軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かつてないほど怒りました

オーグから魔人と交戦中であるという一報を受けた。

しかも、その魔人達は、今までの魔人とは比べ物にならないほど強いという。

一体何が起こってるんだ!?

「おい! 一体、何がどうなって魔人と戦ってるんだ!? っていうか、今どこにいる!?」

『旧帝都から災害級の魔物が溢れ出てきたのだ! それを討伐していたら、魔人が現れた!』

旧帝都から!?

それじゃあやっぱり!

「くそっ! やっぱりシュトロームは魔物に対する実験を止めてなかったか!」

『っ! そうか! 魔物実験! シュトロームはそのためにアールスハイドに来たのだった! なぜ忘れてしまっていたのだ私は!』

「俺も忘れてた。あの後立て続けに魔人の侵攻やら色々とあったからな。そんなことより、こっちはもう落ち着いたから、そっちに行くぞ! どこに行けばいい!?」

『頼む! アールスハイド軍の駐留地だ! 分かるか!?』

「ああ!」

『なら早めに頼む! 負けはしないだろうが決着がつかん! このままだと兵達にも被害が及ぶかもしれん!』

「おお!」

オーグとの無線通信を切ると、爺さんとエカテリーナさんに向き直った。

「そういう訳で、悪いけどエカテリーナさんの治療はここまでにしていいですか?」

「ええ。ほぼ完治したわ。ありがとう。それより早く現場に向かってちょうだい」

「はい! じゃあじいちゃん、行ってきます!」

「ああ、気をつけての」

二人に声をかけた後、早速ゲートを開こうとするけど、どこが一番近かったっけ?

「うーん……あ! あそこか!」

アールスハイド軍と各国連合軍が合流して戦闘になった場所。

あそこが一番近い。

早速ゲートを繋げると、大急ぎでそのゲートを潜った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「新たな魔人の襲来……ですか……終結宣言は出せそうもありませんわね」

