軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

緊急事態発生

エカテリーナ教皇が襲われる数日前。

魔人領にある旧帝都では、シュトロームが諜報部隊の長であるゼストを呼び話をしていた。

「なにやら、色々と動いているようですねえ」

「恐れ入ります。シュトローム様の行動の指針になるようなものが見つかればと、愚行した次第でございます」

「ふむ。そうですか。ですが、それももう終わりにしていいかもしれませんねえ」

「というと?」

「ミリアさんの実験の成果が出ましてね」

「そ、それは……」

それを聞いたゼストは緊張した。

ミリアは、シュトロームの過去の話を聞いた後、ある実験の提案をしていたのだが、その実験の内容が今後の自分達、魔人の行く末を決めるかもしれない、非常に重要なものだったからだ。

実験の第一段階は成功した。

後は、その結果待ちだったのだが、その結果が出たという。

「結果は……」

その続きの言葉を、ゼストは息を呑んで待っていた。

ディセウムから、エカテリーナ教皇が毒を塗った刃物で刺され、毒が治癒できない為シンに救援を求める連絡が入った。

そして、シンがマーリンと共にイースに赴いた頃、シンを送り出したアウグスト達は沈痛な面持ちで顔を見合わせていた。

「シン殿……間に合うでしょうか?」

トールの心配げな台詞が、皆の内心を物語っていた。

「アイツなら……命さえ無事ならなんとかしてしまいそうなのだがな。間に合うかどうかが問題だな……」

ここにいる人間のシンに対する信頼は相当なもので、シンなら死人以外は治癒できるだろうと誰もが信用して疑いもしていなかった。

しかし、死んでしまえばそれまでで、さすがのシンといえども死人を生き返らせることはできない。だから死ぬなよとよく言われていた。

死んでなければなんとかしてやるとも。

それだけの治癒魔法を行使できることを知っているため、生きてさえいればなんとかしてしまうだろう。

ここにいる全員が、敬虔であるかどうかはともかく創神教教徒である。

だからこそ、なんとか命のあるうちに間に合って欲しいと、切に願っていた。

そんな時である。

アウグストの無線通信機のベルが再び鳴り響いた。

「もしもし! シンか!? どうした!?」

さっきゲートでイースに向かったばかりだというのに、もう連絡してきたのかと……最悪の事態を想像してしまったアウグストは、通信機に向かって叫んでしまった。

『悪いなアウグスト。シン君ではない』

「……ああ、父上でしたか。叫んでしまって申し訳ありません」

『いや、よい。エカテリーナの身を案じてのことだろう、気にするな。それよりマズイ事態が起こった!』

大国アールスハイド王国の国王が言うマズイ事態。

その言葉に、アウグストの背筋に寒いものが走る。

「マズイ事態とはなにごとですか!?」

『悪いが、急ぎ最前線に向かってくれ!』

「最前線に?」

『ああ、最前線に……災害級の魔物が現れたのだ!』

「なっ!? 災害級が!?」

魔人の数が減ったことで、比例するように数が減ったと思われていた災害級が現れた。

そのディセウムの言葉に、やはりなにか見落としがあったのではないかと歯ぎしりするアウグスト。

しかし、今現実に災害級が現れている。

見落としを後悔している余裕はなかった。

「分かりました! 至急向かいます!」

『頼む! ゲートで馬車ごと近くまで移動し、そこから全速力で最前線に向かってくれ! マーク=ビーンはそこにいるか!?』

「マーク! 父上がご指名だ!」

「お、俺ッスか!?」

「緊急事態だ! 早くしろ!」

「は、はははい! お、おお代わりしました! マママ、マーク=ビーンであります!」

国王からの名指し、そして王太子の叱責という一般人なら卒倒しそうな状況に、色々と慣れてきていたマークも、噛み噛みの変な言葉遣いで通信機に出た。

『マーク! ビーン工房で馬車そのものの制作はしているか!?』

ディセウムは、ビーン工房が市場の混乱を避けるため、馬車の部品しか製造・販売していないことを知っていた。

しかし、ディセウムにはある確信があった。

「は、はい! ウォルフォード君の依頼で、大き目のものを作成してあります!」

『そうか、やはりな。アールスハイド国王、ディセウムの名において命ずる! その馬車を用いて、アルティメット・マジシャンズを最前線に送り出せ! シン君には私から話しておく! いいな!』

