軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 予定通りらしい

低い位置から差し込んでくる朝日に目を細めながら、私はレクスに捕獲されていました。

何? この状況は?

「隊長がいる。これは幻覚? 相当疲れているのか?」

「団長。上から水滴が落ちてきて冷たいので髪を拭いてください。あと本物なので解放して欲しいです」

私の今の状況は、移動している幌馬車の中にいるレクスの膝の上で、横抱きに抱えられているのです。

が! 影の鎖でグルグル巻状態という、捕縛の魔法に絡められているのです。

そして、おそらく夜中に一戦あったのであろう血だらけの鎧が横に置かれ、上半身裸のレクスに見下されているのでした。

上からボタボタと落ちてくる水滴が冷たい。

さっさと髪を拭いて欲しいです。

「ラドベルト。ぶん殴って正気に戻してくれません?」

「あーファングランの団長。色々荒れていたから、俺は関わりたくない」

それは一人で戦っていたということですか?

この幌馬車の御者席には、わざとらしい義足をつけたラドベルトが座っています。

それもちょっと身なりの良い親父風の衣服を着てです。

そしてその幌馬車の周りには、個人的に雇った護衛に扮した騎士が三人ほどついているのです。

そう、この幌馬車は囮の幌馬車だったのです。

しかしどこに向かっているのでしょうね。

「団長。髪を拭いてあげますから、この捕縛の魔法を解除してくれませんか? それとも、全部凍らせていいですか?」

「それは俺が寒くなるだけだ!」

背中をむけているラドベルトから駄目だと言われてしまいました。

でも、報告に来ただけですのに、捕縛は酷いと思います。

「隊長……隊長が……」

「隊長呼びやめましょうか」

「マルトレディルが、私の偽者を出迎えていると思うと、腸が煮えくり返って……やりすぎました」

……ええ、確かに私は偽者の団長を出迎えましたよ。それも作戦の内だと思いましたからね。

「手紙を受け取らなかったのですか?」

「受け取りましたよ」

あれから私は偽者の団長に近づいていったのです。

「団長。お帰りなさいませ」

笑顔で中身がレクスではない鎧に近づいて行きました。

すると人垣が割れて、私が通れる隙間ができたではないですか。

なんですかね。この隙間は……。

「あちらに天幕が用意されていますが、お休みになられますか?」

私は無駄に大きな天幕を指しながらいいます。偽者の団長がまとっている赤いマントに記してある同じ紋様が入った天幕をです。

すると偉そうに『うむ』と頷いた鎧は天幕の方に向かっていきます。

そしてすれ違いざまに、私に宛名がない封筒を渡して去っていきました。

ボロが出ないうちに引っ込んだという感じでしょう。

そして従騎士の私に用事を言いつけたというのを装ったということですね。

取り敢えず従騎士の仕事として、団長の食事をもらいに行きましょう……と思えば、既に天幕に運んでいる人がいるではないですか。

私の仕事が奪われてしまいました。

仕方がないので、自分の食事をもらい、伯父様が使う予定だった天幕に引っ込みます。

暗い天幕の中を光魔法で照らしながら封筒の中身を取り出しました。

封蝋もないので、誰が送ったのかもわかりませんが、レクスからの伝言でしょう。

中に入っていた手紙を読みますと、理由があり説明できないが、その者を騎士団団長として扱って欲しいという内容でした。

わかっていますよ。せっかく従騎士の仕事をしようと思っていたのに、知らない人に取られてしまいましたけどね。

しかし伯父様に言われてしまったので、食事をとったあと、私は明かりを消してそのまま横になったのでした。

ふと、目が覚めました。

どうやら私が個人的に施した罠に獲物が通過したようです。

私は天幕の入り口ではなく、森側の天幕の下をめくってイモムシのように外に這いでました。

入り口の方は拠点の中央に向けられていますので、外に出るとバレてしまうのですよ。

ええ、常時中央では明かりがともされて、見張りが交代で巡回していますから。

そして森の方にでた私は気配を消して音を立てないように森の中を駆けていきます。

ところどころ仕掛けた光の糸があるので、避けながらです。

途中からは人の魔力に反応する魔道具を設置していますので、木の上を飛びながら移動します。

あの魔道具の弱点は、地面に接していない者の魔力は感知できないのですよね。

正確には地面を伝って微細に発している魔力を感知しているのですよ。

いました。

五人。いいえ、六人でしょうか?

