軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噂話

普段であれば家を出る時間になった。

しかし今日からは出勤時間を遅らせるため、家作りを始めることにする。

「とりあえず基本的な形でいいかな……」

横に長い家の壁に、窓や扉がついた家。地面に書き込んだ図を修正しながらイメージを整えていく。

生活に必要な施設は廃坑を改造すれば十分だから、家は寝泊りができるだけでいい。……いや、最近はまたゴロツキが店に来るようになった。もしここまで襲撃しにくるような奴が来た場合、それじゃ心もとないか。

しかし頑丈なものを作るにはそれなりの手間が必要になる。

「いっそのこと家はカモフラージュにするか」

これまで通り廃坑内を生活拠点として、新しい家はもし襲撃された場合の囮に使う。

「家屋で廃坑の入り口を塞いで、一度家を通って中に入る形にすれば……ここに住んでるようには見えるな」

そうして時間を稼ぎ、逃げるなり迎え撃つなりの準備を整えられる。ついでに罠でも仕掛けて……

「でもあまり凝るとまた時間がかかる……」

手軽にとなると、スライムを配置して侵入者に酸か毒か粘着液をぶっかける……酸と粘着液はともかく、毒は体内に入らないと効果が出ない。毒液よりも毒ガスの方が効率的だろう。毒属性の魔法が使える奴がいればいいが、まだいない。火が使えれば毒煙を出す薬を作っても……

考えが手間のかかる方向に進んでしまった。とりあえず罠は酸か粘着液で良いことにしよう。とにかく家を作らないことには話にならない。

「でもそうなると、修理のしやすい方がいい」

襲撃で破壊される可能性もある。囮として最低限必要なのは外見を維持しつつ、できるだけ早く建てられるように……となるとプレハブかな。

プレハブとはパーツをあらかじめ工場で作っておき、現場で組み立てて完成させる建築物、あるいはその工法のこと。現場での作業が少ない分、完成までが早い。そして同一の建物を建てる場合は品質のバラつきが少ないという利点がある。

発注する工場がない現状では自分でパーツを作らないといけないが、一度基準となるパーツを作ってしまえば後は楽だ。パーツ作りも『クリエイト・ブロック』で一定の大きさに揃えた石材を作れるのは実証済みだし、これを少しいじれば何とかなるだろう

「『クリエイト・ブロック』」

手始めに実験。石材の形状をいじってみる。レンガ程度の基本形を一度大きくしてから中心部に穴を開け、コンクリートブロックに……この程度は簡単だ。

これらを積み重ねて壁を作るには、セメントや粘着液が必要になる。代わりにレンガの上下に凹凸をつけてみよう。底面のへこみと上面の突起がかみ合うようにすれば一時的に固定できる。

正方形のブロックを基準として……突起は一つだと欠けた場合が心配だ。四等分して四つ、下のへこみも四つにする。突起が尖っていると怪我の元だから角を取って……

「……○ゴじゃん」

いつの間にか、石材がまるっきり世界的に有名なブロックのおもちゃに変わっていた。

目的としてはまるっきり間違ってもいない?

少なくともイメージの助けにはなる。

この石材を作る魔法を『ビルディングブロック』と名づけ……

「『ビルディング・ブロック キューブ』」

「『ビルディング・ブロック レクタングル』」

形状の指定で正方形と長方形の建築用ブロックが自由に作れるようになった。

試しにこのブロックで壁を作ってみたところ、石材自体の重さで多少の力では揺らがない。魔法で粘土状に変えた土を塗りつけて固めてみると、強度も見た目もなんら問題のない壁が完成。

これだと プレキャスト(P) コンクリート(C) 工法だが、この調子でパーツを作っていけば、プレハブ建築も実現できるだろう。

……そろそろ出勤してもいい頃かな。

「おはようございます。どうですか? 店の様子は」

昨日言われた通りに重役出勤をしてみたが、問題はなかっただろうか?

