軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僕を殺す女性は、僕の運命の女性

「……その後、お父様の指示で探しに来た皇宮の使用人に見つかり、私は庭園から連れていかれました。その使用人の姿を見て隠れてしまった、男の子を残して」

待て。

待て、待て、待て。

僕はリズベットとヴィルヘルムの関係について尋ねたはずなのに、なんだよそれ。

目の前の彼女は今から九年後、僕を暗殺するはずなんだ。

それは、歴史がちゃんと証明しているんだ。

だから……決して、 あの日(・・・) の女の子がリズベットであるはずがないんだ。

彼女の言葉を否定したくて、僕はポケットの中の金貨を思いきり握りしめ、何度もかぶりを振る。

でも……本当は、その言葉に 縋(すが) りたくて。

「あの後、お父様にはひどく叱られてしまいました。そして、男の子に差し上げた金貨と同じものを、改めてお父様よりいただきました」

リズベットが、握りしめる手をゆっくりと開く。

そこには、 あの日(・・・) 、たった一人だけ僕を見てくれた女の子がくれた、この手の中にあるものと同じ意匠の金貨があった。

「あ……ああ……っ」

もう、否定しようがない。

僕と同じ金貨を持っていて、 あの日(・・・) の出来事を知っている 女性(ひと) なんて、二人といるはずがないのだから。

「ルドルフ殿下……やっと……お逢い、できました……っ」

「あああ……ああああああああ……っ」

アクアマリンの瞳から涙を 零(こぼ) すリズベットを見つめながら、僕の瞳からも涙が 溢(あふ) れ出す。

つらい時、悲しい時、苦しい時、せつない時、狂いそうになった時、壊れそうになった時。

いつだって救ってくれたのは、たった一つの思い出と、この手の中にある金貨だけだった。

だから僕は、まだ僕でいられたんだ。

「ああああああああああああああ……っ!」

僕は泣いた。声にならない声で、思いきり泣いた。

たとえロビンに殴られたり蹴られたりしても、泣いたりしなかったのに。

家族に、使用人達に、全ての人間に無視され、 疎(うと) まれても、泣いたりしなかったのに。

でも……僕は泣いたんだ。

僕を見てくれた、たった一人の 女性(ひと) に、再び出逢えた喜びで。

「殿下……」

思う存分泣いた僕の涙を、リズベットがハンカチで優しく 拭(ぬぐ) ってくれた。

あ、あはは……自分だって、涙で濡れているくせに……。

「んっ……ありがとうございます。もう、大丈夫ですよ……」

「あ……」

僕もお礼を言いつつ、お返しとばかりに彼女の涙を 拭(ぬぐ) う。

「グス……ありがとうございます」

「そ、その、リズベット殿……これ、見てくれますか……」

これまで誰にも見せたことがないたった一つの宝物……彼女がくれた金貨を、僕はポケットから取り出した。

「はい…… あの日(・・・) あなた様にあげた、私の金貨ですね……」

「ええ……この金貨のおかげで……君との思い出のおかげで、僕は僕でいられました。だから」

僕は 零(こぼ) れそうになる涙をぐっと 堪(こら) え、すう、と息を吸うと。

「僕を救ってくれて、ありがとう。僕を見てくれて、ありがとう」

あの日(・・・) に負けないほどの精一杯の笑顔で、僕はリズベットに感謝の言葉を伝えた。

すると。

「ルドルフ殿下! ルドルフ殿下あ……っ! お逢いしたかった……お逢いしたかった……っ!」

「僕こそ……僕こそです……っ! ずっと僕は……君に逢いたかったんだから……っ!」

胸に飛び込んだリズベットを強く抱きしめ、僕達はまた、涙を 零(こぼ) した。

「あ、あはは……嬉しくて仕方ないんだけど、気持ちの整理が追いつかないや……」

ようやく落ち着きを取り戻した僕は、急にこの状況が照れくさくなって、思わず苦笑した。

でも……この手を放してしまったら、ようやく巡り合えた奇跡が 零(こぼ) れ落ちてしまいそうで、彼女から離れるのを拒んでしまう。

「ふふ……私はこの三か月の間で、心の整理ができましたから……」

「あ……や、やっぱり君は、僕に気づいていたんですね」

「はい。その……怒らないで聞いていただけますか……?」

不安そうな表情を浮かべ、胸の中から僕の顔を 覗(のぞ) き込むリズベット。

そんな彼女の透き通るような瞳を見つめながら、僕はただ 頷(うなず) いた。

「実は……」

リズベットの話によると、どうやら皇宮に忍び込ませている間者に、 あの日(・・・) の男の子……つまり、僕を探させていたらしい。

僕との唯一の接点である、皇宮に手掛かりを求めて。

もちろん、まだ成人を迎えていないリズベットにはスパイを雇うこともできないので、父親……ファールクランツ侯爵の部下に、任務の ついで(・・・) としてお願いするのが精一杯だったそうだ。

だから、まさか僕が あの日(・・・) の男の子だなんて侯爵の部下達は思うはずもなく、手掛かりが一切なかったらしい。

まあ、僕は所詮私生児の第四皇子だし、部下達からすれば完全にノーマークだよね。

これ以上は 埒(らち) が明かないと感じたリズベットは半年前に意を決し、幼い頃から自分に仕えてくれている、信頼のおける侍女兼護衛の、マーヤを皇宮に潜入させ……って!?

「マーヤって、リズベット殿の間者だったんですか!?」

「あう……も、申し訳ありません……」

僕は思わず驚きの声を上げ、リズベットが恐縮して身体を小さくした。