一階は武器や防具が置いてある。二階と三階は何だろう? 店の外観を見ていると、店の扉が開きマークとオリビアが出てきた。

「ビーン工房にようこそ! 歓迎するッス!」

「皆さんおはようございます」

二人が揃って出てきた。休日まで一緒なのか。これはひょっとして……。

「ああ、おはようマーク、オリビア。何で二人で……」

「おはようオリビア、マーク。これは早速……」

「おはようございますオリビアさん、マークさん。ええ、お話を伺わせて頂かなければ」

「うう……お手柔らかにお願いします……」

シシリーとマリアに話をインターセプトされてオリビアが連行されて行ってしまった。というかシシリー、御用聞きの依頼は?

「はぁ、女三人寄れば姦しいとは言うが正にそれだな」

「ええ、あそこには割り込めないです」

「はは……それでウォルフォード君、早速工房に行くッスか?」

「そうだな、それが目的で来たんだし」

「その事について話がある。工房主はいるか?」

「は、はい! とう……父は工房におります!」

「なら早速向かうか」

そして店の裏手にある工房に向かう。

工房はまんま町工場だな。何人もの職人が色々と作っている。鍛冶工房だけに防音処理がされているので外に音は漏れていないが、中に入ると凄い音がした。炉もあるので熱気も凄い。

「少しお待ちください。父ちゃん! とーちゃーん!!!」

工房内に向かって大きな声で父を呼ぶマーク。すると奥からいかにもザ・職人って感じの親父さんが出てきた。

「何だ馬鹿野郎! デケエ声で呼びつけやがって! それに工房ん中じゃ親方って呼べって言ってんだろうが!!」

「それどころじゃ無いんだよ父ちゃん! ホラ!!」

「何だあ?」

そう言ってこちらを睨む。恐いよ!

「忙しい所をスマンな。私はアウグスト。アウグスト=フォン=アールスハイドだ。マーク=ビーンとは高等魔法学院で同じ研究会に属している」

「ア、ア、アウグスト殿下!?」

その声は工房中に響き、職人皆がこちらを見て目を見開いている。そして作業の手を止めこちらに来て全員 跪(ひざまず) いた。

「ああ、手を止めてすまない。作業を続けてくれ。私は工房主に話があるから」

「お、オレ……いや私にでございますか?」

スゲエな、あんな一斉に跪いたのに顔色一つ変えずに対応したよ。そして強面のマークの父親が恐縮してる。滅多に見ない王子様っぽいとこ見た。

「実はな、ここにいるシンの武器を開発するのを手伝って欲しいのだ」

「このボウズ……いや坊っちゃんの武器ですか?」

「ああ、紹介が遅れたな、彼はシン=ウォルフォード、賢者マーリン=ウォルフォードの孫だ」

「あ、どうも、シン=ウォルフォードです」

「けけ賢者様のお孫さん! あの新たに出た魔人を討伐したって言うあの!?」

「そうだ。実は彼の武器を開発しようと思っていてな、資金は我々が負担する、手伝ってやってくれないか?」

「そりゃもう! 新しい英雄様の武器をウチで作ったとなりゃ、これ以上の誉れはねえ!」

親父さん、言葉が崩れてる。よっぽど興奮したんだな。

「それで? どんな武器を造るんですかい?」

「ああ、それは……」

折角オーグが資金を負担してくれるって言うし、プロの親父さんが開発を手伝ってくれるって言うんだ、本当はお願いしたかった事を頼んでみよう。

そして親父さんにバイブレーションソード改のアイデアを伝える。親父さんはそれを面白そうに聞きながら俺のアイデアに修正を加えていく。

本当はライフルも造り直したいけど、ここで造ってライフルが広まっちゃったらと思うと恐くて言い出せなかった。

その内部品単位で造って貰おうかな。どうせ前の世界の銃ほど精密な造りではないし、そもそも詳しく知らないしな。

親父さんとの話が終わる頃には、大まかな骨子は出来た。さすが職人、話が早い。後は試作を造り、試しながら完成に近付けるって感じだな。

具体的には、鍔にバネを利用したスライドを付ける。鍔をスライドさせると柄の中の留め具が連動して動き、刃が離れる。当然戦闘中に鍔が動かないようにストッパーも付ける。唯一の難点は片手で出来ない事かな。前の世界のオートマチックの銃のスライドを引く動作に似てる。取り付けはワンタッチで出来る予定だ。その為にスライドにバネを付ける事にしたのだ。

