軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふざけた提案に乗せられました

突如響き渡ったシュトロームの哄笑。

その声を聞いたことがある俺達はすぐにシュトロームだと分かったが、この場にいるほとんどの人間が初めてその声を聞いたようで。

「お、おいシン。シュトロームって……」

「ガランさんは初めてでしたか。この声の持ち主が魔人達の首魁、オリバー=シュトロームです」

「マ、マジかよ……!」

ガランさんの質問に答えたことによって、各国の指揮官の間に緊張が走った。

それはそうだろう。

なんせ魔人の首魁ということは、自分達が敵対している勢力のトップ。

いわばラスボスだ。

強制的に魔物を生み出し、人間すら魔人に変えてしまう。

そんな存在が、突如としてこの場に、声だけとはいえ現れたのだ。恐怖を感じないわけがない。

恐怖と困惑が広がる中、拡声魔法によってシュトロームの声が再度響いた。

『いやはや、魔物をけしかけたらどんな反応をするのかと思ったら……とんでもないことしますね、シン=ウォルフォード君?』

魔物をけしかけたらって……遊び半分でこんなことをしでかしたのかよ!

「相変わらず、ふざけた野郎だな!」

「落ち着けシン。奴がわざわざ出てきたんだ、何か思惑でもあるのかもしれん」

シュトロームのふざけた行動に怒りを抑えられず、思わず声を荒げてしまったが、オーグに宥められた。

オーグも内心では相当怒っているのが分かるが、今まで行動がよく把握できていなかった魔人達の今後の動向を図ることができるかもしれない。

そう判断したのだろう、シュトロームが次の言葉を発するのを待っている。

怒りを抑えて、冷静に敵の動向を探ろうとするオーグの姿に、俺も少し落ち着き、シュトロームの言葉を聞くことにした。

『さて、これで私達の周りが全て壁に覆われてしまって、隔離されてしまいましたね』

ひとまず現状を確認していくシュトローム。

確かに、大量の災害級の魔物を外に出さないために急遽壁を建設したけど、結果的にはシュトローム達魔人を隔離した形になる訳だ。

『この地を囲う壁の中は、災害級の魔物達がひしめき合ってとても楽しい状況になってますねえ』

そういえば、まだ壁の上から囲いの中を確認していないけれど、一体中はどうなっているんだろう?

