軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前文明の遺跡

「ま、まあ、そういう冗談はさておき、俺たちも中に入ろうぜ。調査員の人を置いて三人は中に入っちゃったし」

「あ! そ、そうでした! 『すぐに入りましょう!』」

最後の言葉は調査員の人に言ったんだろうな。

シャオリンさんと一緒に慌てて遺跡の中に入って行った。

真面目な委員長気質とでも言えばいいのか、シャオリンさんはこういう規律違反を許せない気質なんだろう。

それをうまいこと利用できた。

とりあえずシャオリンさんの疑惑の目から逃れられてホッといていると、オーグが隣にやって来た。

「で? 本当のところはどうなんだ?」

周りに聞こえない程度の小さい声でそう言った。

「ほ、本当のところ?」

軽く流せばいいのに、ホッとしたところで不意を突かれたからか、思わず噛んでしまった。

ヤバイ。

変な疑惑を持たせたかもしれない。

そう思って冷や汗を掻いていると、オーグはフッと笑った。

「まあいいか。それより、私たちも中に入ろう」

「あ、ああ。そうだな」

よかった……。

なんとか追及を止めてくれた。

そう思ってホッと息を吐き、俺も遺跡の中に入って行った。

遺跡の中という言い方をしたけど、遺跡は土に埋もれている状態。

その土を掘って通路にしているだけで、遺跡となっている街並みが地下に作られている訳ではない。

所々補強されている通路を進んでいく。

通路には魔石を使用したと思われる照明が設置されているので、十分な明るさが確保されている。

通路はいくつかの分岐に分かれていたが、矢印が書かれた看板が設置されており迷うことはなかった。

観光地になってるって言ってたしな、観光客が迷わないような配慮なんだろう。

順路でない通路はなんだろうな?

