作品タイトル不明
愚かな兄を持つ僕は不幸だ
「ハア……気が重いなあ……」
リズベットの面会の日から一週間が経過し、僕は足を引きずるようにしながら皇帝の私室へと向かっている。
もちろん、リズベットとの婚約が成立したことを報告するためだ。
いや、皇帝だって自分がリズベットとの婚約の段取りをしたのだから、結果くらい知っているだろうに、なんでわざわざ報告しなきゃいけないんだ。
……なんて、ぼやきたいところだけど、僕が婚約をお願いした以上、そのお礼も兼ねて報告をするのが筋というものか。
僕は色々と諦めつつ、お供……というか、マーヤも連れずに通路の角を曲がろうとすると。
――ドンッ。
「わっ!?」
誰かとぶつかってしまい、僕は尻餅をついてしまった。
よそ見していた僕も悪いけど、一体誰だよ……って。
「フン……まさか、“ 穢(けが) れた豚”だったとはな」
あーもう。絶対に今日の僕、ついてないよ……。
よりによって、第三皇子のロビンだなんて。
「ロビン兄上、ご機嫌麗しゅう……っ!?」
立ち上がってお辞儀をする僕の横腹に、衝撃が走る。
どうやら、二人いるロビンの従者のうちの一人が、蹴りを入れたみたいだ。
ハア……毒を盛られてから初めて顔を合わせたというのに、早速これか。
というか、部下の 躾(しつけ) がなってないんじゃないかな。仮にも僕、第四皇子だよ?
まあいいや。
これまでのようにはいかないこと教えてやるためにも、ちょっとだけやり返してやろう。
「……これはどういうつもりですか?」
「どういうつもり? フフン。どうやら毒のせいで、ますます家畜なみの知能になったみたいだな。なあ、そう思わないか?」
僕が睨みつけてやると、ロビンは鼻を鳴らして取り巻きの従者二人に同意を求める。
従者達も、薄ら笑いを浮かべながら『そのとおりです、殿下』だの、『ご慧眼、おみそれいたします』だの、ひたすらおべっかを使っていた。
この従者の振る舞い、いくら皇宮内での処世術とはいえ、あまりにも恥ずかしいな。
少なくとも、ここまで卑屈になるほど持ち上げたところで、ロビンに 未来(・・) なんて(・・・) ないのに(・・・・) 。
どういうことかって?
実は、歴史上では僕が暗殺することにはなっているものの、ロビンってその前に失脚するんだよね。
今から三年後、皇帝の命によって大軍を引き連れ、意気揚々と北部の異民族鎮圧に向かったものの、逆に返り討ちに遭って大敗を喫し、部下や兵士を見捨てて命からがら逃げ帰ったんだ。
それにより、ロビンの皇位継承権ははく奪。身分もお情けで伯爵位をもらって、へき地へ追いやられた。
とはいえ、いつか皇室の血を利用しようと考える輩がいるかもしれないので、将来の憂いを絶つために落ちぶれたロビンを暗殺したというわけだ。
「貴様、豚の分際でロビン殿下へのその態度、言語道断! 殿下に代わり、この俺が 躾(しつ) けてくれる!」
「がっ!? ぐう……っ」
ロビン達よりも体格の良い従者が、ますます調子に乗って僕を殴る蹴るの暴行を加える。
いやいや、僕は皇子でここ皇宮だよ? こんな問題を起こしたら、極刑に……は、ならないんだよなあ……。
それくらい、僕は皇宮内で無視され続けてきたし、誰一人としてコイツ等の所業を報告する奴もいない。
だから、僕自身が皇帝に訴えるしかないんだけど……はは、本当に馬鹿だよね。
そんなことだから、近い将来痛い目に遭うんだよ。
「いてて……いや、派手に殴ってくれたね。おかげで僕の顔、あざだらけだと思うんだけど……」
「フン、少しは見れる顔になったんじゃないか? そう思いますよね、ロビン殿下」
「ハハハ、まあな」
そうかー、僕の顔、見れるようになったかー。
僕は、もうオマエの顔を二度と見ることはないだろうけど。
「じゃあ用件は済みましたね。ですが……あーあ、皇帝陛下の面会に遅れた理由、ちゃんと説明しないと」
「「「っ!?」」」
もう遅いよ。
僕ははっきりと告げ口するよ? ロビンの従者が僕に暴行を加えたせいで、面会の時間に遅れてしまったことを。
その証拠は、この顔にしっかりと刻まれているしね。
「ま、待て! 貴様、このことを 父上(・・) に言えばどうなるか……!」
「どうなるかは、陛下にお伝えしてから考えますよ。あ、このまま僕を引き留めたり 攫(さら) おうとしても無駄ですよ? ほら」
僕が通路の先を指し示すと、初老の使用人……皇帝の 傍(そば) に仕える侍従長が、こちらに向かってきていた。
まあ、これくらい遅れていれば、様子を見にくるよね。
「ルドルフ殿下……?」
「申し訳ありません。ロビン兄上の従者に暴行を受け、お約束の時間に遅れてしまいました」
僕は侍従長に深々と頭を下げる。
でも僕の口元は、それはもう三日月のように吊り上がっているに違いない。
「……皇帝陛下がお待ちです。急ぎ向かいましょう」
「はい」
「「「…………………………」」」
顔を真っ青にしたロビンと従者達を置き去りにし、僕は侍従長の後に続いて皇帝の待つ部屋へと向かった。