軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20:叔父様と叔母様と従兄弟と……

ブルーローゼス家とラングリッジ家の付き合いは長い。

爵位の差こそあれども昔から懇意にしており、両家の子息令嬢が恋仲になり結婚したことにより正式な親族となった。

フレデリカの妹であるブルーローゼス家三女ソフィアがラングリッジ家長男フレッドと結婚したのだ。

二人の間には息子と娘が一人ずつ。息子の名はカルヴィン、娘の名はレスカ。ブルーローゼス家の四人の息子達の従兄弟にあたり、幼少時から交流している。

ありふれた関係だ。家と家が繋がり、子供達が親族として交流する。貴族でなくとも行われていること。

……なのだが、まだ五歳で、そのうえ助け出されるまで馬車の荷台という狭すぎる世界しか知らなかったシャルロッテにとってはなかなか難しい話である。

「ロッティとレスカせんせはいとと。レスカせんせのお兄様とロッティもいとと。レスカせんせのお母様は、ロッティのお母様の妹。ロッティのおじい様とおばあ様はロッティのお母様のお父様とお母様で、レスカせんせのお母様の……、お父様とお母様?」

ん? と首を傾げながらシャルロッテが話せば、聞いていたテオドールが正解だと教えてくれた。

場所はブルーローゼス家の屋敷、玄関ホール。

全員が待ち構えてもとなり、ラングリッジ家の出迎えはテオドールとフレデリカ、そして初対面のシャルロッテだけになった。

「偉いなシャルロッテ。ちゃんと勉強したんだな」

「はい! レスカせんせが紙にかいてくれました。レスカせんせね、すごくおえかきがうまくてね」

見て! とポシェットからいそいそと一枚の画用紙を取り出した。

そこにはブルーローゼス家とラングリッジ家の家系図が描かれている。といってもきちんとしたものではなく、三代までしか描いておらず、それも一人一人似顔絵つきの可愛らしい家系図だ。

優しく笑う祖父母、その下には美しく微笑むフレデリカと、キリリとした顔付きのテオドール。二人は一本の線で結ばれており、同じようにフレデリカの妹と夫も線で結ばれている。

そして二組の夫婦から下に伸びた線で繋がる子供達。

もちろんシャルロッテも描かれている。ニコニコと笑っており、頭にはお花の飾り付き。

デフォルメされたシンプルな描き方だがどれも特徴を捉えている。画用紙を覗き込んだテオドールが感心したように「ほぉ」と感嘆の声を漏らした。

「凄いな。誰を描いたかしっかりと分かる。医者じゃなくて似顔絵屋でも食べていけそうだ」

「あのね、レスカせんせね、ロッティの隣にロミーもかいてくれたんです。ほら、ここ!」

シャルロッテが興奮気味に自分の顔の隣を指差した。二回りほど小さく描かれた顔、シャルロッテや家族達の似顔絵よりも更にシンプルだが、シャルロッテとお揃いの花飾りをつけた愛らしい笑顔だ。

それを見たテオドールがふっと表情を和らげた。「可愛いな」という言葉は穏やかで優しい。

「ロッティね、レスカせんせのお母様とお父様と、お兄様に会えるの、たのしみにしてたんです。それで、まちがえないようにってなんどもこれ見ておぼえました」

嬉しそうにシャルロッテが話せば、テオドールが「良い子だ」と頭を撫でながら褒めてくれた。

ラングリッジ家との顔合わせが決まったの十日ほど前。

今のシャルロッテに会わせて平気かは家族で――さすがに当人であるシャルロッテは抜きだが――話し合って決めた。

何かあれば余計に傷付くのではという不安は確かにある。だがそれと同じくらい、シャルロッテの世界が広がれば少しは気分が晴れるのではという思いもあった。

そして何より今回の件を前向きに検討させたのが、グレイヴが馬に乗せたこととライアンが買ってきた口紅のおかげでシャルロッテの容態が少しだけ収まりつつあることだ。

まだ馬車には乗れないが、夜泣きや寝ぐずりは頻度が減ってきた。少しの間なら一人で部屋で絵本を読んだり庭を眺めたりしているし、指しゃぶりも減りつつある。

だから、と都合を合わせて決め、今に至る。

もっとも、都合を合わせるも何もラングリッジ家夫妻は「シャルロッテちゃんに会えるならいつでも何時でもいい」というものだったのだが。

そうして待つことしばらく、ブルーローゼス家の正門に一台の馬車が停まった。

中から降りてきたのは四人の男女。一人を見て、玄関で待っていたシャルロッテは「せんせ!」と声をあげて駆け寄った。

「レスカせんせ、ごきげんよう!」

ぱふっと抱き着けば、レスカが嬉しそうに抱き留めてくれる。

「やぁシャルロッテ、ごきげんよう」

「ほんじつは、ここし、おこしいただき、ありがとうございます」

「立派な挨拶をありがとう」

レスカが穏やかに微笑み、次いで背後に立つ三人を見た。

ラングリッジ家夫妻と息子だ。夫人はどことなくフレデリカに似ており、夫君は恰幅のよい体格が温厚そうなイメージを与える。

そして一人の青年。彼はレスカの兄カルヴィンだろう。眼鏡をかけており真面目そうな印象を受ける。

三人を見て、シャルロッテはレスカから離れるとスカートの裾をつまんで腰を落とした。

令嬢の必殺技カーテシー。今回もクラリス達に練習に付き合ってもらったのだ。頭の中でクラリス達が「ナイスカーテシー」ともっちりもっちり褒めてくれる。

「はじめまして、シャルロッテ・ブルーローゼスです」

ちゃんと挨拶できた!

