作品タイトル不明
第105話 ここにいたら凍死する!
「ふむ」
それだけの言葉を発したクソジジイは、何も記入することなく、隣に渡そうとしました。
「書き込んでください」
「さて、わしには知らないことばかりであるな」
このクソジジイ! 嘘をつかないでください!
私はレクスの手を振り払って、ペタペタとクソジジイの下にいきます。足音がつたないのは、室内履きをはいているので仕方がありません。
私はまだ空欄が目立つ紙をクソジジイから取り上げ、突き返します。
「元団長だったのですよね? 情報を持っていますよね?」
「しかし、このような詳細情報は持ち合わせておらぬ」
「詳細ということは、それなりの情報は持っていますよね?」
「さてさて?」
このクソジジイ! 昔から人を苛つかせる。
「大まかな情報でもいいのです」
「ファングラン。このお子様の子守は別の者に……」
「あ? 誰が子供だって?」
私はタバコの白煙を吐きながら言います。その中に冷気が混じっていようが構いません。
「シエラメリーナ!」
「シエラメリーナの嬢ちゃん! ちょっと待った!」
伯父であるセレグアーゼとラドベルトの止める声が聞こえますがもう遅いですわ。
私は拳を構え振り切ります。しかし、その拳が受け止められてしまいました。
クソジジイにです。
「子供であろう? 先ほどからイライラしておるぐらいなら、さっさと寝ればよい」
「別に眠たくてイライラしているわけじゃないです!」
一歩踏み込みながら言います。
クソジジイの存在そのものに苛ついているのです。
「やばい! ファングランの団長、早く解散の命令を……ああ」
ラドベルト、うるさいです。部屋が凍ることもあります。
私に押し負けまいと、クソジジイも力を出しているのです。それは凍ります。
「一番情報を持っている者が情報開示を拒否する理由はなに!」
「そのようなことを、子供が口出すことではないであろう?」
「それは質問の答えではないです! だからイライラするとわからないのですか?」
「そもそもの根本的な問題である」
苛つきます。部外者が口出しするなと言いたいのはわかります。
しかし、その戦場の死神の情報は記録に残されたものしか、団長であるレクスの知識にはないというのが問題なのです。
あれは対外的に記録されたものなので、書かれていないことがあることぐらいわかりきったこと。
「扉が開かないぞ! ここにいたら凍死する!」
「はぁ、何故ハイラディ閣下を怒らせるのですか」
「だ……団長。凍りついて立ち上がれないのですが」
「シエラメリーナ、流石にハイラディ閣下との仲裁は……」
「ラドベルト。この場合はどうするのが正解なのだ?」
「気が済むまで放置するしかないです。割り込むと悪化するので」
周りがごちゃごちゃとうるさいです。
私を見下ろすクソジジイから白い息が漏れ、私の拳を押し返してきました。
私の背後に床から氷の刃が次々と生えていきます。
氷剣のハイラディ。威圧だけで氷の刃を作り出すとは、未だに鍛え続ける理由は何なのでしょうね。
しかし、力の勝負では小柄な私が押し負ける未来しかありません。
だから私は……
「この寒さは老骨には堪えるのぅ。オレスティーラよ。ガキのように意地を張っているのはどちらなのかのぅ?」
「わしが悪いと?」
「そのひねくれ具合が問題じゃと言っておる。お嬢様や。ここは、この老人の顔を立てて拳を収めてくれんかのぅ?」
「はい!」
ベルラディル閣下にそこまで言われてしまえば、拳を収めるしかありません。
そして左手に持っていた紙をベルラディル閣下に差し出します。
「あの、閣下さえ良ければ、書いていただきたいのですが」
このようなことを閣下に頼むのは気が引けてモジモジしてしまいますが、クソジジイが書かないと言い張りますので仕方がありません。
「別に書かぬとは言っておらぬ」
私の持っている紙が横から引き抜かれてしまいました。
イラァァァァァァァ!
このクソジジイ! 書くのであれば初めから書いてください!
「シエラメリーナの嬢ちゃん。こっちだ」
私がクソジジイに噛みつく前に、ラドベルトが私の両肩を掴んで強制的に移動させました。
「こういうのは俺の役目じゃないのだけどなぁ。副中隊長」
私の背後でボソボソ言っていますが、いない人の名を呼んでも仕方ないことですよ。
「ファングラン団長。凄く冷えたので戻っていいか?」
扉が開いたことを確認したアシュメディラがレクスに尋ねています。
何のために集まったのかわかりませんが、それが終わったのであればいいのではないのでしょうかね。
しかし、それを決めるのは団長のレクスですが。
「今、暖房をつけたのですぐに暖まる。席につけ将校アシュメディラ」
私は何故か再びレクスに捕獲されてしまいました。これはクソジジイに飛びかからないようにでしょうか?
「いや、これ解けるのに一時間ぐらいかかるパターンじゃないですか。その間、休憩ってことにしないですかね?」
「一時間?」
レクスはアシュメディラの言葉に疑問を覚えたようです。
あら? レクスが幹部になってからは、クソジジイの怒りは周りに被害を及ぼさなかったということでしょうか?
「三時間閉じ込められたことを思えば、今回は短いでしょう」
諦めの境地なのか、ディレニールはタバコを吸いながら、着席したままでした。
まぁ、大怪我をした影響で素早く動くことを諦めたということなのでしょうか?
「アシュメディラ。これぐらい耐えられずによく将校の地位にいるものだと感心する」
「セレグアーゼ! 俺はお前と違って常識人だ!」
そこは騎士としての能力であって、常識人は関係ないと思いますわ。