軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対策 1

シンが、対シュトローム用の魔法を用意していたころ、アウグスト達、他のアルティメット・マジシャンズの面々も、魔人達に対抗すべく様々な対策を練っていた。

先日のシュトローム配下の魔人と対戦した際、攻撃も防御も膠着状態に陥ってしまい、打開することができなかったからだ。

世間からは英雄の集団だ、天才魔法士集団だと持て囃されていても、実際の最前線では全くの役立たずだった。

元々自分たちが天才だとは思っておらず、全てシンのお陰で力をつけたことを自覚しているアウグストたちであったが、本当に力を発揮しなければいけないところで、全てシンに助けられたことは、彼らの心に深い悔恨の思いを残した。

自分たちが世界を救うのだと思い上がっていたとは思わないが、期待されていたのにその期待を裏切った。

アウグスト達の心には、その思いがあった。

なので、来たる魔人達との最終決戦に向けて個別に鍛錬に打ち込んでいるのだ。

その日もいつもの荒野で魔法の練習をしていたアウグストのもとに、トールとユリウスがやってきた。

王太子なのに、護衛役の二人を付けていないことに、最早誰も口を挟まない。

この国で……いや、世界で二番目に強い人物に護衛を付けろと言える人間はすでにいなかった。

「殿下、調子はどうですか?」

「ああ、トールか。そうだな、概ね完成したかな」

「さすがで御座るな、殿下」

「そういうユリウスたちはどうなのだ? 策は練っているのか?」

そう問われたトールとユリウスは、お互いの顔を見合わせた後、アウグストに答えた。

「自分たちは殿下ほど器用ではありませんからね。二人で組むことにしました」

「ほう、そうか」

「此の期に及んで、一対多数が卑怯などと言っておれんですから。体面など気にしていられないで御座る」

二人のその言葉を聞いたアウグストは、フッと小さく笑った。

「今度の戦いは、絶対に勝たなくてはいけないからな」

アウグストはそう言うと、自らの魔法を展開した。

「おお……お見事です、殿下」

「見事で御座る」

「ああ、ありがとう」

これまでの付き合いで、最早この二人がお世辞を述べるとは露ほども思っていないアウグストは、素直に賞賛を受け入れた。

「さて、他の皆も対策は順調だろうか」

「自分はそれよりも、シン殿の切り札の方が気になります」

「拙者もそうで御座る」

他の者たちも対策を練っていることを知っているアウグストは、皆の進捗が気になっていたが、トールとユリウスはそのことよりシンの考えている切り札の方が心配だと言う。

そう言われた、アウグストはしばし考え込み。

「そういえば、ヒューズが長距離からの超強力魔法による殲滅を提案したとき、できなくはないと言っていたな……」

「地形が変わるとか……」

「人が住めなくなるとも言っていたで御座る」

とそこまで言ったところで無言で顔を見合わせる三人。

「本当に心配になってきたな……」

「あの発言も、自重を覚えたと見ていいと思うのですが……」

「シン殿で御座るからなあ……」

しんはじちょうをおぼえた。

そう信じたいが、どうにも不安なアウグストたちであった。

「父さん、お願いがあるんだけど」

「なんだ? トニー。お前が今更私にお願いなんて」

「そうねえ。稼ぎも地位も、あなたよりも上になってしまったものねえ」

「お前……」

「あ、あはは……別に小遣いをねだってる訳じゃないよ」

「ではどうしたのだ?」

「僕に……稽古をつけて欲しい」

王都内にあるトニーの自宅。

そこでトニーは、父であり現役の騎士である父に、稽古の申し出をしていた。

「稽古? 剣の稽古か? なぜ今更」

「ああ、まあ、そう思うよね。僕、魔法学院を選んだし……」

「ああ、いや。言い方が悪かったな。お前はすでに魔法使いとして尋常ではない力を身につけているではないか。そこまで魔法を極めたのなら私はもうとやかく言わんよ。それなのに、なぜまた剣の稽古がしたいと言うのだ?」