発掘の時に掘った通路なんだろうか。

そんなことを思いながら歩いていると、隣を歩いているシシリーがポツリと呟いた。

「随分と長い通路ですね」

通路はずっと下り坂で、地下に向かっているのだが一向に目的地に着かない。

大分地下に潜ってきたので、不安になってきたんだろうな。

俺の左腕をギュっと掴み、ピッタリと引っ付いている。

普段だったらシシリーを慰めつつイチャイチャしながら歩くんだけど、今はそうはいかない。

なぜなら……。

「さ、さっきの建物って、この地下から突き出してるのよね? どんだけデカいのよ……っていうか、どこまで続いてんのよ……」

マリアが一緒にいるからだ。

それも、俺の右腕を掴みシシリーと同じようにピッタリと引っ付きながら……。

「マリア、引っ付きすぎだよ?」

左側から聞こえてくるシシリーの声が冷たい。

……左腕も冷たい……。

「い、今は大目に見てよ! 私をこんな場所で一人にさせる気!?」

「いや……一人で置いていくなんてしないから」

「そんなことしたら一生許さないからね!!」

「はぁ、もう……しょうがないなあ。通路が終わるまでだよ?」

「わ、分かってるわよ」

マリアのあまりにも必死な様子に、シシリーが折れた。

この通路、照明が設置されているとはいえやっぱり薄暗い。

そして狭い。

幽霊とかお化けとかが大嫌いなマリアにとって、この通路を一人で歩けというのは拷問だろう。

最初は適切な距離を保っていたマリアだったが、通路を進むにつれて距離が近くなり、ついには俺の腕を掴んできた。

シシリーはそれに対抗した形。

いつものシシリーだったら強引にでも俺とマリアを離そうとするんだろうけど、マリアはシシリーの大親友。

幼い頃からずっと一緒なので、マリアがこういう雰囲気を大の苦手としていることも知っている。

とにかく何かにしがみついていたいというだけなので大目に見ているようだ。

そうしてしばらく歩いていると、分岐のところでなにかを話し合っているアリスとリン、それにトニーと合流した。

「なにやってんの?」

俺がそう聞くとようやく気付いたアリスたちが俺の方を見た。

そしてキョトンとした顔をして言った。

「シン君、マリアを愛人にしたの?」

「してません!」

「なりません!」

「あはは……」

とんでもない誤解をしているアリスに、俺とマリアが同時に否定した。

事情を知っているシシリーは苦笑いだ。

「あー、なるほど。ここ、薄暗いもんね」

「そ、それより、アンタたちはこんなとこでなにしてんのよ!?」

アリスも事情を察したようで、なんとか納得してくれた。

マリアはそれを見抜かれたのが恥ずかしかったのか、大声をあげることで話題を強引に転換した。

俺の右腕を掴みながら。

……皆と合流しても腕は放さないのね。

「それがねえ、アリスたちがこっちに行ったらなにがあるのか興味を持っちゃってねえ」

トニーのその言葉で全てを察した。

「……順路外に行こうとするアリスとリンをトニーが止めてたと」

「その通り」

トニーがヤレヤレといった感じで肩を竦めながら肯定した。

まったく、この二人は相変わらずだな。

「だって! シン君も気にならない?」

「興味が抑えられない」

「そういうのはシャオリンさんか調査員の許可が下りないと駄目だろ。もしかしたら重要なものとかあるかもしれないし」

「「だからこそ見たい!!」」

「駄目です! まずは順路通りに行こうよ」

「「ぶぅ」」

アリスとリンが膨れっ面をしているけど、ここは他国の遺跡。

勝手なことをしたら国際問題になるかもしれない。

それに、委員長気質のシャオリンさんが許さないだろうな。

「ほら、行くぞ」

いまだに膨れっ面をしているアリスとリンに声をかけて、俺たちは順路通りに通路を進み始めた。

……のだが。

「マリア? まだ怖いのか?」

「え?」

アリスたちも加わって六人になり、かなり賑やかになったのにマリアがまだ右腕に引っ付いていた。

「あ! ご、ごめん」

マリアは自分が俺の右腕を掴んて引っ付いていることに気付いていなかったのか、俺の言葉にハッとすると慌てて俺から離れた。

「もう大丈夫。ありがとね、シン」

「いや、気にしなくていいよ」

「シシリーも、ごめんね」

「いいよ。マリアがこういうところ苦手なの知ってるし。ちょっと引っ付きすぎだったとは思うけどね」

「うう……しょうがないじゃない……」

シシリーがチクリと指摘するとマリアは涙目になって抗議してきた。

とはいえ、人数が増えたことでマリアの不安は大分解消されたようで俺から離れても普通に話せるようになった。

ということで六人で行動を開始したのだが……。

「あの、シシリーさん?」

「はい?」

「なんでまだ腕を掴んでいるんでしょうか?」

マリアは離れたのにシシリーはまだ引っ付いたまま。

あれ?

マリアに対抗してたんだから、マリアが離れたらもういいのでは?

そう思って訊ねたのだが、シシリーはプクッと頬を膨らませた。

「妻が夫の腕を掴んでいてはいけないのですか?」

「いけなくありません」

うん、まったく問題なしだ。

俺は左腕にシシリーを引っ付けたまま通路を歩き始めた。

「くっそ……こんなとこでまでイチャイチャしやがって……けど切っ掛け作ったのは私だし……ぐぬぅ」

俺から離れたマリアがぐぬぬって顔をしている。

最初に引っ付いてきたのはマリアだもんな。

俺とシシリーが引っ付いていてもなにも文句は言えないか。

先頭をアリスとリン、その後ろをトニーとマリア、最後尾に俺たちという隊列で通路を進んでいく。

いくつかの分岐を過ぎたとき、通路の先が途切れているのが見えた。

「あ! ようやく終わったよ!」

「長かった」

長い通路の終わりが見えたことでアリスとリンが駆け出して行った。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私も行くから!」

早くこの狭く薄暗い通路から脱出したかったらしいマリアもその後ろに続いていく。

「ようやく遺跡に着いたようだね。いやあ、楽しみだなあ」

駆け出して行くアリス、リン、マリアを見ながらトニーが呟く。

「なんだ、てっきりトニーも駆け出して行くかと思った」

「まあ、走らなくったって遺跡は逃げないからねえ。ゆっくり観察しながら行くことにするよ」

トニーは早く見たいというより、じっくりと観察したいらしい。

「それにしても、トニーがこういう古代遺跡とか好きだなんて本当に意外だわ」

「そうですね。トニーさんは新しいものとか煌びやかなものとかが好きなんだと思ってました」

「俺もそう思ってた」

トニーって、女性関係はリリアさんと付き合い出したことで落ち着いたけどやっぱりチャラチャラしてるイメージは抜けない。

実際身に付けてるアクセサリーとか私服とかも王都の流行のものだったりするしな。

だからこそ、眉唾物の都市伝説とかが好きだなんて意外もいいとこだ。

「あはは、僕の部屋に来たリリアにも同じこと言われたよ。僕の部屋、都市伝説系の雑誌とかいっぱいあるからねえ」

「そういや、そういうの読んでるって言ってたな」

「本当に意外です」

「そう? まあ、本気で信じてるわけじゃないけどね。荒唐無稽な推測とか、読んでて面白いよ」

「それはまあ、分かる」

「そういえば、シン君もたまに読んでますよね。その手の雑誌」

「そうなのかい?」

シシリーの何気ない言葉にトニーが食いついてきた。

「なんだい、そうならそうと言ってくれれば良かったのに!」

同好の士を見つけたと感じたのか、トニーが凄く嬉しそうな顔で俺に迫ってきた。

うわ、これ絶対面倒臭いやつだ……。

「今月の特集はどうだった? 僕としては……」

「あ、あの、トニーさん」

「ん? どうしたのシシリーさん」

「もう着きましたけど……」

「え? ああ! 本当だ!」

トニーと話しているうちにどうやら通路が終わっていたらしい。

そのことに気付いたシシリーがトニーに声をかけると、トニーは俺に話しかけるのを止めて遺跡内に足を踏み入れた。

「はぁ……ありがとシシリー」

ああいう趣味全開の話は、一方的に聞かされると非常に疲れるので、シシリーがトニーの気を逸らしてくれて助かった。

そう思ってシシリーにお礼を言うと、シシリーは苦笑していた。

「ああいうトニーさんは珍しいですね」

「本当にな。さて、前文明の遺跡とやらを俺たちも拝見しますか」

「そうですね」

そう言いながら、俺たちは通路から出た。

そして、そこに広がっていた景色に絶句した。

「す、すごい……」

シシリーは思わずといった具合にそう呟いた。

対して、俺はなにも言えなかった。

なぜなら、俺たちが見た遺跡は……。

あまりにも前世で見た景色にそっくりだったからだ。