軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第99話 やっぱり小さいな

私は右手をギリリと握り込みます。いつでも打ち込めます。いいえ、騒ぎを起こすのは駄目です。ブチのめす。駄目です。ブチのめす。駄目です。ブチのめしましょう。それがいいでしょう。

私の中でブチのめすことが決定した瞬間、レクスに右手を握られてしまいました。

そして私を隠すように前に立ってくれています。

「マルトレディル伯爵令嬢です」

「そうか。なかなか良い面構えをしておる」

ギリリと奥歯が軋みます。何がいい面構えですか。そんなことで人は計れません。

「まぁ、気が向いたら騎士団の門を叩くと良い」

そう言ってクソジジイは背を向けて去っていきました。

はぁ〜と息を吐き出します。

そこに混じる冷気。

嫌でもわかるハイラディの氷魔法。

私がイライラを落ち着かせようとドレスのポケットを探っていると、目の前にタバコの箱が現れました。

視線を上に向けると困ったような表情をしたレクスが差し出しています。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

そう言ってタバコを一本抜き取り、火を……何故にレクスが火まで出すのですか?

タバコに火をつけて、白煙を吐き出します。

「少し後始末をしてきますので、エリアーナの下までお連れいたします」

レクスがそう言っている背後に、白銀の髪の人物が立っているではないですか!

「あ……」

私は慌てて、手に持っているタバコの火を始末しようとしていると、声がかけられました。

「ああ、そのままでいい」

「陛下!」

レクスは白銀の人物の存在に気がついていなかったようです。珍しいこともあるものです。

「ファングラン団長がこうも私に背後を取られるとは、珍しいこともあるものだな」

そういって、レクスの肩に手を置くのは、ジークフリート王太子殿下……ではなくて、ジークフリート国王陛下です。

「それで紹介してくれないか? ファングラン団長」

紹介されなくていいです。

あと、相変わらず軽々しいですね。

それで私はタバコの火を始末したいのですが?

すると、すっと灰皿が差し出されてきました。横に視線を向けると……給仕の使用人の衣装を身につけたベルラディル閣下の姿が!

灰皿にタバコを押し付けながら、その姿にドキドキします。ご老人とは思えない洗練された動きに……顔がニヤけそうです。

「何か既視感があるが? 普通の令嬢は老人に頬を染めることはないと……」

「マルトレディル伯爵令嬢です。陛下」

「ああ、あのマルトレディル伯爵の……」

その『あの』は何にかかるのでしょうか?

それからレクス。陛下の言葉を止めるのは不敬にあたるのではないのでしょうか?

「やっぱり小さいな」

「ああ?」

誰が小さいですって!

私は右足を軸にして左足に装備されている鈍器を……左足を押さえられ身体が回転し、レクスに抱えられている状態に……。

なんですこれは……いいえ、国王陛下をぶっ飛ばさなくてよかったというべきでしょう。

相変わらず、不要な一言が多いようで、ジークフリート陛下。

「凄くマルトレディル伯爵令嬢を気にいっているみたいだが、どういう関係なのか? 伯爵からは嫌われているだろう?」

「……」

「え? そうなのですか?」

これは初耳です。あのほわほわした父が誰かを嫌うことなどないと思っていました。それもその昔、同じ部隊にいてそれなりに交流がありましたのに。

あら? そう言えば、旧知の方々が集まる中にレクスが呼ばれたことは一度もありませんでした。

そうです。私は王都に来るまでレクスに会うことはなかったのですから。

ということは、レクスの大量の手紙も読んでいないという可能性があります。

それで母が伯父様に確認の連絡を取ったというところでしょう。

「ふーん。答えられないのか。答えたくないのか」

ニヤニヤしているジークフリート陛下に嫌な予感を覚えます。これは駄目なパターンですわ。

「マルトレディル伯爵令嬢」

「はい」

何故に矛先を私に向けてきたのですか! 巻き込まれるのは嫌です。

「王太子の婚約者が未だに決まらなくてな。一度会って……」

ジークフリート陛下の言葉に肌が一気に粟立ちます。これを言われると会わないという選択ができません。

「陛下。私の婚約者にと、今口説いているところなので、横槍を入れないで欲しいものです」

私の肌が粟立つのと同時にレクスがとんでもないことを口に出したのです。

今、何を言ったのですか?

「そうか。そうか。それは気がまわらなかったな。許してくれ」

「とんでもございません。陛下」

頭を下げるレクスに、頭が真っ白になって呆然とする私。

「しかし、伯爵もよく隠していたものだ」

「父が隠していた?」

ジークフリート陛下の言葉を鸚鵡返ししてしまいました。父が何を隠していたのです?

「普通は『熱雷のベルラディル』に頬を染める令嬢はいないからな」

え? 何を言っているのですか? ベルラディル閣下の素晴らしさがわからないと?

「まるで、その者の強さに惚れ込む戦士のようだ。そういう女性が好みだろうと思ってはいたが、まさか嫌われている伯爵に隠されていたとは、因果なものだな」

ジークフリート陛下は、これでファングラン公爵家も安泰だと言って、笑いながら去っていかれました。

……え? これ大変なことになっていませんか?

周りからの視線がブスブスと刺さってきます。痛いほどです。

お父様! お母様! どうしましょう!

これ絶対に、あのジークフリート陛下に誘導されたのですわ!

公然の場で、レクスの婚約者と陛下に決められてしまったようなものです!