軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

393話 社交界

モルテールン家主催の社交会。

王都の別邸は然程広くないため、別に場所を移動しての開催になる。

集合場所である別邸は、馬車だけがどんどん溜まっている状態だ。

日頃は社交を開くこともないモルテールン家のご招待とあって、他の社交では目にすることのない貴族も集まっている。

遠方からも、近郊からも、距離の別なく集まる社交会など、王家主催でも無ければ普通はあり得ない。

会場の一角。

入口を入って右手のエリア。

遠慮がちに立っていた人物に対して、主催者が歩み寄った。

「フレージェル騎士爵、ご無沙汰しております」

「モルテールン閣下、この度はご招待いただきありがとうございます」

モルテールン子爵カセロールは、晩餐会の主催者として参加者に声を掛けて回っている。

日頃は厳しい顔で部下を叱咤して訓練に励んでいる鬼教官だが、今日は穏やかな笑顔を浮かべた好人物の顔をしていた。

もう若くもない年なのだが、日頃から訓練も積んでいるだけに精悍な印象を受ける。

「子爵閣下ともあろうお人が、私の様なものにお声がけくださるとは感激です」

「何をおっしゃる。卿とは共に戦った仲。戦友では無いですか。遠慮は水臭いというものです」

「嬉しいことを言ってくださいますな。ははは」

フレージェル騎士爵は、初老の男性。

頭の方はずいぶんと寂しい感じになってしまっているが、体つきは今でも鍛えられた体躯である。

特に領地を持たないが軍に所属しており、中央軍の北方部隊、俗に北軍だの北方軍だのと呼ばれる部隊に所属している軍人だ。最下級とは言え貴族号を持っていることから分かるように、普段は中間管理職として一般の兵士たちの部隊をまとめている。

北方は、オース公国を緩衝国として大国と向き合っている土地柄。油断をすれば、いつでも敵国の大軍が雪崩れ込んでくるということ。

実際、過去に何度か小競り合いは起きているし、先の大戦の折にはかなり神王国の奥深くまで攻め入られてもいる。

毎日が臨戦態勢のような場所だ。部隊長として兵を率いるフレージェル騎士爵も普段は北から動くことも無い。というより、お偉いさんはともかく下っ端の管理職など、雑用込みで中々任地を離れられるものではないのだ。

これが男爵位以上の爵位を持っているようならば、格式から言ってもそれなりに社交会に呼ばれることも有るのだろうが、騎士爵位は貴族と言っても名ばかりだ。呼んでくれるのもお義理で数合わせというのが多い。

その点、今回の社交は違う。

フレージェル騎士爵はカセロールとは二十年来の親交があり、かつてモルテールン家が騎士爵であった頃からの付き合いである。

傭兵紛いにあちこちの戦いに雇われていたカセロールは、騎士の一人として戦うフレージェル騎士と意気投合し、お互いに友誼を交わした仲。

近々息子に爵位を譲って引退するつもりであり、引継ぎを進めて多少は自由に動けるようになったということでカセロールが招待したのだ。

こういった、モルテールン家ならではの人脈を広げ、親交を深められるからこそ、社交会を主催する意義がある。

カセロールがモルテールン家主催の、それも王都での社交会を開催するのは、偏に彼のような人物と旧交を叙したいからだ。モルテールン家主催の社交における、メインゲストと言っても良いだろう。

「それにしても、少し会わない間に、モルテールン卿は子爵閣下になられた。随分と出世されたものだ」

「それもこれも、運が良かったのでしょうな」

「運だけでは功を上げられぬというのは、我々も良く知っております。前に一緒に戦った時は、アテオスとトラバルアの連合軍相手でしたか?」

「もう十五、六年は前のことですな」

「そんなになりますか。早いものだ。あの時は爵位も同じであったのに、いやはや」

昔馴染みと久方ぶりに会って、酒も入ったとなれば昔話に花が咲くもの。

今でこそカセロールの方が立場としては相当に上になったが、フレージェル騎士爵が隊を指揮してカセロールと共に戦った時などは、フレージェル騎士爵の方が立場的に上だった。

北方の大国三ヶ国のうちの二つが手を結び、オース公国を迂回するようにして攻めてきたことがある。大戦の傷も色濃く残り、戦後の体制改革を行っている最中のことだった。

当時から北方で戦っていた先代のエンツェンスベルガー辺境伯は、裏をかかれて劣勢に立たされる。フレージェル騎士爵も王領防衛の為に居たが、状況的にはかなり拙い事態に陥ったことをよく覚えている。

そこに援軍としてやってきたうちの一人が、カセロール。シイツを供として、数人だけでやってきていた。

こんな少人数で何が出来るのかと最初は侮っていたフレージェル騎士爵であったが、魔法を使って獅子奮迅の活躍を見せるモルテールン家の面々に、態度を正して協力体制を築いたのだ。

まだ、カセロールもフレージェル騎士爵も若かったころの話である。

「そういえば、モルテールン家は大龍も討伐したそうではないですか。北の辺境に居りましたから噂でしか話は聞いていませんが、カセロール殿も隊を率いて戦ったとか。モルテールン卿の武勇は留まるところを知らぬと感動したものです。是非とも共に戦いたかった」

