軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

063話 出航

「結構大きいですね」

「当家の命綱ですから。代々の当主が責任を持って、最優先でこれの整備だけは行っておりました」

ペイスとウランタが並んで会話する。

二人の目線の先には、五隻の 櫂船(ガレー) があった。一隻の船には、漕ぎ手を兼ねた十四人の下級船員と、十名ほどの戦闘員が乗り込むことになっている。

大きさも、三十人弱が乗り込むに十分な大きさがあった。全長は二十メートルほどで、高さも船底から測れば数メートルは優にある。

櫂船といいつつも帆があり、風があれば相当な速度で動かせるという意味では融通の利く船だ。

一戸の建造物とも呼べる大きさで、それが五隻ともなれば結構な威圧感があった。

子爵家と言えば、貴族の中でも中堅どころ。家によっては上級貴族に足が掛かり、時には一つの派閥を纏めることもある程の格がある。

それは曲がりなりにもこういった、一般庶民では維持管理出来ない戦力を保有するからこそ与えられる地位だ。

ボンビーノ子爵家は、陸上戦力ではなく、海洋戦力を持つことで子爵たる地位を確立しているのだ。最優先で船の整備を行うのも、それが自分たちの存在意義の一つでもあるからだろう。その心構えは大変立派なことであると言える。

その分、陸上戦力の整備や維持がおろそかになり、領地を余所に奪われているのは、かなり大きな問題ではあるのだろうが。

でん、と海に浮かぶ船五隻。

四隻は子爵家の人間が乗り込み、一隻はモルテールン準男爵家の家人が乗り込む。

それぞれが共同歩調を取りつつも、海賊討伐を目指すことになる。

「船員たちも、当家が手配しております。契約はそちらがされる事なので、後ほどご紹介という形になってしまいますが」

「お願いします」

船の操作について、ペイスは素人だ。

普通の貴族は、馬の乗り方は常識として知るが、船の動かし方は知らない。だからこそ、海戦の指揮が出来る人材は貴重であり、ボンビーノ子爵のような人間が、代々その知識と経験を伝承してきた。

