軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30:ドラゴンの後始末

「さて! それじゃあ、お前に名前をつけてあげる」

私は親虎の墓の前に立って、子虎を抱き上げた。

野生動物は病気を持っているとか、そういうのはこの際気にしないでおこう。

せめて後できれいに洗ってやろうか。

子虎が首を傾げる。

「フニャー?」

「名前って分かる? お前だけの特別なものなのよ」

前世で子供たちが生まれた時のことを思い出す。

上の娘が生まれた時は、まだ夫との仲が悪化していなかった。だから二人で頭を絞って名前を考えたっけ。

「どんな名前がいいかしら……」

私が呟くと、シルヴァが首を振った。

「スノータイガーだ。スノーとかでいいだろ」

「さすがにそれは安易じゃない?」

「分かりやすいだろうが」

まあ、確かに。そんなに凝った名前をつけたいわけじゃない。

「うーん、シロとか?」

「スノーを安易と言った奴の言葉とは思えんな」

「うっ。じゃ、じゃあ、トラ」

「ミュウ……」

子虎は耳をぺたりと下げた。お気に召さないようだ。

その後もシルヴァと二人でああでもない、こうでもないとアイディアを出し合うが、今ひとつしっくり来ない。

「せっかくだから、漢字の名前をつけてやったらどうだ?」

と、シルヴァ。

「でも、漢字というものをあまり他人に知られたくないし」

「別に漢字で書くわけじゃない。問題ないだろ」

「それもそうか」

実は漢字の名前と言われて、ぱっと思いついたものがある。

「『虎太郎』はどうかな」

「コタロー?」

「うん。漢字で虎はトラ、太郎は男の子という意味なの」

先ほどさりげなく確認してみたら、この子は男の子であった。

「コタローか。風変わりな響きだが、いいんじゃないか。意味はそのまんまだが」

「どう? コタローは?」

「ミャウ!」

子虎はヒゲをぴんと立てた。どうやら気に入ってくれたようだ。

「よし、決まりね! これからよろしく、コタロー!」

「ミャア!」

子虎改めコタローは、嬉しそうに一声鳴いた。既に自分の名前と理解したらしい。

やはりスノータイガーは相当に賢い。

霊珠を二つ作ったので、少しばかり疲れた。

私たちは焚き火まで戻って、今後のことを話し合うことにした。

「あれもしたい、これもしたい。ああ、アイディアが次々に湧いてくる」

焚き火まで戻って腰を下ろすと、シルヴァは早速ぶつぶつと言い始めた。

「プリムローズ。次の霊珠はいつになれば作れる?」

「ごはん食べて少し休めば。三、四時間後くらい?」

「よし。では出来上がったら僕に寄越せ。試してみる」

「いいけど、杖は壊れてしまったのに?」

私が言うと彼は固まった。

いやまさか、忘れていたのか。

「あああ、そうだった! お前が派手に爆破したおかげで、杖作りからやらねばならん!」

「うん、ごめん。それでね、そこのドラゴンの死体は放っておいていいの?」

お腹がごっそりと空洞になったドラゴンを指さすと、シルヴァは顔をしかめた。

「放っておくしかないだろう。あれだけデカいんだ。さっきの虎とは比べ物にならんぞ、動かせるものじゃない」

「でも放置したらそのうち腐って、ひどいことになるよね?」

「それはそうだ。そうなれば他の魔獣が漁りに来る。この岩場はもう薬草の採集場所としては使えんな」

巨大ドラゴンの腐乱死体を想像し、私はちょっと背筋が寒くなった。

グロ系は強い方だが、不潔はよろしくない。

「私が殺したから、後始末もするべきかなって思うんだけど。例えば肉にして食べるのはどう?」

今であればフレッシュミートである。それこそ料理するなり干し肉にするなり、使い道はある。

「ドラゴンは食べられるかなぁ?」

「まあ、魔獣といっても生き物だからな。毒があるような種類ではない限り、食えるだろ」

つまり食べられるということだ!