刃は鋳型で造る事になった。最終的に魔道具にするのでそれで十分という事だ。

オーグは、ずっと何かを言いたそうだったな。恐らく、軍の制式装備にしたいんだろう。でもそうすると、俺をこの国に取り込んだ事になってしまうので爺さんに遠慮して言い出せない。そんな所かな?

大分コストを抑えられるしね。

マークの親父さんとの話し合いが終わった頃にはもうお昼になっていた。そろそろオリビアの家に行くかな。

「じゃあ親父さん、後はお願いします」

「おう! 任しとけ。とりあえず三日後にまた来てくれるか? 柄の加工が殆どだからな、それくらいで試作は出来るだろ」

「分かりました、三日後ですね。よろしくお願いします」

親父さんに挨拶して工房を後にした。

ちなみに、シシリーの家に御用聞きに伺うように依頼しといた。

そして、本当にすぐ近くにあった石窯亭に入る。この石窯亭も人気店だけあって大きい。でも高級店ほど敷居が高い感じはせず、店内は賑わいを見せている。

店内に入ると、ウエイトレスのお姉さんがやって来た。

「あれ? マーク君じゃない。オリビアお嬢さんなら友達と部屋に行っちゃったよ?」

「知ってるッス。こっちの用事が終わったからその友達も含めて呼びに来たッス」

「こっちって、マーク君のおとも……だ……ち?」

お姉さんの動きが段々固まっていく。これはあれかな?

「で! ででで殿下!?」

お姉さんの声が店中に響く。

ああ、さっきの工房と同じ光景になっちゃったよ。

「はぁ……皆良い、楽にしてくれ。今日は友人達と友人の店に食事に来ただけなのだ。そう畏まらないで欲しい」

そうは言っても、相手は滅多に見ない至高の王族。皆の頭が中々上がらない。どうしようかと思っていると、店の奥からさっき別れた女性陣がやって来た。

「うわ! 何この光景!」

「ああ、殿下がいらっしゃってるからじゃないですか?」

「あ、あのアウグスト殿下。個室を御用意してますので、そちらへお願いします」

「……迷惑を掛けてスマン」

「いえ! そんな!」

個室に入ってようやく落ち着いた。オーグといるとさすがにこういう事が多いな。

「……何を考えてるかは大体分かるがな、来週からはお前もこんな感じだぞ、シン」

「来週って、ああ叙勲式」

「週明け早々だから明後日だな。俺には近寄って来ないが、お前は立場的には一般市民だからな。囲まれるぞ?」

「そ……そうなの?」

「魔人を討伐するという事はそういう事だ。何十年も前の話なのに未だにマーリン殿とメリダ殿がどういう扱いを受けているか見れば分かるだろう?」

「確かに……」

「新たに出現した魔人、それを討伐したのはかつての英雄、賢者の孫のシン。若く、見目も良く、英雄の孫。あっという間に国民のヒーローだな」

くそ! 絶対面白がってやがる!

「でも、英雄の孫ってのは分かるけど、見目が良いってのはなぁ……」

自分の顔だからか、この年まで同年代の女の子と関わって来なかったからか、自分がフツメンなのかイケメンなのかが分からない。

ブサメンでは無い筈。

普通こういう事って、小さい頃からの女の子の態度で大体分かるけど、その経験がない。今の歳になると正直な感想とか言わなくなってくるし……

俺ってどう? なんて聞けるか!

「自覚してないんだ……」

「うう……ライバルが……」

「ちょっと嫌味ですよね」

「そんな事言われてもな……ライバル?」

「な、何でもありません!」

それにしても叙勲式かぁ……憂鬱だ……。

ちなみにお昼は肉食った。超旨かった。