そう考えてシャルロッテが顔を上げれば、夫妻は嬉しそうに目尻を下げて挨拶を返してくれた。カルヴィンも穏やかに微笑んでいる。

「話に聞いていた通り、なんて可愛らしいのかしら。はじめましてシャルロッテちゃん、おば様ですよ」

「おば様は、お母様の妹で、ロッティのおば様で、レスカせんせのお母様!」

「ちゃんと調べていてくれたのか。賢い子だ」

「おじ様は、レスカせんせのお父様で、ロッティのおじ様!」

家系図で覚えたことを伝えれば、二人が嬉しそうに笑ってくれた。

次いでシャルロッテが視線を向けたのは、そのやりとりを静かに見守っていた青年、カルヴィンだ。

彼は自分の番だと気付くと穏やかに微笑んだ。温厚そうな雰囲気は父であるフレッドに似ている。

「カルヴィンさんは、レスカせんせのお兄様で、ロッティのいとと!」

「はじめましてシャルロッテ。会えて嬉しいよ」

「ロッティもうれしいです! あのね、ロッティね、いつもレスカせんせとお話してて、お兄様のことをお話すると、レスカせんせもカルヴィンさんのことお話してくれるんです。それでね、ロッティとっても会いたかったんです」

興奮気味に話せば、カルヴィンが苦笑を浮かべた。「落ち着いて」と宥めてくる声には優しさが込められている。

「ここで話していても風邪をひいてしまう。中に案内してくれるかな?」

「はい! あのね、お部屋にいったらロッティがやいたクッキー食べてください。ロッティね、朝はやくおきてクッキーやいたんです!」

「僕達のためにクッキーを? ありがとう、すごく楽しみだよ」

穏やかに話すカルヴィン。彼の両親である夫妻。そしてレスカ。

四人を家の中へと案内しようとし……、シャルロッテは「あ、あのぉ」と聞こえてきた声に足を止めた。

見れば、馬車の影から一人の青年が現れた。

見目の良い青年だ。甘いマスクに高い身長、長い四肢。穏やかに微笑めばより整った顔の魅力が増す。……のだが、生憎と彼の笑みはだいぶ引きつっている。

そんな青年は恐る恐る、そしてなぜかレスカの肩を掴んで自分とラングリッジ家の者達の間に立たせながら器用に歩き、シャルロッテの前に来るやしゃがみ込んだ。

「は、はじめましてシャルロッテ様。レスカ先生の助手を務めさせて頂いております、サジェスと申します。お、お会い出来て光栄ですぅ」

サジェスが甘いマスクの笑みで挨拶をしてくる。

そんな彼をシャルロッテはしばし見つめ……、

……誰!?

と、ビクリと肩を震わせた。

慌ててポシェットからレスカに描いてもらった家系図を取り出す。

自分達ブルーローゼス家と、レスカやカルヴィン達のラングリッジ家。それだけだ。どこにもサジェスは描かれていない。

誰!?

「サ、サジェスさんは、レスカせんせの……、じょしゅ……」

「敬称はいらないので呼び捨てで大丈夫です。それよりお噂に聞いていた通り、愛らしいお方で聡明さが漂っていますね」

「レスカせんせのじょしゅは……、ロッティの……、ロッティの……、はわ、はわわ……」

突然現れた家系図に居ない人物。それが捲し立てるように話してくる。

予想だにしない展開にシャルロッテは思わず「はわわ……」と弱々しい声をあげてしまった。どうして良いのか分からなくなってしまう。

そんなシャルロッテの混乱を察したのか、レスカが間に入るようにしてシャルロッテを呼んできた。

「シャルロッテ、彼はサジェス君。私のお仕事を手伝ってくれてるんだよ」

「はわ……、レスカせんせの……、おてつだい?」

「そう。家系図に描き忘れてたね、混乱させてごめんね」

宥めつつレスカが頭を撫でてくる。

それを受けているとシャルロッテの中で混乱がゆっくりと消えていき、ほっと安堵の息を漏らした。

レスカに「あとでサジェスさんも描いてください」と家系図を見せながら頼めば、彼女は穏やかに微笑んで了承してくれた。――サジェスが「家系図に……!?」と青ざめたのだが、生憎とシャルロッテは気付かず、レスカはさして変わらず、テオドールとフレデリカは「相変わらずだな」「相変わらずね」と聞き流した。ラングリッジ家の面々は呆れ交じりに冷ややかである――

そうして改めてシャルロッテは全員を一度見回した。

一人増えて驚いてしまったが、みんなお客様だ。それも自分に会いにきてくれたお客様。

「おじ様も、おば様も、カルヴィンさんも、サジェスさんも、ロッティがごあんないします!」

得意げに胸を張り、シャルロッテはさっそくと応接間へ向けて歩き出した。