軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第88話 盲目になるからです

「隊長。マルトレディル伯爵家とジュアシルト侯爵家の繋がりが見えてこないのですが、なぜ婚約の話が出てきたのです。そもそもジュアシルト侯爵家は辺境の地を守る国の守護を担っていますよね。いったいどういう関係ですか? 私では駄目だったのですか?」

「……」

どう考えても普通の貴族であるマルトレディル伯爵家が、国王の闇を担うファングラン公爵家の嫡男だったレクスに婚約の話を持っていくことは絶対にないです。

世界がひっくり返ってもないです。

あと、レクスの中でだいぶん混乱していませんか?

その流れだと姉である私と婚約をしたいと……私ですけど!

「旦那様。ご存知ではないのでございますか? 現当主であるジュアシルト侯爵は氷姫の会の出資者であり会員です」

アリアさん。普通はどのファンクラブに所属しているか自ら語ることはないと思います。

あと、レクスはそのファンクラブの存在を知らなかったので、そもそもその情報は頭の中にはなかったのでは?

あれ? アリアさんは知っていますよね。ファンクラブの存在を。誰もレクスに教えなかったと。

いいえ、侍従のエストはフェリランのことを良く思っていませんでしたので、わざとですね。

「失礼します。我が主。そろそろ出立するお時間となりました」

そこにエストがノックをして入ってきました。

「エスト。『氷姫の会』というのを知っているのか?」

あの? 何をエストに確認をしているのですか? レクス。

そして私はそんなレクスを無視して、タバコを灰皿に押し付けて立ち上がります。

するとエリアーナさんが着崩れがないか素早く確認していきました。

「存じております」

「なぜ、私に教えなかった」

何を言っているのですかね? レクスは?

私はエリアーナさんから扇を渡されたので、パーティーに向かうために部屋を出ていきます。

レクスを置いてです。

「主はフェリラン殿のことになると、盲目になるからです。先程もノックをせずに文句を言われておりましたが」

……もしかして、部屋の外にエストは待機していたのでしょうか?

「パートナーのご令嬢のエスコートをお忘れになっておられるようですし……」

「隊長! 待ってください! 置いていかないと約束してくれたではないですか!」

「まぁ? ファングラン騎士団団長様。私は隊長ではありませんし、約束? さて、何の約束でしょうか? 人の名前も覚えられない方との約束なんて覚えられないですわ」

私は顔だけ部屋の方に向けて言いました。

そしてレクスを置いて廊下を進んでいきます。

パーティー会場で隊長呼びされたら困りますからね。

二階から降りる中央階段に差し掛かったところでレクスが追いついてきました。

「お手をどうぞ……シエラメリーナ」

「あ?」

レクスの言葉に階段を降りようと伸ばした足を止めてしまいました。

何故に名前で呼んできたのですか。

「旦那様。マルトレディル伯爵令嬢です。それだと旦那様と親しい関係に映ってしまわれます」

流石にエリアーナさんもこのレクスの言動は危険だと思ったのでしょう。

ただの伯爵令嬢とファングラン公爵家の者が親しいなど許さないという意味です。

「主。何にでも手順というものがあります。浮かれているのは存じておりますが、本日はマルトレディル伯爵令嬢様のエスコートということを忘れてはなりません」

自分の主に『浮かれている』と言うエストもどうかと思いますけど。

「そうです。私と侍女長との最高傑作に簡単に触れられると思わないでいただきたいです」

……エリアーナさん? 何をおっしゃっているのですか?

「奥様もご令嬢もいらっしゃらないこの屋敷で、栄誉を勝ち取ったのです。馬車までのエスコートは私がいたします。旦那様は冷静になられるまで、頭を冷やしてくださいませ」

私の手を取り、階段を降りるように促してくるエリアーナさん。

あの? 先程の言動はおかしくないでしょうか?

エストさんの言い分はわかります。

婚約者でもない令嬢を名前で呼ぶなど、普通はありえません。それこそ、家族ぐるみで付き合いがあるとかですね。

だから、赤の他人の伯爵令嬢のエスコートをするのだということです。

ですが、エリアーナさんの言い分は、自分たちが頑張って着飾った私に、主であるレクスに触れるなと言ったのです。

あの栄誉って何でしょうか?

「エリアーナさん。何の栄誉なのですか?」

「それでございますか。実は、マルトレディル様の部屋仕えは多くの侍女が立候補し、最終的に勝った者がつくということだったのです。ですから、私は頑張りました」

エリアーナさんの真顔の横顔に背筋が凍ります。毒ですか、毒を使ったのですか?

「この屋敷では女主人がいらっしゃいませんから、私たちが腕を振るう機会が全く以てないのです。ですから、それを旦那様の言動で着崩れるのはとても腹立たしく感じます」

あ、それは私が暴れると思われているのですね。

今日は大人しい姉のシエラメリーナですからね。弟のために暴れることなんてありませんよ。