軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335話 水面下の動き

「ふふふ、順調ですな」

コート=マクウェルは、ほくそ笑んでいた。

自らの計画が非常に順調に動いていることに。

「モルテールンはどうですか?」

「厄介な息子は遠く離れたヴォルトゥザラ王国で、それと分からぬように仕事を押し付けられているそうですな。何でも、祝賀の料理を作る様に言われたとか」

「公は協力的に動いて下さっているようだ。実に心強い」

コート商会長に答えたのは、聖職者である。

神王国の国教たるボーヴァルディーア聖教会の高位の司祭。

ゆったりとした司祭服を身に纏う、神王国における宗教面での実力者だ。

とりわけ、教会が庇護する魔法使いの運用に関しては強い権限を持っていて、情報収集もお手の物。

今回も、かなり念入りに魔法使いを使い、モルテールン家の動きをチェックしていたし、連携する諸外国の有志とも連携を取っている。

ヴォルトゥザラ王国も、独自に動いてはいるだろう。

神王国内部で協力者を得て、聖国やサイリ王国といった神王国周辺の強国にも同志が居る現状。何憂うことなく、モルテールン家に対して工作活動を行えるというものだ。

それでなくともモルテールン家に対して恨み骨髄のヴォルトゥザラ王国。更に言えば、近年めっきり影響力を落としつつあるのがエルシャド=シャハム=ロズモ公の率いるロズモ家だ。

マクウェルが絶対の自信を持って動いた戦い。対モルテールン家の、龍素材を巡って行われる経済戦争のことだが、ここで勝利し、かつその勝利に大きくロズモ公が貢献していたとなれば、公のヴォルトゥザラ王国内での発言力も大きく取り戻せることだろう。

さすれば、コートとしてもヴォルトゥザラ王国での大きな躍進だって約束されたようなもの。

大商人による一世一代の大博打。勝利の日は目前だと鼻息も荒い。

「父親の方は、モルテールン領に居るようですが?」

「国軍に縛られている。自由には動けない。それに、父親の方は金の儲け方など知るまい」

教会は、相当に優秀な情報収集機関でもある。

近年になり、モルテールン領含めて南部一帯が羽振りの良いこともあり、重点的に情報収集していたこともあり、モルテールン家の内情はかなり詳しい部分まで調べ上げていた。

赤裸々に纏められたモルテールン家の内幕。調べられている限りでは、こと経済については当主自身に見るべきところはない。人並みに知識を持ち、苦労しているだけにある程度は分かっているようだが、生き馬の目を抜く世界で生きている商人程ではないというのが明らか。

しかも、今回はモルテールン領に居るというのも好都合である。

物の分かっていない、つまりは判断を誤りがちなトップが居るというのは、仕掛ける側としては好都合なのだ。

「手はずは整いました。既に秘密裡に動き、龍の素材を集めつつあります」

そして、コートは大国の資金援助も十分に受けた上で、龍の素材を買い集めている。

王都で行われた競売などでも龍の素材は高値で取引されたのだが、見栄の為に無理をしていた貴族も多かった。

貴族は見栄っぱりなのかと言えば、やむを得ない部分もある。

服装自由参加と言われて参加したパーティーで、周り全員がきっちりとした礼服やドレスで着飾っているなか、自分だけ普段着で参加したら居心地の悪さが半端ではない。

同じように、貴族というなら皆が皆持っている龍の素材を、自分だけ持っていないとなれば、恥である。持っていないと言われることは貧乏だと思われるし、貴族の体面を傷つけかねない。

貧乏人と思われてしまえばどうなるか。

本当に美味しい儲け話が有ったとしても、声を掛けてもらえなくなるだろうし、何かしら投資が必要な場合でも、後払いでは信用されずに常に前金を求められる。自動車や不動産を買う時、ローンを組めずに必ず現金一括払いで無いと売ってくれなくなるようなものだ。不利益というなら、信用が傷つくことで被る不利益というのが存在する。故に、多少の無理ならばぐっとこらえて周りに合わせる貴族も居たのだ。

