軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ローズマリーの言い分

手紙の送り主をカトリーナだと勝手に勘違いしたのはアリーヤだ。だがローズマリーだって意図していたはず。つられてノコノコ出向いたことが悔やまれるが、もう聞きたいこともない。

黙ったアリーヤにローズマリーはツンと顎を上げた。

「単刀直入に申しますわ。アルカイン様を解放しなさい」

やはりアルカインのことかと思いつつ、冷静に当たり前の返事を返す。

「それはカインに言ってください」

「あなたの横暴をわたくしが知らないとでも?!」

その後はローズマリーの妄言が止まらなかった。

彼女の中では二人は相思相愛で、アリーヤは仲を引き裂く存在らしい。アルカインは我慢しているだの、アリーヤが立場を利用して縛りつけているだのと責め立ててきた。なぜそんな話になっているのかさっぱりわからない。

「アルカイン様が王宮に戻ればわたくしもこのような場所に用はありませんわ」

「私はカインを縛りつけてなんていません」

「嘘をおっしゃい!」

「本当です。カインの意思で一緒にいてくれていると信じています」

「よくもそんなことを!身の程を弁えなさい!」

ローズマリーは一方的に否定して呪文を唱える。すると強い風が吹き荒れて、アリーヤは人形のように地面に叩きつけられた。

ーーいっ、たぁ……なんて、こと、するの、よ

どこもかしこも強くぶつけて体中が悲鳴を上げた。

なぜ王女ともあろう人が突然こんな実力行使に出たのか。だがローズマリーの目には狂気が見え隠れしている。もしかすると今までにも同じようなことをやってきたのかもしれない。

「さっさとアルカイン様を解放しなさい!」

こんなことをされて嘘でもはいと答えるべきだろう。だがアリーヤは絶対にそんなことを言いたくなかった。

「イヤ、です」

「なんですって?!」

「イヤよ。私は、カインが、好き。あなたみたいな人に、カインは渡さない」

アリーヤは不思議と怖くなかった。頭をぶつけたせいで若干意識も朦朧としており、祈りに集中できず傷を癒すこともできない。倒れ込んだままだというのにびっくりするほど冷静だ。

ーーあ、そっか。私、カインが来てくれる、って信じてるんだ

怒りの形相をしたローズマリーが再び呪文を唱え巨大な氷の刃を出現させたとき、バリンと大きな音が響いた。

「アリーヤ!」

気付けばアリーヤは温かい胸の中に包まれていた。

古語が聞こえて体中の傷が癒えていくと同時に意識もはっきりしてくる。

「大丈夫ですか?!アリーヤ!」

「カイン、ありがとう。もう大丈夫よ」

笑顔を向けるとアルカインは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。

「あなたに何かあったら私は……」

震える声でそう言ったアルカインはアリーヤを強く抱き締めた。

こんなふうに抱き締められるのは家族以外初めてで、でも今は何より安堵が勝って胸に顔を擦り寄せる。

「なぜですの?!なぜそんな女を!」

その声にアルカインから怒りのオーラがぶわっと膨れ上がった。とてつもない神力で怒りが滲み出ており、聖騎士の中には耐えられず跪く者さえいる。アルカインから凍てつくような視線を浴びたローズマリーは恐ろしくなって後ずさった。

「ア、アルカ「私の名を気安く呼ぶな!」

鋭い声にローズマリーは青ざめて震え上がる。アルカインが古語を唱えると首輪が現れローズマリーの首に巻き付き、ローズマリーは力が抜けたようにガクンと膝を突いた。

「わ、わたくしの魔力が!」

神官長がローズマリーに近づいて強い口調で話す。

「あなたには魔封じの首輪がつけられました。この先外れることはありません」

「わたくしは王女ですのよ!こんなこと!ルガッタが許しませんわ!」

叫んだローズマリーをアルカインが鋭く睨み付ける。その瞳はかつてない程怒りに満ちていた。

「あなたこそ、ただで済むとは思わないでいただきたい。この犯罪者に縄を!」

「「「はっ!」」」

「アルカ……ゴホゴホゴホッ!」

噎せ始めたローズマリーは聖騎士達に縄をかけられた。首輪が苦しくて咳き込んでいるのかと思ったが。

「ついでに私の名を呼べないように縛りました。耳障りですから」

「そ、そう」

「アルカ………ゴホッ!ゴホゴホッ!アル……ゴホゴホゴホッ!」

苦しそうなローズマリーに困惑していると急に浮遊感に襲われた。びっくりしたアリーヤは慌ててアルカインにしがみつく。

「カ、カイン!一人で歩けるわ!」

「駄目です。あれほどの目に遭ったのですから。神官長、私はアリーヤを連れて戻りますのであとはよろしくお願いします」

神官長は苦笑しながら「わかりました」と頷いてアリーヤに微笑む。

「アリーヤ様、無事、とは言い難いですが間に合ってよかったです」

「神官長、ご心配をおかけしました」

「今宵はカインが離さないでしょうが、しっかり休息をとってください」

なんだか聞き捨てならない言葉もあった気がするが、結局アリーヤはアルカインに横抱きにされた状態のまま連れ出される。

その背後では、縄を掛けられながらも何かを叫んで再び咳き込むローズマリーの姿があった。

部屋に戻ったアルカインはアリーヤを抱えたままソファに座ったので、アリーヤは膝の上に乗っている状態だ。抜け出そうにもアルカインが離してくれそうにない。とんでもなく恥ずかしいが、あんなことがあってアリーヤも甘えたい気分だった。

