軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルカインの誓い

まさかアリーヤがいるとは思っていなかっただろう、二人は驚いたように目を丸くした。

「アリーヤ、どうしてここに?」

「あ、ええと。ルイーズ様に急ぎのお仕事が入ってしまって。それで、あの、さ、散歩でもしようと思ったの」

しどろもどろになりながらもなんとか返事を返すと、ローズマリーがクスッと笑った。

「今代の四聖はずいぶんお転婆でいらっしゃいますのね」

言われて気付く。必死に走ってきたのでローブの裾は乱れ、首から下げているロザリオはあさっての方向を向いてしまい、亜麻色の髪も跳ねている。四聖の正装姿が台無しだった。

普段から神殿で掃除だ畑仕事だとやっているアリーヤは多少の乱れを指摘されたところで気になんてしない。だが綺麗に着飾ったローズマリーに笑われると、途端に自分の姿が恥ずかしいものに感じて勝手に顔が赤らんだ。

アルカインが気遣わしげな顔をして近づいてくるのが余計に居た堪れなくなり後ずさりする。

「アリーヤ」

「お、お邪魔しました!」

アルカインの声が聞こえたが踵を返してその場から逃げ去った。

少しでも遠くあの場所から離れたい、そんな思いで必死に駆けていたのだがここに着くまでも走ってきている。いくら体力に自信があるとはいえ足が縺れてしまった。

「キャッ!」

危うく転ぶかと思われたのだが、アリーヤの体はふわりと支えられた。誰がと思えばそれはアルカインで、相変わらず柔らかく微笑んでいる。

「危ないですよ、アリーヤ」

「あ、あれ?カイン?どうして?」

「どうしてとは?アリーヤを追ってきたのですよ」

「で。でも王女様は?」

「近衛に任せました。それよりお待たせしてしまって申し訳ありません。終わったのなら神殿に戻りましょうか」

アルカインが歩き出すのでもう大丈夫と伝えたのだが。

「また転ぶといけませんので。しっかり支えているので大丈夫ですよ」

アルカインに腰に手を回されたまま、二人で馬車に戻った。

アルカインの話では、ローズマリーは以前からリグラータに遊学に来ていたそうだ。

グレインの執務室にやってきたローズマリーに、庭園に落としたハンカチを神力で探してほしいと頼まれた。だがアルカインの高い神力を以てしてもハンカチは見つからず、ローズマリーの勘違いだろうと結論付けて部屋に戻ろうとしていたところだったらしい。

「そ、そう。私はてっきり……」

「てっきり?なんですか?」

「え?!う、ううん!なんでもないの!」

「アリーヤ?てっきり、なんですか?」

小さく呟いたつもりだったのにアルカインには聞こえていたようだ。馬車の中で詰め寄られて逃げ場所がない。

「そ、その。ふ、二人とも美男美女だし、な、なんといっても王子と王女で身分も釣り合うし!だからもしかして、カインの、こ、こ、恋人なのかな?って。ハハハ……」

先程ルイーズに四聖なら結婚相手も選び放題と言われたのも忘れて、アリーヤはカラ元気で笑ってみた。もちろん顔は引きつりまくっている。それを見たアルカインはクスクス笑いだした。

「ちょ、何がおかしいの?」

アリーヤにとっては重要案件だ。なのに笑われて少なからずショックを受ける。だがアルカインは。

「いえ、あなたがあまりにかわいいものですから」

「へ?」

「ですからあなたがとてもかわいいと」

そんなことを言ってアリーヤに微笑みかけてくる。

「な、何言っているのよ!いくらカインだってからかうのは酷いわ!」

「からかってなどいませんよ。アリーヤはとてもかわいらしいです」

手を伸ばしてきてアリーヤの髪をサラサラとすいた。

ーーか、かわいいなんて。初めて言われた

柔らかく髪を触るその手と言われた言葉に、アリーヤは恥ずかしくなって俯いた。

「誤解させてしまったようですが私に恋人はいませんし、王女のことは何とも思っていませんよ。それにアリーヤ、私はあなたのそばにいると約束したでしょう?」

「そ、そうだけど。それとこれとは……」

「同じことです。私はあなた以外の誰かと時間を共有するつもりはありません」

どういう意味かと顔を上げたアリーヤに、アルカインは髪をすいていた手を止めて愛しい者でも見るように目を細めた。そんな顔で見つめられてどうしてよいかわからず、アリーヤはまた俯きそうになる。そこに、アルカインが古語で何かを呟いたと思ったら額に柔らかいものが触れた。

一瞬放心したアリーヤだったが次の瞬間、自分が何をされたのかわかり一気に顔が真っ赤になる。

「ふぇ?カ、カイン?!な、なんで?!」

「私があなたのそばにいるという誓いです。これなら安心でしょう?」

神官の誓いは絶対だ。古語で呟いていたからなんらかの誓いを立てたのはわかる。だがアリーヤは動揺してそれどころではない。顔は真っ赤で心臓がドキドキ音を立てている。とてもではないが安心という言葉からは程遠く、どちらかといえば恥ずかしさのあまり死にそうだ。

俯くことしかできなくなったアリーヤの髪を、アルカインはまた手ですき始める。

「これで誤解は解けましたね」

「う、う、う、うん」

確かに誤解は解けた。だがそれ以上にテンパっている。額にはまだアルカインの柔らかい唇の感触が残っていて、それが熱を持って顔から火が出そうなのだ。

真っ赤な顔でカチコチに固まったアリーヤ。楽しそうにクスクス笑いながらアリーヤの頭を撫でるアルカイン。

結局神殿に帰り着くまで、二人のこの状況は続いた。