軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

また明日

「ルドルフ殿下……もう、お帰りになられるのですね……」

僕の手を取り、リズベットが寂しそうな表情を浮かべる。

リズベットの誕生パーティーは無事お開きとなり、既に招待客は帰っている。

ファールクランツ家の人達を除き、残るはこの僕だけだ。

もっと早く帰るつもりだったんだけど、リズベットや彼女の母君であるファールクランツ夫人に引き留められたのだ。

何より、僕がもっとリズベットの 傍(そば) にいたかったから。

だけど、それは仕方ないというものだ。

僕は九年ぶりに あの時(・・・) の女の子と再会でき、積もる話だってたくさんあったんだから。

本当は、もっともっと話し足りないんだけどね。

「リズベット殿、ありがとうございました。僕は今日という日を、一生忘れません」

「私もです。 あの時(・・・) の男の子であるあなた様が、私に気づいてくださったのですから」

「あ、あはは……僕も、君に教えていただいてようやく気づいたんですけどね……」

「ふふ、そうでした」

僕とリズベットは顔を見合わせ、クスリ、と微笑み合う。

こんな時間が、永遠に続けばいいのに……。

「さあ……名残惜しいですが、そろそろ帰ります」

「ルドルフ殿下、お気をつけて……」

馬車に乗り込み、窓から見つめる僕を、リズベットが手を振る。

僕もお返しに手を振ると。

「リズベット殿。明日も 天蝎(てんかつ) 宮で、お待ちしています」

「! は、はい!」

馬車はゆっくりと動き出し、ファールクランツ邸の玄関から遠ざかる。

僕は、いつまでも手を振るリズベットの姿が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けていた。

「ふう……ところで、いつまでそうしているつもりかなあ」

帰宅するなり、目の前で 平伏(ひれふ) すマーヤ。

僕はどうしたものかと、先程から困り果てていた。

「私はリズベット様の命により、ルドルフ殿下を監視しておりました。いくら謝罪しても、許されるものではありません」

マーヤは普段とは違う、抑揚のない声で淡々と告げる。

おそらくは、これがリズベットの侍女兼護衛としての、本来の姿なのだろう。

ハア……本当に、しょうがないなあ……。

「マーヤ」

「っ!? で、殿下!?」

平伏したままのマーヤの前で膝をつき、同じように平伏した。

「君が僕のことを監視してくれたおかげで……僕のたった一つの 宝物(・・) に気づいてくれたおかげで、世界で一番大切な 女性(ひと) に再び巡り合うことができました。本当に、ありがとうございます」

「そ、そんな……殿下、どうかおやめください!」

「ううん、僕は君に感謝してもし足りないんだ。僕がリズベットと出逢えたことで…… あの日(・・・) の女の子だと気づいたことで、どれだけ救われたか。どれだけ幸せだったか」

僕は素直な気持ちを、マーヤに告げる。

マーヤがいなかったら、僕は『ヴィルヘルム戦記』のとおり暴君になって、ヴィルヘルムの嘘によってリズベットとすれ違ったまま、彼女に殺される運命だったかもしれないのだから。

そんな悲しい結末を、迎えてしまったかもしれないのだから。

「だからマーヤ……君さえよければ、これからも僕の専属侍女として、 傍(そば) にいてくれないかな。僕とリズベットをつなげてくれた、君にいてほしいんだ」

「あ……本当に、よろしいのでしょうか……?」

「もちろん。これは、リズベット殿も了承してくれているよ」

そう言って、僕はマーヤの手を取り、ニコリ、と微笑みかけた。

「かしこまりました。このマーヤ=ブラント、全身全霊をもって、ルドルフ殿下とリズベット様にお仕えいたします」

「うん。でも、できれば今までどおりに接してくれると嬉しいかな」

昨日までの気安いマーヤのほうが、僕も落ち着くしね。

今のマーヤ、どちらかというと殺伐とした雰囲気だし。

「分かりました。では、そのようにしますね。ということで……」

「うわわわわ!?」

「早く服をお脱ぎになって、お風呂に入ってください!」

いつものように笑顔を見せるマーヤが、強引に僕の服をはぎ取る。

い、いや、いつもどおりってお願いしたのは僕だけど、もう少し気遣いというか、遠慮というものを考えてほしいなあ……。

彼女にされるがままになりながら、僕は苦笑いを浮かべた。