軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04:あの夜の感謝を

王城でのやりとりは穏やかに、そして楽しく進んだ。

誰もが優しくシャルロッテに接してくれる。

話を聞き出す時もシャルロッテのことを気遣い、口籠るとすぐさま話題を変えてくれる。そのうえ話し終えると皆お菓子をくれた。

「これね、さっきのおいしゃさんのせんせが、えらいねってくれたんです。チョコレート!」

シャルロッテが嬉しそうにチョコレートを見せたのは、王城にある一室。

話続きでは疲れるだろうと休憩用に案内してもらったのだ。綺麗な部屋で、ミアが美味しいジュースも用意してくれた。

「そうか、よかったな。話もちゃんとできたもんな」

「はい。ロッティ、ちゃんとせんせとお話できました。そのまえの男のひとともお話したし、そのときに地図も見て、ロッティ、地図はよく分からないけどお話ししました」

それで、それで、とシャルロッテが答えれば、テオドールが偉いと褒めて頭を撫でてくれた。

過去のことを話すと時折胸が苦しくなったり不安になるが、みんな優しく話を促してくれる。終わるとテオドールとミアが褒めてくれるし、こうやって休憩してお菓子を食べる時間もくれる。綺麗な部屋に案内されて美味しいジュースとお菓子。楽しい時間だ。

だから大丈夫。きちんと話せる。

それに……。

「……ロッティ、あの時ね、怖い人たちといた時、たくさんひとと会いました。抱きしめてくれたり、お話してくれたりして……、だから、みんなロッティみたいになってほしいです」

みんなどこかに売られていった。そして売られていった先が良くないことは察していた。

自分もそうなるのだろうと思っていたのだ。荷台の中は暗いが、きっと外の世界も暗い……。

だけど違った。今の自分は幸せだ。世界はこんなにキラキラと輝いている。

「ロッティがお話すれば、お父様やグレイヴお兄様、きしのひとたちがみんなを助けてくれるって言ってました。だからロッティお話しします」

思い出すとまだ胸がぎゅうと苦しくなるけれど大丈夫。

そうシャルロッテが意気込み、「つぎのお話ししにいきます!」と立ち上がった。

ミアが落ち着くように宥めてくる。テオドールが時計を取り出し、まだ時間があるから落ち着くようにと告げてきた。

今日王城に招集されているのはシャルロッテだけではない。数人が同じように呼ばれており、医者や国の上層部と話をしている。時間をずらしているのは、下手に顔を合わせると捕まっていた当時の記憶を思い出させる恐れがあるからだ。

当時の情報を提供してもらいたい。だが不必要に思い出させて傷付けたくはない。そう考え、細心の注意を払ってスケジュールを組み対応をしている。

「まだ別のひとが話をしているから、もう少しここに居よう」

「じゅんばん?」

「あぁ、そうだ」

「じゅんばんを守るのもマナァってせんせが言ってました」

マナーは大事、とシャルロッテが椅子に座り直す。

そうしてもう少しお茶をとなったところで、室内にノックの音が響いた。

入ってきたのは……、

「グレイヴお兄様!」

一礼して部屋に入ってきたグレイヴを見て、シャルロッテが声をあげて彼に駆け寄った。

ぱふんと抱き着けば抱きしめ返してくれる。

今日のグレイヴは騎士隊の制服を纏っており、その姿のなんと凛々しいことか。普段から逞しいがより逞しく見える。シャルロッテが「グレイヴお兄様、すてき」と褒めれば、誇らしげに胸を張った。

「シャルロッテ、俺の先輩がシャルロッテに会いたいと言ってるんだ。時間があるなら来てくれないか?」

「グレイヴお兄様のせんぱい? せんぱいってなんですか? ……お菓子ですか? ロッティ、このまえアップルパイを食べました」

「パイじゃないぞ。先輩。俺に色々なことを教えてくれるひとだ。先生みたいなものだな」

「グレイヴお兄様のせんせ? ロッティ、グレイヴお兄様のせんせにごあいさつしたいです!」

グレイヴの手をぎゅっと掴んで「つれていってください!」と告げれば、彼もまた嬉しそうに頷いてくれた。

だが勝手にシャルロッテを連れ出してはいけないと考えたのか、許可を求めるようにテオドールに視線をやる。その表情は父を見る息子というよりは、上官に許可を求める部下だ。普段から姿勢よく立つグレイヴだが、心なしか今は普段よりも背筋が伸びている。

「父上、よろしいでしょうか?」

「予定では次で最後だし、その相手もあれだから待たせても問題無い。ずっと座って話してばかりだったし、少し外に出るのも良いだろう。行ってこい」

「はい!」

「俺も部下のところに顔を出してこよう」

テオドールが立ち上がる。

静かに親子のやりとりを眺めていたミアがそれに続き、自分も一度席を外すと一礼して部屋を出て行った。

「行こう、シャルロッテ。お兄様が騎士として案内してやるからな」

兄として騎士として。それが嬉しいと言いたげにグレイヴが告げる。繋いだ手をぎゅっと握り返しながら。

シャルロッテもまたこの言葉に期待を抱き「はい!」と元気よく返した。

◆◆◆

「シャル……、シャルテッテ……、シャルロッテ・ブルーローゼス、です」

たどたどしい言葉遣いでシャルロッテが名乗り、スカートの裾を摘まんで腰を落とした。――心の中で「言えた!」と達成感が湧く。最近、噛まず間違えずに名乗れるようになってきた。成功率は半々だ――