「そうじゃの。それより、今まで大人しくしておった魔人どもが急に動き出したのが気になるのう」

シンが大急ぎでゲートを潜って行った後、残されたエカテリーナとマーリンは神妙な顔で言葉を交わし合った。

終結宣言目前でその目論見が外れたことも当然痛いが、二人はそれ以上に、急に魔人の動きが活発になってきたことを不審に思った。

「シン君の仮説が正しいなら、ダームの使者が私を襲ったのも、魔人化しかけたのも……」

「すべて魔人どもの思惑……ということになるな。一体何を考えておるのじゃ?」

そもそも、魔法使いでさえ強い恨みや憎しみを持ったところで魔人化などしない。

ましてや、ダームの使者は一般人であった。

それが魔人化しかけたということは、十中八九シンの言うように強制的に魔人化させられたのだろう。

そして、時を同じくして起こった災害級の魔物の大量発生と、魔人そのものの出現。

これの意図するところは……。

「そうか。戦力の分断と、脅威の削減か」

「……つまり、シン君をこちらに向かわせておいて、その間にアルティメット・マジシャンズの子達を殺そうとした……ということですか?」

「おそらくそういうことじゃろう。あまりにもタイミングが良すぎる」

「そうですわね……」

自分はシンを釣るための囮。

餌である自分にシンが引っかかってしまったことを、今更ながらに後悔するエカテリーナ。

そもそも、自分が刺されなければこんな事態は招かずに済んだのだ。

「本当に……私達は、あの子達の役に立つどころか、足を引っ張ってばかりですわね……」

イースという国がダームに対する認識から招いた油断と、許した凶行。

その結果が、子供達のピンチというのだから、情けなく、申し訳ないという思いが募る。

「そう悲観せんでもええじゃろ。ひょっとしたら、その驕りすらも計算のうちかもしれんでな」

「……そうでしょうか?」

自己嫌悪に陥るエカテリーナを慰めるマーリンだが、もし本当にイースという国の慢心すらも計算に入れていたとしたらと思うと、背筋に冷たいものが走るのを禁じえなかった。

「ともかく、今はシンが魔人どもを討伐してくれることを祈るしかない」

「そういえば、先生は行かなくてもよろしかったのですか? 魔人との戦闘となれば、昔なら我先に向かっていったでしょう?」

今より若い、と言っても中年期の頃のマーリンを知っているエカテリーナとしては、それが不思議でもあった。

「お前は、ワシを戦闘狂かなんかと勘違いしとりゃせんか?」

「え? 違うのですか?」

心外だとでもいうようなマーリンに対して、何を言っているのですか? という表情のエカテリーナ。

そのエカテリーナの反応に、こめかみに青筋を浮かべながらも、一緒に行かなかった訳を説明した。

「はあ……ワシは足手まといになるじゃろうて」

「先生が足手まとい!?」

エカテリーナは、マーリンの言葉が信じられなかった。

彼女の脳裏には、マーリンの圧倒的な魔法のイメージが色濃く残っている。

アルティメット・マジシャンズの戦闘を直に見たことがないエカテリーナにとって、最強の魔法使いといえば、やはりマーリンが一番に上がってしまう。

「ワシの力は、アウグスト殿下とほぼ一緒といったところじゃな。あの子が苦戦しておるなら、ワシとてそう力にはなれはせんよ」

「でも……先生とアウグスト殿下では、経験値が違うではないですか」

エカテリーナは、どうしてもマーリンが足手まといになるところが想像できない。

そのため、少し食い下がってしまった。

「確かに、シンがおらねばワシが加勢に行ったかもしれんの」

「なら、なぜ?」

自分が足手まといになるなどというのか?

エカテリーナの疑問に、マーリンは簡潔に答えた。

「今回はシンがおる」

祖父である自分が言うのもなんだが、シンは天才だ。

自分が見た力すらも、まだ全力ではないかもしれない。

それを考えると、自分がシンの役に立つとは到底思えなかった。

「あのアルティメット・マジシャンズの序列はな、主席と次席の間に、埋めがたい差があるのじゃ」

「……つまり、次席であるアウグスト殿下と同等とおっしゃる先生とシン君にも、相当な差があると?」

「そういうことじゃな。そんなあの子が出張ったのじゃ。ワシなぞ出る幕ではないな。それに……」

「それに?」

「シンはワシに着いてきてほしいとは言わなんだ。おそらく、カーチェの看病をしてほしいということじゃろうな」

そんなシンの意図までは思い至らなかったエカテリーナは、目を丸くして驚いた。

「そんなに驚くようなことかの?」

「ええ。だって、シン君と私は多少面識はありますけど、そこまで心配してもらうような関係ではないと思いますけど……」

「実はな、カーチェがあの子達の誕生日パーティから帰った後、あのことを話したのじゃ」

話すかどうするか悩んでいたことをマーリンがシンに話していたことに驚くと同時に、ホッとしたエカテリーナ。

だが、それとこれと、どう繋がるのだろうか?

「その話の中でな、カーチェが、ワシらの義娘になるはずじゃったと教えたんじゃ」

「……そうでしたわね……」

過去に存在した、将来を誓い合い、しかし永遠に失ってしまった恋人。

その父であり、本当なら義父となっていたはずのマーリン。

実現しなかったその関係を思い出し、エカテリーナの心は若干沈んだ。

「じゃから、ワシに義娘の看病をさせたかったのじゃろう」

「あ……」

不意にその表情を崩し、エカテリーナの頭を撫でるマーリン。

その姿は、まさしく娘を心配する父親のものであった。

「心配せんでも、シンは魔人を倒して帰ってくる。じゃからカーチェは、早く回復するようにゆっくりと休みなさい」

「……おとうさん……」

実際には義父と義娘にはなれなかった。

だが、心中ではすでに義父と義娘だったのだろう。

十数年振りにその関係に戻ったエカテリーナは、溢れる涙を抑えきれなかった。

「相変わらず泣き虫じゃのう」

「……今のはズルいですわ、先生」

「ほっほ。さあ、シンが言っておったじゃろう。治療は終わっても体調はまだ万全には程遠い。ゆっくり休みなさい」

「しかし……このような事態になっているというのに、私だけ寝ている訳には……」

「なんじゃったら、メリダにも看病に来てもらうか?」

「すぐに寝ますわ! ええ! ですから、師匠には!」

「どんだけメリダを恐れとるんじゃ……」

「師匠以上の恐怖など、私知りませんわ!」

「確かにそうじゃな……」

先ほどの話で言うなら、義母になる予定だったメリダだが、エカテリーナにとっては義母というより恐ろしい師匠なのだろう。

その点でマーリンと共通の認識であったエカテリーナは、マーリンと顔を見合わせてクスクスと笑った。

「師匠のお説教は怖いので大人しくしています。でもこれだけ……」

「ふむ?」

エカテリーナはそう言うと、胸の前で手を組んだ。

「シン君に、神のご加護があらんことを……」

神に届けと言わんばかりに魔力を込めて、エカテリーナは祈った。

その姿は、信者が見れば思わず膝をついて拝んでしまうほど神々しかった。

「本当に効くのかのう? それ」

「先生……そんな身も蓋もないことを言わないでくださいよ……」

だが、無神論者のマーリンにはイマイチ響かなかったようである。

「終わったなら、大人しく寝ておれ。後でメリダも連れてきてやるからの」

「……怒られませんか?」

「大人しく寝ておったらの」

ほっほと笑うマーリンに見守られ、エカテリーナは子供に還ったように安心して眠りについた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