「はは、あれは国軍として命令を受けただけのこと。それに、大龍を倒したのは私ではありませんよ」

魔の森よりまろび出た化け物は、四方八方に甚大な被害をもたらした。

直接的には言うに及ばず、間接的にも魔の森の住民を追い立てることで被害を与えている。

具体的には害獣たちだ。

一度に、そして大量に現れた森の害獣。中には大型の獣や肉食の獣もいた。

一般人ではとても対処できず、おまけに弱小の領地貴族の中にはそのまま軍を全滅させた家まであったのだ。

対処するために国軍は動くべしと命令が有り、動いた部隊の一つがカセロールの率いる第二大隊であった。

「おや? モルテールン家が大龍を倒したと聞いていたので、てっきり卿の功績かと思っていましたが」

「倒したのは確かに当家のものではありますが、私ではありません。息子です。不肖の息子ながら、一計をもって大龍を討伐せしめたのです」

元凶であった大龍を倒したのは息子であると、父親は自慢する。

カセロールにとって、息子が手柄を立てたのは誇らしいことなのだ。親馬鹿の面目躍如。

誇張はしていないにも関わらず、まるで作り話のように大げさな話となる龍討伐の物語。

「なんと、それは素晴らしい。なるほどなるほど、王都で聞く『龍の守り人』というのは、御身の御子息であったか」

かかかか、楽し気に笑うフレージェル騎士爵。

久しぶりの邂逅に、会話は実に盛り上がる。

そんなモルテールン子爵とは少し離れた場所。

社交の場の中心から、やや離れた場所に一人の少年。いや、青年が立っていた。

参加者のうち、その青年を目ざとく見つけた者が声を掛ける。

「ボンビーノ子爵、挨拶させていただいても良いかな」

「これは、フバーレク辺境伯。お声がけいただき恐縮です」

モルテールン家を介して集まった人々。

そこは、普段は余り接点のない人との出会いの場でもある。

ボンビーノ子爵ウランタと、フバーレク辺境伯の邂逅もまたそのうちの一つ。

南部閥であり海上にお役目を持つボンビーノ家と、東部閥領袖であり、陸の国境護持を役目とするフバーレク家は、意外と接点に乏しいのだ。

勿論、全くの初対面という訳でもないし、フバーレク伯がボンビーノ子爵を訪ねたこともある。

だが、どちらかと言えば社交を主催する側であることの多い両者。

王家主催でもないのに、こうして気楽な参加者としての立場で会話を交わすのもいつ以来のことか。

少なくとも、フバーレク伯が爵位を継いでからは無かったはずだ。

「卿の活躍の噂は聞いている。ここ最近はボンビーノ子爵家の名を頻繁に耳にするな」

「お耳汚しでなければ良いのですが」

お互いに社交辞令を含ませながら、雑談に興じる。

「ははは、ご謙遜を。モルテールン家のペイストリー殿と並んで、ウランタ殿の盛名は聞こえてきておりますよ」

「ペイストリー殿と比較されるほどのことは成しておりませんが、並べていただけるのは光栄なことです」

「やはり、モルテールン家からの奥方が心の支えになっているのかな」

「それは勿論」

ボンビーノ家とフバーレク家は、モルテールン家を介して遠い親戚だ。

ウランタにとってみれば、妻の弟の奥さんの兄がフバーレク伯。縁故として近しいとは言い難いかもしれないが、全くの無関係とも言い難い。

疎遠な親戚という奴だろう。

「そうそう、実はジョゼが懐妊しまして」

さらりと、爆弾発言をするウランタ。

「ほほう、それはおめでたい。無事に生まれてくることを神と精霊に祈るとしましょう」

「ありがとうございます」

フバーレク辺境伯は、笑顔で会話を続ける。

勿論、情報網を整備しているフバーレク伯家であるからして、南部閥でも有力であるボンビーノ家の細君が妊娠したことなどは既に掴んでいた。

今日この場で声を掛けたのも、ボンビーノ子爵夫人ジョゼフィーネの懐妊を知っていたからというのもある。

だからこそ、次にかける言葉も事前に検討済み。

「生まれてくる子が男の子であれば……」

もしも、の話である。

生まれてくる子供を、誕生前に性別判断することは出来ない。神王国の今の医療技術では。

魔法の使い方の研究が盛んな聖国などには、魔法で生まれてくる子供の診断をする技術もあるのだが、神王国では出生前に性別を判定することはない。

あくまでも、Ifの話。仮定の話である。

「うちの娘と婚約しないか?」

「え? はあ……」

まだ生まれてもいない子供の婚約相手を決める。

フバーレク伯には、子供が居る。それも息子と娘のどちらも。

お家存続の観点から男子を軽々に外に出すことは出来ないが、娘であればいずれ誰かに嫁がせることになる。

ならば、ボンビーノ家に嫁入りというのは実にメリットが大きい。

是非前向きにと交渉し始め、ウランタもそれなりに心を動かされつつある。

その時だった。

「あら、聞き捨てなりませんわね」

フバーレク伯の会話に割り込んできたのは、長身の女性。

神王国にその人ありと謳われた、レーテシュ女伯爵であった。