軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

281話 陰謀は黒くてほろ苦く

「ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅうたこかいな」

オークションが成功裡に終わり、モルテールン家に膨大な富が流れ込んだ後。

王都ではモルテールン男爵たるカセロールは一躍時の人となり、様々な社交に引っ切り無しで連行されている中、騒動の張本人ともいえるイタズラ少年は、領地の屋敷に戻って金勘定をしていた。

大量に積みあがった金貨の山。ペイスが一つ二つと数えているのは、金貨の枚数ではない。金貨が摺り切り一杯入った壺の数を数えている。

壺一杯で金貨が約三千枚。壺自体の重さも含め、重さにして百キロ弱ある。人が持ち上げて運ぶなら大人二人掛り、或いは三人掛りになる重さであり、それがざっと見渡すだけでも百はある。

これほどの金貨が一か所に集まっているとなれば、それはそれは壮観な光景であり、若手の人間などは奇声を発しながら倒れてしまったほどだ。勿論、仕事が沢山増えて嬉しい悲鳴を上げることになる経理部門の若手だったが。

普段忙しいベテラン従士でもわざわざ見学に来る人間が居た程度には、見ごたえのある光景である。

「毎度毎度思うんですが」

「あん?」

「若様のあの数え方は何なんですか? ここに来るまで聞いたこと無かったし、他にやってる人も居ないんですけど」

「知らねえよ。数の数え方を教える前から、ああやって数えてんだ。坊のおかしなところの一つではあるが、まだ普通な部類のおかしさってもんよ」

ペイスが数の数え方を口にしだしたのは、言葉をしゃべり出したころとほぼ同時期。教えもしない数え方をしだしたときはカセロールやアニエスといった親たちも驚いたものだが、今になってしまえば数え方が多少おかしいぐらいならばむしろ普通の部類である。

盗賊相手に年齢一桁で無双するは、いきなり決闘騒動を引き起こすは、領内の産業構造を根っこからひっくり返すは。やらかしたことを数え上げれば、常識などというものの存在を疑ってしまう。

そして、挙句の果てには大龍を倒した。これに至っては最早常識の方がひきつけを起こして七転八倒するレベルの偉業。しかも、その素材を競売にかけたかと思うと、何十万、何百万という単位で金貨を稼いできた。

もはやこのレベルの大金となると、下手をすれば国家予算と言われかねない金額である。

少なくとも、ささやかな男爵領で抱え込んでいていい金額ではない。

これで騒動を起こした当人は平穏な生活がしたいなどと宣っているのだから、どの口が言うのかという話だ。

「四百三十五壺、ですね。大よその数はそれで分かりますから、あとは詳細な金額を」

四百壺を超える壺があり、その全てが金貨で埋まっているというのが判明した瞬間、周りにいたシイツ従士長やニコロは遠い目をした。百万を超える枚数の金貨。冗談抜きで、金蔵の床が抜ける心配をせねばならない。物理的に金庫の底に穴が開きそうなほどの重さのお金。よくもまあこれだけの金を稼いだものである。

「誰が数えるんで?」

答えが分かっていながら、シイツが尋ねた。

「そりゃあ、シイツやニコロがやるしかないでしょう」

「無茶言わんで下せえ。この数の金貨を一枚一枚数えるなんざ、俺の寿命の方が先にきちまいます」

「シイツも年ですからね」

「俺はまだ若い……って、そうじゃねえです。俺らは金勘定にだけ関わってられねえんですよ。他の人間にやらして下せえ」

一枚一枚数えるとして、仮に適当に十枚づつをぱぱっと数えていったとする。恐ろしく早く数えて一秒だったとしても、二千分は越える計算。ざっと毎日十二時間かけても三日四日は掛かるだろう。ただただ金貨を数え、休みなしでやって三日。洒落にならない。一瞬で十枚を数えられると仮定してこれだ。一枚二枚と丁寧にやれば、ひと月は掛かるだろう。きっと、ニコロ辺りは金貨なんてもう見たくないと、ノイローゼになる。