頭の良さでは神王国でも屈指と呼べるペイスやカセロールについても例外ではなく、船の知識などは少ない。

旧家が一目置かれる理由とは、こういった部分にあるのだろう。

勿論、ペイスも全くの無知と言うわけでは無い。

浮力についての基礎知識であったり、水上独特の慣性があったりすることは知っている。

だが、それが具体的に体系だった知識になっているかというと、否定の言葉が先に立つという話だ。

船の動かし方や海戦の指揮について詳しく知っている菓子職人など、そうそう居るはずが無い。居る方がおかしい。

船の素人が指揮をする。

これについては、モルテールン領でもどうするかを話し合うことになった。

かつての経験を聞こうにも、カセロールが以前に海賊討伐に参戦した際は、レーテシュ伯の家人が全てを取り仕切っていた為に、参考にしかならない。

誰か船に詳しいものが居ないか、新人に聞いて回ったりもした。芳しい結果は得られなかったが。

人材不足について、大いに問題視されて解決策が討議されていた中、ひょんなところから解決策が提示された。

それが、とある人物の派遣についてだ。

今日も、さっそくペイスの傍についている。

ペイスは、その人物の方に目を向ける。

「セルジャン殿も、今回はよろしくお願いします。僕のような未熟な人間の下に就くのは不安かも知れませんが、頼りにしています」

「他ならぬ、ペイストリー殿の指揮であれば、私も不安などありません。微力を尽くしましょう」

セルジャン=クース=ミル=オーリヨン。オーリヨン伯爵家から、次男坊がモルテールン家に助力する、という形になっている。

だが、その裏にはレーテシュ伯の意図がある事は、ペイスやカセロールから見れば明らかなことだった。

おおよそ、四伯と言われる重鎮の婚約者という立場になるには、箔付けの一つも必要という判断であるに違いない。軍功を欲するのは、何もボンビーノ子爵だけでは無いのだ。

特に、海の上での軍功とは、レーテシュ伯の傍に立つには必須。今回も、渡りに船と言ったところなのだろう。

そう、ペイスは当たりを付けていた。

かなりのすったもんだの末に、今回の参戦が決まった人員である。形としては、モルテールン家の臨時雇用の従士となっている。

セルジャンは伯爵家の子弟という事で、最前線での切った張ったの経験こそ薄いものの、何度か実戦指揮の経験がある。

また、レーテシュ伯と縁を持って以降、積極的に海戦の指揮を学ぶようになっており、今回はそれを証明する場にもなっている。

自分の力で未来を切り開いて見せる。その意気込みも心中に秘め、堂々たる姿勢で海風を体に当てていた。

無論、彼が本音を口にすることは無いが、ペイスなどは事情を薄々察している。

一応は、ペイスと浅からぬ縁のある軍人という事で、当人がレーテシュ伯の推薦状と共に助力を申し出に来たのだ。察しない方が鈍感と言うものである。

今回の海賊討伐作戦は、ボンビーノ子爵が総大将で、副官にペイスが就く。

総大将の補佐には、子爵家の面々。ペイスの補佐にも、モルテールン家の家人が揃う。

このモルテールン家のメンバーも、豪華と言う他ない。

戦時の際は準騎士となる従士の面々には、遠見の魔法が使えるシイツ、弓の得意なグラサージュ、普段は新村治安維持にあたっている武闘派のトバイアムといった顔ぶれ。

ペイスも含めても魔法使いが二人に、歴戦の勇士ぞろいときている。これだけでも、下手をすればそこらの小隊に匹敵する戦力だ。

領内の運営維持に必要な最低限度を残し、出来る限りの戦力を揃えた形。モルテールン家の家中でも腕のたつ、経験豊富な精鋭。

ここに、従士ではないが当人たっての希望で加えられた、成人を間近に控えるルミの兄、ラミトも居る。

父であるグラサージュに習っている弓の腕はそこそこ上手く、成人に先だっての出陣に鼻息も荒い。

尤(もっと) も、戦力としてはあてにされておらず、経験値を積むための次世代育成枠である。

更に、領内から希望者を募り選りすぐった、傭兵扱いの民兵が数名と言う布陣で、モルテールン家の面々は海賊討伐に臨む。

彼らは、戦後に最優先でペイス製シーフード料理を賞味する権利があり、希望者を断る方が忙しかったほどに戦意は高い。

「坊、準備出来ましたぜ」

「なら、水や物資の積み込みを始めてください」

「了解でさ。おうお前ら、そっちにある奴から積み込んでいけ!!」

「旦那、こっちの武器の類はどうします?」

「出来るだけうちの船に積み込んでおけ。予備として用意している槍だのは要らねえから、向こうさんの船で良い。大して役に立ちそうもないもんは、出来るだけあっちに押し付けちまえ。消耗品はこっちに多めにしておけ」

