軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雪対策とスライム研究の新たな分野

神々と和やかに会話を続けていると、畑の話題から天候の話題になり、気になることを聞いた。

なんでも、今年は例年よりも寒さが厳しく、雪の日も多くなるそうだ。

「異常気象か?」

「いや、どちらかというと今が通常、って言うべきなのかな? 竜馬君がこの世界に来た理由は覚えてる?」

「地球の魔力をこっちの世界に持ってくるため、だったよな?」

「そうそう。こちらの魔力不足を補うために、竜馬君と一緒に大量の魔力を持ってきた影響で、世界規模で活性化してるのさ。

人体で例えるなら、栄養失調の状態だった体が十分な食事を取り、回復したようなものかな?」

「もとより地上の環境や気候には様々な要因が組み合わさり、バランスを取りながら常に変化を続けるものだ。多少気温の振れ幅が大きくなると考えればいい」

クフォの話にフェルノベリア様が補足を加えてくれたおかげで、より分かりやすくなった。

どうやら今年の厳冬や降雪量の増加は、世界にとってはいい反応らしい。

ただし、“多少の”気候変動が発生する。

そして、この多少という評価は、 神々から見て(・・・・・・) の評価である。

こう考えると、俺達人間はしっかり備えをしておくべきだろう。

「確かに人間にとっちゃそうだな」

「冬支度を怠ってなければ、直ちに問題はないと思うけど、気をつけるに越したことはないわね」

隣同士に座ったキリルエルとルルティアの会話が耳に届いて、やっぱりかと思う。

「いつか言おうと思ってすっかり忘れてたけど、この世界に来る前にもらった情報や常識にも、微妙に抜けとか世間とのズレがあったからな」

というと、俺をこの世界に導いた3柱が申し訳なさそうな表情に。

「責めるつもりはないよ。結果的になんとかなってるし、公爵家の皆さんと関わるきっかけにもなったから」

それに人間同士でも国によってカルチャーギャップ。同じ国の人間ですら年齢が10も違えばジェネレーションギャップというものが存在するくらいだ。人間と神々ともなれば、物事の見方や認識にギャップがあって当然だろう。

「理解してくれて助かるわい」

「長く存在し続けてると、時間の感覚が曖昧になるのよね」

「正直、数十年とか数百年って誤差だもんね」

その感覚は一生理解できそうにない……が、とにかくこれから雪が例年より多くなるのは間違いないのだろう。だったら備えが必要になる、と同時にこれは新しい働き口を作る狙い目になりそうだ。

そんなことを考えていると、セーレリプタがニヤつきながら声をかけてくる。

「また新しいことを始めるつもりだね?」

「とりあえずは街中の積雪対策かな? 1回の雪は少量でも、解けずに積もり続ければ人や物の移動が滞る原因になる。

俺と近所だけなら、俺が魔法とスライムで対処できるけど、町中となると流石に無理だ。それに今後も毎年大雪が続くなら、今のうちから対処する仕組みを作り始めた方がいい」

「具体的には?」

「とりあえずは人を集めて、人海戦術だな。労働者の流入はまだ続いてるみたいだから。あとは効率化のために、スコップだけじゃなくて地球の雪かき道具とか、氷を割る道具をいくつか試作して……スライムの研究成果にもいくつか使えそうなものはあるんだけど……」

「あら? なんだか歯切れが悪いですね。スライムが関わる話なら、いつもはもっと嬉々として話すのに」

ウィリエリスにそう言われてしまった。

人間の知り合いの間でもそうだけど、神々の間でも俺はそういう共通認識なんだろうか?