ディセウムは、あのシンがこの技術を使って自分用の馬車を作っていない訳がないと、そう確信していたのだ。

なので、今回の指示にシンの馬車を使おうというのは予め決めていた。

「か、かしこまりました!」

『よし! なら行け!』

「は、はは!」

それだけ言うと、ディセウムからの通信は途切れた。

「で、殿下!」

「父上の声は漏れ聞こえていた! すぐに工房に行くぞ!」

「かしこまりました!」

工房が自宅でもあるマークがゲートを開き、全員で工房に行く。

その工房の中には、完成したばかりの馬車が一台置かれていた。

「父ちゃん!」

「なんだ馬鹿野郎! 工房では親方と呼べと言ってるだろう!」

馬車の側にいた工房主、マークの父を大声で呼ぶ。

「それどころじゃないんだよ! ウォルフォード君の馬車、すぐに出せる!?」

「あ? ああ。もういつでも納車できる状態だぜ」

「陛下からの勅命なんだ! その馬車、使わせてもらうよ!」

「ちょ、勅命!?」

シンからの発注で作っていたビーン工房で最初から最後まで自作した馬車。

他の人に売らずに、自分で使う分には問題ないだろうと、シンが自重せずに色んな機能を満載して自作したものである。

浮遊魔法や、ゲートが使えるシンがなぜ? と言われれば、単純に移動も旅の一部で醍醐味だというこだわり。

そして、最新式という言葉に男は弱いという理由に他ならない。

そんな無自重な馬車を、国王の勅命で使用するという。

その勅命というあまりに重い言葉に、ビーン工房の主、ハロルド=ビーンは驚愕した。

「すまんが説明している暇はない! シンには後で私から事情を話しておく! 馬は!?」

「は、はい! ウチの馬でよければ……」

呆然としているハロルドに、アウグストが馬を用意するように告げる。

この工房には工房で作られた物を納品する為の馬車があり、特別な駿馬という訳ではないが馬もいる。

ちなみにこの馬は、シンの馬車のテストの為に馬車を牽いた馬でもある。

「この際、それで構わない! ありったけの回復用の馬具を付けてくれ! 急げ!」

「は、はは! おい野郎ども! 特急で馬具を取り付けろ!」

『へい!』

急げというアウグストの命令により、工房の職人たちの手で、あっという間に馬具が取り付けられ、出発の準備が整った。

「無理をさせて済まない! マーク、頼む! 全員乗れ! 今すぐ出発するぞ!」

『はい!』

御者台にこの馬車の操縦に慣れているであろうマークを乗せ、全員には客車に乗り込むように指示するアウグスト。

そして、魔人領内で行ったことがあり、方角が分かる最前線。

アールスハイド軍と、各国連合軍が合同で災害級を相手にしていた地点までゲートを開いた。

「マーク、行け!」

「かしこまりました!」

マークは、アウグストの号令で、すぐさま馬車をゲートに向かって走らせた。

突然現れ、あっという間に出て行ったアウグスト達を、ビーン工房の職人達は呆然と見送った。

「アルティメット・マジシャンズが全員出動だと? それもあんなに大急ぎで……一体なにが起こってやがる……」

ハロルドの呟きは、ここに居合わせた者共通の思いであった。

