軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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舞踏会から数日後。

学園の高位貴族たちが使う談話室の個室にて。

その扉の前には、そして扉の内側にも、王家と公爵家の護衛が仲良く立っていた。

もう既に長い付き合いだ。今後ともよろしく、と。

何せ互いの主は――互いに想い合っている。

一時ながれた王太子と男爵令嬢との噂は、まったくの誤解であると、この護衛たちこそが一番理解していた。

何故ならば。

個室の中のやりとりは……――。

「花をー、もっと花をー、花の妖精みたいなー……いや、エステルはすでに妖精を超える? 超えてない?」

「へぇ、エステル様の賛美には私も同意。小花散らしっす? それとも大輪の薔薇のような? ドレスの型は決まりましたから」

「んんん、どっちも捨てがたい……悩む……」

「ほな、次までに考えといたってください。今はこないだ決めたこれ、やっぱり襟元はもっと楽にしましょうや!」

「駄目、露出、ダメ!」

「露出言うなや! このままだと通気性が……熱中症が心配で……」

「あ、それなら開けて。エステルの体調、一番、優先」

侍女科目を取っていて、そちらで優秀生のスピカは決してマナーが悪いわけではないが。

ことデザインに対しては、それはそれ。

口調が訛るのは本気な証。

王太子殿下もスピカがデザインに真面目に取り組んでいるとわかってくださっているから許している。むしろ自分の婚約者への愛をどれほど叫んでも引かず、それをドレスに注入しようとしてくれるありがたい存在。

今でこそ、こうして王太子など高位貴族が使える個室の談話室にスピカが出入りすることを咎めるものはいないが、入学してすぐの頃は――王太子に気に入られてからは。

たかが男爵令嬢が生意気だ。

そうしたいじめや嫌がらせがあった。

スケッチブックやペンを捨てられたり、落書きされたり、授業でペアになってもらえなかったり。

いや、どのようにして王太子殿下に取り入ったのかと。それをやっかむ者たちもいたのだ。スピカを押しのければ、彼女のかわりに――エステル嬢の位置も、もしや……と。

けれども――哀しいが前世でもそうしたいじめを経験していた、スピカだ。子供のころは親や姉に心配かけたくなくて……と。しちゃいけない我慢をしてしまっていた。

社会人になって、精神もゆとりができたから、こう思えるのかもしれない。

だから、対処をした。

アルフレッド王太子に、素直にチクった――報告した、のだ。

先生に相談してどうにもならなかったら、さらに 上の存在(・・・・) に相談したら良いのである。

そして自分も口出ししている大事なデザイン画にいたずらされたアルフレッド王太子殿下は、こちらも素直に腹を立てた。

王太子殿下はきちんと許可証を出して、スピカを高位貴族の談話室に呼び出している。

正式に、だ。

それを。

ゲスな勘繰りで。

まずスピカを下位貴族と侮り、高位貴族たちを擁護した先生たちを。そしてもちろんその生徒たちを。

これは虎の威を借る狐と見る人は見るだろうが、こうした報連相は大切なことだ。スピカの持ち物に被害も出ていたのだから。

それらはイベントであったのかなと、今更にちょっとだけ思うスピカだ。

リーシャという友人ができたことは、イレギュラーでもありがたいことで。

そうしたことを。

スピカが王太子殿下や、その婚約者のアスター公爵令嬢と親しくしているのは、一学年ではそれなりに広まっていたのに。

兄と、レティシアは知らなかった。

友人少ない彼らは、下級生たちの噂とはいえ、誰にも教えてもらえなかったのだ。

いや――何人かは始まりのころに「君の妹さん、大丈夫かい?」と忠告してくれていた。

いじめに遭っていることや――男爵家なのに、王太子殿下たちとお付き合いって大丈夫? と。むしろ無理してないかい、と……良心から心配して。良い人だっていた。

ファビアンは、それを気に留めなかった。

妹であるのに。

スピカがいじめに遭っていたことを良い気味だとも思っていた節がある。

「何であんなにすぐわかる嘘、ついたんだろう……」

談話室にはリーシャも。友人になってからは一人では入り辛いスピカの付き添いで来てくれるようになったのだ。

伯爵令嬢である彼女が友人になってくれたことでいじめも減ったし――相談に乗ったりするようになって、クラスにまた、友人もできた。

作業の合間に、スピカも兄を思い出してため息をついた。

「たぶん……たぶんだけどさ、私がずっと、自分の下、これからもずっとお兄さんを優先する、とか? 思っていたんじゃない?」

これからも、ずっと。

兄を優先して。

マーロウ家では確かに、そう過ごしてきた。

「だから、これからもずっと、何も考えないで自分たちの命令をきくと思ったんだよ」

まるで――奴隷のように。

これからもスピカの手柄を譲れ、と。

ああして公にしてしまえば、いじめられているような弱い妹は、これからも自分に従うだろう。

そんな思惑があったのだろう。

生前のいじめっ子たちがそうだった。

就職してしばらくしてからだった。

たまたま親しくなった受付さんの雑用を手伝っていたとき、取引先から営業として同級生が――かつてのいじめっ子が訪れたことがあった。

同級生はスピカのことに気がつくと、学生時代の上下関係も思い出したのか。

スピカが使っていたボールペンがアニメキャラだったことをまた馬鹿にし、さらに横柄に「さっさと早く取り次げ」と命令したのだ。彼女が受け付けではなく、たまたま受け付けの場所にいて、たまたま雑用を手伝っていただけと知らないで。

それにスピカが呆気に取られて――過去のトラウマで固まっている間に、受付さんが動いた。

同級生をさっさと上に――しかも社長室に通した。

「オタクで悪かったね?」

ビックスケールのプラモデルが鎮座し、往年のアニメ映画ポスターが額装されている、社長室に。

その取引がどうなったかは、一社員でしかないスピカにはわからなかったが、その同級生が営業に来ることはなくなった。

社長に、好きなことを恥じることはないし、人を馬鹿にするような相手は気にしては駄目だと、むしろ優しく叱られた。ちゃんと周りに報連相して良いのだと。

そうして姉に、改めて話すこともできた。姉に泣きながら抱きしめられ、チョコレートを食べた。

そうしたことにより、社会人になってスピカの前世は――救われた。

同好の士の、良い人たちに恵まれたから。

そして今生は、生まれたときからオタクで良かったと思うのであった。

まぁ、その会社がオタクに優しく、イベントに出やすかったおかげで――早死にしたのは、本当に駄目だった落ちがつくスピカであるが。