軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40:ドラゴンのお肉実食

ざっくりとバラしたドラゴンのお肉は、岩山の即席洞窟に運び込んだ。

さすがにドラゴン丸々一匹は重すぎるけれど、各パーツになっていれば『剛』の霊珠で持ち運べる。

お肉と岩山の隙間には瓦礫や砂を詰め込んで、できるだけ密閉を目指してみた。

ドラゴンの表面は強靭なウロコと皮膚で覆われている。これなら冷凍焼けによる劣化も少ないと思う。

途中、ものは試しということで、『剛』の霊珠をシルヴァとヴィオラに渡して使ってもらった。

「すごい力が出る。こんな重いものを持てるなど」

「信じられません」

二人とも『剛』の効果はきちんと出て、ドラゴンのお肉を運んでいた。

ただ、私に比べると効果がちょっと弱い気もする。

私であればヒョイと持ち上げられるものを、二人は懸命に力を込めてやっと、という雰囲気だった。

とはいえ、シルヴァはもちろん魔力を持たないヴィオラですら霊珠の効果を受けられるのはすごいことだ。

霊珠作成と文字刻みは私しかできないとしても、既に文字を刻んだ霊珠を預けておけばいいのだから。

だが、便利さとは同時に他人に悪用される危険でもある。そこは気をつけないといけない。

「さてさて。それではお待ちかね、ドラゴンのお肉の実食といきましょうか」

洞窟にほとんどの肉を運び込んだ後、私は手をこすり合わせた。

私たちの目の前には、どでかいササミ肉がある。

試食のために切り分けておいたものだ。

ササミももちろん、カチンコチンに凍っている。

まだ残っていた『鋭』の『刃』で一口大にカットして、焚き火で沸かした鍋のお湯に放り込んだ。

鍋の中にはヴィオラが持参した干し野菜の他、道中で確保した食べられる草類が入っている。

ところが。

「あれ……? お湯の中なのに、お肉が解凍されない?」

鍋のお湯は一応、湯気を立てている。

それだというのに、ササミは凍ったままなのだ。

おかげでお湯の温度が上がりにくく、鍋は中途半端なことになっていた。

「湯の中で溶けない氷ときたか。ありえないことばかりだな」

シルヴァが器にササミを取り出して唸っている。

「『冷凍』の効果が強すぎるということ?」

私も眉を寄せると、彼は頷いた。

「だろうな。やはりお前の霊珠は、事象というよりも概念を司るようだ。『冷凍』という状態に概念的に固定されたために、現実の事象では溶かせない」

「そんな。このままじゃお肉が食べられないよ」

「規格外をやらかしたというのに、気にするのはそこなのか」

ジト目でツッコミを入れられてしまった。

いやそりゃあ霊珠の効果が思ったよりすごそうだというのは分かったけど、より切実な問題はお肉だ。

冷凍されたままでは固くて食べられたものではない。

無理矢理に飲み込んでも胃腸の中で凍ったままでは、消化できなくてお腹を壊してしまう。

「うーんうーん。……あ、そうだ。『解凍』すればいいんじゃない?」

目には目を、歯には歯を、概念には概念を。

『冷凍』が溶けないなら『解凍』すればよろしい。

幸い、シルヴァの小屋での生活で霊珠は貯金できている。使ってしまおう。

「『解凍』!」

二文字の霊珠が光を放つ。

すると今まで茹でても凍ったままだったササミが、みるみるうちに解凍されていった。

「おっ。上手くいった」

鍋のお湯はぐつぐつ煮立って、いい匂いを漂わせてくる。

「フミャ~」

コタローがスンスンと匂いを嗅いで、うっとりとした顔になった。

このドラゴンはコタローの親の仇。しっかり食べて復讐してしまえばいい。

「うん、いい感じに煮えてきた。とりあえず食べちゃおう?」

「納得できないが……、まあ、仕方ない」

「いただきましょう。霊珠のことは、食べた後に考えればいいですよ」

シルヴァとヴィオラも口々に言って、意見がまとまった。

誰もこの美味しそうな匂いには勝てないのだ。

そしていざ、実食。

「こ、これは……!」

私はカッと目を見開いた。

「美味しい! 鳥のササミに似てあっさりしているけれど、少々の噛み応えが実にクセになる。噛むとじゅわっと旨味が出てきて、野菜汁の風味とよくマッチしている。脂の味がしない分、純粋に肉の味が楽しめる。いつまでも噛んでいたくなる味!」