「やはり、指揮官が代わっても作戦に変更はない」

「騎士団団長が出てくると聞いたときはヒヤヒヤしたもんだが……で、その団長は?」

「天幕の中でおねんね中だ」

「しかし、あの奇怪のセレグアーゼまで出てきたんだろう? これ以上は危険で進めないな」

「いや、これも作戦通りの罠しかない。ここまで通ってきたが、気をつけるべきは魔力感知の魔道具ぐらいだ」

「ということは、それほど今回の作戦に自信があるということなんだろうな」

「くくくっ。こっちにはあの方々がいるというのにな」

「しかし丁度良かったな。騎士団団長を真っ先に潰せるなんてな」

「予定は二日後……いや明日の未明に決行だ」

「了解」

「了解」

そして二つの影が拠点のほうに戻っていき、三つの影が更に森の奥に進んでいっています。

残り一つは私と同じく樹上にとどまったまま。

三つの影が見えなくなってから、地面に降りて森の奥に進んだ足跡を追います。

そして樹上にいた者も同じく私と同じ行動をとり、並走しだしました。

無言で見てくる紫色の視線が痛いですわ。

はい、先程名があがっていた奇怪のセレグアーゼと言われていた伯父様です。

彼が戦場に仕掛ける罠がえげつなすぎて、つけられた痛い二つ名ですわね。

無言で戻るように訴えられていますが、私はニコリと笑って受け流します。

鎧で樹上に登ったり、私に並走したりと、その特殊な魔法が羨ましいですわね。

そして一時間の追跡の結果。敵のアジトらしきところを突き止めました。

ファレスト伯爵領側にある崩れかけた屋敷です。

おそらく避暑地の別荘として建てられたのでしょうが、今は使われていないことが明白です。

崩れた屋敷の壁から中に入り、人の気配がある場所に向かって行きます。

明かりが漏れているところは、元は食堂でしょうか。

隙間から覗き見るとかなり広い空間なのか、少しの光だけでは部屋の全貌がわかりません。

「面白いほど予定通りらしい」

「ここで騎士団を沈黙させれば、いいってことっすよね?」

「騎士団長が出張ってきたようですが、夜は天幕で休んでいるらしい。絶好の好機のようです。旦那」

「こんな老人を夜に働かせようとするな」

その声に私の背筋が凍りました。

この声はまさか……。

「あー、爺さんだけでよくねぇ? 俺いらなくねぇ?」

……私はチラリと伯父様を伺います。

特にこの二人の声に反応しておりません。

やはり前線に出ていない伯父様では気が付きませんか。

私は伯父様の左腕に触れ、引くようにサインを出します。長居は無用ですわ。

伯父様はイラッと感をだしながらも、私の意志を尊重して引いてくれました。

多分私が邪魔をしたと思っているのでしょうね。しかし、あれ以上居座っては感づかれる可能性のほうが高いです。

「何故、邪魔をしたシエラメリーナ」

拠点の近くまで戻ってきた伯父様から、見降ろされながら言われました。

私が答える前に、答え合わせをしてもよろしいでしょうか?

「伯父様。野盗側に誰がいるという情報を掴んでいたのですか?」

「それを確認する前に邪魔をしたのだろう」

そうですよね。あの会話だけでは誰があの場にいるのかはわかりません。

「そうですね。凶剣のアラドルフですか?」

伯父様の目がピクリと動きました。

図星ですか。

そうやって無意識に反応するところは変わっていませんわね。

「ではそれに風魔のエライザールを付け加えてください」

「何を言って……」

「伯父様。私は撤退をお勧めします。あの雨よけの天幕の中身と風魔のエライザールは相性最悪です。今回はネズミをあぶり出したでよろしいのでは?」

おそらく今回の作戦の要は、伯父様と内緒話をした天幕の中にあったモノです。

「私は今から団長に、このことを報告しにまいります」

「シエラメリーナ。そのような根拠のない不確かな情報を報告すべきではない」

そうですわね。普通であれば、声だけで判断はできません。

しかし、私は彼らと戦場で相まみえているのです。忘れることなどありません。

「そうですね。神出鬼没の風魔。その容姿は誰もみたことはありません。ですが、こちらの情報がだだ漏れだったのです。相手も確実に仕留められる人材は用意するでしょう」

今回、作戦の全貌が下に流されていなかった理由。それは敵に情報を流している者を見極めるためだったのです。

「伯父様。でしたら部下の方に確認してみれば、よろしいのではないのですか?ヘルバレル小隊長。彼が罠をかいくぐって道案内していましたものね」

苦い表情を浮かべている伯父様。

まさか直属の部下が敵と通じていたと思わなかったということでしょう。

しかし、恐らくネズミが二人だけということではないはずです。

確実に言えることは、上層部にネズミはいなかった。ただこれだけですわね。

それだけを言って私は感知魔法を使い、レクスがいる方向に向かって行ったのでした。

そして見覚えのあるおっさんが御者をしている幌馬車を見つけ、声をかけたところで、影の捕縛魔法に絡め取られて現在に至るのでした。

この状況、なんとかして欲しいですわ。