軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相思相愛なら、愛称で呼び合うのが普通だよね

リズベットに告白をした日から二か月。

天蝎(てんかつ) 宮にも春が訪れ、庭園にはリズベットの大好きな、ジャスミンの花がちらほらと咲き始めている。

だけど。

「ふふ、今日も陽射しが気持ちいいですね」

僕の目の前でお茶を口に含むリズベットの美しさのほうが、この庭園の全ての花よりも咲き誇っているけどね。

そんなことを思いつつ、僕もカップに口をつけた。

「そういえば、帝立学園の制服の仕立てが終わって届けられていますけど、お二人とも試着なさいますか?」

空いたカップにお茶を注ぎ、マーヤが尋ねると。

「そうですね。ぜひともお願いするわ」

リズベットがチラリ、と僕を見てそう答えた。

ちょっと彼女の鼻息が荒い気がするけど、気にしないでおこう。

だけど。

「ハア……リズベット殿の制服姿は楽しみですが、一か月後に帝立学園で あの連中(・・・・) に会うのかと思うと、苦痛でしかないんですけど」

僕は、力なくテーブルに突っ伏した。

はしたないかもしれないけど、僕の気持ちだって理解してほしい。

だってさあ……帝立学園に入学するということは、同い年のヴィルヘルムや、一学年上のロビンにも会うってことなんだよ?

しかも、帝立学園は寮生活だから、逃げ場がないし。

「……いっそのこと、有事が起こって入学免除とかにならないかなあ」

「ルドルフ殿下、そのようなことをおっしゃらないでください」

リズベットにピシャリ、とたしなめられてしまい、僕はますます落ち込んでしまう。

あ、そういえば。

「ところで……実は、リズベット殿にお願いしたいことがあるんです」

「私にお願い……ですか?」

リズベットが、不思議そうな表情を浮かべた。

まあ、お願いといっても大したことじゃ……いやいや、とても大事なことだとも。

「はい。 あの日(・・・) を経て再び出逢い、こうして婚約者として心を通わせることができて一年以上になります」

「はい」

「なのにリズベット殿は、僕のことを未だに『殿下』という敬称をつけておられます。僕は、それが非常にもどかしいんです」

少々回りくどいけど、何が言いたいかというと。

「帝立学園に入学するこの機会に、僕のことは“ルドルフ”と、呼び捨てにしていただけると、その……嬉しい、です……」

お願いの内容に恥ずかしくなり、僕の声はどんどん尻すぼみになり、最後には消え入りそうになってしまった。

いや、だってこれじゃ僕が、甘えておねだりしているみたいだし。だけど、僕はもっとリズベットとの距離を縮めたいんだよ。

すると。

「あう……わ、私が殿下のことを、そのようにお呼びする、のですか……?」

普段の凛とした様子は鳴りを潜め、リズベットは顔を真っ赤にしてあわあわとする。

でも、何度も僕をチラ見しているところからも、まんざらでもないみたい。よかった、断られずに済みそうだ。

「あ! でしたら、せっかくですのでお二人だけの愛称で呼び合うというのはいかがでしょう!」

よく言ったマーヤ。給金のアップは任せてくれ。

「あうあうあうあう……」

リズベットは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆ってしまった。

でも、こんな彼女も最高に尊い。

「せ、せっかくマーヤが提案してくれたんです。僕達も、期待に応えましょう」

さりげなくマーヤにサムズアップしつつ、僕は思案する。

といっても、リズベットと愛称で呼び合うことを想定して……というか、既に妄想の中ではリズベットのことを愛称で呼んでいたので、それほど違和感はない。口に出すのは恥ずかしいけど。

ということで。

「その……“リズ”、はいかがでしょうか……?」

「あう!?」

そう言った瞬間、リズベット……リズはひと際大きく可愛らしい声を上げた。

くそう、可愛いかよ。

「ほらほら、次はリズベット様の番ですよ?」

「あうう……マーヤ、あなた面白がっていますよね?」

手の隙間からジト目でマーヤを睨むリズベット。

マーヤもマーヤで、ものすごく愉快そうな悪い顔をしていた。だけど、今回はナイスだ。

「リズ……」

「あう……で、では……“ルディ”……様……」

「はう!?」

ルディと呼ばれ、僕も彼女に負けじと叫んでしまった。

この破壊力、シャレにならない。

「リズベット様、殿下は『様』付けも望んでおられないかと」

「お、お願い! これ以上は勘弁してください!」

もう顔どころか、耳や手も真っ赤にさせたリズは、悲鳴に近い声で懇願する。

マーヤ、容赦ないなあ。でも、よく言った。

とはいえ、これ以上を求めるのはさすがに可哀想になってきた。ここまでにしておこう。

「ありがとうございます。では、僕のことはこれからルディでお願いしますね」

「は、はい……ルディ、様……」

「はう!?」

リズベットが消え入りそうな声で告げる愛称に、僕はまたもや奇声を上げてしまった。