私はぐっと手を握った。

「次の霊珠の使い道が決まったね。『刃』にしよう。ドラゴンを切り刻んで、干し肉を山ほど作るの!」

「ミャ!」

意味が分かったのだろうか、コタローが嬉しそうな声を上げた。

しかしシルヴァはジト目で私を見た。

「問題がいくつかあるぞ。第一に、お前の『刃』はドラゴンの体に通るのか? 戦闘時は弾かれていたが」

「むむっ。それはゆっくりウロコをこそげ取るとかで、下処理していけば何とか」

「ゆっくり? 今の手持ち食料は二日分しかないぞ。ゆっくりしている暇はない」

「ド、ドラゴンのお肉を食べれば……」

「さすがにそれだけで食いつなぐのは厳しいだろ。水を汲むにしても、川は遠い。スノータイガーとドラゴンという想定外の魔獣が出たんだ。ここ一帯で何かの異常が起きている可能性もある。長居はしたくないんだが」

「むむむ」

私は言葉に詰まった。

コタローが心配そうに見上げてくる。

「じゃあドラゴンのお肉は諦めて、ここの採集も諦めて、逃げ帰るの?」

「別に逃げるわけじゃない。ただの撤退だ。それの何が悪い」

「だって……」

私は夜の闇の中で巨大なシルエットとなったドラゴンを見た。

「だって、もったいないじゃない!」

「はあ?」

シルヴァが呆れている。

前世はお給料が安かったせいで、子供たちにお肉をお腹いっぱい食べさせる機会が少なかった。

職場が食肉加工工場だったから、社員割引があっただけマシだったが。

それでもやはり、育ち盛りの子らに豆腐ともやしばかりは良くなかったと今でも思う。

同僚に実家が農家の人がいて、ちょいちょいおすそ分けをもらっていなければ、どうなっていたことか。

それがどうだ、すぐ目の前に何百キロ、いいや何トンものお肉の塊があるのにみすみす腐らせろと?

無理だ。そんなことはできない。フードロスにもほどがある。

もったいないオバケが出る!

「肉が腐ってしまえば、死体漁りみたいな魔獣が出るんだよね」

「そうだ」

「腐らなければ来ないんだよね」

「まあ、そうなるな」

「じゃあ保存する!」

「はい?」

「ミャウ?」

簡単な話である。

私は以前、イノシシの肉を『凍』の霊珠で冷凍保管した。

干し肉と並行して美味しくいただいたものだ。

徐々に溶けてしまったので、いくらか無駄にしてしまったのが実に惜しかった。

「凍らせればいいのよ。冷凍よ、冷凍。ほら、雪の中に野菜とかを入れておくと腐らないでしょう?」

前世ではもちろん冷凍庫があったが、地元の北海道では「雪の下キャベツ」というのがあった。

秋に畑で収穫したキャベツを、そのまま雪が積もるまで野外に置いておいて、雪の冷たさで腐らせずに越冬させるというものである。

「ああ、確かに雪の中だと保存状態が良いまま長持ちするな」

「前世だと冷蔵庫と冷凍庫というのがあってね。冷凍庫がないなら、作ればいいじゃない」

私は『凍』の効果を説明した。

「『凍』一文字でもイノシシの肉はガチガチに凍ったの。これを例えば『冷凍』なんかの熟語にすれば、もっと効果はアップするはず」

凍らせて置いておけば、腐ることはない。

幸いなことにこれから冬が来る。

ここに放置しても冬の間は平気だし、少しずつ小屋に運び込んでもいい。

「待てよ? ただの冷凍じゃなくて、もっと工夫したらどうかしら」

そう例えば、『 乾燥冷凍(フリーズドライ) 』などだ。

さすがにちょっと無理があるだろうか?

しかし試してみなければ分からない。やってみるだけの価値はある。

「楽しくなってきたわ」

私はニヤリと笑った。