軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20:ライアンお兄様のはーぶてぃー

「そっか、シャルロッテもジョシュア兄さんも眠れなかったんだね」

大変だったね、と労りの言葉を掛けてくるのはライアン。

彼の優しい言葉に、シャルロッテはオレンジジュースを飲みながらコクリと頷いた。

昨夜なかなか眠れず夜の屋敷を散歩していたところ、同じく眠れないジョシュアに声をかけられた。

そのまま彼の寝室で過ごし、明け方頃になってようやく二人とも眠りにつけたのだ。

おかげでシャルロッテが起きてきたのは昼過ぎ。

そのうえなんだか起きてからも頭がぼんやりとする。遅くなった昼食を普段よりもゆっくりめに摂り、普段より遅い足取りで日課の散歩をし、その後は本を読んでもらいながらぼんやりと過ごす。

そうしてようやく目が覚めてきた頃、ライアンに一緒にお茶をしないかと声を掛けられたのだ。

たまたま居合わせたグレイヴも同席することになり、三人でお茶をして今に至る。

「眠れない……?」

とは、怪訝な表情のグレイヴ。

「いいかいグレイヴ、我が弟よ。繊細な人間というものは時に眠れないことがあるんだ。布団に入ったら一分以内に寝付くお前には分からないだろうけどね」

「失礼だな兄さん。俺だって眠れないことぐらい……、あ、ある……、あった。多分あったはずだ」

「思い返す限りは無いんだね。いいんだよグレイヴ、いっぱい食べてたくさん寝て、大きくおなり。三時のおやつだって言うのに肉料理とパンを食べるお前の成長が兄は楽しみだよ」

冗談めかしたライアンの言葉に、シャルロッテは自分の手元と、隣に座るグレイヴの手元を見た。

シャルロッテの手元にはオレンジュースとチョコレートケーキ。ライアンも同じケーキと、彼が飲んでいるのはジュースではなく紅茶。

だがグレイヴだけはしっかりとした食事をしている。ビーフシチューとパン。優雅なティータイムとは言い難いラインナップである。量もしっかりとある。

「グレイヴお兄様のおやつはお肉ですか?」

「ち、違うぞ、俺だって普段は普通に甘いものを食べるからな。ただ今日はさっきまで体力作りをしてたから、それでしっかり食べたくなったんだ」

「良いんだよグレイヴ。たんと食べて大きくなりなさい。お前にとってお肉はおやつだからね」

「兄さんやめてくれ、シャルロッテが本気にするだろ。それより、今はシャルロッテとジョシュア兄さんが眠れなかったことについてだろ」

いい加減本題に戻ってくれとグレイヴが不満気に訴えれば、ライアンが悪戯っぽく笑った。

「楽しみすぎちゃった」と謝罪をするが、その口調も声色も軽くあまり反省の色は窺えない。

「でも眠れないのは辛いよね。今後も頻繁にあるようなら改善策を見つけないと成長に悪いし」

何か良い方法が無いかと悩むライアンを眺めつつ、シャルロッテはケーキを一口、グレイヴは肉の塊を一口頬張った。

◆◆◆

そんなやりとりから三日後。

「じゃじゃーん、可愛いお茶缶!」

大袈裟に缶を見せつけてくるライアンに、シャルロッテは思わずパチパチと拍手をしてしまった。

もっとも、拍手をしつつも「おちゃかん?」と首を傾げだのは、『おちゃかん』が何かよく分かっていないからだ。それでもひとまず拍手しておく。

ちなみにシャルロッテの隣ではグレイヴが「なんでお茶缶」と冷静に兄に尋ねた。こちらはもちろん拍手無しである。

場所は先日と同じ一室。

今日はグレイヴと二人でお茶をしていたところ、ライアンが現れて先程の発言である。

彼の手元には手のひらサイズのピンク色の缶が一つ。

ラベルにはウサギがティーパーティーをしている絵が描かれている。確かに可愛らしい缶だ。

「ウサギさん!」

「可愛いでしょ。中にはお茶葉が入ってるんだ。良い香りだよ」

缶の蓋を開け、ライアンが差し出してくる。

嗅いでみろということなのだろう。試しにとシャルロッテも顔を寄せてスンスンと嗅げば良い香りがふわりと鼻を擽った。

甘いお菓子の香りではない。どちらかと言えば花に似ているだろうか。柔らかくて不思議と落ち着く香りだ。

「この前出かけた時に寄った専門店で見つけたんだ。お店の壁いっぱいに茶葉が並んでてね、缶とラベルと中身を組み合わせられるお洒落なお店なんだ。話を聞いたら眠れない時はハーブティーが良いんだって」

「はーぶてぃー?」

「飲むとリラックスできるお茶だよ。子供でも飲めるんだって」

温かいハーブティーは飲む者をリラックスさせ、眠りにつきやすくするという。

確かにほっと安堵する香りだ。この香りに包まれたら不安も消えて眠れそうである。

「シャルロッテには可愛い缶とラベルにしたんだ。気に入ってくれたかな」

「ウサギさんのお茶! ライアンお兄様、ありがとうございます!」

貰った缶をぎゅうと抱きしめながら礼を告げれば、ライアンが嬉しそうに頷いて返してきた。

次いで彼が取り出したのは青い缶。大きさこそシャルロッテのウサギの缶と同じだが、色が違うだけで雰囲気がガラリと変わる。だが中は同じハーブティーなのだという。

「こっちはグレイヴに。まぁグレイヴはお茶が無くてもぐっすり眠れるだろうけど、いずれ眠れない夜がくるかもしれないからね。それもまた成長だよ」

「……今まで知らなかったけど、ライアン兄さんは一言多いんだな」

「冗談だよ、冗談。疲れにも効くらしいから訓練で疲れた時に飲んでよ」

はい、とライアンがお茶缶をグレイヴに渡す。

楽し気なライアンに比べてグレイヴはまだ不満気だ。だがお茶缶を受け取りラベルを見ると僅かだが表情を緩めた。

彼のお茶缶には剣を構えた騎士が描かれている。淡い色使いで絵本の一ページのような柔らかさだが、どうやらグレイヴはお気に召したらしい。

「ジョシュア兄さんにも買ったし、せっかくだしハンクにも買ったんだ。みんな飲んだら感想教えてね」

嬉しそうに話すライアンにシャルロッテはもちろんだと頷いて返した。

グレイヴは先程まで揶揄われていたことを思い出し「気が向いたら」と素っ気なく返していたが、それもまたライアンを喜ばせるだけなのは言うまでもない。