軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

235話 綿飴の恋模様

寄宿士官学校の日常。ルミニートやマルカルロの無断外泊は、ペイスという身内に甘い権力者の力でバレることも無く、普段通りの生活に戻っていた。

今日も今日とて、訓練が終わって昼時。食事の時間となって食堂に向かう途中、ルミとリンとシリルが偶然一緒になった。

機会があるごとにおしゃべりをし、仲の良い三人であるから、どうせ一緒に食堂に行くのならと、食事のお誘いが為される。

「やっほぃ、ルミちゃん。お昼食べよう」

誘いをかけたのはシリルであったが、彼女が言わなければリンが同じように誘っていたはずである。

一緒に食事を食べ、お喋りをして、友情を今日も確認し合うのだ。

しかし、誘われたルミは、首を横に振った。

「ん? ああ、悪い。他に約束があるんで、先に食ってくれ」

「え?」

まさか断られるとは思っていなかったシリル。どういうことかと思わず狼狽してしまった。

自分が何か嫌われるようなことをしてしまったのだろうかというところまで思考は及んだが、何故ルミが誘いを断ったのか、答えがすぐ後に歩いて来た。

「ようルミ、飯食いに行こうぜ」

「おう」

ルミに声を掛けたのは、マルクだった。背もすっかり伸びて、体つきも大人のそれに近づき、顔立ちも男らしくなってきたマルクも、見る人によってはカッコいい方に評価するかもしれない感じだ。つまり、ルミと並んでいると、当然ながら下世話な想像を掻き立てられる。

「な、な、な!!」

「ルミちゃんに彼氏が出来た!!」

そう、ルミとマルクが、友達の誘いを断って二人一緒に食事に行く。これは誤解のしようもなく、恋人同士の関係である。リンとシリルにとっては驚天動地の衝撃である。

これは一大事だ。最大級の特ダネゴシップである。

女生徒は常に注目を浴びる環境であるわけで、このリンとシリルの騒ぎも、勿論男たちに注目されていた。つまり、ルミとマルクの仲も、ゴシップ付きで瞬く間に広まることとなる。

「「何だって!!」」

噂を聞いたのは、例の三人組の助平たちも同じだった。

自分たちが狙っていて、脈があると思っていた相手が、他人に取られたというのだ。これはどういうことかと、問いたださずにはおれまい。

例え、脈があると思っていたのが思い込みの妄想であり、自分たちを見てにこっとしてくれただけのことを誤解していたとしても。正義は我にありと、噂の真相を探るべく動き出す。

「オイ、どういうことだ?」

「相手は誰だよ」

こういう時には、平気で女生徒にも声を掛けられる男達。もっとましなことに情熱を傾けていれば、モテ要素になるかもしれないのに、実に残念な野郎どもである。

インタビューの相手は、現場を目撃したリンとシリルだ。

「ほら、幼馴染だっていう……」

インタビューの結果、衝撃的な事実がもたらされる。

ルミが食事デートをしていたのが事実と確定し、さらにお相手が自分たちの良く知る人物と判明したのだ。

「マルカルロか」

「うわぁ、マジかよ。盲点だったわ」

マルカルロ=ドロバは、平民だ。神王国では身分差が極めて大きな意義を持つ領地も多く、モルテールン領のように貴族と平民の距離が近い土地柄を知らない人間からすれば、女性が貴族たる男達を差し置いて、平民ごときに惚れるとは思っても居なかった。

それが盲点という理由である。

「俺のルミが……」

男の一人が嘆く。

彼女は、自分に惚れていたはずだという嘆きだ。あの優しい笑顔や、親し気な会話は何だったのかという嘆きだ。

当然、このような思い込みの阿呆は、周りから突っ込まれる。

「いや、仮にマルクと何も無くても、お前のじゃねえから」

「俺んだな」

「お前でもねえよ」

やいのやいの、ルミは自分の恋人であると言い出す男子たち。しかし、どう考えても全員が間違っている。それ故、リンとシリルに一喝される。

「「男子、うっさい!!」」

結局、男子たちの目線は、次なる相手としてリンとシリルに向かうのだった。

◇◇◇◇◇

自分たちが騒動の元凶になっているとは思いもよらない二人組。モルテールン幼馴染ペアのルミとマルクは、二人連れ立って食堂で食事を摂っていた。別に深い意味があって食事を共にしているわけでは無いのだが、なんとなく双方共が、それが自然なことであると感じたのだ。

かつてお互いの間にあった気まずさは既に払しょくされ、気の置けない、まるで長年連れ添った夫婦の如く自然な雰囲気がそこにあった。

「相変わらず、ここの食事は不味いよな」

ルミが、豆の何かをつつきながらぼやく。ここの食事は、薄味で大味な癖に量だけは多く、香辛料の類は一切使っていない為匂いが酷い。

デートで食べる食事とは思えないわけだがそんなことは二人にとっては関係ない。

「確かに。案外、この肉も狼の肉とかじゃねえか? ほれ、この臭いの酷さなんて、それっぽいだろ」

「止めろよ。本気にしちまうだろうが」

「うけけ」

お互いの間で交わされる、とりとめもない会話。それは、本当にお互いに絆があるからこそ生まれる会話でもあった。

そんな二人の雰囲気。気の利いた人間や、空気の読める人間は、色々と察して近づかない。あえて近づこうとする奴もいないでは無いが、周りからそっとしておけと諭されて諦める。

