軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 人を試すようなヤツは嫌いだ

到着したのはレクスイヴェール・ファングランの個人の邸宅です。我が家がすっぽりと入ってしまうほどの大きさです。

この大きさで使用人はいるものの一人で住んでいるのですよね。

「お手をとうぞ」

レクスから手を差し出されたので、その手をとって地面に降り立ち……飛び降ります。

馬車に乗るときも思いましたが、台ぐらい置いて欲しいですわ。

手を離そうとしましたが、何故かそのまま掴まれていて離れません。

これはどういうことですか!

ギッと睨みつけるも、ごきげんな視線が返ってくるのみ。

そして、庭というよりは、訓練場と言っていい場所に連れてこられました。

既に日が傾いているため、地面が赤く染められています。

一瞬戦場の光景が重なってしまいました。

それを頭を振って振り払います。

ここは戦場ではないのです。

「レイピアでよろしいですか?」

そう言って私に剣を渡してくれるレクス。

昔は一般に普及している片手剣を使っていました。ですが、今の私の小柄な身体では、レイピアやショートソードが使い勝手が良かったのです。

レイピアは『突く』が一般的な攻撃の仕方になるので、決まった動きになるのが残念な感じです。

「はい」

「それでは、ご指導よろしくお願いします」

「普通は、逆ですよね」

この赤く染め上げられた訓練場に誰もいないと思いたかったのですが、残念なぐらいに人がいるのです。

おそらくレクス個人で抱えている護衛や使用人だと思うのです。

そう! 絶対にレクスがおかしいと噂になった元凶を見に来たのでしょう。

私に突き刺さる視線が痛いです。

だってどう見ても年下の小娘が団長にご指導っておかしすぎますわ。

「はぁ、それでどの程度が望み?」

「隊長の本気の剣でお願いします」

「そう」

私はそれを聞いて、レクスに背を向けて距離をとります。

「後悔はしない?」

私は振り返ってもう一度確認します。

「私の今の実力を見て欲しいのです」

「そう。それじゃ、好きにかかってきていいわよ」

小娘が偉そうに、騎士団団長に向かって先手を許します。そのことに周りがざわつきました。

だって実力を見て欲しいと言ったのですから、最初の一撃は受けてさしあげます。

レクスは周りの動揺などお構い無しに地面を蹴りました。

いいえ、一瞬で私の目の前に迫り剣を振り下ろしてきます。

それを私はレイピアで、突きの構えをとり、正確に当てていきます。剣の刃とレイピアの切っ先が衝突し火花が散りました。

それを横にいなし、私は地面を蹴ります。地面スレスレを滑るように移動し、背後に周りレイピアを構えました。

が、私の動きを予想していたように頭上から振り下ろされる剣。

左手を握り、剣の剣身に叩きつけます。

剣の軌道がズレその隙にレイピアを突き出しますが、レクスに距離をとられてしまいました。

体勢が整う前に一気に距離を詰めます。

再びレイピアを繰り出したところで、横からレクスの蹴りの一撃が繰り出され、今度は私が距離を取ることに。

……あの? 別に私が指導することは何もないのですけど。

だけどレクスは何故かキラキラとした赤い瞳を私に向けてくるのです。

いや、何もいうことは無いですよ。

「これで終わりにしましょう。それで満足していただけましたか?」

これ以上は剣を交える必要はないでしょう。私が知っているレクスとは違い、戦士として戦えています。

ええ、騎士とはいいません。

私は騎士としてではなく、生き抜く者たちを育てたのですから。

「はい。しかし本気ではないですよね」

「ぷっ。先程の言葉のことを言っています? この場で本気を出してどうするのです。そもそも出す必要がないですよね」

死人を出すつもりなのかとレクスに問いかけます。

レクスも本気を出していないように、私も本気を出していません。

そんなことをすれば、周りにいる者たちに被害が及ぶからです。

「そうですね。では剣を預かりましょう」

預かる? 返して欲しいの間違いですよね。この剣は私の剣ではないのですから。

