軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第80話 憧れの人

「それでは、私は引き続き同士に連絡をとってまいります」

アリアはそう言って部屋を出ていきました。恐らく潜伏先の予想を教えに来てくれただけだったのでしょう。

そして部屋の中にはとてつもなく落ち込んだレクスと、頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てているハイヴェーラが残されました。

あの陰険メガネのハイヴェーラのこんな姿を見ることができるとは新鮮ですね。

何事も正論で返して、相手をへこませるところしか知りませんでしたから。

「はぁ、アリアが失礼しました。代わりの侍女を用意してまいります」

疲れた様子のハイヴェーラも部屋を出ていってしまいました。

あの? できれば、レクスも連れて行ってくれませんか?

「隊長。どうしたらいいですか?」

「何がですか?」

「マルトレディル伯爵夫人に嫌われているとなると、一緒に暮らす許可がいただけないかもしれません」

その手がありました! 母にお願いすれば、一年後にアルバートがこの屋敷で暮らすということを拒否できるかもしれません。

こういうことは父ではなく、母に頼むべきですね。

「そうかもしれませんね」

「隊長!」

「それよりも、外で身体を動かしてきていいですか? 以前手合わせした訓練場をつかわせてもらいますね」

「手紙で言い訳をさせてもらったほうがいいですか?」

「あ、それは止めたほうがいいです。読まずに破り捨てられると思いますから」

私はそう言って立ち上がりました。日課の訓練の許可を屋敷の主からとったのでいいのですよね。

落ち込んでいるレクスを背に、私はショートソードを手にとって部屋を出ていったのでした。

「はぁはぁはぁはぁ……はぁ〜」

広くて誰も居ない訓練場はいいですね。

騎士団だと思いっきり訓練をするとクレームが飛んでくるのでできないのです。

私は全てが凍りついた世界の地面に仰向けで倒れ込んでいます。

星が綺麗です。

「今回もセレグアーゼに動いてもらったほうがいいのでしょう」

『空言のメアドーラ』を始末するとき、前回は後手後手に回ってしまい、暁天のガレイアという英雄を失ってしまいました。

あれは本当に衝撃だったのです。

あの暁天のガレイアが殺されたと。

『空言のメアドーラ』に接触した者は洗脳される。だから、暗殺しようにも罠にはめようにも、トドメを差すときに近づいた時点で洗脳され、逃げられるのです。

ここで力を発揮したのが、重力を無効化するセレグアーゼの魔法です。

目視できる範囲であれば、確実に捕獲しトドメを刺せるのです。

「しかし、敵の思惑がわかりません。神出鬼没のラゼンの痕跡はあるものの、野盗の移動に使われているぐらい。理由が弱すぎます」

以前は物資の供給に重要な施設が狙われ、国内各地で火の手があがり、早急に解決が必要だったのです。

この分だと王都も狙われるだろうと。

「ふむ。単純に終戦記念に向けての仕掛けではいけないのかのぅ?」

「え?」

突然、しわがれた声が頭上から降ってきました。

訓練場の周りを高い氷の壁で囲っているので、普通は誰も侵入できないはずです。

この屋敷の人は気配が掴めないので、訓練の巻き添えになってはいけないと、先に氷の壁を作ってから日課の訓練を始めたのでした。

だから、この場に誰もいないはずなのです。

身を起こして声がしたほうに視線を向けました。

そこには騎士の隊服に似た服装を身にまとった老人が立っています。

白髪をオールバックに固め、姿勢がいい老人がです。

その姿を見て心拍数が一気に上昇する感覚に襲われました。

「あ……え? まさか? そそそそんなことが?」

顔が熱くなっているのが自覚できます。

恥ずかしいところを見られてしまいました。

「ベルラディル参謀閣下!」

敬礼をして姿勢を正します。

ここに閣下がいらっしゃるということは、まさか閣下もファングラン公爵家に仕えているかたなのですか?

今は六十歳を超えているのでしょうか?

私が騎士団に入った頃に将校から参謀に昇格した方なのです。

「今はただの庭師のジジイであるから、かしこまらなくてよい」

……絶対にただの庭師ではないですよね。凄く鍛えていらっしゃいますよね。あの元団長のクソジジイ並にです。クソジジイのほうが更にジジイですが。

「ああ……あの。握手していただいてもいいでしょうか? まだ従騎士だった頃、一度だけ閣下の戦いを目にすることがあったのです」

「おかしな物言いであるのぅ。そなたは従騎士であろう?」

「あ……申し訳ございません。しかし、閣下に感謝を申し上げたいのです」

「さて? そなたから感謝を言われるようなことはしておらぬが?」

閣下から見れば、戦争を知らぬ者が何を言っているのだろうという感じなのでしょう。

しかし、私はとても感謝をしているのです。

「はい。閣下はただ敵を殲滅しておられただけです。ですが、それを見て私の目指すところが明確になったのです。一人の騎士が戦場を掌握する戦いをすることを」

「ふん! そのような大それたことはしておらぬ」

ええ、閣下は戦っておられただけ。

あれは確かこれ以上戦線を下げると都市戦に持ち込むことになり、これ以上引くわけには行かないという戦場でした。

そこで、楔として戦場に立ったのが『 熱雷(ねつらい) のベルラディル』。炎と 雷(いかずち) の特化型の魔法の使い手でした。

敗戦一色だった戦いをひっくり返したのです。そして、敵を押し戻した。

従騎士でしかなかった私は戦慄しました。

これが私の戦い方の元になった戦いでした。

「それで、庭がこのままであるとレクスイヴェール様の不都合になるのであるが?」

……レクス。このような方を本当に庭師として使っているのですか?

とても勿体ないです。

「はい。すぐに解除します。十分訓練させていただき、ありがとうございました」

やはり、この方に握手を求めるには私は若輩者でしたか。

私は白い息を吐き、氷の壁を溶かしていきます。

氷が消えたところで、私は一礼をして屋敷のほうに戻っていきます。本当にファングラン家は恐ろしいですわ。

「オレスティーラは孫娘を跡継ぎにすると言っておったのであるが、その死はオレスティーラに影を落としておる。あまり命を軽んじるものではない」

その言葉に後ろを振り向きますが、そこには誰もいませんでした。ただ私がボコボコにした地面が綺麗に整えられています。

あれ? 閣下は土属性もお持ちだったのですか?

あと、その件は私にとってどうでもいいことです。

誰もいないところで、否定しても仕方がないので、そのまま明かりがともる屋敷の中に戻っていったのでした。