シンとの通信を切ったアウグストはすぐに戦線に復帰した。

「殿下! どうでした!?」

「ああ、連絡がついた。もうすでにこちらに向かっている」

戻ってきたアウグストにトールが話しかける。

アウグストの返答にホッとするが、それを魔人に気取られては逃げられる可能性があるため、すぐにその表情を引き締めた。

「それにしても、この防御魔法の付与。永続的に発動してくれていればいいんですけどね……」

「しょうがないだろう。魔道具である限り『意識して』魔力を流さないと発動しないのだからな」

シンは魔力を纏えば発動すると思っているが、実際はそんなことはない。

もし魔道具が魔力を感知するだけで発動するなら、世の中では魔道具の誤作動による事故が絶え間なく起こってしまう。

魔道具は『意識して』魔道具に魔力を流さないと、その効果を発揮しない。

なら、なぜシンはそんな勘違いをしているのか。

それはやはり、前世の知識がその勘違いを引き起こしている。

シンは魔道具に流す魔力を『電気』と同等に見ている節がある。

電化製品は、電気を通せば使用者の意思に関わらず起動するため、シンもそんな感覚でいたのだ。

だから、この戦闘服を着ている限り、アルティメット・マジシャンズには被害は出ないだろうと、そうも思っている。

だが実際は、攻撃に転じようとすると、どうしても魔道具に魔力を流す意識が絶たれるため防御魔法が途切れてしまう。

魔人達はその隙を巧みに突き攻撃してくる。

そしてアウグスト達は、その魔法を防ぐために攻撃魔法を中断し防御魔法に意識を向ける。

倒されないが倒せない。

今は、そんな膠着状態に陥ってしまっていた。

そんな事態に焦れたのは、魔人達の方である。

魔人達は、脅威となるのはシンのみ。

他は自分たちと同等程度と、そんな認識だったのである。

しかも自分達は元兵士。

まだ学生であるアウグスト達に遅れをとるとは露ほども考えなかった。

それが蓋を開けてみれば厄介極まりない防御魔法が施された魔道具を持っている。

お陰で、一向にダメージを与えることができない。

この状況に焦ってきた魔人達は、あるものに目を付けた。

それを見つけた魔人達は、アウグスト達から距離を取ると、いきなり明後日の方角へ魔法を放った。

「っ!? しまった!!」

その魔法が放たれた方角にいたのは、後方で戦局を見守っていたアールスハイド軍である。

突然、魔人の魔法が向かってきた兵士達は、魔法師団が慌てて防御魔法を展開するが、その防御魔法を突き破り兵士達の間に着弾した。

防御魔法により威力が減衰していたとはいえ魔人の魔法の着弾である。

かなりの負傷者が出ていた。

「くそっ! クロード! すまない! 彼らを頼む!」

「は、はい!」

アルティメット・マジシャンズとして、シシリーも戦闘に参加していたが、負傷者が多数出たことで戦闘参加をやめ、兵士達の元へ駆けつけた。

すると、そこには……。

「お、お姉様!!」

「シシリー……ゴメン、ドジっちゃったわ……」

シシリーが駆けつけた先で見つけたのは、防御魔法を展開してたセシリアが魔人の魔法により負傷した姿であった。

「すぐに治します! だからお姉様、死なないで!」

負傷したセシリアに必死で治癒魔法をかけるシシリー。

身内贔屓……とは言われないほど、セシリアは重傷を負っていた。

四肢欠損はないものの、肌は焼け爛れ、腕も変な方向に曲がっている。

そのまま放っておいたら命はない。

そう思われるほどの負傷だった。

シシリーは、大好きな姉のそんな姿に我を忘れ、必死に治癒魔法を施した。

家族が死にそうなのである、そうなるのも無理からぬことであろう。

だが、そのために、シシリーは周りに目を配ることができていなかった。

「クロードォッ!! 防御しろぉっ!!」

アウグストの叫びでハッとしたシシリーが見たのは、自分達に向けて再度放たれた魔人達の魔法。

先ほど防御魔法を展開した魔法師団員は、セシリアほどの重症ではないにしろ、傷付き倒れてしまっていた。

そしてシシリーは、セシリアに向かって全力で治癒魔法を施している。

つまり、シシリーの周りに防御魔法を展開できるものがいなかったのである。

「あ……」

シシリーは、目の前に迫る魔法をひどくスローモーションで見ていた。

あまりに突然のことで、脳の反応に対して、体が動かなかった。

シシリーの体感で、ゆっくりと迫ってくる魔法を、ただ見つめることしかできなかった。

これはもう間に合わない。

そう感じてしまったシシリーの脳裏によぎるのは、シンのこと。

生まれて初めて恋を知った相手。

そのシンとの日々が急速に思い出されていった。