「おはようございます、店長。いくつか報告したいことがありますが……まず、今朝がたテイラー様が店にいらっしゃいました」

「支部長が? お客としてでなく?」

「はい。先日店で騒いだ男ですが、テイマーギルドに所属する従魔術師だったようです。テイラー様は所属員が起こした不祥事ということで謝罪に」

「支部長直々に? 間が悪いなぁ……」

初めてわざと重役出勤したその日に重要なお客様が来るなんて……でもこの間の悪さは少し懐かしい。それで俺はどうしたらいいのだろうか? テイマーギルドに伺ってもいいが、向こうにも都合があるだろう。

「……犯人は? 二日連続で来ましたよね?」

「どちらも単独犯で、理由は長年従魔術師をやっている自分が細々とした生活をしていて新人の、それもスライムしか使えないリョウマ様が大金を稼いでいたことが腹に据えかねた……要は嫉妬ですね。

店先で少し騒ぐ程度ならたいした罪にも問われないと高をくくり、軽い気持ちで事におよんだようです。一時の鬱憤を晴らすために、割りに合わない罰金、もしくは奉仕活動が課されることになるでしょう。

この件に関して、ギルドに賠償請求があれば交渉の席を設けるとの事ですが」

損害賠償というほど被害も無かった。支部長直々に来るくらいだから注意してくれとは言わなくてもするだろうし……

「金銭は不要。向こうにもこういう場合の対応はあるでしょうし、それに従っていただければ」

「そう仰ると思いました。テイマーギルドでは規則に則り罪を犯した彼らにペナルティーを、そして全所属員に事実と罪の重さを周知するそうです。ですが」

「問題がありますか?」

「実行犯の対応は問題ないでしょう。それとは別にお耳に入れておきたいことがもう一つ。どうもこの件で我々を擁護し、テイラー様を非難する声が出ているようです」

「犯人じゃなくて? なんで支部長が」

「店の業務を妨害した彼らはそれなりの魔獣でそれなりに長く仕事をしていたらしく、本来ならもっと高い地位にいたはずだ。不当な評価で低い地位に貶められていたからこんな事件を起こしたんだ。という話でして、我々は運悪く被害を被った形になっているようですね……今朝から噂を聞いたお客様が、心配して声をかけてくださることが何度かありました。そのつど問題が無いことと、テイラー様への感謝をお伝えしています」

被害を被ったのは事実だが……

「突然すぎると思うのは気のせいでしょうか?」

「テイマーギルドの責任者ではありますが、確かに話がやや飛躍しているように感じます」

「この件について詳しい話が知りたいのですが」

「かしこまりました。カルムに情報を集めさせましょう」

「お願いします」

他に特筆すべき報告はなく、いつもどおりの確認をした後。

見つけた今日の初仕事は……

「ホーンラビットの肉を五羽分ください」

「まいどありっ! えらいね、おつかいか?」

「はは……そんなもんです」

外見的に仕方ないとしても、複雑だ……、

「やぁ、リョウマ君じゃないか。スライムの餌、用意してあるよ」

「ありがとうございます。買ったものを届けたらすぐに伺います」

作業場から顔を出したジークさんに礼を言って、いったん店に戻ろうとした時。

「あ……ちょっと待ってくれないか?」

「はい、何でしょう?」

「スライムにこの店の掃除を一度頼めないだろうか? 服が以前より綺麗になって、作業場の匂いが気になるようになってきてね……もちろん日々の掃除はしているが、染み付いた匂いがなかなか取れないんだ」

「それでしたら後で消臭液を持ってきますよ。問題が匂いだけならそれで解決できるとおもいます」

俺は改めて店に戻り、消臭液の準備にとりかかった。

その日の夜。

終業時間を迎え、書類のチェックをしているとカルムさんが戻ってきた。

「お疲れ様です。何か分かりましたか?」

「こちらを」

書類にまとめてくれたようだ。仕事が早い。

「支部長を非難する噂話、だいぶ広まっているみたいですね」

「はい。内容に多少差異が出ていますが、テイラー様に対して好意的な噂はありません。またこの件については商業ギルドのグリシエーラ様も気にされていて、テイラー様の悪評を吹聴している何者かがいる可能性があるとのことです。

