軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハオの凋落

クワンロンの、とある街道。

そこに大きな荷物を運ぶ一団がいた。

その多くは武装した兵士たち。

だが、物々しい雰囲気の集団の中に不釣り合いな豪華な装飾の施された馬車がある。

『ええい! もっと速く進めないのか!!』

クワンロンの官僚、ハオの乗る馬車である。

悠皇殿での査問委員会をなんとか切り抜けてきたハオは、馬車の窓から顔を出し、近くにいた兵士に怒鳴り声をあげる。

しかし、一向に進軍速度は上がらない。

『も、申し訳ありません! 何分例のものが重く、これ以上の速度は……』

『くっ……!! もういい! とにかく急げ!!』

『は、はい!!』

ハオ一行の進軍速度が上がらない理由である大きな荷物。

だが、この荷物こそがハオにとっての唯一の希望であるため捨て置くこともできない。

急ぎたいのに急げない。

そんな歯がゆい思いをしていたハオは、馬車の中でこれ以上なくイライラしていた。

『くそっ! なんで私がこんな思いをしなければいけないのだ!? 私の計画は完璧だったはずだ! それなのに……アイツだ……あの副官のせいだ……』

ハオが言うことに間違いはない。

本来なら副官に入るはずの、竜の大量発生の兆しの報告。

ハオの連絡網が正しく機能していれば、副官のもとにはその情報が入っていたはずなのだ。

だが、副官は姿を消した。

その報告をしないまま。

結局ハオは、竜の大量発生の兆しを察知できず村を襲撃されるという大失態を犯した。

ハオの窮地は、正しく副官のせいである。

だが、そもそも副官がこのような行動に出たのは、全てハオからのパワハラのせいである。

常日頃から、副官はハオのパワハラに耐えてきた。

いつも見下され、何かあれば怒鳴り散らされる日々。

そんな日常でも彼が耐えてきたのは、ひとえにハオが官僚の中でも一際地位と発言力の高い官僚であったから。

その副官ともなれば、他の同じ立場の人間よりも地位が高いし、なにより給料が良かった。

それに、今までは言葉では何かと言われるものの、直接手を出されたことはなかった。

だが、今回の使節団への工作失敗でハオは副官に手をあげた。

ハオの投げた文鎮が副官の頭に命中し、その上で罵声を浴びせかけられたとき、彼の中で何かが切れた。

今までは高級官僚の副官という立場を守るために、胃痛に耐えながらも職務を全うしてきた。

その報いがこれかと、この時彼はハオを見限った。

そして、ハオのライバルである他の官僚に庇護を求めたのだ。

つまり、巡り巡ってこの窮地はハオ自身によってもたらされたもの。

自業自得である。

だがハオは、自分を特別な人間だと信じ込んでおり、失敗は全て他人のせいだと思っている。

なので、今自分がこんな窮地に立たされているのは裏切った副官のせいであると信じて疑わない。

そう思い込んでいるハオは、副官に対してどのような報復をするかまで考えていた。

そんな折、突如として馬車が止まった。

『なんだ!? なぜ止まる!?』

目的の村まではまだ距離があるはず。

馬車が止まる理由がハオには分からなかった。

そんなハオのもとに兵士が近付いてきた。

『もうすぐ日没です。夜間の行軍は危険なため野営の準備をいたします』

その発言を聞いたハオは……キレた。

『野営だと!? そんな暇があるとでも思っているのか!? 進め!! 夜を徹して進むのだ!!』

『し、しかし! 日が落ちてしまっては視界も利かず危険です! それに、兵たちにも食事と休憩をさせませんと……』

『それくらい我慢しろ! 今はそれどころではないのだ! そんなことも分からんのか!? この無能め!!』

『……かしこまりました』

『さっさと行け!!』

ハオはそう言うと、馬車の扉を乱暴に閉めた。

『どいつもこいつも……私の足を引っ張りおって……』

ハオは馬車の中で下らないことを言いに来た兵士に向かって愚痴を零した。

そして、無能と呼ばれた兵士は、馬車から離れたところで馬車を睨みつけポツリと呟いた。

『無能はどちらだ……』

兵士はそう言うと、ハオから下された指令を他の兵士たちに伝えた。

当然、兵士たちの間で不平と不満が募る。

ようやく休憩と飯にありつけると思ったら、それすら許されず夜を徹して進めという無茶苦茶な指令。

こんな命令を受けて、はいそうですかと承諾できる訳がない。

しかし、この命令を無視できない理由があった。

彼らは国に雇われている兵士ではなく、ハオ個人に雇われている私兵だったのだ。

ハオは雇い主であり、給料を支払ってくれる相手。

ここで反旗を翻しては、給料を払ってくれる相手がいなくなってしまう。

私兵たちは、あまりに横暴な雇い主に恨みの気持ちを持ちながらも、仕方なく夜間行軍をすることにした。

飯を食わずに進めるわけもないので、食事はいざという時のために用意していた携帯食料で済ませた。

