軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決心しました。

シュトローム率いる魔人との最終決戦に、爺さんとばあちゃんが参戦することが決まった。

それを兵士さん達に告げた時の熱狂ぶりは相当凄かったらしい。

さらに、爺さん達は最前線ではなく、兵士さん達と共に魔物討伐に回ると聞き、本や舞台でしか見たことがない英雄と一緒に戦えるということでさらにその熱狂ぶりが加速したらしい。

その知らせは、通信機を通して瞬く間に世界中に知れ渡ったそうだ。

それにしても……。

「そんなに熱狂するようなことか?」

「するだろう? マーリン殿とメリダ殿だぞ?」

「だって、それって過去の栄光じゃん? 二人とも、もう結構な歳だぞ。そんな老人に大きな期待を寄せるって……」

ディスおじさん、エカテリーナ教皇、アーロン大統領が若い頃、二人に同行していたと聞いた。

一歳位の俺を拾う前だから、十五年以上前の話だ。

魔人を倒したのはそれよりさらに前。

二人とも、はっきり言ってもう老人だ。

それなのに、二人が参戦をするというだけで、世界中で熱狂しているという。

意味が分からん。

「過去の栄光って……シン、お前本気で言っているのか?」

「殿下、シン殿はお二人の本も舞台も見たことがないそうですから……」

「ああ。そうだったな」

「なんだよ。なに二人で納得してんだよ」

オーグとトールは、俺が爺さんとばあちゃんの本や舞台を見たことがないからと納得したようだが、それでなにが納得できるんだ?