壁の材料としたことで、壁の前には深い堀ができているから壁には近寄れないはずだけど。

『フフ、この壁が決壊したら……どうなるんでしょうねえ?』

「なっ!? 壁を壊す気か!?」

不吉なことを口走るシュトロームに対し、過剰に反応する指揮官の一人。

しかし、俺にとってそれは想定の範囲内だ。

シュトロームは当然、壁を崩すことを考えるだろうし、それを簡単に行える力も持っている。

しかし、他の人達にとっては予想外のことだったらしく、この場に集まっている各国軍に動揺が広がっていく。

『おや? ウォルフォード君は意外な顔をしませんね? 予想してましたか?』

「ああ。そう考えて当然だろ?」

俺達……といか直接戦ったことがある俺は、シュトロームを過小評価などしない。

こんな壁など、苦もなく破壊することができるに決まっている。

今さら驚くようなことじゃない。

それでも壁を作ったのは、この事態を打開するために、協議をする時間が少しでも欲しかったからだ。

俺は腕を組み、シュトロームの考えなど全てお見通しだと言わんばかりに返答した。

『さて、今日皆さんに声をかけたのは、一つ提案があるからです』

「……」

やっべ、俺の声シュトロームに届いてないわ。

恐らく、遠見の魔法でこちらを見て、拡声魔法で俺に声をかけてきたと思われるのに、拡声魔法を使わずに普通に返答してしまった。

キメ顔で返答したら、実は相手に聞こえてなかったという、非常に恥ずかしいことをしてしまった俺は、腕を組んだまま顔を赤くしていた。

隣では、オーグが必死に奥歯を噛み締め、険しい顔をして笑わないように苦労している。

他の皆は堪えきれずに俯いたり、口を手で覆ったりしている。

俺の声は周りにいた人間にしか聞こえていないため、指揮官達の目には別の意味で捉えたらしい。

「アウグスト殿下があんなにお怒りになってらっしゃる……」

「アルティメット・マジシャンズの方々があんな反応をするとは……一体何を吹っ掛けてくるのだ?」

敵のボスが現れ、今まさに宣戦布告をされるかもしれない状況で、絶対に笑ってはいけない。

その為に険しい顔をしているのに、俺達がシュトロームの要求に怒ったり恐怖を感じたりしていると思ったらしい。

やばいな。これ、皆の士気の低下につながらないか?

そんな危機感を抱いていると、シュトロームがその提案とやらを話し始めた。

『実はですね、私はこの度ある決意をしたのです』

決意?

「決意か……この状況を見るに、ついに世界征服でも決意したか?」

シュトロームの言葉に意識が向き、ようやく落ち着きを取り戻したオーグがそう呟く。

この状況での決意表明だ。そう考えて当然だろう。

周りの人達もそれを予想したのか険しい顔になっている。

だが、次に発したシュトロームの言葉は、俺達の予想を上回っていた。

『世界を 滅ぼす(・・・) 決意をね』

……。

その言葉を聞いた瞬間、俺達の時が止まった。

今……シュトロームはなんと言った?

世界を……滅ぼす!?

『な!? 馬鹿な! そんなことをして何になると言うのだ!?』

オーグが思わず拡声魔法を起動し、シュトロームに届くように大声で叫んだ。

『おや、これはこれは、アウグスト殿下ではありませんか。ご機嫌麗しゅう』

『そんなふざけた挨拶に付き合っている暇はない! 貴様、今なんと言った!? 世界を『征服』するのではなく『滅ぼす』だと!? そんなことをして何になる!?』

シュトロームの空気を読まない挨拶にオーグが苛立ち、先程の発言の真意を聞き出そうとする。

そもそも、魔物や魔人を大量に生み出しているのは、シュトロームの仲間を増やすための行動じゃないのか?

そうやって増やした仲間との居場所を作るために、世界を『征服』しようと考えるようがよっぽど自然に思える。

ところがシュトロームは、事もあろうにこの世界を『滅ぼす』と言いやがった。

一体何を考えているのか? 俺達人間によほどの恨みでも持っているのだろうか?

シュトロームの真意を測りかねていると、シュトロームは実にあっさりとその心情を吐露した。

『何にもなりませんよ?』

『な……は?』

あまりにもあっさりと断言されたため、一瞬惚けるオーグ。

そんなオーグを気にもとめず、言葉を続けていくシュトローム。

『別に、世界を滅ぼしたくて滅ぼそうというのではないのですよ』

『い……意味がわからん……』

『意味などないですからねえ……この世界が存続していく意味も』

『な、何を言っている!?』

益々意味が分からなくなっていく。

滅ぼすことに意味はないけど滅ぼす?

何だよ? その禅問答みたいな答えは!?

それに、世界が存続していく意味がないってどういうことだ?

『さて。私の言葉をどのように解釈するかはあなた方の勝手ですがね。私が、世界を滅ぼす決意を固めた。そのことだけ理解しておけばいいんじゃないですか?』

あまりにも身勝手な言い分。

自分が滅ぼしたいから、世界を滅ぼす。

理由は意味不明。

それを聞いている皆も、恐怖より困惑の方が強くなっている。

しかしシュトロームは、困惑している俺達のことなど全く気にも止めずに話を進めていく。

『さて、世界を滅ぼすと決めたのはいいのですが、このまま私が各国に攻めて行っても面白くないんですよねえ』

『お、面白くない……だと!』

世界を滅ぼすための行動を、面白いとか面白くないとかで決めようってのか!?