シイツは、せめて別の人間にやらせてくれと訴えた。最低でも人員を増やして対応すべき事案だ。

その点は、ペイスとしても認めざるをえない。もっとも、簡単にできる問題でもない。

「しかし、そうは言ってもこれだけの金貨です。下手な人間に数えさせると、魔が差すということもあるでしょう」

「そりゃまあ」

壺でひのふのみと数えるような金の山。誰がどう見ても大金だ。もしも一壺でも手に入れられれば、一生豪遊して暮らせる。

魔が差す。一壺ぐらい、一掴みぐらい、一枚ぐらい、とついポケットに金貨をしまい込んでしまったとしても、不思議は無い。何せ、何枚あるのかを誰もはっきりとわかっていないのだから。

「元傭兵の連中に数えさせますか?」

「そりゃまずい。持てるだけ持って山越えますぜ。あいつらなら」

「そうでしょう? だったら信頼できる人に数えてもらうしかないじゃないですか」

人手を増やすにしても、傭兵に数えさせてみるか。いや、そんな真似は愚策である。目もくらむような大金だ。持てるだけ持って、嬉々として国境を越えるに違いない。如何にモルテールン家と言えども、外国の土地にまで権力は及ばない。神王国の王家でも出来ることには限りがある。

信頼できる傭兵とはいえ、金という魔力が溢れまくっている場所で仕事をさせるのには不安が伴う。

どうあっても、モルテールン家の内輪で数を確定させてからでなければまともに運用できるものではないのだ。

「……いっそ使っちまうってなあどうですかい?」

「勿論そうなるでしょうが、何に使いますか?」

そもそもこれだけの金貨、置いておくのも大変だ。

モルテールン領内に置いておくとしたら、領主の屋敷に置いておくより他に置く場所が無い。下手なところに置けば、盗賊さん、いらっしゃぁいと相成る。

だったらさっさと使ってしまうべきなのだろうが、日頃贅沢もしないモルテールン家としては、使い道に困った。

「これだけの金を使うとなると……美術品ですか?」

「嫌ですよ。審美眼もないですし、うちにはその手の鑑定の出来る専門家が居ません」

「まあそうですか」

大金を使うとするなら、真っ先に思いつくのが美術品だ。絵画や彫刻とくれば、最高級品が何百クラウンもするというのは納得できるもの。資産価値もあるわけだし、幸いにして今は市場に美術品が溢れていて、買い時という話だ。誰かさんのせいで、大事な美術品を金に換えた家が幾つもあるのだから。