そして、あの無敵集団があそこまで慌てる事態が起こったのかと、途轍もない不安に襲われていた。

ゲートを抜けた馬車は、一路監視網が敷かれている最前線に向けて馬車を走らせていた。

「窓から顔は出さないで下さい! 危ないッスから!」

御者台で馬具に魔力を込めつつ、馬を走らせているマークが、後ろの客車に向かって注意喚起した。

それもそのはずで。

「うわ……これ、本当に馬車?」

「窓の外の景色が……今まで見たことない速さで過ぎ去っていくで御座る……」

「その割には揺れませんねえ……」

「これがシンが開発した馬車……あいつ……またとんでもないものを作りおって……」

この馬車は、以前までとは比べ物にならない程の速度で走っていたからである。

マリアが驚いた声を漏らし、ユリウスは尋常ではない速さで過ぎ去っていく景色に唖然とし、トールはその割には揺れが少ないことに疑問を持つ。

そしてアウグストは、またとんでもないものを作り出したシンに、呆れとも怒りともとれない溜め息を吐いた。

「でも。シン君の作った馬車のおかげで、現場にはすぐに着けそうですね」

シシリーが、婚約者としてシンの立場を擁護する。

そして、それは実際にその通りだった。

「確かに……今回ばかりはシンに救われたかもしれんな……」

「あ、冷蔵庫がある!」

アウグスト達は浮遊魔法が使えない。

そのせいで現場に着くのに時間が掛かる所であったものが、シンの開発した馬車のおかげで現場に向かう時間を短縮できる。

そのことで助かったと思っていたアウグストだが、アリスが発見した冷蔵庫の存在によって、こめかみがピクピクしだした。

「それにこのソファ、フカフカ」

「馬車の中も明るいし、向かっているのが戦場の最前線でなかったら、リゾートに向かう馬車みたいだねえ」

「温度も快適ねぇ。相変わらず、自分のことには自重しないわねぇ」

リンの言う通り、自分も座っているフカフカのソファ。

恐らく魔石を使っているのだろう、トニーの言うように常時点灯しているランプ。

そして、春とはいえまだ肌寒くも感じるこの季節に、快適な温度の室内。これも魔石で温度調整されているに違いない。

一体、どれだけの技術をこの馬車に込めたのか?

売りに出さないとはいえ、よくもここまで自重しないものだと、アウグストは呆れ返った。

「はあ……まあ、現場に着くまでに体力を消耗しない……ということで納得するか」

いつもなら、シンにもっと自重しろと叫ぶところではあるが、今回は大目に見ることにした。

なぜなら、まず緊急事態であること。

この馬車のお蔭で万全の状態で現場に着けそうなこと。

そして……。

「でも、シン君ガッカリしますね。この馬車が出来上がるの楽しみにしてましたから」

シシリーが心配そうにそう言うと、アウグストは苦笑した。

そう、シンが特別に作った馬車を、シンではなく自分達が一番に乗ってしまったという申し訳なさもあり、あまり強く言うのはやめておこうと密かにアウグストは思っていた。

ところで、客室内にいるアウグスト達は体力を消耗しないが、御者台にいるマークはどうなのか?