無理して手に入れた以上、損をしないならば手放していいと考える人間は一定数存在する。

そこでコートは、龍の爪やら皮やらといった、今のところ鑑賞用途以外にはならないものを買い集め、龍の鱗の様に龍金の素材になるものと交換するように動き回ったのだ。

勿論、必要が有れば龍の鱗を金で買い取ることもした。

その甲斐あってかコートの元には、かつて競売で売られた龍の鱗のうち、六割方が集まるに至った。

ほぼ買い占めたと言っても過言ではない。

買い取れなかったものは既に龍金にされてしまったものや研究用も含まれていて、こればかりは買い取ると言っても無理だ。

「それは重畳」

司祭は、朗報に対して満足げに頷いた。

龍金が龍の鱗から出来るという情報は、最早既に一部では常識となりつつある。元々の情報がモルテールン発であったため、教会としても情報封鎖が叶わなかったのだ。

その上で一般に流れた六割方を集められたというのなら、金で手に入る龍の鱗は独占出来たと言って過言ではない。

「幾つか、問題の有る所も」

「というと」

「ボンビーノ家が、思っていた以上に龍の素材を抱え込んでいたようなのです」

「ははあ、なるほど」

先の大龍騒動において、最初に討伐を試みたのは今は無きルンスバッジ男爵家であった。

彼の男爵家が、森林からの獣害が酷いことから軍を発し、大大規模の害獣駆除作戦を行ったのがそもそもの始まり。

そこで、どこまで運が悪いのか、大龍が現れた。

狙って出来る訳も無い、千年に一度の大災害であったろう。

それにより壊滅状態になったルンスバッジ家の援軍要請を受け、近場で最も大身であったボンビーノ家が参戦。更には、ボンビーノ家に縁戚として助力する形でモルテールン家が動いた。

あとは、良く知られているようにモルテールン家の御曹司が奇策をもって大龍を討伐せしめ、世に言う大龍事件は一件落着した。

ここまでが、一般常識である。

一連の動きから分かるように、モルテールン家と共に戦ったのはボンビーノ家も同じ。大龍と正面切って戦いはしなかったのだろうが、補助戦力としては活躍したはず。

大龍の素材について、多少多めに分け前を貰っていたとして、不思議は無い。

完全独占の為の、最後の壁といったところだろうか。

「そのボンビーノ家が、龍の素材を売り惜しみでもしているのですか?」

「ええ、まあ」

「モルテールンに何か気づかれたか?」

モルテールン家とボンビーノ家の親しさは、教会も把握している。

モルテールン家からボンビーノ家に娘が嫁いでいるし、相互に防衛協定のようなものまで結んでいるという話もある。更には、モルテールン家がボンビーノ家の果樹園を租借しているのだ。

経済的にも軍事的にも、かなり親しい間柄であり、当然連絡は密に行っていることだろう。

であるならば、モルテールン家を標的にした裏工作が進行中の現在、何かしらの動きを察知してボンビーノ家に情報が流れていることはあり得る。

大事な時期、警戒をしても損はない。

「いえ……気づかれたというより、少々面倒な条件を出してきていまして」

「条件?」

ボンビーノ家が龍の素材を売るのに条件を出してきたという。

商売に疎い司祭は、詳しく説明するように求めた。

「さすれば、龍の素材を売るのは構わないが、物の引き渡し自体はしばらく先にして欲しい……と」

「何故だ」

「龍の素材は、モルテールン家との信頼の証でもあるから、手元に置いていない状況は困ると」

「引き渡しを後にすれば、何とかなるのかな?」

「金に困ってやむなく手放した、という体裁を整えることが出来る、と」

「なるほど、理屈は通る」

モルテールン家から、友好の為にと多めに渡された龍の素材。それを、金欲しさに売り払いましたとなれば友情にひびが入る。

ある程度時間を貰えれば、まとまった大金がどうしても必要な用事をでっち上げて、その為に泣く泣く手放した、という言い訳を作ることが出来るというのも、納得できた。

「別に良いではないか。物の売買が後になるとしても、買い付け出来たことに違いは無いのだろう?」

「ボンビーノ家は、もう一つ条件を出してきています」

「何だろう」

「物の引き渡しそのものは一年程度先にするが、料金自体はすぐに欲しい……と」

「ははは、それはまた強欲な」

ボンビーノ家の要請は、売り買いの契約自体は今すぐでも良い。ただし、売った金はすぐに貰って、物の引き渡しだけ一年後にしたい、というものであった。

この条件が飲めるなら、売っても良いと言っているらしい。

「先に手に入った金で、体面を整える工作をするから、と言われてしまえば、否定も出来ません」

「政治工作には金が要るものですからな。貴族の皆様方は大変だ」

司祭は、揶揄の気持ちで笑った。

「それで、司祭にはご相談です。ボンビーノ家の申し出を受けるのに、かなりの大金が動きます。“例の金”に手を付けてしまって構いませんか?」

例の金とは、表ざたには出来ない裏金である。

教会という 不可触(アンタッチャブル) な組織を経由して、外国から、それも神王国の敵となるようなところから流れ込んだ金だ。

これに手を付けてしまっては、最早一蓮托生。言い逃れも逃げ口上も通用しないだろう。

「構いません。予定外の出費となりますが、全て買いましょう」

司祭は決断した。

そして、コートも又覚悟を決めた。

ボンビーノ家の大龍の鱗がどれほど有るかは知らないが、買えるだけ買う。さすれば、龍の鱗の“現状の独占”は適うことになる。

今のところ、将来的に龍の鱗が“量産”される可能性があるのだが、それはそれ。

「後は……龍の“不幸”が起きれば……」

最後の一歩、大儲けの瞬間が近づいていることに、商人と司祭は笑みを浮かべるのだった。