軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦い、決着

リズベットに立ち合いを申し出た日から、一週間後の 黄昏(たそがれ) 時。

バルディック帝国内も新年を祝うムードに包まれ、多くの国民が期待に胸を膨らませている……んじゃないかなあ。知らないけど。

そもそも僕、この歳まで皇宮から出たことなんて、ファールクランツ家に行った時くらいしかないからね。

まあ、要は世間知らずなのだ。

ただし、前世ではただの村人だったから、毎年新年になると浮かれに浮かれ、初恋の 女性(ひと) と何とかして一緒に新年を祝おうとしては断られ、打ちひしがれて一人で過ごすのが定番だったなあ……思い出すのはやめよう。

そんなことより、やっぱりこの時間ともなると寒いなあ。

今夜、ひょっとしたら雪が降るかも。

手のひらに息を吐いて温めていると。

「あ……音楽が聞こえる」

どうやら、中央の黄道宮では皇室主催の新年祝賀パーティーが始まったみたいだ。

あははー……ひょっとしたら今頃、使用人達が大慌てで僕のことを探し回っているかもしれないなあ。

まさか第四皇子がパーティーを欠席するなんて、思ってもみないだろうし。

基本的に僕は、パーティーを早々に抜け出すことはあっても、 最初だけは(・・・・・) 必ず出席していたからね。

こんな時しか、母親に会える機会がなかったから。

まあ、前世の記憶を取り戻した今となっては、どうでもいいけど。

そんなことを考え、僕は苦笑する。

その時。

「お待たせいたしました」

「リズベット殿……」

パーティーに出席している子息令嬢とはまるで正反対の、槍を片手に訓練着を着たリズベットが、訓練場に姿を現した。

もちろん、僕と全力で立ち会うために。

「今日お逢いするのは、これが初めてですね」

「そうですね」

そう……今日に限って僕達は、一度も顔を合わせていない。

まあ、立ち合いの緊張感もあるし、このほうがいかにもって感じがしていいよね。

その代わり、少し……いや、かなり寂しい思いはしたけど。

「ふふ……これからルドルフ殿下と立ち合うというのに、どうしても頬が緩んでしまいます」

「それは僕も同じですよ」

僕達は、互いに 相好(そうこう) を崩した。

リズベットも僕と同じ気持ちだったみたいで、本当に嬉しい。

なお、今日の立ち合いにあたり、この訓練場には僕とリズベットの二人しかいない。

ファールクランツ侯爵は今頃祝賀パーティーに出席しているだろうし、マーヤにはリズベットの部屋で待機してもらっている。

今、この場所は、僕とリズベットの二人のためだけにあるんだ。

「……ルドルフ殿下がどのような想いで私との立ち合いを望まれたのか、それは分かりません。ですが、私にも 己の強さ(・・・・) については、譲れない想いがあります」

「うん」

「ですから……この勝負、勝たせていただきます」

リズベットは腰を低く落とし、槍を構えた。

僕だって、強くなることに譲れない想いがある。

未来の暴君である僕の隣にいることで降りかかるであろう火の粉の全てから、世界一大切な君を守り抜くために。

この想いを、貫くために。

だから。

「僕は、君に勝つ! 勝ってみせる!」

僕もまた、木剣の切っ先をリズベットに合わせた。

ファールクランツ侯爵は、百回に一回であれば、リズベットに勝てると言ってくれた。

ならばその一回……今、この時に。

「…………………………」

「…………………………」

リズベットは、険しい表情で僕を見つめているけど、僕もまた、同じ表情をしていると思う。

おそらく……勝負は一瞬でつくと思うから。

後ろ足に重心を乗せ、僕はさらに低く構える。

リズベットの武器は槍だから、リーチの面で僕が圧倒的に不利。

特に僕は身長が一六四センチしかなく、背の高さはリズベットとほぼ同じだ。

なら、剣の間合いに入るためには、槍をかいくぐってリズベットに飛び込むしかない。

そんなことは、彼女も当然分かっている。

だからこそ、ああやって全神経を集中して僕を待ち構えているんだ。

たった一突きで、仕留めるために。

「すう……」

僕は視線をリズベットから一切離さず、息を吸うと。

「はあああああああああああああああああッッッ!」

叫び声とともに、地面を思いきり蹴って全力でリズベットへ飛び込んだ。

「ふっ!」

待っていたとばかりに、リズベットは僕の眉間に照準を合わせ、一息のもと槍が突き出される。

その一連の動作の一つ一つが洗練されており、ただ……美しかった。

だけど。

「っ!」

「っ!?」

僕は身体を半身にし、踏み込んだ二歩目の足でさらに地面を蹴った。

躱(かわ) すことなど考えず、リズベットへの最短距離を目指して。

槍の切っ先が僕の頬をかすめ、焼けるような熱さを覚える。

その時。

「……私の、負けです」

僕の剣の先がリズベットの細く 煽情(せんじょう) 的な喉元の寸前で止まり、彼女は静かに敗北を宣言した。