鞘に納めた剣を横にしてレクスに差し出します。

レクスの手に渡り、私の手から重さが消えたとき、一瞬風が横切りました。胸に突きつけられる剣。

私がまとう魔装に接触し、火花が散っています。

あ? 私はもうやめようといいましたよ。

ふぅ〜と吐き出す息に冷気が混じりました。

「ふざけているのかな? レクス」

私は魔力の波動を打ち放ちます。

一瞬にして凍りつく大気。

キラキラとした氷の粒が漂っています。

私は突きつけられている剣を拳で弾き、粉々に打ち砕きました。

魔力耐性がない剣など私の力に耐えきれず、ただのゴミと化すのです。

「そんなに私の本気が見たいのなら、この場で死になさい」

そう言って私は地面を踏み鳴らします。すると氷の槍が次々と地面からはえてきました。

戦場に死をもたらす者。死神の名は伊達ではありません。

シーンと静まりかえる訓練場。

ただ季節外れの雪がチラチラと辺りに舞っています。

そして異様な光景。地面から突き出た氷の刃が人々から言葉を奪っていました

このような大規模な魔法だと、普通は五人がかりでないと引き起こせないでしょう。

「フェリラン中隊長だ。この技は本当に隊長だ」

これはもしかして、本当に私かどうか確認されていたということ?

まぁ、死人が生まれ変わったという話は聞かないですから。

視線を上に向ければ、何故か泣いているレクスが……ちょっと、私がいじめたかのようになっているではないですか。

「ちっ! 人を試すようなヤツは嫌いだ」

そう言って私は踵をかえす。

ご指導というものが終わったのでいいですよね。

どうせ明日からも顔を合わせなければならないのですから。

タバコを取り出そうとしましたが、今日はストレスが多かったのか、ポシェットの中にはもう一本も残っていません。

「ちっ!」

そのことに舌打ちをしていると、レクスの侍従が私の前に立ちはだかってきました。

「ご令嬢。これは私の不徳の致すところです。申し訳ございません」

何故に関係のなさそうな侍従が謝っているのですか?

「我が主が『フェリラン中隊長が』と、最近世迷いごとをいいはじめたのです。何度も諌めたのですが、酷くなる一方で、私のほうからその証拠を見せていただきたいと申したのです」

……どうやら、侍従の方はかなり困っていたようです。

そうですよね。死人の名を何度も己の主人が連呼しだしたのです。

それは、正気を疑いますよね。

ああ、今日の休みはこのために用意されたということですか。

「ですから、どうかお怒りは私だけに向けていただきたいのです」

侍従の視線は私というよりも少し外れた位置に向けられています。そこを見ますと、凍った地面の上で、打ちひしがれているレクスがいました。

何をしているのですか? 私は派手なパフォーマンスをしましたが、下から生えた氷の刃はレクスに当ててはいませんよ。

いくら腹が立っても、騎士団団長の……それもファングラン公爵家を敵に回すような行為はしません。

「ふん! 反省すればいいのです。それよりタバコはないかしら? 切れてしまったのよ」

私の背後霊化して、私をビビらせた件も含めて反省すればいいのです。

「こちらをどうぞ」

用意がいいレクスの侍従は、庶民が買うような安物のタバコを私に差し出してきました。

「あら? よくわかっているじゃない」

「フェリラン中隊長が好んでいたものだと記憶しております」

「そう」

タバコを箱ごと受け取り、一本取り出して咥えて火をつけます。

「あの……それで気になったのですが、あなたは姉君の……」

「しっ! おだまりなさい。私は父の命で王都にいるのです」

横目でレクスを確認しながら口止めをしました。マルトレディル伯爵である父の命でここにるので、外野が口出しをするなと。

ピクリとも反応を見せていないので聞こえていないようですね。

このまま穏便に三ヶ月を迎えたいです。

「失礼しました」

「後でいいので、ファングラン騎士団団長に私は帰ったと言ってください」

「せめて、主に言葉をかけて……」

「嫌よ」

それだけを言って私は地面を蹴り、自分の足でマルトレディル伯爵の屋敷に戻ったのでした。