軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

通い妻、リズベット

今日、ロビンの従者二人が処刑された。

罪状はもちろん、第四皇子への暴行だ。

これにより、主人である第三皇子のロビンは管理不行き届きにより一か月の謹慎処分、従者達の実家である貴族家も、もれなく取り潰しとなった。

いくら私生児の出来損ないとはいえ、さすがに顔面を腫らして皇帝に謁見すれば、このような結果になるのは目に見えていた。

そんなことも理解できずに調子に乗ってあんな真似をしたのだから、馬鹿としか言いようがない。

そうではあるんだけど、そんな暴挙すら許されてしまっていたのが、これまでの皇宮であり、僕という人間だったのだ。

だけど、僕だって十年後のその先も生き続けるために必死なんだ。手をこまねいてただやられているだけなんて、絶対に許容できない。

これからも、同じような真似をする者が現れたら、その時は全力で排除するだけだ。

なのに。

「ルドルフ殿下、今日も素晴らしい天気ですね」

「あ、あはは……」

どうして僕は今、自分を暗殺する予定の“氷の令嬢”と、二人で庭園を散歩したりしているんでしょうかね?

というか、僕が生き残るためには元凶であるリズベットから離れるのが最も大事なはずなのに、婚約までして逃げられなくなっちゃっているし。

しかもあれだよ?

僕もリズベットも、ロビンの従者達の処刑に立ち会った帰りに平然としながらこんなことをしているんだから、思わず神経を疑いたくなるんだけど。

だけど、こうして婚約をしてしまった以上、もはや婚約破棄はほぼ不可能だ。

そうなると、僕は暗殺されないように全力で彼女の機嫌を取って、少しでも関係改善に努めるしかない。

恋人同士……いや、友達の関係は無理だとしても、せめてすれ違えば挨拶を交わす程度の仲にまで発展すれば、罪悪感で暗殺をしようなんて考えないと思うから。そうであってください、お願いします。

祈るように頭の中で 反芻(はんすう) しながら、少しでも印象をよくするために微笑んでみせると。

「ところで……お互い十五歳になれば成人を迎えることとなりますが、その……ルドルフ殿下はどうなさるのですか?」

リズベットがアクアマリンの瞳で見つめながら、抑揚のない声で尋ねる。

どうやら、僕の進路を確認したいみたいだ。

バルディック帝国では、皇族や貴族の人間は先々代の皇帝が創設したとされる帝立学園に入学するのが一般的だ。

三人の兄達もこの学院に入学しており、フレドリクは来年卒業、オスカルとロビンは来年も在学していることになる。

ただし、だからといって必ず入学をしないといけないわけじゃない。

例えば、当主が不慮の事故により不在となった時は、学園に通っている暇なんて当然ないわけだし、皇族も喫緊の使命を果たさなければならない時など、特例はあるのだ。

とはいえ。

「もちろん、帝立学園に入学するつもりです。それをしない理由もありませんから」

僕は肩を 竦(すく) め、リズベットに答えた。

さすがに第四皇子の僕が帝立学園に通わないという選択肢は、認められないからね。

「では、来年からずっとご一緒できますね」

前へと向き直り、リズベットは感情のこもっていない言葉を呟く。

でも、何故か僕は気になってしまった。

「……リズベット殿、よろしいのですか?」

「? 何がでしょうか」

「その……僕も噂程度でしか聞いたことはありませんが、君とスヴァリエ公爵家の子息とは、幼い頃から懇意にされていたとか……」

そう……リズベットと英雄ヴィルヘルムは、この段階で既に繋がっているはず。

前世で読んだ『ヴィルヘルム戦記』においても、リズベットとヴィルヘルムが幼い頃に出逢っていて、その時の思い出がきっかけで恋仲になったとの描写が、確かにあったのだから。

僕と婚約を結ぶことも、毎日のように一緒にいることも、彼女にとっては苦痛でしかないはずなんだ。

なのに……リズベットは、どうして今日も僕の隣にいるのか……って!?

「え、ええとー……リズベット、殿……?」

「…………………………」

彼女と始めて面会してからこれまで、こんなにも露骨に顔をしかめ、不機嫌な様子を見せたことがあっただろうか。いや、ないよ。

表情を変えず、冷たい視線を僕に向けることはあっても、こんなに感情を 露(あら) わにするなんて……。

「ひょ、ひょっとして僕は、君を不快にさせてしまうようなことをしてしまったのでしょうか……?」

リズベットが怒っている原因が分からず、僕はおろおろしてしまう。

せっかく少しでもリズベットとの関係改善を図る方向に舵を切ったっていうのに、いきなり台無しじゃないか。

「……いいえ、決してルドルフ殿下が悪いわけではありません。ですが、申し訳ありませんが あの者(・・・) の話だけはご遠慮いただけますでしょうか」

「は、はい……」

え、ええー……リズベットの言っている あの者(・・・) って、ヴィルヘルムということでいいんだよね?

だけど、どうしてこんなにヴィルヘルムの話題を嫌がるんだろう。

あれかな? 今、ヴィルヘルムとは喧嘩をしている最中だったりとか。

あるいは、僕との婚約はヴィルヘルムの策によるもので、最初から暗殺目的だったり……いや、さすがにそれはない。

だって僕、なんの力も後ろ盾もない、しがない第四皇子だし。

ますますリズベットの目的や交友関係が、さっぱり分からないんだけど。

というか、『ヴィルヘルム戦記』ではヴィルヘルムに次いでリズベットのことが記されていたけど、こんな展開は異常すぎる。

これって、僕がタッペル夫人達の横領を暴いたり、皇帝に婚約を願ってみたりしたから、歴史が変わってきている……?

……いやいや、さすがにそう考えるのはまだ早いだろう。

ほんの少しイレギュラーなことをしただけであって、歴史そのものに影響を与えるほどではないと思うから。

結局、僕は不思議に思いつつ、この日はご機嫌斜めのリズベットの機嫌取りに終始した。