「いいんですか?」

「何も言われないうちは良いんだよ。文句を言いに来たら、普通に分ける」

かつては傭兵として生き馬の目を抜く戦場に生きていたシイツは、今回のような場では長年培ってきたしたたかさがある。

人足兼漕ぎ手として雇った男たちに、早速荷物の積み込みを指示しだした。

子爵の方が、規模故に準備に手間取っているうちに、これ幸いと、重要な物資をメインに積み込みを始めた。

さすがにこれには、子爵の補佐官も座視出来ず、注意するよう子爵を促す。

「ペイストリー=モルテールン卿。こちらとしては、大変言いにくいのですが……」

「はて、どうしました?」

「万一にも、はぐれる可能性があるらしいので、物資は出来るだけ各船平等にしておくように願います」

「総指揮官殿がおっしゃられるのであれば、そのようにしましょう。シイツ!!」

「何です、坊」

「物資の分配を見直しなさい。各船で“平等に”積み込むことを、子爵閣下はお望みです」

「坊の指示なら、そうしやしょう」

してやったり、とペイスとシイツは目と目で頷き合った。

船の物資とは、多く積むほどに活動の選択肢が増える。

一旦海に出てしまえば、積み込んでいたものを捨てることは出来ても、新しく積み込むことが出来ない以上当たり前のことだ。

真水、炭、矢、食料と、積み込んでおきたい消耗品は幾らでもある。

一応は共同軍となっているモルテールン家とボンビーノ家ではあるが、いざとなれば反目する可能性もある。

その場合、物資の大半を子爵家の船に用意していたとすれば、物資を人質に取られる形で協力継続を強要される可能性もある。

それを避けたい思いが、援軍側にはあった。

複数の船で活動をする場合、最も多い物資の分配方法は、旗艦に傾斜配分して物資を積み込む方法だ。物資の大半を旗艦に積んで、補給船扱いにすることもある。

旗艦が沈む可能性は最も低いのだから当然ともいえる。

反論しようにも、同じ目的の為に行動しているのだから、どの船に載せても同じだろう、と言われてしまえば難しい。

しかし、今回のように二家の連合となれば、いわば旗艦が二つあるようなもの。

モルテールン家としては、何とかして自分たちの船にもある程度以上の物資を確保しておく必要がある。

あえてこれみよがしに自分たちの船に物資を載せようとしたのは、ペイストリーとシイツが一芝居打った策略である。

何も言われなければ、これ幸いと本当にそのまま荷物を抱えてしまえば問題もない。指摘されれば、各船に平等に分ければよい。旗艦に抱え込まれなければ、モルテールン家としては御の字なのだ。

“どの船に物資を載せても同じでしょう”という言い訳を、先んじて手を打つことでモルテールン家のカードにする為の小芝居。

従士長と次期領主。こういった時には役者である。

補佐官はともかく、経験の浅いウランタは勿論、小芝居に気付かない。

自分の要望を受け入れてくれたことに、満足そうにしていた。

「モルテールン卿。良ければ、目ぼしい船員たちを紹介したいのですが」

「ええ、お願いします」

事前の打ち合わせで、船と併せて、めぼしい船員の手配は子爵家の担当と決まっていた。船に詳しい人員が、モルテールン領にはいないのだから仕方がない。

モルテールン家でも雇った者は居るのだが、それはあくまで補助的な部分で役立ってもらう予定になっている。

この船員の手配について、神王国の船乗りの中では一つの伝統がある。

それが、 陸(おか) での顔見せだ。船員全員を、一旦陸の上で確認しておく。

酒が入りながらのこともよくあるが、今回のような場合は 素面(しらふ) での顔見世が妥当だろうという話になっている。

海上の船の中という、ある種の閉鎖空間で過ごす以上、共に過ごす者がどういった人間なのかを事前に面通ししておくのは、悪いことではない。むしろ必須。

それ相応に言葉を交わすことで、海の上でもより緊密な関係を築ける。また、事前に顔を見ていない人間が紛れ込み、悪さをすることを防ぐ意味もある。

大抵は採用面接を兼ねることが多いが、今回はモルテールン家の面々が距離的に離れていたこともあり、雇用直前の面通しになった。慌ただしいのは、子爵家の焦りという面もある。

既に条件面もダグラッドなどが事前につめており、後は顔見世後に正式に契約し、そのまま出航となる予定である。

「それでは紹介しておきましょう。我が町ナイリエでも名高い『水龍の牙』の面々です。操船技術においては当家の者以上の力量がある者達でして、今回の海賊討滅に際して、モルテールン家の方々の為であればと、こうして集まってくれました」

そう言って紹介されたのは、十数人程のガラの悪そうな連中だった。スキンヘッドで刺青をしている男や、身体のあちこちに傷跡のある男など、いかにも、といった雰囲気がある。