資産運用の一環として買い付ける手は悪くない。

しかし、そうなると出てくるのが詐欺師だ。勿論ペイスのことではない。これこそ誰それの作品だとか、何々時代の逸品だと謳い、美術品を高値で売ろうとしてくる連中が居る。

買い手側は、騙そうとしてくるブローカー相手に正しい知識と正確な鑑定をした上で買わねば、結局大損するのだ。

大貴族ならばその手の知識や経験もあろうが、モルテールン家にその手の知識や経験は無い。

「だったら宝石か宝飾品か……」

美術品が駄目となると宝石だろうか。

買い付けておけば、何かと便利に使えるかもしれないし、今まで色々と苦労を掛けているモルテールン家の女性陣にプレゼントするのも良いだろう。

「母様やリコリス辺りは喜ぶでしょうが、それも焼け石に水でしょう」

「壺一杯で足りますからね」

「贅沢な話で」

宝石や宝飾品は買う。しかし、精いっぱい高いものを買ったとしても、壺一杯の金貨で事足りる。

それ以上は買っても無駄遣いにしかなるまい。成金の浪費家と思われれば、厄介ごとも増える。

「とりあえず、一杯は精々領地に撒きますか」

「領地に撒く?」

「向こう三年、一切の税金を免除。財源はそこの壺。いけるでしょ?」

「そりゃあ、また……」

シイツは、ペイスの発言に目をむいた。

領内の税金を一切免除するとなれば、領民は喜ぶ。それは間違いない。しかし、モラル的にどうなんだと思わなくもない。

「ニコロ、どうですか?」

「やって、やれないことは無いと思います」

ニコロがざっと概算を計算し、壺を幾つか脇によけて足りると判断した。

去年一年の税収の倍額を、更に三年間。賄えてしまうというのが凄い。その上で、完全な免税を決断するのも凄いと、シイツが目を白黒させている。

尚、ニコロは平気な顔をしていた。モルテールン家に来て数年。ペイスの無茶にも慣れているわけで、無茶こそ日常である。

「あとは……何に使うか」

「土地でも買いますかい?」

「土地?」

「交渉次第じゃあ、土地を譲るってやつも居るでしょうぜ」

貴族にも色々居るわけで、どうしてもお金に困った人間であれば、土地を手放す者も居なくはない。モルテールン家とて、十年も前なら真剣にモルテールン領を売って、爵位だけの貴族になることが真剣に検討されていたのだ。

それを思えば、お隣さん辺りは今経営が苦しいと聞く。金貨を積めば、売ることに同意するかもしれない。

「そうは言っても、うちの隣は、あまり欲しいと思える土地では無いですし」

「それもそうか」

「何に使うか、じっくり考える必要はあるでしょうね」

土地を買うなら、飛び地を買っても意味が無い。モルテールン領と繋がる地続きの土地が望ましいし、何かと便利だ。

とはいえ、元々南部の辺境。隣と言っても栄えている領地は無い。レーテシュ領まで行けば良い土地もあるだろうが、それでは飛び地になるし、距離も遠い。

土地を買う。アイデアとしては悪くないが、実現性に難があるとペイスは渋る。

「坊は他に何か思いついたりは?」

中々良い提案が出来ないと、シイツがペイスに水を向けた。

その瞬間、ペイスがはっと笑顔になる。

「そうですね……良いアイデアがあります!!」

「あ~……分かった気がしますよ、俺」

「奇遇だな、俺もだ」

ニコロもシイツも、ペイスの言いたいことを即座に理解した。

この少年が満面の笑みで良いことを思いついたというのだ。

真実はいつも一つ。

「スイーツを作りましょう!!」

「ほら、やっぱり」

「案の定ってか」

最早、驚きも無い。

ペイスがスイーツを作ると言い出した。そして金が唸るほどある。

否定するものでも無いと、シイツとニコロは思考を放棄した。

「早速、買い物ですね!!」

ウキウキと、何に使うか検討し始めるペイス。

その目はキラキラと、もといギラギラと輝いていた。

◇◇◇◇◇

「よく来たなカセロール」

「陛下のお召しとあれば即座に」

国王の声に、跪いたモルテールン男爵カセロールが答える。

「よいよい、そんな堅苦しい挨拶はその方に似合わん。ドラゴンスレイヤーであろうに」

楽にしろとの言葉に立ち上がったカセロールだが、国王の言葉にはやや苦笑いで応える。ドラゴンを倒したのは自分ではないからだ。

「恐れながら、大龍を倒したのは息子であります」

「モルテールンに違いはないではないか。親も子も英雄となれば、どちらが倒そうとさほど差はあるまい」

「恐れ入ります」

実際問題として、モルテールン家が莫大な資産を手にしたことと、ドラゴンを倒したという名誉を手にしたのはその通りだ。父であるか子であるかは、貴族の家同士の関係性から見ればあまり大した違いは無い。

戦いの場において、例えば部下が敵将を倒したとする。部下には当然名声が手に入るだろうが、それを率いていた貴族もまた名誉となる。部下の名誉は貴族の名誉だ。家の名誉と考えるのならば、家中の誰が手柄を立てようと、結局は同じこと。

