軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不穏な動きと対策会議

昼を過ぎ、午後になると、患者さんが減ってくる。

そこで研修医の皆さんは、外来を交代制にして、空いた時間に勉強と研究に勤しみ、積極的に意見交換も行っている。

ちなみにその内容は……

体育会系のティントさんは、プロテインやトレーニングに興味を持ち。

薬と毒が専門のエクトルさんは、より安全性の高い麻酔や鎮痛剤を求めて。

栄養剤の研究に強い興味を持っていたクラリッサさんは、栄養素に関する調査。

皆さん、俺に各自の専門分野で協力してくれている。

「いつも本当に、ありがたいです」

「別にいいわよ、私達も興味があるんだから。それよりも、先日の化粧落としのサンプルについての話だけれど」

意見交換を始めたのは、美人女医のイザベルさん。

彼女が協力してくれているのは、俺の最も苦手とする“美容”関係。

以前、公爵家に挨拶に行った時には、バスボムやシュガースクラブを作った。

しかしそのせいで、美容に関係するものが作れる、と奥様に期待をされてしまった。

特に催促が来ているわけではないけれど、そういう方向性の勉強と製品開発も頑張りたい。

女性で医学知識もある彼女は強力な協力者だ。

たまに急患が運ばれてきたりもするが、基本的に穏やかに時間が過ぎていく。

特に経営に困っているわけでもないし、病院が暇なのはいいことである。

そして、夕方。

帰宅の準備をしていると、メイドのリリアンさんがやってきた。

「リョウマ様。少々お時間をいただきたいのですが」

もう帰るだけだったので、問題ないと告げると、会議室に案内された。

室内には警備会社担当の、ヒューズさんとジルさん。

ゴミ処理場を主に担当してくれているゼフさんとカミルさん。

俺のサポートをしてくれている、リリアンさん、ルルネーゼさん、リビオラさん。

ここまでは、公爵家から派遣されたいつものメンバーなのだが、

「リーリンさん?」

「店主、こんばんは」

洗濯屋勤務のリーリンさんがいた。

別に彼女がここにいるのが悪いというわけではないのだけれど、公爵家の顔ぶれに1人交ざっているのは珍しいというか、これまでにないことだ。

とりあえず座って、話を聞いてみる。

まず最初に口を開いたのは、リーダー(研修中)のヒューズさん。

「リョウマも来たし、話を始めるぞ。無駄な話は省いて本題からいく。“例の調査”についてだが、8割方終わった」

ああ、あの件についてか。しかし、8割方?

「調査のほうは完了まであと一息。引き続き継続ってことでいいんだが……調査の過程で妙な行動をしてる奴が見つかってな。そいつについての対応を話し合いたい」

「対象者は?」

「洗濯屋の店員で、新しく入った警備担当の“ユーダム”って男だ」

彼、か……

「リーリンさんがこの場にいる、ということは、既に調査を進めていたんですね?」

「その通りネ」

「事後承諾になっちまうが、ちょっとした確認のつもりだったんだ。だよな?」

「そう、最初は私と父のカンだけ。証拠ない。

あの人、お店の仕事がない時間に、よく出歩いてただけ」

「仕事はちゃんとしてるし、休憩時間に外の空気が吸いたくなることもあるだろ? 俺もそうだし、そいつもそうかもしれない。ってな感じで、特別変ってわけじゃなかったんだと」