実は豪華で快適な客室だけでなく、高速で走る御者台にも配慮はなされていた。

自動車と違い、馬車の御者台はむき出しである。

高速で走っていると、相当に強い風を受け続けることになる。

人間の体というのは、強い風が当たり続けると意外なほど体力を消耗する。

そのため、御者台の周りに風の魔法が起動し、御者の体力を消耗しないようにする配慮がなされていた。

当然、これも魔石から魔力が供給される常時展開である。

時速にて六十キロメートル程の速度でずっと走り続ける馬車。

通常、馬は馬車を牽いてこの速度で走れる訳もないが、この馬車にはパワーアシストがついている。

尚且つ、常時体力が回復していく魔道具の馬具を身に付けていることもあり、この世界での常識……というより、シンの前世でも考えられない速度で走り続ける馬車。

その室内では、カーテンによる間仕切りがされて、マーク以外の全員が戦闘服に着替えていた。

そして数十分も走ると、目指す最前線が見えてきた。

「殿下! 見えて来ました!」

「よし! 総員戦闘準備だ! マークは馬車を止めたら着替えて、馬車を異空間収納に収めてから来い!」

「あの、馬は?」

「悪いがそこまで構っていられない! 放逐して、無事なら連れて帰る。逃げたり、戦闘の煽りでダメになってしまった場合は……後で王家が補償するから諦めてくれ!」

「……かしこまりました!」

「……すまんな。お前の家の馬だ。愛着もあるだろうが……」

「いえ。これは緊急事態です。その為の犠牲になったのなら、自分は本望です」

「すまない……お前達も、人間の勝手な都合に突き合わせてスマンな……」

シンの作った馬車は異空間収納に収めることができるが、生物はそうはいかない。

自分の都合で死なせてしまうかもしれない馬に対し、アウグストはマークと、それに馬に向かって謝罪した。

「殿下……もったいのうございます……」

「なに。私達が、この馬達まで被害がいかないように守ってやればいいのだ。それより、着くぞ!」

最前線が目の前に迫って来た。

アウグストの言葉で全員が馬車の中から屋根に上った。

「ジェットブーツ起動! 行くぞ!」

『おお!』

「自分もすぐに行きます!」

マークを除く全員が今まさに『災害級の魔物の群れ』という、またしても前代未聞の相手と交戦している前線の兵士達の下へと、ジェットブーツを利用し文字通り飛んで行った。

そして、馬車を停車させ、客室内で戦闘服に着替えたマークは、馬を馬車から切り離し、馬車を異空間収納に収める。

そして……。

「お前達、生き延びろよ?」

そう言って、馬の尻を叩いた。

その刺激で馬達はこの場から走っていく。

「……後で迎えにくるからな」

マークはそう言って、自分もジェットブーツを起動し戦場へと駈けて行った。

アウグスト達が到着する前の最前線。

その内の、アールスハイド軍が陣を敷いている場所に、物見櫓が設置されていた。

そこから、遠見の魔法が付与された望遠鏡を覗き込んでいる兵士達がいた。

「今日も魔都に異常はなし……と」

魔人領にある魔人達に占拠されている旧帝都。

兵士達の間では『魔都』という呼び方が一般化していた。

この監視網が敷かれている最前線からは、その魔都は肉眼では見えない。

遠見の魔法が付与されている魔道具を使うことでギリギリ見ることができる位置に監視網は敷かれていた。

これが、シュトローム達を刺激せずに監視ができる最善だとの結論がなされ、こうした位置から監視が行われていた。

数日前にこの位置まで進軍し、各国軍と共に連絡を取り合い、ようやく全軍がこの位置に陣を配置することができた。

これで監視網が完成し、後は魔都を監視し、異常があれば通信機で連絡するだけである。

連絡を受けたアルティメット・マジシャンズが急行できるように、後で本人達にここを訪れてもらう必要はあるが、すぐにそんな事態は起こらないだろうという、根拠のない思いが兵士達には蔓延していた。

