軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愚かな第三皇子、悲しみの処罰

「お、俺はオスカル兄上側なのだ! フレドリク兄上と“ 穢(けが) れた豚”の側についている母上の言葉になど、この俺が耳を貸すわけがないだろう!」

「ロビン!」

ロビンの放った最低の言葉に、とうとう堪忍袋の緒が切れたアリシア皇妃が、声を荒げた。

いや、むしろアリシア皇妃は、今まで根気よくロビンに付き合っていたほうだと思うよ。

本当は、ロビンを切り捨てたほうが、遥かに苦労せずに済んだはずなのに。

「あらあら……では、ロビン殿下はここに何のためにおられるのですか? 今のお話ですと、私の愛娘であるシーラに謝罪する意思もない、そのように聞こえますが」

「フン! 当然だ! どうしてこの俺が、たかが田舎貴族の令嬢との婚約を解消した程度で、頭を下げなければいけないのだ!」

鼻を鳴らし、アンデション辺境伯を睨むロビン。

この期に及んでも、まだ自分の置かれている状況を理解できないその姿が、僕の目にはもはや道化師に見えてしまう。

破滅へと向かう、道化師に。

「アリシア妃殿下、これではお話になりません。あれだけシーラを侮辱しただけでは飽き足らず、まさかこのような扱いを受けるとは」

「…………………………」

「どうなさるおつもりですか?」

「待て! この俺を抜きに、勝手に話を……」

「 無能の皇子(・・・・・) 風情が、黙りなさい」

「っ!?」

それまでのおっとりとした様子から一変し、アンデション辺境伯が一喝した。

彼女のあまりのプレッシャーに、ロビンは情けなく尻餅を突いてしまう。

そもそもアンデション辺境伯は、長年ノルディア王国とわたり合ってきた方だ。ロビン ごとき(・・・) が、 敵(かな) うはずがないのに。

「アリシア妃殿下」

「……バルディック帝国第一皇妃、アリシア=フェルスト=バルディックの名において命じます。第三皇子ロビンを、“ナルリク”の塔に無期限幽閉とする」

「「「「「っ!?」」」」」

アリシア皇妃の決定に、ロビンだけでなく僕達も一斉に息を呑んだ。

バルディック帝国最北端にある極寒の地、ナルリク。

罪を負った皇族がたどり着く、 終焉の場所(・・・・・) 。

幽閉された皇族は、その過酷さ故にいずれも心を壊してしまうと伝えられている。

それが、たとえほんの僅かな期間であったとしても。

「このことは私から皇帝陛下にお伝えしますが、ロビンの皇位継承権も剥奪となるでしょう」

「ま、待って……っ」

「連れて行きなさい」

「母上!? 母上……母上ッッッ!」

狼狽(うろた) え、棒立ちになるロビン。

衛兵達はお構いなしに、ロビンを捕えようとして。

「っ! 俺がこんな目に遭ったのは、全て貴様の……“ 穢(けが) れた豚”のせいだ! 豚の分際で 俺の(・・) リズベットを横取りし、母上まで騙しやがって! 貴様は、この俺の足元で這いつくばっているのがお似合いなんだよ!」

勝手なことを 宣(のたま) い、ロビンが拳を振り上げて襲いかかってきた。

だけど。

「ぐへ……っ!?」

「貴様に 貶(けな) される筋合いはない。僕は、ルドルフ=フェルスト=バルディック。世界一大好きなリズに相応しい男になるため、今までのように貴様にただやられるわけにはいかないんだよ」

ロビンの 鳩尾(みぞおち) に拳を叩き込み、耳元で告げる。

そうだ。僕はもう、僕だけのものじゃない。

僕が 貶(けな) され傷つくと、リズが傷つくんだ。傷つけられてしまうんだ。

だから――僕は、 僕自身も(・・・・) 守ると決めたんだ。

「衛兵」

「は、はっ!」

僕に声をかけられ、呆けていた衛兵達は、お腹を押さえて倒れ込むロビンを引きずっていった。

「失礼いたします!」

「嫌だ……嫌だああああああああああああああッッッ!」

部屋から連れ出されたロビンの悲痛な叫びが、 巨蟹(きょかい) 宮の通路にこだまする。

アリシア皇妃は肩を震わせ、血が流れるのもいとわないほど、唇を強く噛みしめていた。

「アンデション卿……これで、許していただけるかしら?」

「え、ええ……」

可愛い実の息子に対する厳しい処分に、さすがのアンデション辺境伯も返事をするのが精一杯だった。

僕だって、アリシア皇妃がまさかここまでするとは思わなかった。

無期限謹慎と皇位継承権の剥奪、ロビンの公の場での謝罪くらいで済ませるものだと考えていたんだけど……。

「それはよかったわ。これからも、帝国を盛り立てていただけると嬉しいわね」

「も、もちろんですわ。このパウラ=アンデション、いつも帝国と共に」

アンデション辺境伯とシーラは 傅(かしず) き、 首(こうべ) を垂れて恭順の意を示す。

望みどおり……いや、望み以上の結果にはなったけど、それ以上にアリシア皇妃の怖さを知ることになったな……。

「ルドルフ殿下、リズベット」

「は、はい」

「はい」

「引き続き、フレドリクの支援をお願いするわね」

アンデション辺境伯達に見せるものとはまた別の、アリシア皇妃の今にも泣きだしそうな表情。

……いや、彼女はもう、泣いているんだ。

「このルドルフ=フェルスト=バルディック、妃殿下にお約束したとおりに」

「リズベット=ファールクランツ、同じく」

僕とリズは、アンデション辺境伯と同じく、その場で 跪(ひざまず) いた。

ああ……帝国の皇妃というのは、ここまで耐え忍ばなければいけないのか……。

国母であるがゆえに、自分の息子を切り捨ててまで。

やはり、僕が目指す先は絶対に皇帝では……ましてや、暴君なんかじゃない。

僕は、ファールクランツ侯爵のようになるんだ。

大好きなリズに、絶対に悲しい思いをさせないために。