どうやらテイラー様はギルド内で微妙な立場にいらっしゃるようですね」

「確かに……」

資料を読み進めると、テイマーギルドの権力構造の図や簡単な歴史の説明が入っていた。

テイマーギルドには二つの考え方があるのは知っていたが、派閥を形成しているらしい。

片方は強い魔獣と力を重視する、現在の主流になっている派閥。

もう片方は魔獣の力ではなく如何に扱うかを重視し、魔獣との共存を図る派閥。

そもそもテイマーギルドとは過去の転移者であるシホ・ジャミールが、完成させた従魔術を世間に広め、当時の人々と魔獣へ共存共栄の道を提示したのが始まり。

きっと楽な道ではなかっただろう。そこまでの経緯は省かれているが、実際に魔獣を使う利益を示すことで、テイマーギルドとシホ・ジャミールの思想は少しずつ受け入れられた。その結果テイマーギルドは今日まで存在し続けている。

しかし残念なことに、年月を重ねるごとに彼女の思想を引き継ぐ者は減っていく。

テイマーギルドの仕事内容は、おおむね人や動物の仕事を魔獣で代用するものだと考えていい。魔獣討伐なら専門家の冒険者もいる。手紙の配達など小さな仕事なら、早馬や人にだってできる。そのため、魔獣にしかできない仕事というのは少ないのだ。つまり競合する相手がいる。

生活のために仕事をしている所属員は、より効率的に仕事をこなせる強い魔獣を求めるようになっていった……特に人族や獣人族は寿命も短く、師匠から弟子へと代が変わるごとに創設時の思想は忘れられていくことになった……か。

「現在ではエルフなど、学ぶにも教えるにも長い時間をかけられることのできる長命な種族。あるいはそんな方々に教えを受けた人々が僅かに遺志を継いでいるとのこと。テイラー様はその中の一人で、支部とはいえ高い地位にいることを嫌う者もいるようです」

「なるほど。ところでこれってうちの店の妨害とは?」

「無関係とは言い切れません」

「ですよねぇ……」

もしかして俺や店は狙われたんじゃなく、だしにするのに都合が良かっただけ?

んー……

「こちらから新しい噂って流せますか? 嘘ではなく事実を広める形で」

「商業ギルドは情報の宝庫です。新鮮な情報や噂に耳ざとい商人も大勢いますから、彼らを利用すれば容易です。内容は?」

「実は僕、つい最近リムールバードとの契約に成功したんです。それも6羽。だからもう『スライムだけしか使えない従魔術師』ではないんです。

資料を見るとこの点をあげつらって無能を贔屓しているだとか、支部長に見る目がないとか。こちらの評判を下げそうな噂もあるようですが、どうでしょう? 支部長に先見の明があったとかなんとか、いい感じに払拭できませんか?」

リムールバードは世間では契約の難しい魔獣だったはずだから。

そう聞くと、カルムさんはいい笑顔になった。

「十分ですね。見る目が無かったのはどちらかと、笑い話にもできるでしょう」

「であれば……ほどほどにお願いできますか? あまり敵は増やさないように」

「承知いたしました。ではすぐにでも」

「あ、ちょっと待った。……夜ですし、相手も分かりません。用心のためにフェイさんかリーリンさんに声をかけてください。契約外の仕事なので追加報酬も出して。それから」

廃坑の防衛体制を整えようとしていることも伝えておく。

「そういう訳なので、こちらのことはご心配なく」

「かしこまりました。ですがあまり無茶はなさいませんように」

部屋を出て行くカルムさん。

その後、彼とフェイさんが帰ってくるのを待ってから、俺は山へ帰ることにした。