「しかし、彼女とその父上は元々裏の仕事を生業としていたと聞いている。それ故に感じるものがあったのだろう」

ジルさんの言葉に、リーリンさんが頷く。

「私、ちょっと気になった。だから、あの人が出かける時、ついていくことにした。街を案内する、一緒に行きたい、言ったらとても喜んだよ」

「ああ……想像できそう」

ユーダムさん、ちょっと女性に対して軽い感じだからなぁ……

その分、警備中も愛想いいし、お店に来る子供から奥様方まで、女性からの評価は高いって聞いてるけど。

「で、結果が黒だったと」

リーリンさんが一度頷くと、ルルネーゼさんに目を向ける。

その手元には紙が数枚あり、おそらく彼の行動が書かれているのだろう。

「最初は街中を歩き回るだけだったそうですが、最近は探りを入れるような行動も目立ちます。それも“リョウマ様の関わった場所を中心に”です。

転んで怪我をしたという理由で病院を訪れたり、警備会社の訓練に興味があるので見学できないかと尋ねたりしていたと、職員の証言がありました」

「ゴミ処理場にも来ていることを確認してますし、子供たちの話によると、建て直した“子供の家”の周辺にも姿を見せているそうですよ」

「坊ちゃんが潰した元スラム街のあたりをうろついて、建築作業員の休憩中に話しかけたって情報もありやすぜ」

「いくら今では区画整理が進められているとはいえ、少し前までスラム街だった場所を、理由なくうろつくというのは、普通の行動ではありませんね」

「最後に、これはつい先日のことですが、フェイ様が普段以上に周囲を警戒して外出する彼の姿を確認。尾行したところ、路地裏で男性1人と接触し、手紙のようなものを受け渡す現場を目撃したそうです」

ルルネーゼさんに続いて、カミルさんとゼフさんからも情報が出た。

リビオラさんの普通の行動ではない、という意見も確かにそうだろう。

そして最後の手紙受け渡し現場……

「ルルネーゼさん。そこまで情報が集まっているとなると、彼がどこかの密偵、もしくは調査員であることは間違いなさそうですね」

「我々はほぼ確信しています。ただ、リーリンさんが仰るには、その手の人間にしては分かりやすい。ろくに訓練を受けていない、素人同然だと」

そうなのか? と彼女に目を向けると、

「店主、これは父とも話した。間違いないネ。お金か何か貰って、情報を流しているだけ、と思います」

「なるほど」

ユーダムさんとは正直、出会ってまだ日は浅い。

彼について、俺が知らないことはあるだろうし、彼が話していないこともあるだろう。

その道のプロかどうかはともかく、こちらの害になる行動をされると困るのは事実。

しかし、

これまでの彼の行動を、俺が知る範囲で思い出してみると、裏切りみたいな行為をするような人じゃないと思うんだけど……性格は軽いけど。でも、俺も人を見る目に自信があるわけじゃないしな……

それに何より、その道のプロだったフェイさんとリーリンさんが、彼をスパイと判断した。

そうなると、間違いの可能性はない。あったとしてもかなり低い確率だろう。

証拠は十分、俺は2人を信頼しているし、腕前を疑うつもりもない。

「問題は、どう対処するかですね」

「そこなんだ。ユーダムって奴がどこかに情報を流してるのは間違いない。だが、小金に目が眩んだ素人を捕まえても大した意味はない。フェイさんが言うには、ユーダムの密会相手は“本物”だろうってことだから、捕まえるならそっちだな。

しかし本物の諜報員が相手なら、こちらの些細な動きを察知して姿を消す可能性もある、というわけで行動は慎重にしなきゃいけねぇ」

「被害というか、流されている情報はどこまでか、分かったりしますか?」

「これまで目撃された場所や行動から推測するに、おそらく調べれば誰でも知ることができる噂程度だろう。内部の機密情報を抜き取れるような場所には入り込んでいない……それがまた悩ましいところなんだ」