それも無理のないことかもしれない。

各国を襲撃した魔人達を討伐した後は、災害級の魔物も現れず、実に順調にここまで進軍する事ができた。

最初の緊張感は薄れていき、作戦が順調に進行していくにつれ、兵士達にはこの作戦は問題なく終結できるとの思いを抱くようになっていったのだ。

そんな思いで遠見の魔道具を覗き込んでいた兵士の一人が、あることに気付いた。

「ん? 魔都の城壁の門が開いてる?」

「なに?」

監視を任されている兵士の一人が、魔都を取り囲む城壁の門が開いていることに気付き、漏らした呟きがもう一人の兵士の耳に入った。

異変を聞いた兵士も遠見の魔道具を覗き込み、状況を確認する。

「本当だ……さっきまでは閉まってたよな?」

「ああ。これはどういう……」

そこまで言った兵士は、息を呑んだ。

なぜなら。

門の内側から、魔物の大軍が出てきたからだ。

「ま、ま、魔物の大軍が……」

兵士は目を疑った。

なぜなら、その出てきた魔物というのが……。

「あれ? 俺、目がおかしくなったのかな? 全部災害級くらいの大きさに見えるんだけど……」

「いや……俺の目にもそう見えてる……」

災害級ばかりだったからである。

二人して同じものを見ていると確信した見張りの兵士は、物見櫓の下にいる兵士に向かって叫んだ。

「災害級の魔物が、魔都より多数出現! 至急全軍に伝えろ! 緊急事態だ!!」

その言葉を聞いた物見櫓の下で待機していた兵士は一瞬呆然とするが、ハッと我に返り、通信機の置いてある天蓋に向かって走り出した。

そして、魔都より災害級の魔物が多数出てきたことが、各国に報告され、それがディセウムを経由しアウグストの元に情報がもたらされたのだ。

「くそ! 殿下達はまだここを訪れたことが無いんだぞ! 救援が間に合わない!」

連絡こそしたものの、アールスハイド王都にいるアルティメット・マジシャンズがここに辿り着くまでどれだけの時間がかかるのか。

災害級の魔物も一体ならなんとか討伐できるようになったが、魔都から出てきた災害級の魔物の数は数十はいる。

はっきり言って緊急事態というより異常事態だ。

果たして、この魔物の進軍を食い止めることができるのか。

それよりも生き延びることができるのか。

兵士達は絶望的な思いで臨戦態勢を整え始めた。

そして、緊急事態を報告してから数十分後、魔都からここまで距離があったためにすぐには到着しなかった魔物達がとうとう視界内に入ってきた。

「な、なんだありゃ……」

土の魔法によって築かれた、陣の防壁の前に陣取る兵士達は、見えてきた魔物の群れを見て唖然とした。

そこにいたのは、虎や獅子や熊といった定番の災害級の魔物に加え、滅多に災害級に至らない狼や、先日初めて報告された鹿、その他にも信じられないくらい大きい猪や、サイ、元々大きい象まで災害級化して押し寄せてきた。

「は、はは……なんだこれ……?」

「馬鹿野郎! 呆けてる場合か! 魔法師団! 全力で魔法を撃て! 騎士団は死ぬ気で突撃しろ!」

『ウオオオオオ!』

あまりにも現実感の無い絶望的な光景に、兵士達は半ば自棄気味に声を上げた。

「撃てええ!!」

司令官の号令により、一斉に放たれる魔法師団の魔法。

この半年以上の行軍の間も、魔力制御の訓練を怠らなかった魔法師団の魔法は、以前とは比べ物にならない程、早く、強力な魔法を撃ちだした。

そして、その魔法が魔物の群れに着弾し、派手な爆発が起きる。

しかし、相手は災害級である。

それで仕留められるとは兵士達の誰も思っていない。

「騎士団! ジェットブーツ起動!」

魔法の着弾による煙が晴れてきたきたころ、今度は騎士団が前に出る。

そして。

「突撃いい!!」

騎士団がジェットブーツを起動し、煙が晴れた先にいた魔物達に飛びかかった。

そこには、倒しきれないとはいえ、威力の上がった魔法による先制攻撃でダメージを負った魔物達がおり、その魔物に対して斬りかかった。

「一か所に長居するな! ある程度ダメージを与えたら離脱しろ!」

徹底してヒットアンドアウェイを心がけ、ダメージを与えては離脱し、そこに魔法師団からの魔法が飛んでくるということを繰り返した。

その戦法の成果か、先頭を切って突っ込んできた数体は討伐することができた。

できたのだが……。

「くそったれ! なんて数だ!」

数が尋常ではなかった。

しかも災害級に至り、体躯が巨大化した魔物ばかりである。

倒した巨大な魔物の血肉。

そこに押し寄せるさらに巨大な魔物。

そこはさながら、地獄絵図のようであった。

騎士団と魔法師団の連携により、なんとか戦線を維持していた兵士達であったが、徐々に魔物達に押されていく。

今までほとんどいなかった戦死者が、あっという間に量産されていく。

「くそ! くそ! 後一歩だったのに!」

崩壊していく戦線を悔し気に見つめ、自身の死も覚悟した兵士が思わず叫んだ

なんというタイミングの悪さだろうか。

監視網が完成したとはいえ、ここにアルティメット・マジシャンズがいなければ話にならない。

まさか、その態勢が整う前にこんな事態になるとは夢にも思わなかった。

こうなれば、一体でも多くの魔物を道連れにしないと気が済まない。

そう決死の覚悟をした、その時。

目の前が一瞬真っ白になった。

そして。

巨大な落雷が、轟音と共に魔物達を襲った。

突然のことに視界を奪われた兵士達だが、復活してきた視界で周りを見ると……。

さっきまで自分達に襲い掛かってきていた魔物達が、黒焦げになって倒れている光景を見た。

巨大な落雷。

一撃で災害級の魔物を屠ってしまう威力。

そんな非常識な魔法を放てるのはあの人しかいないと、兵士は期待を込めて後ろを振り返った。

そこにいたのは……。

「兵士達、待たせて済まない! 後は私達に任せろ!」

全身に雷を纏い、防壁の上に立つ、王太子アウグストと、アルティメット・マジシャンズだった。