「確かに、お二人は老境の域に差し掛かっているかもしれないが、魔法使いだぞ? 年齢は関係ない」

「いや、それは分かるけど」

魔法使いの強さに年齢も性別も関係ないのは分かっている。

けど、戦場に出る以上体力は必要だろう。

「確かに魔法の実力は上がってるけど、今度の戦場って結構広いだろ? 俺、結構な範囲を壁で覆ったぞ?」

「……お二人を見ている限り、そんな心配は無用と思えるが……」

……まあ、よく二人でじゃれ合ってるのを見ている限りは大丈夫そうに見えるけど……。

「なんだかんだで、家族だなシン。大丈夫そうでも、祖父母が戦場に出るのは心配か?」

「当たり前だろ!」

ああ、そうさ。

口では過去の栄光だとか老人だとか言ってるけど、本音は心配だから。

そんな俺を見て、オーグは特に茶化す訳でもなく、諭すように語り掛けてきた。

「確かに、家族であるシンにとってはマーリン殿とメリダ殿はただの祖父母なんだろう。だが、他の者にとっては違うのだ」

「……英雄……か」

「そうだ。お二人を題材にした書物や演劇は、あまりにも数が多い。そんなものを見て育った者が、実際にその英雄と戦場を共にできるとなったらどうだ?」

「それは、嬉しい……かな?」

「物語上の英雄。もはやその戦闘を直に見たことがある者の方が少ないのだ。それが見れるかもしれないと聞いた時の兵士達の熱狂ぶりは……想像できるだろう?」

「まあ……確かにそうか」

爺さんとばあちゃんが活躍したのは大分前。

実際にその戦闘を生で見たことがある人は、今は少数。

だからこそ、物語でしか知らない二人の戦闘を自分の目で見てみたいと、そういうことか。

「でも、実際は見れない確率の方が大きいんじゃね?」

「それでもよ。希代の英雄が一緒に戦ってくれている。それだけで士気が上がるには十分な理由ね」

オーグとの会話を聞いていたマリアが、そう口を挟んできた。

「シン君、お爺様とお婆様が参戦なさると聞いた時の、マリーカさん達の反応。あれが世間の反応ですよ。見たことがないものを見たいと思うのは当然です」

「シシリーも?」

「そうですね……お二人とは随分親しくさせて頂いてますけど、実際の戦闘は一度しか見たことがありませんから、見てみたいという気持ちもあります」

「そうなんだ」

「でも……」

「ん?」

「お二人とも、もう家族だと思っていますから。私も心配な気持ちの方が強いです」

見てみたいけど、もう家族だと思ってるから戦場に出ることは心配だと。

シシリーもそう思ってくれているんだな。

「それ、二人に言ってやればいいのに」

「言ったら泣かれちゃいました」

もう実行済みだった。

それにしても、その時の状況が目に浮かぶな。

「じいちゃんはむせび泣いてて、ばあちゃんには抱き締められた?」

「見てたんですか?」

「いや?」

シシリーが驚いてるけど、それくらい簡単に想像できる。

爺さんとばあちゃんは、俺のことを英雄の孫という色目で見ず、シン=ウォルフォードという個人に好意を向けてくれるシシリーのことを、相当に可愛がっている。

そのシシリーから、英雄としての力を見せて欲しいと言われるより、身の心配をされたら……。

あの二人ならそういう行動をとるだろうな。

と、そんな会話をシシリーとしていると、周りから生温かい視線を向けられていることに気が付いた。

「シシリーってば、もうすっかりウォルフォード家の人なんだね!」

「もう、名前をシシリー=ウォルフォードにすればいいのに」

「ア、アリスさん! リンさん! にゃ、にゃにお!?」

アリスとリンにからかわれたシシリーが顔を真っ赤にしている。

噛んでる噛んでる。

「でもぉ、もう違和感ないよぉ?」

「そうですね。私は賢者様と導師様の戦う姿が見られると喜んでいたんですけど、シシリーさんは身の心配ですか……確かにもう家族同然ですね」

ユーリとオリビアも異存ないようだ。

「あ、あの! でも! そういうのは式が終わってからの方が……」

「当たり前じゃない。なに本気にしてんのよ」

赤くなりながらも、まんざらでもない様子のシシリーにマリアからのツッコミが入る。

「あ、あう……」

シシリーは顔から湯気が出そうなほど真っ赤になっている。

アールスハイドで結婚して苗字が変わるのは、役所にて住民登録台帳の変更を申請すればいい。

結婚式を挙げるかどうかは自由なんだけど……。

俺達の場合は、エカテリーナ教皇さんが俺達とオーグ達の結婚式を執り行うことを、世界的に知られてしまった。

その結果、結婚式を挙げてから役所に申請という流れしか許されない感じになっている。

つまり、シシリーが『シシリー=ウォルフォード』になるには、この戦いに勝ち、エカテリーナ教皇さんに結婚式を執り行ってもらわないといけないということだ。

「絶対に勝たなくちゃな……」

女性陣からいじられながらも、ちょっと嬉しそうなシシリーを見ながら、思わずそう呟いた。

すると、その呟きを聞いたオーグがさっきまでの真剣な顔とは違い、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。

「な、なんだよ?」

「いや、いいんじゃないか? 女のために勝利を掴む。いかにも物語的じゃないか」

物語?

ま、まさか!?

「オ、オーグ……お前……まさかこれを物語化するつもりじゃ……」

まさかという思いでそう聞いてみると……。

「フ、話題提供、感謝するぞ?」

「ああ! やっぱりぃ!」

ニヤニヤして近付いてきたのはそういうことか!

あの作家の書き方なら、見てるこっちが恥ずかしくなるようなシーンになるはずだ!

うおお……俺は、なんて話題を提供をしてしまったんだ……。

「まあ、それはともかく」

「……ちっ、最近立ち直りが早くなってきたな。つまらん」

「おい! まあ、それが話題になるかどうかも、この戦い次第なんだ。勝たないと……」

「まさに夢物語か」

「そういうこった」

さて、そろそろ例の切り札を試しておこうか。

やらなきゃいけないのは分かっているけど、躊躇している部分もある。

本当にうまくいくのか?

下手をすれば、シュトロームとの戦闘の前に俺が事故死するか、世界に大ダメージを与えかねない。

でも、やらなきゃいけない。

(……覚悟決めるか)

こればっかりはオーグに聞かれる訳にはいかないので口には出さない。

誰にも聞かれないよう心の中で決心した。

そうと決まれば、どこで実験をするのか決めないといけない。

誰にも見られる訳にはいかないから相当離れないとな。

決行場所は……。

海だな。

ずっと宙に浮いている必要があるけど、そのために浮遊魔法を並列起動していると集中力が乱れかねない。

それ用の魔道具を作るか。

浮遊魔法を付与するだけだから、わざわざビーン工房に頼む必要もない。

なら……。

決行は今夜。

切り札の魔法を試す。

これは、世界平和のために必要なこと。

そう、自分自身に言い聞かせていた。