チームの勝利という結果からすれば、チームメイトの誰が得点したかなどは些細な話である。

息子だろうが誰だろうが、ドラゴンを倒した結果には変わりがない。国王は“あえて”そう言った。

何かしら、言いたいことがあるのだと、カセロールは神妙に背筋を伸ばす。

「ところで、モルテールン 子爵(・・) 」

「は?」

カセロールの爵位は男爵位。それを子爵と呼んだ。カリソンが間違えたのか。いや、そんなはずはない。現状の謁見は公式なものであり、記録も残る。そこで国王ともあろう立場で、ついうっかり相手の爵位を間違えるなどという失礼をかますはずがない。

つまり、そういうことである。

「その方らは今、手元に大量の金を抱えておるだろう」

「それは、その通りです」

「どれぐらいだ?」

「詳細は分かりかねます。概算であれば、六十万クラウンという話ですが」

「おお、なるほどなるほど。大金ではないか」

「はは」

実際に得た金額は更に倍以上あるとは聞いているのだが、来年度の予算やら何やら、使途が決まってしまったものを除いて、現状浮いている遊休資産という意味でカセロールは答えた。

「しかも、その金額は龍の素材の“一部”だったというではないか」

「はっ」

公式には、龍の素材は全て売れたことになっている。

しかし、実は結構な量がモルテールン家の隠し倉庫に眠っている。研究素材として有用であるし、使い道が意外に多いことが判明したからだ。

「それほどの金。抱え込むだけでは国家にとって悪影響が有る。それは分かるか?」

「はっ」

金は、回ってなんぼである。カセロールは経済に関してさほど明るい人間ではないが、金持ちが金を使わないことによる弊害は肌感覚で理解している。

昔は完全な他人事であり、金持ちのくせに金を貸してくれない連中を苦々しく思っていたものだが、今では自分が大金持ちである。

金を貯め込むだけため込んで、使わない。そんな状況が好ましくないのは子供でも分かる。

「しかし……正当な対価として得たものを、多すぎるから寄越せなどということも出来まい。そこでだ……モルテールン子爵、土地を買わぬか?」

「土地を、でございますか?」

「うむ。大きさはそうさな……この国の貴族領が全てすっぽり収まるほどの広さがある」

神王国の土地というものも、王が勝手に差配できる土地というのは意外と小さい。大抵の土地は領地貴族に与え、運営を任せてあるからだ。

しかし、王は広大な土地を売るという。

カセロールの知る限り、そんな土地は一つだけ。正しくは土地というより未開の森である。

「それは……もしかして?」

「うむ。魔の森よ。古来よりあの森に手を付けたものはことごとく没落しておる。理由はいまだに定かではないが、我々としては森の周りを住処とし、長い年月をかけてじっくり削っていくしかない。そう思っていたのだが」

「はあ」

「ここに来て、あの森を切り開こうと動くものが増えてな」

「なるほど。我々の影響ですか」

昔から魔の森を開拓しようという試みは数多く為されていた。しかし、現状でも広大な魔の森が健在であることを思えば、結果は明らかだ。多くの人命と資産と資材を飲み込み、時に牙をむく恐ろしい存在。それが魔の森だ。

「うむ。魔の森が人を寄せ付けなんだは大龍のせいであろうという意見は根強い。それが、ここに来てドラゴン討伐の報せ。魔の森を開拓する機会である……と、考える者は多いな」

しかしここに来て、魔の森開拓の機運がにわかに盛り上がっている。

理由はといえばドラゴン討伐にあることは明らかで、今なら魔の森を開拓できるのではないかという、根拠のない自信が広まっているというのだ。

「それで、我らに?」

「うむ。王家としては、魔の森に手を付けるは初代からの禁忌とされている。しかし、このまま放置しておけば魔の森は無秩序に開かれることになるだろう。これは由々しき事態だ。まだあの森の中には何が有るか分からん」

「その通りかと思います」

モルテールン家が少し入っただけでも獣がうじゃうじゃ湧いて来た魔の森。本格的に手を付ければ、何が飛び出すか分かったものではない。

「故にこそ、その方に買い取ってもらうと、王家としては荷が一つ降りる。魔の森を切り開くのに、その方らがしっかりと管理しておけば、最悪の事態になることはあるまい? 幾ら何でも大龍がもう何匹も居るとは思えん。居たとしても、その方らが居れば何とか対処も出来よう」