彼らは、海の傭兵団とも言うべき存在であり、その中でも子爵領界隈ではかなり有名な水兵団なのだそうだ。

普段は商船の護衛や海運、緊急時の港防衛といった人手に雇われている者達であり、海の上の戦いに関しても手慣れた荒くれ者。

その風貌を見たモルテールン家の若い連中などは、こいつらこそ海賊ではないのかと思ったほどである。

日に焼けた海の男たち。

そんな中にあって、一人だけ目立つ人物がいた。

何故目立つのかといえば、その人物のみ目立った特徴があったからだ。

その特徴とは、性別。

“彼女”こそ、先代の父親から水龍の牙を引き継いだ、傭兵団の頭目である。

海で焼けたのか、根本のあたりは赤毛にもかかわらず、くすんだ茶髪のように見える短髪。背も高く、傭兵団の中でも平均より高い。女性にしては、めったにみない大女。

横幅もいかり肩なせいか、ごつく見える。肌も、こんがりと焼けた茶褐色であり、そのせいか見た目は四十代にも見えた。

如何にも、荒くれ者を従えていると言わんばかりの、不敵な立ち居振る舞い。

無頼のお手本のような姿勢で進み出た彼女が、ジロジロとペイスを不躾に見回した後、少年を見下ろすようにして口を開いた。

「首狩りの 倅(せがれ) ってのは、あんたかい」

無礼極まりないその姿勢に、血気盛んな年頃のラミトなどは剣を手に掛けそうになったが、それは銀髪の少年に押し留められた。

「初めまして。カセロールが息子、ペイストリーと言います。今回は海賊討伐にご協力いただけるとの事、感謝します」

「あん?」

女性の気の抜けたような声が残った。拍子抜けしたからだ。

カセロールと言えば、特に南部では有名な人物。一人で数人の腕利き水兵を半殺しにしたであるとか、海賊の只中に飛び込んで無傷で生還したであるとか、レーテシュ領での海賊討伐における逸話が色々と残る有名人。無論、彼女とてその噂は承知している。

今回の傭兵契約に先だって話が来た時、断った時のカセロールの報復が恐ろしくなかった、といえば嘘になる。

味方とすればこれ以上頼もしい者も無いわけで、傭兵雇用に頷いたのは多分にモルテールン家の威光があった。

そんな、ある意味では海賊より恐ろしい人物の息子が、今回の自分たちの雇用主となるという。しかも、既に何度か戦場に立った経験があるとも聞いていた。

どんな厳つい偉丈夫が来るのかと思って身構えていれば、面通しされた相手は、下手をすれば女の子に間違えてしまいそうな少年である。

しかも、自分たちのような下々の者達にまで丁寧な言葉づかいを崩さない。

好ましさはあれど、育ちが極めて良いことの現れ。悪く言えば世間知らずのようにも見える。

これは、拍子抜けも良いところだろう。

それ故、口にした言葉があった。雇用拒否の言葉だ。

「やめだ」

「ほう?」

「モルテールンの名前を聞いて来てみりゃ、こんなガキのお守りが仕事だ? 冗談も大概にしてほしいね。貴族様がママゴトするのは勝手にすりゃいいが、うちらがそれに付き合う謂れも無い。この契約、無かったことにしてもらう」

彼女の言い分も、 尤(もっと) もなものだ。

纏める立場からすれば、今回ならば十人以上の人間の命を預かることになる。海賊討伐を舐めているとしか思えない子供の遊びに、命を懸けてまで雇われる謂れは無いのだ。

その様子を、微笑みながら受け取ったのは、モルテールン家の若き次期領主。

ニコニコとしたまま、明らかに挑発と思しき言葉を口にした。

「ここにきて、怖気づいたわけですか。水龍の……尻尾でしたか? も大したことが無いのですね。期待外れも良いところです」

この言葉に、気の短い荒くれ達は、いきり立った。

特に、女性頭目の後ろに居た連中は古参。愛着もある自分たちの団を、よりにもよって生ぬるい子供に貶されたことに、怒りを露わにする。

「んだとこのガキゃ!!」

「たかだか海賊の討伐程度に怯えてしまう臆病者は、役立たずと言っているのです。どうやら剣もぶら下げているようですが、飾りを付けたいならドレスを着てネックレスをぶら下げる方が御似合いじゃないですかね? ああ、その顔でドレスを着ても、似合いませんか」

「俺の剣がお飾りだとでも言いてえのか!!」

「飾りでないなら、張りぼてですか? 使えない剣など、包丁よりも意味がない。ああ、もしかして、料理人の方でしたか?」

「もう許せねえ。飾りかどうかみせてやらぁ!!」

船の上というのは閉鎖空間であり、それだけに水兵は仲間の団結を極めて重視する。水龍の牙の面々も、その常識通りの水兵集団だ。

先代の時代から団員皆が家族以上の存在であり、誰か一人への侮辱は、全員に対する侮辱である。

自分たちを貶されたことに、男たちが剣を抜きかけたその時。

「ごふっ!!」

「ぐぇらば!!」

「さすがに、剣を抜くことは見過ごせんのでな」

「全く、坊もやり方を考えて欲しいもんですぜ」

一斉に動いた男たち。

その動きは、極めて素早かった。

シイツ、グラサージュ、トバイアム、セルジャンの四人は、実に見事な手際で、剣に手を掛けた連中を伸していた。一対一で、軍事訓練を受けている彼らが後れを取るはずもない。

