軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27:シャルロッテとキラキラしたネックレス

初日にテオドールとフレデリカに連れてきて貰ってからも、シャルロッテは毎日市街地に出かけていた。

二日目はテオドールと、用事があるためフレデリカが来られず代わりにジョシュアが来てくれた。その翌日はライアンと。翌々日はフレデリカと、そして話に来ていたレスカも一緒に行ってくれた。

人込みが苦手なハンクや、騎士隊の仕事があるグレイヴも時間をつくって連れ出してくれる。

家族の誰もが、それどころか家族の予定がつかなかった時は屋敷の使用人が、中には休日を返上してまでシャルロッテを市街地のお祭りに連れ出してくれていた。

美味しい食べ物。とりわけ好きなのはふわふわのコットンキャンディ。

面白いものがいっぱいで、何度来てもワクワクする。

そして何よりシャルロッテの胸をときめかせるのが、あの雑貨屋のネックレスだ。

通り掛かりにチラチラと見たり、フレデリカやレスカが足を止めると背伸びをして店先に並ぶネックレスを眺めていた。

薄紫色の石、それを囲む金の石座。なんて素敵なのだろうか。

可愛らしい兎のネックレスや猫のブローチもシャルロッテには素敵に見えたが、このネックレスはやはり特別だ。

だから毎日見に行きたい。

明日も……、

「……もうないの?」

きょとんとシャルロッテが目を丸くさせたのは夕食の後。紅茶を飲みつつの家族団欒の一時。

今日の市街地での話を終えて、「あしたも」と話したところ、フレデリカが教えてくれたのだ。

市街地のお祭りは今日の昼過ぎまで。

今頃はもう撤収作業も終えて、早い店は次の目的地へと向かっているだろう……と。

「掲示はあったけど、『最終日』の意味が分からなかったのね。市街地のお祭りは今日で終わりだったの」

「あしたはもうなくて、お店もなくなっちゃうの?」

「そうよ。でも似たお祭りは定期的に行われるし、コットンキャンディも売っているお店が分かったからいつでも食べられるわ」

だから大丈夫だとフレデリカが微笑む。

曰く、シャルロッテが気に入ったコットンキャンディの店は、馬車で少し走ったところの町に常設店を設けているらしい。

いつだって買いに行ける、使用人に頼んで買ってきてもらってもいい。そう説明され、シャルロッテはコクリと頷いた。……心ここにあらずで。

確かにコットンキャンディはとても美味しかった。

また食べられるのは嬉しい。

……でも、

「あ、あのね、お母様がネックレスかったおみせは、どこかにありますか?」

「ネックレス?」

「はい。さいしょの日に、ネックレスかったおみせ。お父様がだっこしてくれて、それで、お母様がおみせのひとと話してて……」

「どこのお店だったかしら……。いっぱい買ったからよく覚えてないけど、そのお店に欲しいものがあったの?」

問われ、シャルロッテは言葉を詰まらせてしまった。

欲しかった。そう言いかけるも、箱に書かれた数字が頭の中に蘇る。まだ幼いシャルロッテでは数え切れないほどの数字。

幾つも並ぶ数字はそれだけで高額だと分かってしまう。

「……ちがうの、あのね、えっと、やさしいお姉さんだったから、どこにいっちゃったのかなって。また会えるかなって思ったんです」

「そう……。ねぇシャルロッテ、無理をしなくていいのよ?」

シャルロッテの異変に気付き、優しい声でフレデリカが尋ねてくる。

テオドールや兄達も案じるように見つめてくる。

その視線にシャルロッテはどうして良いのか分からず、「ロッティ、ねむくなっちゃった」と誤魔化して席を立った。

「あ、あのね、お祭りのことは、またあしたお話します。だから、その、おやすみなさい」

就寝の挨拶と共にペコと頭を下げ、シャルロッテはリシェルを連れてすぐさま自室へと向かってしまった。

部屋の中がシンと静まる。

シャルロッテが居なくなった部屋の中、残された家族はどうしたものかと顔を見合わせた。

◆◆◆

お祭りに行っている期間中、シャルロッテの寝つきは普段以上に良かった。

日中は市街地に出てお店を見て回り、帰ってきてからもその興奮は冷めない。もちろん勉強やマナーの練習も行っていたが、休憩時間には家庭教師に「あのね、今日はね兎さんがいてね」「トットンキャンディがね」と話していた。

夜の散歩は風船を手に屋敷を歩き、庭に出る時は使用人に預かってもらう。また屋敷に戻ると風船を手にして部屋まで戻り……、といつも以上に散歩を楽しみ、時折はふわふわと揺れる風船を突っついて遊んだ。

そんな一日を過ごせば当然、夜はぐっすりと眠れる。

また明日になったら市街地に行き、素敵な物を見て回り、あのネックレスを見るために眠るのだ。

だけど……。

「シャルロッテ様、眠れないんですか?」

部屋に入ってきたリシェルに問われ、布団の中でもぞもぞと動いていたシャルロッテは「ん……」とか細い声で答えた。

夕食後に就寝の準備をして、リシェルに絵本を読んでもらい、眠れた。……と思ったが、起きてしまったのだ。窓の外は真っ暗で、まだ夜中だと分かる。

そもそも最初の段階でうまく眠れていなかった。普段なら絵本一冊読み終えるか否かのタイミングで眠れるのに、今夜は三冊目の半ばでようやくだ。その後も何度かふと目を覚ましてはまた寝てを繰り返し、ついに眠れなくなってしまった。