しかし、止まって休憩を取ることはできなかったので、目的地に付いたとき誰もが疲労困憊であった。

ハオに目的の村に到着したことを伝えに行くと、ハオは馬車の中で睡眠中だった。

そのことが私兵たちの不満をさらに高めることになるのだが、ハオは全く気付いていない。

『ふん、ようやく着いたか。ならば、早速竜共を始末せよ』

労いの言葉もなく、疲労困憊の私兵たちを更に扱き使おうとするハオに、私兵は一瞬殺意さえ覚えた。

しかし、その気持ちを必死に抑えハオに報告する。

『申し上げます。村には到着しましたが、竜の姿は見えません』

『なに? それでは竜の襲撃はなかったのか?』

『いえ、村が荒れていますので竜の襲撃はあったものだと思います。ですが、今は竜の姿が見えません。住人たちも村内で作業していますので、恐らく既に撃退したのではないかと』

『……なんだそれは』

『は?』

『わざわざ! この私がわざわざ出向いてやったというのに! なんだそれは!!』

『そ、そう言われましても……』

『どうせ竜の襲撃も大したことはなかったのだ! それを大袈裟に言いおって! これは私を陥れる策略に違いない!!』

『……』

ハオの言い分に、私兵は言葉を失った。

私兵は言ったはずだ、村が荒れていると。

ということは、村内に竜の侵入を許したということに他ならない。

村内に竜が侵入するということがどういうことなのか、ハオは理解していないのだろうか?

私兵がハオの様子を見るに、どうやら本気で理解していない様子だった。

その様子を見て、私兵は……ハオを見限った。

イーロンに戻るまでは任務に就こう。

だが、そこまでだ。

これ以上この雇い主に……コイツに付き合いたくない。

それに、この様子では次に言う言葉も容易に想像できた。

『くだらん! おい! さっさとイーロンに戻るぞ!!』

『……分かりました』

ハオの言葉は、私兵の想像通りだった。

休息なしの夜間行軍で疲労困憊の私兵たちのことなど、全く気遣う様子がない。

ハオは言いたいことだけ言うと、さっさと馬車の扉を閉めた。

私兵たちは、全員がハオの乗る馬車を睨みつけたあと、ノロノロと帰還し始めた。

このとき、先んじて村の様子を見に行った私兵は、村人からある程度の事情は聞いていた。

だが、完全に信用を失ったハオには、その報告はされなかった。

もしこの時、村の状況を聞くことができていたのなら、ある程度の対策を練ることができたかもしれない。

だがその報告を聞かされなかったハオは、とにかく早くイーロンに戻りたかった。

早く戻って、偽の情報に踊らされ自分を糾弾した官僚たちに報復しなければならない。

そのことで頭が一杯だった。

とはいえ、行きほどには急いでいないため、帰りは野営をすることが許された。

ハオも一日中馬車に乗り続けているため、流石にテントで横になりたかったのだ。

こうして首都イーロンを出立してから三日後、竜の襲撃のあった村から戻って来たハオであったが、そこで思わぬ事態が起きた。

首都に入る門の前で行軍は一旦止まったのだが、突如ハオの乗る馬車の扉が外から開けられたのだ。

馬車の扉を開けたのは、この首都の門を守っている国軍の兵士であった。

『な! なんだ貴様!! この私を誰だと思っている!?』

ハオは、無断で馬車の扉を開けるという無礼な行為に対して憤りの声をあげた。

だがそれを受けた兵士は表情を崩さずにこう言った。

『もちろん。知っておりますとも、ハオ殿』

『な……分かっていながらこのような無礼な真似を!!』

『むしろ、貴方だからこそ、こうしているのですよ』

兵士はそう言うと、ハオの胸倉を掴み馬車から引きずり下ろした。

『なっ!? お、おい! やめろ!!』

ハオの抗議に耳を貸さず、兵士はハオを後ろ手に拘束した。

『な! 何をする!? おいお前たち! なにをボサッとしている!! 早く私を助けろ!!』

私兵たちにそう言うが、私兵たちは全く動こうとしない。

その様子を見て歯ぎしりしなにかを叫ぼうとするハオに兵士が嘲るように言った。

『彼らは動かんよ。それどころか、ご丁寧にお前のいる馬車まで案内してくれたほどだ』

『なっ……』

ハオは兵士の言葉に愕然とし、改めて私兵たちを見た。

その顔に浮かんでいるのは……嘲笑。

ヘラヘラと自分の主が拘束されている様子を眺めていた。

『こ、このっ! 裏切りものどもがっ!!』

思わずそう叫ぶが、誰一人として心を痛めた様子はない。

ハオの心は、怒りでどうにかなりそうだった。

『さて、ハオ殿。貴殿にはある容疑がかかっている。このまま悠皇殿まで連行させてもらうぞ』

兵士はそう言うと、ハオを拘束したまま軍の馬車に乗せ悠皇殿へと向かって行った。

その一部始終を見ていたハオの私兵の一人が言った。

『はっ! ざまあみろってんだ!』

その顔は、晴々しい笑顔に満ちていた。