モルテールン家から金を回収する。そして、厄介な荷物を任せてしまう。王としては万々歳である。

貴族として、特権を与えられるのは、面倒ごとがセットになっているから。改めて自分が貴族となった瞬間を思い出したカセロールだったが、答えは一つしかない。

「……最善を尽くします」

「よいよい。では金額は六十万クラウン……いや、五十万クラウンとしておくか。金額を確認次第、魔の森の管轄権をモルテールン家に一任する。カセロール、これからも頼むぞ」

「はは」

上機嫌な王と、神妙なカセロール。

彼らはまだ、これから何が起きるのか、知る由もないのだった。

◇◇◇◇◇

カセロールが王に呼び出されている頃。

降ってわいた大金を使い、ペイスが散財の限りを尽くしていた。

「それで、坊はまた何を作ったんで?」

お菓子狂いが散財することなど、考えるまでもなく分かり切っている。

一体、何菓子を作ったのかと、シイツは半分呆れながら聞いた。

「フォンダンショコラというお菓子です、貴重なカカオもふんだんに使いましたから、これ一つで畑が買えますよ」

「こりゃまた贅沢な」

「ドラゴン様様ですね」

ペイスが作ったのはフォンダンショコラ。

チョコレートの甘い香りと、焼いたお菓子独特の香ばしさが感じられる、見るからによだれの出そうなスイーツである。

「ちょっと前なら金貨百枚単位での散財なんてはっ倒してるとこでしょうが、今なら笑って許せますぜ」

「今だけの贅沢ですね」

「それじゃあ、早速……」

「てめえ、ニコロ、何で俺より先に食ってんだよ!!」

長い船旅を経て運ばれたカカオ豆と、モルテールン産の砂糖をふんだんに使い、ペイスが心を込めて丹念に作り上げた逸品。

白く塗られた木皿の上に、チョコんと乗っている茶色い物体。ふんわりとした見た目のケーキを、さくっとフォークで取り崩す。中からはとろりと溶けたチョコレートがこんにちはと現れる。

外見からは想像できない、技巧の極致。食べる芸術品とも言うべき、ペイスの自信作だ。

「うん、うめえ」

「上出来です。我ながら今回は良く出来ました」

甘さの洪水が口の中を走り回る。

鼻腔から抜けていく香りも芳しく、一口、また一口と手が止まらない。

美味しい、ただただ美味しい。頭の天辺から抜けていくような幸福感と共に、皆が皆ぺろりと平らげてしまう。

ペイスとしても、今回の作品は久々に満足のいく作品だった。

日頃は節制を気にしながらのお菓子作りだったが、このフォンダンショコラに限って言えば、遠慮の二文字を捨て去って作ることが出来たのだ。思う存分、好きなだけ材料を使って作れたお菓子。

大満足の菓子職人は、笑顔のままお茶を飲む。

「しかし、この菓子は坊に似てますぜ」

「どこがです?」

お腹も膨れた中、ふとシイツが思いついたことを口にした。何となく、このフォンダンショコラはペイスに似ている、と。

「 外見(そとみ) は柔らかそうなくせして、中身はドロドロ」

「従士長、上手い!! おまけに中は真っ黒ってもんで」

「だはは、その通り!!」

やんややんやと、盛り上がる部下たち。

見た目だけは大人しそうでふんわりしているのに、中身を見れば黒くてドロドロしている。まさにペイスそのものだと笑いだす。

「……二人とも、良い覚悟です。仕事が増えても構わないということですね?」

「ひでえ!! 横暴だ!!」

「お菓子への侮辱は許せません。二人にはとっておきの仕事をプレゼントします。今決めました!!」

「断固反対!!」

モルテールン領はいつも通りの騒がしさ。

フォンダンショコラは甘くて蕩ける。

そして、中々にほろ苦い味であった。