やっぱり魔人ってのは狂ってやがる!

『そこで、一ヶ月』

『は?』

『一ヶ月の猶予をあげます。その間に戦力を増強させ、一ヶ月後にこのウォルフォード君が作った囲いの中で雌雄を決しようではありませんか』

俺たちが魔人の、シュトロームの異常さに憤っていると、シュトロームがそんな提案をしてきた。

軽い気持ちで、それはまるで……。

『……まるでゲームでもするみたいな言い振りだな?』

オーグが言ったことが皆の気持ちだろう。

シュトロームの言葉は、まるで皆でゲームでもしようと言っているかのようであった。

『その通りですね。これはゲームです』

『なっ!』

『フフフ、精々楽しませて下さいねえ。いい加減、私も現状に退屈してきていますので。それでは一ヶ月後、楽しみにしていますよ』

『お、おい! そんなこと、我々が承諾するとでも思っているのか!?』

『承諾いただけなかった場合は……そうですね、各国を順番に殲滅していくことになりますねえ』

『き、貴様!!』

ゲームに参加しなかった場合、シュトロームは各国に攻め入ると宣言した。

これで、俺達に選択の余地はなくなった。

一ヶ月後、この災害級の魔物がひしめく囲いの中に攻め入り雌雄を決するというゲームへの強制参加が決定してしまった。

『それではみなさん、ご機嫌よう』

『待て! シュトローム!! まだ話は終わっていない! おい!!』

別れの挨拶を済ませたシュトロームが、その後オーグの問いかけに答えることはなかった。

正直、最悪の展開だぞ、これ。

できれば、日和見の魔人達とは関わらずに、共存とはいかないまでも不干渉の関係を築きたかった。

それが魔人側からの一方的な宣戦布告と共に、全面戦争に移行することになってしまった。

それが回避できなかったことが痛恨だったのだろう、オーグが険しい顔をして天を仰いでいた。

「オーグ……とりあえず王都に戻ろう。このことを報告しないと……」

「……そうだな……それに、各国にも報告が必要だな……」

この事態を避けたかったオーグは、思惑が外れてしまったことに落胆を隠せていない。

それでも、この場には各国の指揮官たちが集まり、先ほどの推移を全員で見てしまっている。

隠蔽することなどできない。

「早急に首脳会議が必要だ。それに、一ヶ月後に対する備えもな」

さっきまで落ち込んでいたオーグだったが、すぐに気を引き締め直したのか、各国の指揮官達に今後についてどうするかを伝達した。

指揮官達だけでなく、各国の兵士達も驚愕と絶望から皆青い顔をしている。

後一歩で世界に平穏を取り戻せると思っていたところで、一転して滅亡の危機だ。

こんなはずじゃないという思い。

相手が、災害級の魔物と今までより強い魔人。

いくらアルティメット・マジシャンズが人類の枠を逸脱しかけていると言っても、総勢は十二人だ。

数百か数千かの災害級の魔物と、そのアルティメット・マジシャンズですら苦戦した魔人が相手となると……人類の未来に絶望しか感じられないんだろう。

本当に……どうしようか……?

「でも……なんで急にこんな提案をしてきたんでしょう?」

今後のことについて頭を悩ませていると、根本的なところが気になったのか、シシリーがその疑問を口にした。

「私達と彼らから分裂した魔人達が戦っている時でも、全く手を出してこなかったのに……なんで急にこんな……」

シシリーが、そう思わず口にしてしまうほどの急展開だ。

もし最初から世界を滅ぼすつもりなのであれば、世界を征服したがっていたあの魔人達と袂を別つこともなかっただろうし、放置もしなかっただろう。

それが、なぜ急に?