目の前に立つのは十数人の男性。みな騎士隊の制服を着ており、年齢はシャルロッテやグレイヴよりもだいぶ上。長兄ジョシュアよりも年上だろう、中にはテオドールの年齢と近しい者もいる。

彼等はシャルロッテの挨拶を見ると揃えたようにほぅと吐息を漏らした。厳格な騎士とは思えない蕩けた表情である。「これが噂の」「なるほど可愛い」と囁き合う声が聞こえる。

「シャルロッテ様、お話には聞いております。お会い出来て光栄です」

「ロッティも、ごあいさつできてうれしいです。ロッティ、きしのひとたちにお話したいことがあったんです」

「我々に話ですか?」

いったいなんだ、と騎士達が顔を見合わせる。

そんな彼等に、シャルロッテは「あのね」と声をかけ……、

「ロッティのこと、たすけてくれて、ありがとうございました」

と、感謝の言葉と共にペコリと頭を下げた。

あの晩、抱き上げて荷台から解放してくれたのはテオドールだ。

だがあの場に居たのは、そして怖い男達を退治してくれたのは彼一人だけではなかった。たくさん人がいたのを覚えている。

だが当時のシャルロッテは『騎士』というものは分からず、父やグレイヴの制服を見て、二人が騎士だと知り、ようやくあの晩に助けてくれた者達が何者かを知ったのだ。

だからお礼を言いたかった。

もっとも、今感謝の言葉を告げた騎士があの晩の救助に出動していた者なのかは定かではないが。生憎とシャルロッテにはそこまで分からず、『騎士』は『助けてくれた人達』で一括りになっている。

「シャルロッテ様……」

「ロッティ、いまお父様とお母様とお兄様と、おじい様とおばあ様と、おうちの人と、お友達と、せんせがいて、すごくしあわせです。だからありがとうございます」

「……有難きお言葉、痛み入ります」

感謝を告げるシャルロッテに対し、騎士達もまた深く頭を下げて返してきた。

腰に下げた剣に手を添えたその姿勢は騎士としての敬意の表れだ。全員が角度まで揃えて頭を下げる光景は圧巻である。

だがシャルロッテは彼等の礼に対してきょとんと目を丸くさせ……、

「いたみいり……、どこか痛いですか? ロッティ、おいしゃさんとお話してて、あの、お城においしゃさんがいます」

と、彼等の言葉を勘違いして心配しだした。

これには騎士達が顔を上げ、揃えたように顔を見合わせると愛おしいと言いたげに笑みを零した。

◆◆◆

しばらく話をし、グレイヴがシャルロッテを連れて城へと戻っていく。

その後ろ姿を騎士達が見送り、一人が「さすがグレイヴ様だ」と呟いた。この言葉に、隣に立つ若い騎士が問うように彼を見た。

「シャルロッテ様のお姿を見せることで我々の士気を高めたんだ」

「士気を?」

「考えてみろ、もし次にまた討伐と救助の任務がきたら。……シャルロッテ様のような幼い子供が助けを待っているかもしれないんだ」

告げられ、若い騎士が一瞬視線を他所に向け……、表情を険しくさせた。

胸の内の憤りが明確に顔に出ている。憤怒、焦燥感、使命感、それらが綯い交ぜになった表情。闘志とも言える空気が漂う。

これに対して、騎士は「落ち着け」と宥めると話を続けた。

「実際の救助者からの言葉はなによりの鋭気になる」

「そうですね。もしもまた救助の任務が来れば、以前よりも増して出来得る限りの力で救助に取り掛かります。仮に非番であっても緊急の要請にすぐに応じられるようにし、一人でも多く出動できるように尽力します」

今までとて騎士として全力で務めていた。手を抜いた覚えはない。

だがそこにより強い闘志と士気と使命感が加わったのだ。

騎士の士気を高めたのは言わずもがなシャルロッテ。そして、彼女を連れてきたグレイヴ。

「さすがテオドール隊長のご子息。騎士として良い判断をされる。……まぁ、そうは言っても」

騎士が苦笑を浮かべ、先を歩くグレイヴとシャルロッテを見た。

兄妹は手を繋いで歩いており、シャルロッテが何か話しかけているのをグレイヴが嬉しそうに聞いている。挙げ句、なにやら盛り上がったようでグレイヴがシャルロッテを抱き上げて歩き出した。キャァ、と嬉しそうなシャルロッテの高い声が風に乗って聞こえてくる。

「グレイヴ様ご本人は、ただ可愛い妹を自慢したくて連れてきたんだろうな」

身もふたもない、それでいて弟分を愛でるような声色のこの言葉に、若い騎士もまた苦笑を漏らして同意した。