作品タイトル不明
第78話 ファングラン公爵家の恐ろしいところ
「ただいま戻りました」
私が地図とにらめっこをしていると、レクスが戻ってきました。あ、帰ってきました。
「何か不自由なことはありませんか?」
そう言って部屋に入ってくるレクス。
あの、まだ終業時間になっていないと思うのですが?
窓の外を見ると、太陽が視界に入ってくるので、どう見てもまだ早いですよね。
「おかえりなさい。謹慎中ですので、不自由でいいと思います」
謹慎中の者が充実した環境にいる方がおかしいと思います。
「え? 何か不満がお有りなのですか?」
レクスが慌てたように私の隣に座ってきました。
……だから、私は謹慎中ですよね?
「今日の訓練ができないことですね」
引きこもり生活を満喫するのはいいのですが、日課の訓練ができないのが不便です。まぁ、この部屋は広いので室内でしてもいいかもしれません。
「アリアはどこにいる。隊長の要望に応えられないのなら必要ない」
レクスは侍女長のアリアがこの部屋にいないことを言っているようです。あと、あんな優秀な人材を簡単に切り捨てては駄目です。
「アリアさんには頼み事をしているのですよ」
「そうだったのですか。では訓練は私も付き合ってもよろしいでしょうか?」
「謹慎処分中ですが?」
さっきの不機嫌さはどこに行ってしまったのかというほど、笑顔で訓練に付き合いたいと言うレクス。
訓練を喜んでしたいなど、普通の騎士では言いませんよ。
あと、謹慎処分中の私が好き勝手に訓練するのもどうかと思います。
「私が指導を行うという建前なのでいいのですよ」
だから、堂々と建前と言ってどうするのですか。まぁ、この屋敷の主の許可をもらえるのであれば、日課の訓練はこなしたいところですね。
「それから、隊長に紹介しておきたい者がいるのです」
「そうですか」
誰を紹介されるのかと、視線を巡らせれば……だから、何故この屋敷の人たちは気配がないのですか!
それも見たことがある人ではないですか!
「備品管理部のハイヴェーラ補佐官殿が、いるように見えるのですが気のせいでしょうか?」
メガネ越しに見てくる冷たい視線に覚えがありますね。ただ、知っている姿より白髪が増えて、記憶よりも貫禄が増しているのですが?
いいえ、威圧と言い換えるべきでしょうか?
その馬鹿にしたような視線にイラッとしてきます。ことごとく申請書類を突き返してきた陰険メガネ!
「ご存知でしたか、この屋敷を取り仕切っている執事のハイヴェーラです。何かご要望がありましたら、気兼ねなく申し付けてください」
「お初にお目にかかります。執事を務めさせていただいております。ハイヴェーラと申します。どうぞ、ご要望がありましたら、拝聴いたします」
……レクス。これは気兼ねなく言えば、正論を言われて突き返されるパターンになると思います。
ええ、聞くだけは聞くと言っているだけです。
「レクス。騎士団出身者がいるのは何故ですか?」
それも重要なポジションについていますよね。これはわざとレクスが引き抜いたということでしょうか?
「それはファングランの使用人は一度、別の組織に所属することが求められているからですね」
「騎士団以外にもですか?」
「はい、王城や砦などに配属されています」
……ファングラン公爵家を敵に回してはいけないという本当の理由はこれですか。
主要な場所に使用人を配置しているという強力なカードを持っていると。
レクスは口にしてはいませんが、この分だと他の貴族の屋敷の中に配置されていてもおかしくはありません。
怖いです。
そのとき部屋の扉をノックする音が聞こえてきました。誰でしょうか?
「入れ」
レクスの許可と共に扉が開き、頼み事をしていたアリアが入ってきました。
あら? ハイヴェーラとアリアの容姿がどことなく似ているような気がします。
「お待たせいたしました。マルトレディル様。おおよその検討をつけたのがこちらになります」
私の側に来て地図を広げだすアリア。
王都の地図ですわね。それもかなり詳細な地図です。
その地図に何箇所か印がつけられていました。
「下町も考慮をしましたが、対象者が騎士となるとやはり貴族街中心でしょう」
王都は王城を中心とした城郭都市です。十 キロメル(㎞) 四方という広大な範囲を石の強固な壁で囲っていました。
戦時下の防御壁と言いたいところですが、用途としては魔物に対する防御壁の意味合いが強いですね。
要所要所に防衛ラインを持っているので、流石にここまで帝国の軍に侵入されたことはないです。
「一つは商業地区です。商人のふりをすれば、接触可能です。もう一つは花街です。羽目を外す者も多いでしょう。最後は既に騎士団内部に侵入されていることです。若しくは騎士団に出入りする商人というのもあります」
騎士という 的(まと) を絞って接触するには、高確率で接触できるところですね。
「ただ、本人に接触してしまえば、こちらが洗脳されます。なので同士に協力してもらうように連絡を取っているところです」
「アリア。これは何の話をしているのか聞きたいのだが?」
私が何を頼んだのか知らないレクスがアリアに尋ねました。
すると、先程まで普通に説明してくれていたアリアから表情が消えます。
「旦那様。これはクズをこの世から抹殺する話です。アレがこの世界で息をしているなど、おぞましい限りではないですか。三日です。三日あれば、我々が居場所をあぶり出し、吊し上げてこの世に生まれてきたことを後悔させてやります」
抑揚なく淡々と話すアリアに恐怖を覚えます。
これ三日では普通に無理な話です。
『空言のメアドーラ』に接触してしまえば、虚偽の情報を与えられるので、周りの者から調査して、そこに齟齬がないか調べなければならないのです。
「答えになっていない。何を頼まれたのだ」
レクス。それは私に聞いてくれればいいだけの話ですよ。
「ガレイア様を亡き者にしたクズを探し出すことです。既に多くの同士が動いてくれておりますので、三日ほどお時間をいただきたく存じます」
……多くの同士ですか。
この短時間で既に動いているというのは、未だに暁天のガレイアを慕う方々が多いということなのですね。
恐ろしいですわ。