ジルさんが言うには、

ユーダムさんは情報を流している存在として、簡単に尻尾を掴めた。

しかし、彼に流出させられる、と考えられる情報は、知られても大して困らない情報。

むしろ、問題ないのでこちらから公開している内容も含まれているだろう、とのこと。

つまり、鬱陶しいけど、しばらく泳がせていても問題ない。

あまりに簡単に尻尾がつかめるので、囮に使われている可能性もなくはない。

「取り押さえるにも、泳がせるにも、中途半端な対応はよくないからな。方針を決めたい」

ヒューズさんの一言で、参加者が意見を口にしていく。

そして俺を除いた8人が己の意見を述べた時、多少の差異はあれど、取り押さえるに賛成が4人、泳がせるに賛成が4人と、意見が割れた。

自然と最後になった俺に、注目が集まる。

そんな中で、俺は少し考えて、意思を伝える。

その後、会議は少々紛糾したものの、最終的には1つの結論に至る。

「決行は明日の夜。以上、解散だ」

「各々、準備は万全にな」

次の日

「その台はこちらへ。もう1つは反対側にお願いします!」

今日は朝から、警備会社と病院の内装に手を加えている。

その理由は2つある……まず1つ、これまでは労働者の雇用と会社の運営が第一だったから。

とりあえず業務に問題のない状態を整えただけで、細かい内装は先送りにしていたため。

今はもう仕事に余裕が出ているので、会社の顔となる受付や、病院の待合室くらいは……

ということで、

「ありがとうございました!」

元は受付と来客用の椅子だけの、殺風景でだだっ広い空間に、特注した木製の台を設置。

さらにその上に、サイズを合わせて硬化液板で作り上げた“巨大水槽”を設置した。

他にも比較的小さな水槽と台を用意して、受付と来客の待機所を仕切るように配置。

協力してくださった建築部門の人にお礼を言って、見送ったら、後は俺の仕事。

「まずは水魔法で」

巨大水槽の半分ほどを水で満たしたら、マッドスライムが同化した泥を底に敷き。

続けて アクアティック(水棲) ウィードスライムや、ストーンスライムで景観を作り。

水槽内の生き物として、シェルスライムを放す。

そして最後に重要なのが、水槽内のゴミを取り除き水質を維持すること。

そのためにフィルタースライムと……最近、新たに進化した“アクアスライム”を入れる。

アクアスライムはファットマ領で捕まえていた、水属性の魔力を好むスライムが進化した個体で、“水の身体を持つ”。ここが重要。水魔法を使うスライムではなく、ブラッディースライムに続く、液体の身体を持つスライムだ。餌は水で、他の個体と比べて大量に飲み続けた末に進化した。

アクアスライムはマッドスライムと同じく、“同化スキル”を持っていて、こちらの対象は当然な気もするけれど“水”。同化状態で活動してもらうことで、水槽内に水流を作り、フィルタースライムを通して濾過を行う。

これでスライム任せの超お手軽濾過装置として働いてくれるのだ!

ちなみに、同じファットマ領産まれの水属性魔力を好むスライムから、水魔法を使う“ウォータースライム”もしっかり確保している。

それはそれ、これはこれ、である。

「さて、あとは水で満たして――」

1つ完成したら、次の水槽へ。

全部同じではつまらないので、水草の種類や石の形、または底に敷くもので変化をつける。

集中しているうちに、最後の作業になっていた。

「ここはこうして……」

「リョウマ様、もうじきお昼になります」

「あ、もうそんな時間ですか」

メイドのリリアンさんに言われて気づいた。最近はすぐに時間が経ってしまう。

仕事と言いつつ、好きなことしかしていないので、当然だけど。

「これが最後なので、早めに終わらせます。それから食堂でお昼をいただきます」

「かしこまりました。ご注文の鉢植えも届いていますが、そちらは」

「どこか邪魔にならないところにまとめておいてください。午後からはその鉢植えに、観葉植物代わりのウィードスライムを植えていきますから。あと、館内に配置するのはお任せします。1部屋に1つ置いてあれば十分ですから」

そうすれば、完成する。

一見、観葉植物と水槽にしか見えないスライム達。

彼らを通して、館内の人の存在と移動を把握するための、スライムセンサー網が。

そして、館内に入ってきた獲物を逃がさないための罠を作る下準備も…

そんな準備をして……夕方。

日も落ちて間もない頃に、俺は中庭に立っていた。

防寒用の結界が張ってあるので、屋外だけど寒くはない。

壁には等間隔で灯りが設置されていて、明るさも十分。

足元は刈り揃えられた柔らかい芝で覆われている。

転んでも、これなら多少は衝撃が軽減される。

そんな中庭で――

「待たせたね、店長さん」

――俺はユーダムさんと向かい合った。