軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372話 試食

「坊、何すかコレ」

ペイスが、ウキウキで何やら塊状のものを容器によそっている。

「ふふふ、よく聞いてくれました。これこそ、陛下に献上する季節限定スイーツ。チョコミントアイスです!!」

「ちょこみんとあいす?」

「はい!!」

チョコミントアイス、とペイスが自信満々に掲げたものは、色合いは緑色であった。

更に、全体的な緑色の所々に 黒子(ほくろ) の様なものがついている。

シイツには、パッとみた見た目だけでは美味しそうには見えないのだが、ペイスが自信ありというのだから美味しいのだろう。

「更に、幾つかのフレーバーを用意してみました」

「幾つかのって……何種類作ったんですか」

「本当は31種類は最低作ろうと思ったんですが」

ペイスは最初、某アイスクリームチェーンに倣って日替わりでも毎日違った味が楽しめるだけの種類を用意しようとしたのだが、それには人手も時間も足りないことが判明。

計算上、二ヶ月ぐらい掛かりそうだった。

これは流石に勅命を果たすことが出来ないという計算であり、やむなく必要最低限に絞って試作することにしたのだ。

本当に、泣く泣く諦めた。

大手を振って厨房に籠れる理由があって、研究を続ける資金援助も受けられるというのだから、出来ることならもう二年ぐらい籠っていても良かったと、本気で思っている。

「やめて下せえ。本気で領内の行政が止まるんで」

シイツは、ペイスの本気に対して、こちらも本気で制止する。

今の状態でペイスに引きこもられれば、自動的に領主代行の任がシイツに回ってきかねない。

従士長を兼任したまま。

これはもう、オーバーワークも甚だしい。

絶対にやめて欲しいと、かなり強めにペイスへ釘を刺す。

蜂の針より太い針を、ゴンゴンゴンとこれでもかと打ち付ける。

シイツからお小言を貰うのに慣れているペイスは、それぐらいで縮こまるような殊勝な人間ではない。

むしろ開き直る。

「でしょう? 僕もその点を気にして、ストロベリー、ハニーシロップ、チョコチップの基本形で研究を止めておきました。どうですか、褒めてください!!」

「……ここは俺、怒るところだと思うんですがね」

シイツは、最早諦めている。

ペイスにスイーツを作るなと言っても無理だと。

ならば、一応は本人曰く領内の 政(まつりごと) に気を使ったというだけでも、良しとせねばなるまい。

どこが配慮だと怒りだしたくも有るが、ここはじっと堪える場面だと、シイツは自分に言い聞かせた。

「早速試食してみましょうか」

「はあ」

シイツはため息をつく。

しかし、試食には参加する。

ペイスの作るスイーツの美味しさは、従士長としてよく知っているからだ。

それに、従士長としての職務の一環でもある。

本当はペイス個人に対する依頼であったとしても、形式ではモルテールン家が請け負った仕事。

王家からの受注というのなら、粗相があってはならない。

従士長とは、仕える主人が間違ったことをしているならば諫めるのも仕事。苦言を呈するのも職務の内である。

勅命と豪語して趣味に走ったペイス。まず、お菓子作りが求められたことなのだから、ここは百歩譲って良しとしよう。

しかし、趣味に走り過ぎていては、王家の不興を買う。

献上しようとしているものが王家の求めているものであるかどうかの確認は大事なこと。

客観的な意見を心掛け、いざとなったらペイスを止める為にも、現物の確認は必要である。

「まずは……ストロベリーから行きますか」

「ストロベリーってこたあイチゴでしょう?」

「そうですね」

最初にペイスが取り出したスイーツは、ストロベリーアイスクリーム。

着色料を使っていないため綺麗なピンクとはいかないが、クリーム色のアイスの中にイチゴの果肉が混ざっている様子は華やかさがある。

赤色が斑点模様を描くアイスクリーム。

「なんでベリーなら他にも有るのに、いちごなんですかね?」

「ピー助が喜ぶからですかね?」

「は?」

意外な理由に、思わず素で反応するシイツ。

「ピー助が喜ぶんですよ。イチゴが好物なんでしょうね。折角なので、ピー助の好物も用意してあげようかと」

「そんな理由ですかい? 他の、うちでよく採れるベリーなら儲けにもなるでしょうが」

「そうは言っても、ドラゴン印でブランド化しようと思えば、ピー助の好物であることを押し出す必要があります」

「……そりゃあ、まあ」

意外と理由もちゃんとしていたことで、シイツとしては批判も出来ない。

モルテールン家が大龍を庇護下に置いているという事実は、広く知らしめることに意義があり、どうせ広めるのならば利用してやれ、というペイスの発想は分かる。

転んでもタダで起きない発想。

嫌でも大龍について名前が広がるのであれば、それをブランドイメージとして利用し、モルテールン家だけにしか出来ない広報宣伝にしてしまおうというのは理屈が通っている。

「さあ、食べてみてください」

促され、パクリと一口頬張るシイツ。

「ん? こりゃうめえ」

「そうでしょうそうでしょう。自信作ですよ」

ペイスは、シイツの美味しそうな顔を見て満足げである。

やはり、お菓子を美味しいと食べてもらえるのがペイスにとって一番うれしいことなのだ。

ストロベリーの酸味と、アイスクリームの甘さの組み合わせ。

いつの時代も最高の組み合わせであると、ペイスは信じる。

「次は、チョコチップで」

「チョコってなぁ、あれでしょう? 坊がべらぼうな金で外国から買い付けたっていう」