「グルルル、ミャーゴ!」

コタローも喉を鳴らしながら、一心不乱にはぐはぐと食べていた。

「プリムローズの言い分は長すぎるが、確かに美味い」

「あっさり系なのに深みがあります。まさかドラゴンがこんなに美味しかったなんて」

シルヴァとヴィオラも夢中で食べ続けている。

「ササミは普通、味付けしないと物足りないのに。これはシンプルなスープでこんなに美味しい。ねえねえ、ちょっと焼いてみていい?」

私はロバ(卒倒から立ち直った)の荷物から小さなフライパンを取り出した。

火にかけて獣脂を滑らせ、残っていたササミに塩を振る。

焼いただけなのに、とても香ばしい匂いが漂った。

「うーん、こっちも美味しい! 肉汁がちゃんとあって、焼けた表面はパリッと、中はジューシー。ササミでこの味わいとは驚きだわ」

「僕にも寄越せ」

「私にも」

「ミャオーッ!」

鍋と焼肉で無限お肉サイクルが発生してしまった。

そうしてみんなでどのくらい食べただろう。

けっこうな量だったはずのササミがずいぶん減って、全員が膨れたお腹を満足そうに撫でた。

コタローもお腹をポンポコリンにして、岩の地面で幸せそうに寝そべっていた。

「はあ……美味しかった」

私は満足の吐息を漏らす。

お腹に血液がいって頭が回らないが、一つだけ思いついたことがある。

「でも、ちょっと困ったなぁ」

「困る? 何がだ。これだけ美味い上に、冷凍しておけば長持ちするんだろう。良いことずくめじゃないか」

シルヴァが言うが、私は首を振った。

「だって、冷凍状態を解除するには『解凍』が必要でしょ?」

「ああ、そうですね。プリムローズの霊珠を使わなければ、せっかくのお肉を食べることができません。商売上、これは問題です」

と、ヴィオラ。私は付け加える。

「うん、それにね、『解凍』を毎回やるのは何とかなったとしても、そうするとその場で溶けちゃうでしょ。冷凍されていれば長持ちするのに、解凍してしまえばすぐに傷んでしまう。使い勝手が悪いなーって」

実は私は、冷凍状態のままであれば、遠くまで持ち運んで商売ができるのではないかと思っていた。

冷凍肉は干し肉と違って、解凍さえすれば生肉として使える。

保存手段と運送網が未発達のこの世界において、生肉を商品として扱えるのは大きなメリットだ。

けれど今のままでは当てが外れてしまった状態だった。

「うーんうーん」

考えるが頭が回らない。お腹がいっぱいすぎる。

「ゴロニャ~」

コタローが幸せそうな顔で寝言を言った。むにゃむにゃと口元を動かして、とても可愛らしい。

頭を撫でてやるとヒゲがピクッと動いた。楽しい夢を見ているようだ。

うん、私も眠くなってきた。

「その場で溶かさずに、概念上の『冷凍』を解除できればいいのだが……」

シルヴァが呟いて、私は顔を上げた。

「そう、それよ! 『解凍』ではなく、『冷凍』だけを解除できる漢字なり熟語を探してみる!」

眠たい頭に鞭打って、考えた。

……何も浮かばない。

「あ、駄目だ。やっぱり軽く昼寝してからでいいかな」

「おいおい。自由すぎるだろ」

シルヴァが呆れているが、食後の昼寝は大事である。

私はコタローのもふもふの毛を撫でながら、短い眠りに落ちた。