「……その魔法がね、通じない相手がいたんだよ」

そう悔しそうに呟くトニーを見て、トニーの父は気がつく。

「……新たな魔人……か?」

「そう。先に討伐した魔人たちは元平民。戦う術を知らない者たちばかりだったんだ。ところが、今度出てきた魔人は……」

「戦闘経験豊富な元軍人だった?」

「その通り。お陰であの時、全員魔人に翻弄されちゃってね……シンが間に合わなければ、僕たちも危ういところだった」

「そうだったのか……」

自分の意思に反して魔法学院に入ってしまったトニーのことを、なんとなく面白く思っていなかった父は、自然と家庭内でのトニーとの会話が減ってしまっていた。

その結果、過去の魔人領攻略作戦時も、今回の魔都周辺で起きた衝突時も、詳細は話してこなかった。

トニーの父は、息子が命の危機に直面していた事実を知り、少なからずショックを受けている様子である。

「それでさ、今のままじゃダメだってことになって、全員が魔人に対抗できるようになれって、殿下からのお達しでね」

「で、殿下の御命令なのか!?」

「ん? ああ、そんな大層なものじゃないよ。僕たちがやらなきゃいけないことの確認、って感じかな」

「大層なものじゃないだと……」

大国アールスハイド王国の王太子。

その明晰な頭脳と比類なき魔法の実力。

長い王家の歴史の中でも最上位の逸材と言われるアウグスト。

そんなアウグストの話を大層なことじゃないという息子。

トニーの父は、頭を抱えたくなった。

「……言いたいことは沢山あるが、今はいい。とにかく、殿下の御命令なのだ。全力で稽古をつけてやる。来い!」

そう言いながら、トニーの父は家の裏庭に出て行った。

「はあ……この暑苦しいのが嫌いなんだよ……」

自分で申し出たこととはいえ、嫌なものは嫌なのであった。

そして数時間後……。

「今日はここまで!!」

「あ、ありがとうございます……」

久々に息子に稽古をつけられてご満悦な父と、ボロボロになっている息子。

そのトニーを、トニーの母が介抱に向かう。

「大丈夫? トニー」

「はあ、ふう……大丈夫だよ、母さん」

「それにしても……随分とやられちゃったわね、英雄さん」

ボロボロになっているトニーを見て、心配するよりも嬉しそうな母。

相変わらずな母を見て、トニーは苦笑を浮かべる。

「それは魔法のお陰だからね。最近、剣は魔物相手にしか振るってこなかったから」

「そう。それにしても、あの戦法はどうなのかと思うけど……」

元騎士である母は、先ほど父との稽古で見せた戦法に対し、不服があるように見える。

それを察知したトニーは、母を諭すように話す。

「母さん。今度の戦いはさ、正々堂々とか、卑怯卑劣だとか、王道とか邪道とか、そんなことを言っている場合じゃないんだ……『勝つか負けるか』それだけなんだ」

「それはそうかもしれないけど……」

まだ少し不服そうな母の耳に、トニーの呟きが聞こえてきた。

「もう……足手まといにはならない……」

ボロボロになりながらも、決意のこもった瞳でそう呟くトニー。

その横顔を見て、トニーの決意の程を知った母はそれ以上食い下がるのをやめ、別の話題を持ち出した。

「あ、そうだ。トニー、今度リリアちゃん連れてきなさいな」

「か、母さん? なんで急にそんな話に!?」

「いいじゃない。あなたがお父さんと稽古してる間、お母さん暇なんだから」

「そ、そんな理由で……」

「リリアちゃんと一緒にご飯でも作ろうかしら。それともトニーの昔の話とか……」

今までのシリアスな雰囲気が一気に霧散し、息子の彼女と何をしようかとウキウキしている母に、がっくりと項垂れるトニーであった。

「ユーリちゃん、これでいいかい?」

「やぁん、ありがとぉ」

「なあに、いいってことよ」

アールスハイド王国王都にあり、ハンター達に絶大な人気を誇る工房、ビーン工房。

最近では、シンがオーナーを務める商会、ウォルフォード商会の専属工房として急激に売り上げを伸ばしており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの工房である。

