軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11:愛され令嬢達のもっちりお茶会

その日、シャルロッテはブルーローゼス家の庭でお茶をしていた。

同席しているのはクラリスとマリアンネとフランソワ。いつものもっちりした友人達だ。

先日シャルロッテもクッキーを焼いたことを話したり、トレルフォン家で雇った新しいパティシエについて聞いたり。マリアンネとフランソワの話を聞いたり……。その間にサクリサクリとクッキーやお菓子を堪能する、美味しくて楽しい時間。

そんな中、お気に入りの人形の話になり、シャルロッテはもちろんロミーを皆に見せた。

大好きなぬいぐるみと人形はいっぱいあるが、それでも一番はロミーだ。ずっと一緒に居たのだと話せばクラリス達が興味深そうに眺めてくる。

だが……、

「いつもお人形を手に持っているなんて、シャルロッテさんは遅れてますのね」

というクラリスの言葉に、シャルロッテは困惑してしまった。

どうして人形を持つのが『遅れている』のか。

もしかして『遅れている』とは恥ずかしいことなのか。

そんな不安が一気に胸に湧き、「ロッティは遅れてますか……?」とか細い声で呟いてしまう。

「まぁ」とあがった声は、近くのテーブルに着いていたトレルフォン家夫人のもの。

娘が公爵家令嬢と仲良くしていたかと思えば、急に『遅れている』と批判しだした。

これは止めなければ失礼になってしまう。そう考えて慌てて立ち上がるも、同席していたフレデリカが「少し聞きましょう」と彼女を制した。

そんな大人達のやりとりは届かず、シャルロッテは不安気にクラリスを見つめていた。

人形を持っているのは遅れていて恥ずかしいことなのかもしれない。もしもそれでクラリス達に避けられてしまったら、一緒に遊べないと言われたら……、でもロミーとは一緒に居たい……。

不安や色々な考えがグルグルと回り、じっとクラリスの続く言葉を待てば、彼女は誇らしげに胸を張りゆっくりと口を開いた。

「お人形やぬいぐるみは専用のポシェットに入れて一緒にお出かけしますのよ! これが流行りですの!」

ドヤァならぬもちぃとクラリスが高らかに宣言する。

それと同時に彼女がテーブルの上に出したのは花柄のポシェット。中から取り出したのは可愛らしい猫のぬいぐるみ。

彼女に倣うようにマリアンネとフランソワもポシェットをテーブルの上に置きだした。こちらもぬいぐるみと人形が入っている。

曰く、どのポシェットも人形やぬいぐるみを持ち歩けるように特別に仕立てたものだという。形はもちろん、布や留め具も選び、刺繍もどこに何の形を入れるか自分で決めた、まさにオートクチュール。

「ここに紐が付いてますの。これでお人形もぬいぐるみも転がりませんの」

「せんようのポシェット……」

「私達、まだうまく走れなくて転んでしまうでしょう? お人形やぬいぐるみが傷付いてしまいますから、ポシェットに入れますの」

得意げに話すクラリスに、対してシャルロッテは感銘を受け「はわわ……」と声をもらした。

クラリスが見せてくれたポシェットは人形やぬいぐるみを持ち歩くための部分もあり、尚且つ自分の荷物も入れるスペースもある。だがけして嵩張らない造りをしている。マリアンネとフランソワのポシェットも同様だ。

大事な人形やぬいぐるみと一緒に出掛けるためのポシェット。それを見てシャルロッテが瞳を輝かせた。

「シャルロッテさんもポシェットを作ってもらったらいかが?」

「で、でも、ロッティ、傘を作ってもらったし……」

だから我慢、と言いかけたシャルロッテの言葉に、パンッ! と高らかな音が被さった。

フレデリカだ。彼女が扇子を閉じた音である。誰もがこの音に意識をやり、自然とフレデリカに視線を向けて発言を待つ。

それは子供用のテーブルも変わらず、シャルロッテもクラリス達さえも言葉を止めてフレデリカを見つめた。

そんな全員の視線を受け、フレデリカがスッと軽く息を吸い……、

「仕立て屋に連絡をいれてちょうだい。明日、それが叶わなくても出来るだけ早く、ポシェットを仕立てるために家に来るように、と。あとハンクにも同席するように伝えておいて」

そう一気にメイド長に告げた。けして捲し立てるような早口ではなく、それでいてまるで前から決まっていたかのように。

フレデリカのこの指示に、背後で構えていたメイド長が恭しく頭を下げた。こちらもまた事前に分かっていたかのように、すぐさまさっと移動してしまう。

これにはシャルロッテもきょとんと目を丸くさせた。もっとも、きょとんとしているのはシャルロッテだけで、クラリス達はあっさりとこの事態を理解したようで、「良かったですわね」「何色にしますの?」「どんな刺繍にしますの?」と盛り上がっている。

シャルロッテがクラリス達とフレデリカを交互に見れば、気付いたフレデリカが優しく微笑んでくれた。

「素敵なポシェットにしましょうね」

という彼女の言葉に、シャルロッテはテーブルに座らせていたロミーを抱きしめ「はい」と答えて笑った。

◆◆◆

そうしてしばらくお茶を楽しんでいると「母上」と男性の声が聞こえてきた。控えめな声。もう少し風が強かったら掻き消されていたかもしれない。

その声と共に現れたのはハンクだ。背の高い生垣から現れた彼はお茶会が開かれているとは知らなかったようで、他家の夫人と令嬢がいることに気付くとびくりと体を強張らせた。さすがに逃げることはしないが。