近づいてくるのは、本当に用事のある人間だけだ。

「二人共、ここに居ましたか」

つまり、ペイスである。

今日は二人に大事な話がある為、珍しく学校内をうろついていたのだ。

「お、ぺい…モルテールン教官。どうしたでありましょうかです」

「ぷっ、なんだその口調」

「うるっせえ。うちの教官は他の教官に無礼な真似するとシゴキがきつくなるんだよ」

マルクが教わっている教官は、ペイスの推薦で決めた軍務系の教官だ。カセロールとも派閥的に近しく、ここで同窓生とコネを作っておくのは、マルクにとっても、モルテールン家にとっても悪くないと、家中の人間からは応援されている。

礼儀作法については勉強中なところがいじらしいではないか。

「あ~、マルクとルミは、これから少し僕に付き合って下さい」

「ん? そりゃいいけど」

「何の用事だ?」

教官に呼び出されるような用事があっただろうかと首をひねる二人だが、ペイスの用事は学校の用事ではない。

即ち、お家の一大事。

「用事というのは、実験の最終段階ですよ」

そう言って、ペイスはニヤッと笑った。

◇◇◇◇◇

ペイスに誘われて教官室に着くと、ペイスは珍しく部屋の鍵を掛けた。

これだけでも、何かあると言っているようなものだ。

その上で、ペイスは二人を連れて瞬間移動する。連れていく先は、防諜体制の整った秘密の研究室である。

研究室についたペイスは、こっそりと試作していたものを、二人に手渡す。

無論、お菓子だ。

「ペイス、これは結局何なんだ?」

「魔法汎用化実験の試作品。正式な運用前に、お試しで作ってみたのです。いささかイレギュラーではありましたが、秘密を知ってしまった二人であれば……つまみ食いの罰として人体実験ですね」

ルミとマルクがつまみ食いしたのは、魔法汎用化実験の試作品。どこに跳ぶかが怪しい為、コントロールできるようになるまで隠しておくはずだったものだ。

まさか、あそこまで厳重に隠しておいたのが見つかるとは、とペイスも驚き、慌てて研究室を用意する羽目になったのだ。

「いや、俺が言ってるのは、この形なんだが」

「形……何か変ですか?」

「これ、飴なんだよな。なんでこんなふわふわした形になってんだ?」

マルクは手に取った飴と思しきものを抓む。どうにも頼りなさげにふわふわとしていて、食べるものだとは思えなかった。

「ふふふ、この形が重要なのです」

「ふ~ん、良く分からねえけど、すげえんだよな。このふわふわ」

「ふわふわではなく、綿アメと呼ぶように。これは、由緒正しき飴菓子なのですから」

綿あめ、あるいは綿菓子と呼ばれるそれは、ザラメ糖などの粒子の荒い砂糖を、溶かしながら細かい穴を通すことで糸状に加工する、飴菓子の一種。

縁日の屋台等でよく見かける、日本人にとっては馴染みのあるお菓子だが、神王国人にとっては見たことも無い摩訶不思議なお菓子に見える。

「そうなのか」

「では、早速マルク。うちの領主館の玄関前をイメージできますか?」

「あん? まあ出来ると思うけど、何なんだよ」

「そのイメージを維持したまま。綿あめを頬張ってみて下さい」

「あむ……うめえ!!」

ペイスに言われるがまま、綿あめを一口パクリ。すると、驚くほど素早く口の中で溶けていくでは無いか。

この食感は今までに経験したことが無いと、マルクも驚きつつ、もうひとくちをパクリと食べた。

この様子を見て、我慢できないのは食いしん坊のお転婆娘だ。

「マジか。マルク、俺にも寄越せよ」

「分かってるって。これ、すっげえ甘いな。その割に口に入れるとすぐに溶けてしまう」

「ええ。面白いでしょう。それはそうとマルク、イメージです。イメージ」

大事なことだと、ペイスはマルクに領主館をイメージするよう促す。これは、壮大なる人体実験なのだ。つまみ食いのバツなのだ。

すると、マルクの身体が研究室から消える。【瞬間移動】が発動したのだ。

現れた先は、モルテールン領の執務室。マルクがイメージした場所そのものだった。

「ようマルク。よく帰って来たじゃねえか……話は聞いてるぞ」

「シイツのおっちゃん、ただいま」

「コラ!! だから、おっちゃんって年じゃねえといつも言ってるだろうが」

開口一番の失礼な発言に、学校で何を学んでるんだと怒りだすシイツ。

そんないつもと変わらないやり取りの中、更にもう一人突然人影が現れる。

「ルミも来たか」

「おう」

ルミとマルク。それが、ペイスやカセロールの力を借りることなく瞬間移動してきた。

シイツとて、ペイスから内々に知らされていながら、半信半疑だった現実が目の前にある。

これは、世界を変え得る特大の爆弾だ。

「さて、それじゃあ坊に説教かますのは後でじっくりやるとして……二人共、命令を伝える」

「「ハイッ」」

流石に、ことの重大性を分かっているのだろう。多少なりとも学校で学んだ経験からか、綺麗な姿勢で敬礼する二人。

そんな二人を、シイツはニヤニヤと見つめる。

「では、妙に二人の仲が良くなっていることについて、包み隠さず洗いざらい吐け」

そして、とんでもない命令を口にした。

「「何でだよ!!」」

「ははは、お前たちの行動は逐一報告されていたんだ。こうなったら、もう祝うっきゃねえよな!!」

「はあ?」

「ルミのことはマルクが守るってか? 泣かせるじゃねえの。青春だね、青春!!」

「くそっ!! ペイスだな。あの野郎!!」

ルミとマルクの関係が深まった今日この頃。

青い空には、モコモコとした綿菓子のような雲が浮かんでいるのだった。