「アリーヤ、本当に心配しました」

「ごめんなさい。なんで湖にいるってわかったの?」

「聖騎士の一人が森に入っていく後ろ姿を見たと報告してくれたのです。ですが王女が張った認識阻害と障壁に阻まれて助けるのが遅くなりました。あんな目に遭わされて、怖かったでしょう?」

アリーヤの頬を撫でるアルカインの手は少し震えている気もして、アリーヤは安心させるように首を横に振って笑った。

「そこまででもなかったの。カインが助けに来てくれるって信じてたから」

「私を信じてくれていたのですね」

柔らかい笑みを浮かべたアルカインに優しく抱き寄せられた。その温かさが心地よく、疲れもあったせいかふわふわしてこのまま寝てしまいそうになる。そんなアリーヤの耳元でアルカインが囁いた。

「でしたらなぜ内緒で抜け出したのでしょう」

眠気が一瞬にして吹っ飛びガバッと顔を上げた。アルカインは笑顔だが目が笑っていない。すっかり忘れていたがこれは不味いと懐にあった手紙を取り出して必死に言い訳を繰り返した。

「本当に!ほんっとうにごめんなさい!その、怒ってる?」

上目づかいに様子を窺うと、黙って聞いていたアルカインは目を伏せて首を横に振った。

「怒っているわけではありません。ただ、いくら内密でと書いてあったとしても私にまで隠されるとは。少々自信を失くしてしまっただけです」

「え?」

「私はもっとアリーヤに信頼してもらっていると思っていましたから。怒ってはいませんよ。ただ悲しいだけです」

アリーヤの頭の中でガーンと衝撃音が鳴った。怒られるより鋭く刺さる言葉だ。

違う違うと必死に頭をぶんぶん振る。

「違うの!カインのことは誰よりも信頼しているわ!本当よ!私が浅はかだったの!」

「いえ、よいのです。私の力不足でしょう。気にしないでください」

そんなことを言われてハイそうですか、となるわけがない。悲しげに微笑むアルカインの服にしがみついた。

「違うの!カインはいつも私を大切にしてくれているわ!私が誰よりも信頼しているのはカインよ!私にはカインが必要なのよ!だからそんなふうに思わないで!」

「……私はアリーヤに必要ですか?」

「もちろんよ」

「本当に?」

「本当よ!」

「他の誰でもなく?」

「当たり前よ!カインじゃなきゃ嫌よ!」

「それなら頬にキスしていいですか?」

「もちろ……へ?え?な、なんでそう、なるの?」

突拍子もない言葉にアリーヤは狼狽える。一瞬聞き間違いかと思った。

だがアルカインは何でもないことのように続ける。

「あなたが抜け出したと聞いて、居ても立っても居られず……王女に襲われている姿を見て心臓が止まりそうでした。私の心を落ち着けるために、アリーヤの存在を強く確かめたいのです」

「あの、いや、それはあの」

「ああ、無理を言ってしまいましたね。忘れてください。私が一方的にアリーヤを心配していただけですから」

アルカインは悲しそうに肩を落としているが、何を言っているのか。本当にするつもりなのか。そんなことされたらアリーヤは恥ずか死ぬ。だが今は拒否権なんてない。内緒で出ていったアリーヤが悪いのだから。

おずおずと服の裾を引っ張り、勇気を振り絞る。

「あ、あの、カイン。その、一度だけなら」

「何がですか?」

「さ、さっきの。私の存在をってやつ。は、恥ずかしいんだけど、心配させちゃったし。それでカインが落ち着くなら、その」

顔を上げたアルカインは色気駄々漏れになっている。ついさっきまで悲しげだったのになぜこんな雰囲気になっているのか。よくわからないが柔らかく微笑むアルカインにじわじわと顔が赤くなる。

ドキドキしているとアリーヤの顔を覗き込んでアルカインはフフッと笑った。

「そういえば言い忘れていましたね。王女が張った障壁ですが、侵入するのに手間取りましたが中で起こったことは丸見え、丸聞こえだったのです」

「え?」

「ですのでアリーヤが、私が好きなので王女には渡さないと言ってくれて嬉しかったのですよ?」

一瞬待ったをかけたくなったがそれよりも早く、アルカインがアリーヤの頬、ではなく唇に触れるだけのキスをした。

「私もアリーヤが好きですよ。かわいいアリーヤ」

ふわりと微笑んだアルカインは、固まってしまったアリーヤを抱き寄せた。

先程は安堵に包まれた腕の中は今度は心臓が張り裂けそうにドキドキする。アリーヤの気持ちがすでにバレていて、でもアルカインも好きと言ってくれて、しかもキスまでされてしまった。恥ずかしくて堪らないくせに、嬉しくてこのままいたいとも思ってしまう。

「アリーヤ、間に合って……本当によかった」

アルカインの声が心なしか震えている。

もし逆の立場だったら、そう思うと胸がぎゅっと掴まれた気がした。

「助けてくれてありがとう、カイン。………好き」

本当に小さな声で呟いてアルカインの背中に腕を回すと、先程よりも強く抱き締め返された。

「私を殺す気ですか」

そんな呟きが聞こえた気がした。