「そう、カカオ豆から作ったお菓子ですね。それをサクサクとした生地状にしてアイスクリームと混ぜたものです」

チョコレートだけでも高級品だというのに、それを更に加工したものを、更にアイスに混ぜる。

手間暇というのなら、恐らくお菓子研究の時間の多くがこれに費やされたであろうことは想像に難くない。

ぱくりとこれまた一口。

シイツは、ストロベリーアイスとの違いに驚く。

「甘ぇ。これは子供にゃ受けるでしょうよ」

チョコレートである。

苦みを抑え、甘さを押し出したチョコチップアイスは、口の中で蕩ける甘さだ。

スイーツを通り越してスウィーティーともいうべき、甘味のラインダンスが体中を駆け巡る。

「シイツはそれほど好みでもなさそうですね」

「さっきのいちごみてえに、果肉が入ってて酸味が有る方が俺は好みですね。甘さだけってなあちょっと。美味いっちゃあ美味いですけど、どっちを選ぶかと言われりゃあ、いちごの方でしょう」

「なるほどなるほど」

酒飲みのシイツの好みで言えば、甘さだけのチョコチップよりは、果物の味が感じられるストロベリーの方が好き。

貴重な感想であると、ペイスはこれまた満足げである。

「じゃあ、同じチョコ味ってことでチョコミントアイスもいってみますか」

「へいへい」

夏場というのであれば、清涼感のあるチョコミント味はいけるのではないか。

ペイスはそう考えて、ハーブをごっそり収穫して試してみた。

果肉の味を活かすストロベリーや、既に研究を進めているチョコレートが主体のチョコチップなどよりも遥かに時間をかけて研究した一品。

「お、こりゃ妙な味で」

「妙?」

「ミントはたまに食事で出てくるじゃねえですか」

「そうですね」

モルテールン領では、ペイスがたまに来客をもてなす料理を作る。

その際、肉料理などにはハーブが使われるのだが、一部ではミントも用いる。

魚の臭みを消すのにも使うことがあり、シイツとしてはミントの香りは料理に使われるものだという先入観があった。

違和感というのなら、普段の食事の調味料がスイーツになっていることへの違和感だろうか。

例えるなら、醬油や味噌がアイスになった感じの不思議さ。

「普段の使い方と違うんで、違和感ってんですかね。こんな使い方があったんだなと、驚きが先にきちまって」

「そうですか」

「文句なしに美味え。こいつは夏場には良いですね。俺は気に入りました。スっとする感じが涼しい感じで良いじゃねえっすか」

「高評価じゃないですか。良かった」

妙な味だと言われたときは身構えもしたが、気に入ってもらえたというのなら王宮で披露する候補にはなるだろう。

実際、ミント味については好き嫌いがはっきりと分かれやすいもの。

好きな人には一党を形成するぐらい好まれるが、嫌いな人間は顔を顰めるぐらい苦手にする。

それぞれに美味しいアイス。

しかし、これらはあくまでも前座。

「最後のハニーシロップは、特別ですよ」

「ほう」

「例の魔獣の巣から採れた蜜を使ってますから」

「ぶほっ!!」

シイツは、盛大に噴出した。

「なんで、んなもん使うんですかい」

「そりゃあ、とても美味しい食材だったからですよ。まあ、文句は食べてからってことで」

「はあ……」

ペイスをして、元の世界でもこれは作れなかったと思わしめた一品。

材料のお陰であることは言を俟たないが、現状で作れる最高のスイーツであると確信する出来栄えだ。

一口、ハニーシロップのアイスを口にしたシイツ。

「なんじゃこりゃああああ!!」

その瞬間、屋敷中に聞こえる様な大声で驚いた。

「滅茶苦茶美味ええ!! なんでこんな美味えんだ? うお、もう無くなっちまった!!」

一瞬。

ハニーシロップアイスがシイツの口の中に消えるまで要した時間だ。

食べるというよりも飲める。

今まで食べた美味しいものを全て超えていく、明らかに別次元の美味しさだ。

頭の中を直接殴られたような衝撃と、思わず手が動いてしまったほどのやみつき具合。

実に危険なスイーツが生まれてしまった。

「でしょう? この蜜。ちょっと常識の埒外で美味しいんですよ」

「坊、お代わり、後生ですから、もう一杯下せえ!!」

「試食ですよ? それだけしか作ってません」

「んな馬鹿な!! 畜生、もっと味わってくっときゃよかった!!」

シイツは、未練がましくアイスの器を舐める。

行儀の悪いことこの上ないが、器をピカピカにする勢いで舐めていた。

それぐらい美味しいアイスであるというのはペイスも知っているので、下手に指摘したりはしない。

「それでは、準備も出来たことですし王宮に連絡してください。僕にはもう一仕事ありますから」

「へいへい」

ペイスは、自分が作ったスイーツを王宮に届けるように手配を指示する。

より正確に言えば、王室へ献上するのは、アイスそのものではない。見本と作り方だ。

献上するということは、お菓子の権利全てを差し出すということ。作り方も含めて、王家への献上品である。

ペイスが見本を作って見せ、試作品を味見してもらい、いざ本番には王家の抱える優秀な料理人たちがペイスのレシピを披露するのだ。

ペイスのスイーツを振舞う、という意味では変わらないのだが、流石に伝統ある王宮の厨房に部外者は入れない。

ペイスは、作り方を厨房内でメモ書きしていた。

勿論、献上するためだ。

これを清書して、ちゃんとした献上品に仕立て上げる必要がある。

最高級の羊皮紙は何処だったかと、シイツが在庫を探し始めた時だった。

若い従士の一人が、血相を変えて駆け込んでくる。

「ペイストリー様!! 従士長!! ドラゴンに異変が!!」

ペイス達の顔色が変わった。