「……人間を辞めた者の考えなどわからんがな……」

しばらく考えた後、オーグがおもむろに口を開いた。

「案外、何か世界に絶望するような出来事でもあったのかもしれんな」

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「ゼスト隊長」

シュトロームが人類に対して宣戦布告をした後、それを聞いていた魔人の一人が、元諜報部隊の隊長であったゼストに声をかけた。

「何だ?」

「は。あの、私達はシュトローム様に魔人にして頂いた、いわば駒ですからその決定には従います。ですが……」

「……なぜ、急にこんなことを言い出したか……か?」

「はい」

シュトロームの宣言は、ゼストのような側近以外の魔人にとっても予想外だったようで、その真意を測れずにいた。

そして思いきってゼストに聞いてみたのだ。

しばらく考えていたゼストは、小さく息を吐き出し、その魔人に答えた。

「シュトローム様がとある実験をしていたのは知っているか?」

「実験……ですか? それは、動物を魔物化し、さらに災害級にまで強制的に至らせるというあの……」

「それも実験なのだがな。そうではない。我々の……今後に関わる実験だ」

その魔人にとって、ゼストの言葉は初耳だった。

シュトロームが、アールスハイドに潜伏していた頃から、生物を強制的に魔物にする実験をしていたのは知っていた。

そしてそれがさらに発展し、災害級にまで強制的に至らせるという実験にシフトしていることも。

しかしこの実験は、特にこれといって今後の展開も目的も持たない、いわばシュトロームの趣味みたいなものであることを、その魔人は知らなかった。

まさか、その裏で別の実験が行われていようとは。

「それで、その実験がどうしたのですか?」

「ああ……その実験の結果がな……」

そこまで言ったゼストは、数日前にシュトロームから聞いた実験の結果について思い出していた。

ミリアからある実験が提案され、それが実行されていた。

そしてついに、その結果が出たと、ゼストはシュトロームから聞かされた。

その実験の内容を知っているゼストは、その実験の成否に今後の魔人の未来がかかっていると知っていた。

なので、緊張した面持ちで、シュトロームの言葉を待った。

「実験は……」

そしてついに、シュトロームの口から、実験の結果が告げられた。

「失敗です」

シュトロームの言葉を聞いたゼストは、呆然としていた。

しばらくそうしていたゼストだが、シュトロームの言葉に込められた意味を理解したゼストは思わず叫んだ。

「それでは! それでは我々魔人の行く末は!!」

「絶望。それしかありませんねえ」

「そ、そんな……」

魔人の未来をかけた実験は失敗に終わった。

その結果を受けて、シュトロームは魔人の未来に絶望しかないと言い切った。

その言葉は、魔人の未来だけでなく、ゼストにも絶望を与えた。

そんな落ち込んでいるゼストに慰めの言葉を掛ける素振りもなく、シュトロームは言葉を続ける。

「この実験が失敗したとなると、我々はなぜ存在しているんですかねえ?」

「なぜ……ですか?」

シュトロームの質問の意味がゼストには分からない。

考え込むゼストに、シュトロームは答えていく。

「この世界にとって、我々は害悪でしかありません」

「そっ! そんなことは!」

ないと、ゼストは否定したかった。

自分達の存在は害悪。

そんな言葉を肯定したくなどなかった。

しかし、今回の実験の結果がシュトロームの言葉を肯定してしまっている。

世界の害悪という言葉を否定しきれないゼストを見ながら、シュトロームは言葉を続ける。

「我々が存在することに意味がない世界。そんなもの、必要ありますか?」

その言葉を聞いたゼストは理解した。

シュトロームは世界を滅ぼす気だ。

自分達の存在を許容しない世界など、存続していても意味がないと判断したのだと。

そうなると、シュトロームが次に取る行動は……。

「世界の征服……いえ……破滅ですか?」

「フフフ、さすがゼスト君。察しがいいですねえ」

そう楽しげに答えるシュトロームを見ながら、ゼストはもう一言、言いかけた言葉を呑み込んだ。

それは……。

(もしくは……ご自身の破滅を……望んでおられるのでしょうか?)