そんなビーン工房では、生産量の大幅な増加に伴い職人や付与魔道士の雇用を大幅に増やし、アルバイトも多く雇っている。

アルティメット・マジシャンズの中で、シンに次いで付与魔法が得意で、付与魔道士の頂点にいるメリダの指導を受けているユーリも、ビーン工房でアルバイトをしていた。

工房側は優秀な付与魔道士であるユーリを雇うことができ、生産量が拡大。

ユーリの方も大量の付与を施すことで、実践的に付与魔法の練習ができる。

まさにwin-winの関係となっていた。

そして、ビーン工房は金属加工が主な業務なので、職人たちはむさ苦しい男たちが多い。

そんな中にあって、十六歳とは思えぬ色気を放つユーリは、その付与魔法の腕だけでなく、工房の癒しと潤いとして工房の職人たちに大人気なのである。

工房の職人たちは、ユーリが対魔人戦のために新たな攻撃魔法が付与された魔道具を製作したいと願っているということを知り、ユーリのために短い杖型の魔道具を大量に用意したのだ。

「えっとぉ、これはこの付与でぇ、こっちはこれ」

「それにしてもユーリちゃん。こんなに必要なのかい?」

「うん。これくらいないとねぇ……あの魔人には通用しないからぁ……」

攻撃魔法よりも、付与魔法の方が得意なユーリは先の魔人戦ではあまり役に立てなかった。

その時に、もっと攻撃用魔道具のバリエーションが多かったらと、ひどく後悔をしたのだ。

「もう、後悔したくないからぁ……」

いつもはユルっとした雰囲気のユーリだが、先の戦闘を思い出したのか、少し悔しそうな表情を浮かべていた。

そんなユーリを、年嵩の職人たちは困難に負けずに頑張る娘を見守るような気持ちで、年若い職人たちは尊敬の目で見ていた。

「できたぁ!」

そんな職人たちに見守られながら、たくさんの短い杖型魔道具に付与を施していたユーリは、ようやく全ての魔道具に付与をし終えた。

「どこかで試射したいなぁ」

「だったら、ウチの実験場を使えばいい」

「え、いいのぉ?」

「ああ、ユーリちゃんなら問題ねえ」

「だったらお願いしようかなぁ」

年配の職人の計らいで、新設した実験場での試射を許可されたユーリ。

その試射には、やはり気になるのだろう、多くの職人たちがついてきた。

「なんだてめえら、ぞろぞろと雁首並べて何しに来やがった?」

ちょうど実験場にいた工房主のハロルドが、ぞろぞろと現れた職人たちに苦言を呈するが、職人たちにも言い分はある。

「ユーリちゃんが攻撃用魔道具の試射をしたいっていうから、一応監督しに来たんですよ」

「……本音は?」

「だって気になるじゃないですか。導師様の後継者とまで言われているアルティメット・マジシャンズのユーリちゃんですよ? どんな攻撃魔法を付与したのか」

「確かに……な」

結局ハロルドも気になったのか、職人たちがユーリの試射を見学することを黙認した。

「じゃあ、いくよぉ」

いつも通りのユルい気合いと共に、自身が付与した魔道具を起動していくユーリ。

そして、実験場に用意された的に、次々と着弾していく攻撃魔法。

炎の魔法から風、水、雷、土まで、ありとあらゆる魔法が、凄まじい威力で放たれていた。

その魔道具から放たれる攻撃魔法を見て、あんぐりと口を開ける工房の職人たち。

彼らはシンの依頼で、今まで見たことも無い魔道具を次々と生産している。

その名声は、すでにアールスハイド王都一と言っても過言ではない。

そんな職人たちだが、アルティメット・マジシャンズの攻撃魔法を直接見るのはこれが初めてだったりする。

あまりにも強力な攻撃魔法に、絶句してしまった職人たちだったのだが……。

「うーん。こんなもんでいいかなぁ?」

当のユーリは、少し納得がいっていない様子だった。

「ユ、ユーリちゃんって攻撃魔法、苦手なんじゃなかったっけ……?」

「うん。やっぱりウォルフォード君とかと比べると、全然だからぁ」

そう言って、魔法を発射した後の魔道具のチェックをするユーリ。

「わぁ、やっぱりおじさんたちの作る魔道具は凄いですぅ。これならなんとかなるかなぁ」

強力な魔法を放った後でもヒビ一つ入っていない魔道具を見て満足そうなユーリ。

そして、そんな自分の魔法より魔道具である杖の方が凄いというユーリを見ていた職人たちは……。

「ユーリちゃんも、アルティメット・マジシャンズってことか……」

ユーリも常識から外れた存在になっていると、改めて実感していた。