眠いのに頭の中が落ち着かない。

色々なことが浮かんでくるが、眠くてよく考えられない。それがずっと続く。

「お祭りが終わってしまったのが悲しいんですか?」

「わかんない……、けど、あした、もうないって……、考えたら……。なんだか頭のなかがぐるぐるして……」

「楽しいことがずっと続くと思っていたのに、終わってしまって寂しくなってしまったのかもしれませんね。でもお祭りは他にもありますし、楽しいことも他にもいっぱいありますよ」

「で、でも、あのネックレス……、キラキラのは……、もうないから……」

「ネックレス?」

ネックレスとは? とリシェルに尋ねられ、シャルロッテはあのネックレスのことを伝えようと必死に言葉を探した。

薄紫色の石とそれを囲う金色の石座。見た事のないデザインで、綺麗なものがたくさん並ぶ店先でとりわけキラキラと輝いて見えた。

あの素敵なネックレス。毎日見ていたかった。

だがそれを伝えようとするも上手く言葉が出ず、「キラキラしてて」「明日も見たくて」と話がぶつ切りになってしまう。

それでもリシェルは一つ一つ丁寧に聞いてくれた。優しい声。その声がシャルロッテの胸の中で押さえ込んでいた感情を徐々に外に導こうとしている。

キラキラして、綺麗で、毎日見ていたかった。

あのネックレスが……、

「ロッティね、あ、あのネックレスが、ほ、ほしかったの……!」

『欲しかった』と、ようやく口にすると、元より涙ぐんで潤んでいたシャルロッテの目からポロポロと大粒の涙が溢れ出した。

一度口にすると止まらず、「あのネックレスが欲しかったの」と何度も訴える。

「で、でも、数字がいっぱいで、おかねがいっぱいいるの、わかったから……。ロッティ、おうちにきて、いっぱいもらったのに……、ほしいって言ったらダメだって……」

「シャルロッテ様……、それで言えなかったんですね」

「だから、あしたも、ずっと見て、て、それでいいって……」

ブルーローゼス家に来て色々なものを貰った。洋服、靴、鞄、髪飾り、玩具、絵本、自分用の椅子に食器に……、あげたらきりがない。

元々自分が持っていたのはロミーだけだったのに、今は周りに素敵なものがたくさん溢れている。

なのに更に高いネックレスを望むなんて駄目だ。そう考えて言い出せなかった。だけど口に出してしまったらもう止まらない。

泣きながらシャルロッテが訴えれば、リシェルが強く抱きしめてくれた。

「旦那様と奥様にお話しましょう」

「でもっ、お、お父様と、お母様に、わがままな子だって、思われたくない」

「大丈夫ですよ。旦那様と奥様はそんな事を思う方ではありません。さぁ行きましょう」

大丈夫、とリシェルが念を押してくる。柔らかなハンカチでシャルロッテの頬や目を優しく拭いながら。

そんな彼女の優しさに促され、シャルロッテは掠れた声で返事をするとコクリと頷いた。

◆◆◆

テオドールの執務室。

シャルロッテはフレデリカと共にソファに座り、彼女に抱き着きながらグスグスと泣いていた。

フレデリカが優しく宥めてくれる。だがそれに答えようとすると余計に頭の中がぐるぐると渦巻き、「ごめんなさい」と「欲しかったの」をしきりに口にして、時にはわぁと声をあげて泣いてしまった。

これでは両親を困らせてしまうと思っても止まらない。思うと余計に涙が出てくる。

「それで様子がおかしかったのか……。もっと気にかけてやれば良かった」

とは、テオドールの言葉。

シャルロッテには聞かれないようソファから離れた場所で溜息を吐く。後悔の言葉は彼らしくない。

それを聞いたリシェルが労わるような表情を浮かべ、次いでシャルロッテへと視線をやった。母に抱かれ、顔を埋めるようにしてぐずるシャルロッテの姿のなんと痛々しいことか。時折はわぁと声をあげて泣き、かと思えば泣きながら喋り、様子が安定していない。

「以前にレスカが、『シャルロッテは物を欲しがらない』と言っていた。友人の私物を褒めたり店で興味のある物を見ても、『素敵だった』と話すだけで終わると。あの年代の子供なら目につくものなんでも欲しがってもおかしくないのに」

「確かに、私も殆ど聞いたことがありません。時々『また食べたい』『また遊びたい』というぐらいで、それも長引くことはありませんし……」

「レスカが言うには、シャルロッテの中にまだ『欲しい』という明確な物欲が芽生え切っていない可能性があるらしい。だから強請るほどじゃなく簡単に話して終わらせてしまう、と。それがここで強く出たのかもしれないな」

シャルロッテを見つめ、テオドールが目を細めた。愛娘が悲しむ様は見ていると胸が痛くなる。理由が理由なだけになおさら。

だがここで悲しんでいては話は進まないと切り替え、すぐさまリシェルに向き直ると「息子達を呼んでくれ」と指示を出した。

時刻は既に夜遅く、日付が変わろうとしている時間。夜間に作業をするハンク以外は寝ている可能性が高い。

それをリシェルが案じるも、テオドールはそれでもと起こして呼ぶように伝えた。

「家族の問題は家族全員で解決するべきだ」

その言葉にリシェルが恭しく頭を下げ、急ぎ部屋を出て行った。