「あ、えっと……、失礼しました。少し母と話がしたくて……。で、でも急ぎではないので、あ、改めます」

落ち着きなくハンクが話す。

その場にいた夫人達は彼を見て不思議そうにしていた。クラリス達も同様。突然現れたハンクにきょとんと目を丸くさせている。クラリスに至っては食べようとしていたクッキーを手にしたままだ。

だがそんな静けさの中、シャルロッテだけは立ち上がり「ハンクお兄様!」と彼に駆け寄った。

「あのね、ロッティね、お人形さんとぬいぐるみのポシェットをつくってもらうんです!」

「う、うん、聞いたよ。僕も同席した方が良いんだよね……。なにか用意するものがあるか、聞こうと思って来たんだけど……」

まさかお茶会の最中だったとは、とハンクが気まずそうに周囲を見る。

一応の挨拶こそしたものの「ハンク様……?」と不思議そうにしている夫人達、そしてまだきょとんとしている令嬢達。フレデリカだけは嬉しそうに微笑んでいる。

本来であれば、公爵家の息子が顔を出したなら侯爵家や下位の貴族夫人令嬢はすぐに挨拶をすべきである。その家に招かれているのならなおのこと。

もちろんそんな事はトレルフォン家夫人を始め、他の二人の夫人も、ましてや娘達とて理解している。現れたのが別の息子だったなら優雅に挨拶をしていただろう。

だが相手はハンク。自宅でさえ滅多に部屋から出てこなかった彼は、当然だが社交の場になど碌に顔を出してこなかった。幼少の頃に数える程度。

そんなハンクが突然現れたのだから、いかに貴族の夫人と言えども驚くのは当然。フレデリカを「母上」と呼び、シャルロッテが「ハンクお兄様」と呼んでいることから正体こそ判明したが、まさかという思いが勝ってしまうのだ。

そんな夫人達と令嬢達の胸中を察し、フレデリカがコロコロと笑いながらハンクを呼んだ。

「ハンク、せっかくだしご挨拶をしたら?」

フレデリカに告げられ、ハンクがふとシャルロッテから顔を上げた。

ハンクは消極的な性格だが、かといって他者を蔑ろにするわけではない。ここで拒否して去るのは人見知りだの消極的だのを越えて単なる無礼だ。

それを当人も理解しているのだろう、母からのこの言葉に上擦った声ながらに「そうですね」と返した。

「ハンクお兄様……、おててつなぎますか?」

とは、彼を案じたシャルロッテ。

ハンクが不安になっていないか、怖がっていないか、そう心配して見上げれば、彼は口元で柔らかな弧を描いて笑った。

「大丈夫だよ、ありがとう。……でも、隣にいてくれると嬉しいな」

「はい。ロッティ、となりにいます」

隣に立つだけでは足りずにぴったりとハンクにくっつけば、彼が片手で頭を撫でてくれた。

次いでもう反対の手で己の長い前髪を分ける。紫色の髪が揺れ、紺色の瞳が夫人達をじっと見つめた。

「ハンク・ブルーローゼスです。以後お見知りおきを」

相変わらず小さい声。だけど普段よりは幾分大きい。ハンクなりに頑張った声量なのだろう。

その挨拶は控えめな彼らしくもあり、それでいて公爵家子息として堂の入ったものにも聞こえた。落ち着きと礼節を持ち、それでいて繊細さも感じさせる。

ここで夫人達と令嬢達はようやく我に返ったようで、次々に立ち上がると挨拶をしていった。

そうして挨拶が終わると、ハンクは早々に屋敷へと戻っていってしまった。

だが逃げるようなそそくさとした動きではない。客人に「どうぞごゆっくりとお過ごしください」という言葉を残してだ。

その姿もまた公爵家子息らしく堂々としている。――もっとも、部屋に戻るなり本人は「緊張した……。シャルロッテの兄として情けない姿は見せられないと頑張ったけど、凄く緊張した……」と精霊相手に話しているのだが。

「ハンク様は初めてお会いしたけれど、とっても素敵ですのね。シャルロッテさんは素敵なお兄様がいっぱいで羨ましいですわ」

とは、ハンクを見送ったクラリス。

彼女に続いてマリアンネとフランソワも「素敵でしたわ」「羨ましいですわね」と続く。

兄達を褒められてシャルロッテは思わず照れてしまった。自分が褒められる以上に嬉しくなってくるし、心がなんだかくすぐったい。

だが兄達が素敵なのは事実だし、もっとクラリス達に知ってほしくて「あのね」と兄達を語りだした。

だがそんな語りの一区切りがついた瞬間……、

「でも、私のお兄様も素敵ですのよ。いまは海外に行っていて、美味しいお菓子を送ってくれますの」

と、クラリスが胸を張った。兄だけではなく、素敵な兄を持つ自分も含めて誇るように。

そのうえ、普段はクラリスの発言に同意してばかりのマリアンネがここにきて「私のお兄様だって素敵ですの」と主張する。

対してフランソワは姉しかいないようで、「お姉様だって素敵ですわ」と新たな意見を出した。

そうして兄のあんなところが素敵、姉のこんなところが好きだと話し合う。

その光景を、母親達は微笑ましく見守っていた。

「つまり、この世に孫を愛さないおじいさまとおばあさまが存在しないように、この世に妹を愛さないお姉様とお兄様は存在しないということですのね。きっと私達が可愛いからですわ」

とクラリスが結論付けたのは、兄姉達を語り続け、母親達からそろそろお開きにと制止をされた時。

話すクラリスはもっちりと満足気な表情をしており、これぞ真理だと言いたげ。むしろ真理に到達したと達成感すら感じさせる表情だ。

彼女のこの発言に、そしてこの素晴らしい結論に、兄達の素敵さを語り興奮していたシャルロッテはフランソワ達と一緒に盛大な拍手を送った。