軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィルヘルムに絶望を与えたい

「……申し訳ございません。この度のことは、全てこの私に責任があります。どうか、罰をお与えください」

深夜に部屋に戻ってくるなり、マーヤは 跪(ひざまず) いてそんなことを口にした。

確かに、アンネを僕達の侍女として推薦したのは、他ならぬマーヤだ。

なら、彼女がここまで責任を感じるのも仕方ないといえば、そうなんだけど……。

でも、それを言うならアンネの登用を認めたのはこの僕だし、責任があるとすればこの僕だ。

だから……マーヤは、何一つ悪くない。

「僕が君に与える罰なんて、何もないよ。それより……君に、つらい思いをさせてしまって、ごめんね」

僕もマーヤの前で負けじと 跪(ひざまず) き、許しを乞う。

こんな結果になることは、最初から分かっていたのに。

それでも僕は、アンネに引導を渡す役目を……マーヤにとって最もつらい役目を、押しつけてしまったのだから。

「本当に、ルドルフ殿下は……っ」

「だから……もし僕を許してくれるなら、立ち上がっていつもの君に戻ってほしい」

深々と頭を下げ、マーヤに懇願すると。

「……ルドルフ殿下がどうしてもとおっしゃるのであれば、仕方ありませんね。私って、すごくご主人様想いの素晴らしい侍女だと思いませんか?」

「あ、あははー……」

立ち上がり、おどけて普段の姿を見せるマーヤ。

そんな彼女に、僕も苦笑した。

だけど、マーヤのアメジストの瞳が濡れていることは、僕だけの秘密だ。

「……ファールクランツ家に連れて帰っており、今頃は尋問を受けているところでしょう」

アンネとの顛末について、マーヤは淡々と報告する。

本当はこんな話したくないだろうけど、それでも、今後の対策を考える上で大切だからね。

「そう……なら、アンネが口を割るのも時間の問題、ということでいいのかな?」

「いえ、そう簡単にはいかないかと。何故かは分かりませんが、アンネはあの男に絶対的な忠誠を誓っておりました。それこそ、大恩あるファールクランツ家を裏切るほどに」

そう言うと、マーヤは唇を噛んだ。

リズが騙され、クリステルがそそのかされたことといい、一体あの男には何があるのだろうか。

僕には、『ヴィルヘルム戦記』の主人公であり英雄が、 あれ(・・) と同一人物だなんてとても思えないし、惹かれる要素も何一つない。

なのに……。

「……とにかく、アンネのことはファールクランツ侯爵にお任せ……」

「ルドルフ殿下。私達諜報員は、全て奥方様の指揮下にあります」

「そ、そうなの?」

「はい」

どうやら、そういうことらしい。

いや、リズの誕生パーティーでお会いした時は、おっとりした様子で、そんなふうには見えないのに……。

「と、とにかく、アンネはファールクランツ夫人に任せるとして、ヴィルヘルムをどうするかだよ。それで、マーヤが監視している限りで、アンネとヴィルヘルムの接触は確認できたかな?」

「はい。昨夜と今朝、それに学園の授業が終了してすぐの三回、あの二人は接触しています。会話の内容から、ルドルフ殿下やリズベット様の動向を報告していたようです」

「そう……」

やはりアンネは、ヴィルヘルム達の間者としての役割を果たしていたということか。

だけど、そのことに早々に気づいてよかったよ。

そのおかげで、まだ僕が派閥を作ったこと、フレドリクとより結束していることを、悟られずに済んだのだから……って。

「……ねえ、マーヤ。今さらこんなことを聞くけど、アンネは諜報員として、その……優秀なんだよね?」

「もちろんです。師匠と私で、直々に鍛えましたので」

「そ、そう……」

マーヤの言葉に、僕は違和感を覚える。

というか、マーヤが認めるほど優秀なアンネが、間者であることを僕ごときに悟られるような失態を、果たしてするだろうか。

ひょっとしたら……。

「マーヤ……絶対に、ヴィルヘルムを絶望に叩き落してやらないと、気が済まないよ」

「私もです。 妹(・) が味わった全ての苦痛を、何倍にもして返してやります」

僕の言葉に、マーヤが力強く頷く。

彼女も、そのことに最初から気づいていたのだろう。

――アンネは、自分がヴィルヘルムの間者であることを、 わざと(・・・) 気づかせるようにしたことを。

「ルドルフ殿下……私、悔しいです……っ」

「うん……」

肩を震わせるマーヤに、僕はただ、静かに頷いた。