軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第49話 一族の力を受け継ぐ者と無力の者

「一族の力? フェリランは子爵家だったはずですよね? それなりに力がある家系とは聞いたことがありませんが?」

それはそうでしょうね。フェリラン子爵家は父が中隊長の地位を得たときに子爵の爵位を叙爵したと母から聞きました。

「おや? 話していないのですか?」

マスターが私に聞いてきました。

しかし、私は視線だけを返します。次はケーキを食べるという無言の視線を向けてから食べて行きます。

この幸せの時間をそんなくだらないことに消費したくありません。

「オレスティーラ・ハイラディの長男が元フェリラン子爵という話は、当時は有名だったのですが、時代でしょうね」

「ハイラディ侯爵家……ということは、フェリラン隊長はハイラディ大将校閣下の孫」

だから私はクソジジィと言っているではないですか。

昔から腹立たしいハイラディ団長。

「氷剣のハイラディ」

痛々しいクソジジィの二つ名ですね。

しかしレクスはクソジジィの二つ名は知っていたのですか。

当時はもう前線にほとんど出ることはなかったはずです。

「ハイラディ侯爵家の力を持たなかったので、父は嫡男として扱われなかったと聞いている。しかし父親に認められたいと自力で中隊長の地位まで上ったそうだ。まぁ、どこの家にでもある話だ」

しかしその結果が戦死。本人は満足だったのかもしれないですが、残された者としては生きて帰って来て欲しかったですね。

幼い兄と乳飲み子の私を抱えた母の苦労を思うと、恨み言を言いたくなります。

「サディールは、それなりにハイラディの力を使えましたが、英雄と言われるほどの才能はありませんでしたね。ですがね……」

マスターはそこで言葉を止めてしまいました。

ハイラディの氷の魔法は扱いが難しいのです。

だから現在、氷剣のハイラディと言われたクソジジィと同様に扱える者は、一族の中にはいないというのが現状です。

「ハイラディ団長は期待してしまったのです。ハイラディの力を受け継ぐ者に……結果は酷い有様でしたね」

マスターも生死の境をさまよったそうです。そして兄が死んだとわざわざ家を訪ねてきてくれたのです。

何も遺品は持ち帰えることができなかったと。

それも兄が死んだとされる半年後にです。

それまで、母も私も兄が戦死したとは知らされていませんでした。

「それで退役して、ここでカフェのマスターをしているのですがね」

「お陰で私は戦場を忘れられる場所を得ることができたというわけだ」

ケーキを食べ終わった私はポシェットからタバコを取り出して、一服吸います。

こうしたゆっくりとした時間を過ごしていると、血なまぐさい戦場をいっときでも忘れることができるのです。

「知りませんでした。隊長がハイラディ大将校閣下の孫だったなんて」

「お陰で色々やっかみを言われたものだ。女のクセに中隊長の地位につけているのは、団長のえこひいきだととかな」

レクスが知らなくて当然でしょう。

もうあの頃になると、私の中隊の戦歴は他の部隊より群を抜いて勝率を上げていましたから、色々言ってくる者などいませんでした。

「マスター。珈琲のおかわりをもらえますか」

「かしこまりました」

私は空になってしまったカップを掲げて、珈琲のおかわりを頼みます。

昔からですが、このカフェは時間がゆっくりと流れていて居心地がいいのです。

前回はレクスに苛立って、さっさと店をでてしまいましたが。

「血族の力を受け継ぐ者には色んなものが課せられますが、力を受け継がなかった者には無言の重圧がかかるものなのです」

「それは甥のことを言っていますか」

甥。あの毎日のように絡んでくる見習い騎士の彼ですわね。ここ最近は私が野盗討伐に出ていたので、会うことはありませんでしたが。

「そうは言いませんが、フェリラン子爵もその長男もハイラディの血に囚われていたと思っています」

「他人事のように言うのですね」

「今では赤の他人です。マルトレディルにそのような一族の力がなくてよかったと私は思っていますよ」

弟のアルバートが前世の兄のように、力に振り回されなくてよかったです。

「フェリラン中隊が特攻部隊だったというのは、その……ハイラディ大将校閣下の期待からだったのですか?」

「期待……あのクソジジィの考えなど知りませんよ。私一人でどうにかなるかと言えば大間違いです。部下を鍛え上げたこその中隊です」

私はそう答えながら、空に伸びる白い煙を見上げます。

私は別にハイラディの力などどうでも良かったのです。

戦争を一日でも早く終わらせる。

それだけが、目的だったのですから。

「その訓練で、こっちは毎日ボロボロだったのですが?」

そこに、ここにはいないはずの声が聞こえてきました。

視線を路地のほうに向ければ、杖をついたおっさんがいるではないですか。

「どうしたラドベルト。今日は休日なのか?」

輸送部隊の指揮を取っていたラドベルトが、テラスの柵越しにこちらを見ていました。

五日間働いたので、同じように休暇をもらったのでしょうか?

「おう! 久しぶりに家に帰ったら、ケーキを買ってこいと娘に言われたんだ」

そうですか。ここのケーキの美味しさがわかるとは、ラドベルトの子供はいい子ではないですか。

「それで、可愛らしい格好をしているが、デートなんですか?」

「違うぞ、ラドベルト」

「そのとおりだ」

ラドベルトのデート疑惑を否定するも、隣りにいるレクスが肯定しました。いいえ、これはデートというものではありません。

「それじゃ、いつも通りマルトレディルについて回っている団長ということですか」

「ラドベルト。よくわかっているじゃないか」

ラドベルトは正確に理解していました。レクスが背後霊化していることを。

「あと、この姿のときはメリーナと呼んで欲しいです」

「相変わらずのケーキ三昧か。メリーナの嬢ちゃん」

「そうですね。珈琲なら奢りますから一緒に飲みませんか」

父からぶんどった小遣いですけどね。

「メリーナの嬢ちゃんからの誘いを断るわけにもいかないな。だが、一杯だけだぞ。遅いと娘に怒られるからな」

そう言ってラドベルトは、店の入り口に向かって行ったのでした。