特に圧巻はセルジャンだった。

恵まれた巨体もあって、シイツやトバイアムが一人を無力化するまでに、二人を蹲らせていた。その力量の高さには、周りの皆が驚いた。

尚、ラミトは何も出来なかった。

「坊はこう見えても、貴族の端くれ。それに剣を抜いていたら、こんなものじゃすまなかったところだ。ちったあ頭を冷やすこったな」

「シイツ、こう見えてもとは何ですか、こう見えてもとは」

「良いんすよ、威厳が皆無って意味じゃあ事実なんですから。それに、坊はこう見えても、俺以上に強いってのも付け加えておきますぜ」

シイツの言葉に、驚いたのは女団長だ。

従士というものも色々で、高位貴族の部下ともなれば下手な貴族よりも贅沢が出来る。故に、中には堕落してしまう者も居ることを、彼女は知っている。

だがしかし、目の前で起きた事実を見れば、モルテールン家の面々が相当に鍛えられた武闘派であることが窺える。伊達にカセロールの部下をやっているわけでは無い、と感心すら覚える。少なくとも、堕落の二文字とは縁遠い連中なのは明らか。

だからこそ、シイツの言った“自分以上に強い”という言葉が、上手く理解出来なかった。

「若様は、俺よりも強いな、うん。うちの息子とは比べもんにならん」

「わはは、若様が非常識なのは、うちでは常識だがな。お、今俺面白い言い回し言えたよな」

「ペイストリー殿は、私に決闘で勝った男だからな。私よりも強いことは明らかだ」

モルテールン家グループの面々が、口々にペイスは自分より強いと言いだす。

実際、ペイスが【転写】の魔法使いであり、剣もそこらの従士並みに使えることを知る連中は、一対一でペイスに勝つことの困難さをよく知っている。

また、セルジャンにしてみれば、自分に勝った事実を誰よりもよく知っている。

彼らがペイスを評価する言葉は、心からの本心だ。

モルテールン家一同の言葉に、女団長は、再び拍子抜けした。

今度は、目の前の現実を受け入れたために。

「っぷ……あはは、あははは、そうかい。龍の子は龍って話か。こりゃ面白い。しかし坊ちゃん、部下を伸してくれた落とし前、どう付けてくれるんだい?」

「僕としては、非常に不本意な結果なのですが……部下が失礼しました。先ほどの貴女たちへの言葉も、撤回しましょう。落とし前、というのはそうですね。貴女たちに、名誉挽回の場を用意しましょう。貴女達の実力で、僕の先ほどの言葉、否定してみたくはありませんか?」

「……良いだろう。うちも、さっきの言葉は取り消す。正直、もう少し穏便にして欲しかったってのはあるが、あんたらが子供の遊びでここに居るわけじゃ無いってことはよく分かったよ。そこで蹲ってる単細胞たちも含めて、あたいらを使ってくれ。あたいたちが、海の上じゃあ最強だってことを証明してやるよ」

「契約、成立ですね」

女団長とペイストリーは、互いに握手を交わした。

お互いに、含みのある笑顔で。

この一連の騒動を少し離れた場所で見ていたボンビーノ子爵ウランタは、自分とペイスの余りの違いに衝撃を受ける。

ボンビーノ家に雇われることは断固として拒否していた荒っぽい連中を、従えて見せた力量に対して。そして、ペイスの部下が心底ペイスを信頼している様に。

自分もこうありたい。

そう、ウランタは思った。

今回の作戦で、出来る限りのことを学ぶ。決意も新たに子爵は拳をぎゅっと握った。

出航準備も終わり、甲板の上には二人並ぶ姿があった。

女団長と、ペイスだ。

秋の海風は肌寒く、少年の方は少し厚着であるものの、女性の方は露出の多い服装。並んでいると、親子にさえ見えるほどの年の差がありながら、どちらも堂々としていた。

部下を使う側の人間であるため、二人してその準備が終わったことを確認していたのだ。

「それで、まだ貴女の御名前を聞いていませんでしたね」

「そういやそうだ。あたいの名はニルディア。海蛇のニルダっていやぁ、この辺りじゃ大抵の奴らが知ってる」

「そうですか。海蛇などという二つ名があるとは、頼もしい限りです」

「あれだけやって、よく言うよ。だがやるからには、あたいらの実力あんたらに見せてやる。報酬はたっぷりと用意しておきな」

「期待しています。では、出航!!」

号令一下。

海賊討伐に向けて船が動き出したのだった。