楽しかったこと、嬉しかったこと、恥ずかしかったこと。

そのことが思い出され、シシリーの目から涙が溢れた。

このままではシンとの永遠の別れが訪れてしまう。

シシリーはそう感じてしまった。

そのことを本能的に拒絶したシシリーは、無意識にその名を呼んだ。

「シン君!!」

シシリーがそう叫んでギュッと目を瞑った後……。

魔人の魔法が着弾した。

ギュッと目を閉じるシシリーだが、魔法が着弾したというのに一向に衝撃が訪れない。

そのことを不思議に思ったシシリーは、恐る恐る目を開けた。

するとそこには。

「あ……あ、あああ」

その目に映ったのは……。

「シシリー、大丈夫か?」

今まさに思い浮かべていた、愛しい人であった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「見えた!」

ゲートを抜けて、飛翔魔法で全力で飛ばしてきた。

この辺りに民家がなかったのが幸いだろう、あれば衝撃波で吹き飛んでいたはずだ。

それほどの高速で飛ばしてきた甲斐があり、早々に戦場に辿り着くことができたのだが、そこで目に入ってきたのは魔人が後方に下がっているアールスハイド軍に向かって魔法を放とうとしているところだった。

くそっ! やっぱり、こっちを狙ってきやがったか!

オーグの話では、双方手詰まりのように感じたから、焦れた魔人が兵士達に矛先を向けるのではないかと危惧していた。

まさにそのことが起こったのだが……。

おい!? その魔法の先にいるはシシリーじゃないか!

そのシシリーは誰かの治癒にかかりきりになって魔法が放たれようとしていることに気づいてない!

くそっ! 間に合えええっ!

さらにスピートアップした俺は、魔力障壁を並列起動し、シシリーと迫り来る魔法の間に立ちふさがった。

その直後に魔力障壁に着弾する魔人の魔法。

着いてから防御魔法を起動してたんじゃ間に合わなかった。

本当にギリギリで間に合った!

「シシリー、大丈夫か?」

魔法を防いだ後、後ろを振り返ってシシリーに声をかけた。

すると、シシリーはしばらく呆然とした後、顔をクシャクシャに歪めて泣き始めた。

「シン君……シン君! シン君! うああああっ! しんくうんっ!!」

ボロボロに泣きながら、俺に抱きついてきた。

「ほら、もう大丈夫だから、俺がいるから」

「お、おねえさまが、ひっ、けがして、うっ、たすけなきゃっておもってえ、ひっ、そしたらまほうが……うぅっ、もうだめだって、うぅうぅ、もう、もうしんくんにあえなくなるとおもってえっ!」

「え?」

お姉様が怪我?

ひょっとしてさっき治療してたのは……。

「なっ!? セシリアさん!?」

「あらぁ、しんくん、みっともないとこ見せちゃったわねえ」

シシリーの治癒魔法はまだかけ始めたところだったのだろう。

あちこち火傷したセシリアさんが、力なく横たわっていた。

「あ、お、おねえさま。おねえさまのちりょうしなっ、いと」

フラフラと俺の胸から離れ、セシリアさんの治療をしようとするシシリー。

でも、今のシシリーの精神状態を考えると、もう少し落ち着いてからにした方がいい。

「シシリー、俺がするよ」

「シンくん……」

俺がセシリアさんに向けて治癒魔法を施す。

火傷だけでなく、腕も折れているので、そちらも同時に治す。

「ふわ……なにこれ?」

見る見るうちに治癒されていく様子を、セシリアさんは目を丸くしてみていた。

やがて治癒が終わると、セシリアさんが体を起こした。

「すごいわね……シシリーの言った通りだわ」

立ち上がったセシリアさんが、自分の体をあちこち触って確かめている。

どうやら、治療は上手くいったらしい。

周りを見渡すが、どうやら今すぐに治療が必要だったのはセシリアさんだけだったみたいだ。

そのことを確認した俺は、いまだに呆然としているシシリーに声をかける。

「シシリー? セシリアさんはもう大丈夫だよ」

「シンくん……」

「だから、もうちょっと落ち着いたら、他の人を治療してあげてくれないか?」

「あ、は、はい!」

「うん。いい子だ」

俺はシシリーをギュッと抱きしめると、背中を撫で、頭をポンポンと叩いた。

「あう……ごめんなさい、取り乱して……」

「いいさ。実のお姉さんが重症だったんだ。仕方ないさ。それより、俺はこれから大事な用事があるから」

そう言いながらシシリーを解放し、魔力を集めながら足を進める。

「俺の大事なシシリーを……そしてシシリーの大事な家族を苦しめた、その仕返しをしなきゃいけないからな!」

俺は今だかつてないほどの怒りを感じていた。