「除雪に使えそうなんだけど、ちょっと取り扱いに注意が必要な研究成果があって」

「取扱注意? なにそれ、爆弾でも作ったの?」

クフォが冗談のように言ったが、結構近い。

「えっ。まさか本気で作ったの?」

「いやいや、爆弾 は(・) 作ってないよ。ただ、実験してたら偶然、“火薬みたいなもの“ができたってだけで」

「なにそれ聞いてない」

「そりゃまだ話してないもの」

話すことが沢山あり過ぎて、後回しになっていた。

「聞きたいなら説明するけど」

「聞かせて、っていうか……」

「竜馬、お前もう目が輝き始めてるぞ」

おっと、テクンに言われてしまうほどか。

「ではちょっと控えめに」

ことの発端は、先日、ファットマ領で温泉掃除の依頼を受けた際に作った“酸性洗剤”だった。

酸性洗剤はアシッドスライムの酸と、スティッキースライムの粘着液を混合したもの。

ただそれだけの品だけれど、俺はそこで、自分がこれまで“異なる種類のスライムの生成物を混合する“という実験をしていなかったことに気づいた。

スライムの進化だけでも多種多様かつ、単体でも能力を活かす方法は豊富だったし、それだけで手一杯ということもあったからか、すっかり失念していた。

今思えば、どうしてそんな簡単なことを試していなかったのか、もっと早く研究していればとも思うが……これは個人的感情で研究には関係無いので置いておく。

そして最初に混ぜて作った酸性洗剤だが、実は酸と粘液を混ぜた場合、温泉掃除に使った粘液の他に“微量の粉末”が生まれ、混合液の底に沈澱していた。

「その粉末がこれなんだけど」

「ほう」

「むっ」

アイテムボックスから小瓶に詰めた粉末を取り出し、テーブルに置く。

どうやら神々には一目でどういう代物か分かったようだ。

俺がこれを取り出して、鑑定の魔法を使った時は、このような情報が出てきた。

“名称未定・(仮称) 超撥水性粉末”

スティッキースライムの粘着液と、アシッドスライムの酸を混合した際に生まれた物質。

極めて撥水性の強い粉末。可燃性のため取り扱い注意。スライムの魔力を内包している。

個人的には、防水布などにも使用している粘着液の持つ“撥水効果”の原因物質ではないかと考えている。

「スライムの体液を混ぜるとこんなもんが生まれるのか」

「体液に含まれる魔力が相互に作用し、変質したようだな」

技術の神であるテクンと学問の神であるフェルノベリア様の反応がいい。

が、その反応を見る限り、

「ちょっと本題から逸れるけど、これは神々にとっても珍しいものなのか? 鑑定しても名称が出てこなかったし」

「俺らにとっては珍しくも、いや、 こういう形(・・・・・) で見るのは珍しいか?」

「少なくとも人間には珍しかろう。そうだな……魔法薬と魔石、この2つに近い性質がある物質、とだけ言っておこう。それ以上の説明には時間がかかる」

どうやら俺が考えていたよりも、はるかに複雑で奥深い素材のようだ。

「では、気長に研究してみます」

「その意思は学問の神として好ましく思う。励むといい」

横道に逸れた話が一段落したところで、

「本題に戻ると、こういう物質が生まれたことでさらに興味が出た。そして他の種類のスライムの体液も採取して混ぜてみた」

「ああ、やっぱりそういう流れになるよね」

「楽しそうに実験しているところが目に浮かぶわ」

クフォとルルティアが分かっていたと頷いているが、問題はここから。

スライムの生成物の混合物であり、積雪対策に使えそうな研究成果。

それは黒色の粉末。きめ細かくなるまですり潰した炭にも見えるが、光沢は一切ない。

そんな粉末の材料は“スカベンジャースライムの肥料”と“デオドラントスライムの吸臭液”

「それがちょっと曲者で、最初に毒ガスを警戒して外で混ぜてたら、いきなり沸騰し始めて爆発。しかも飛び散ったものが燃え始めたから慌てて消したけど、焼夷弾とか火炎瓶? そんな感じの、広範囲を焼き払う武器が使われたみたいな感じになって驚いた」

「竜馬、よく笑っていられるな……」

「キリルエルの言う通りだよ。無事でよかったべ」

「大丈夫、ちゃんといざという時のために盾とか避難場所は用意してたから」

研究に失敗は付きもの。

芸術は爆発だ! という言葉もある。

安全対策はしっかりと用意してあるし、問題ないのだ。

「で、さらに注意しながらその黒色粉末を調べてみた結果、“光を効率的に吸収して熱を発する”性質を持ってると分かった」

“コップ1杯の水に黒色粉末を加え、泥状になった粉末に光を当てる”実験を行った。

結果は光の強さによって変わるが、日光なら数秒から数十秒で沸騰し蒸気が発生。

3分以内に水分を完全に蒸発させて、乾燥した黒色粉末そのものが発火する。

「光を当てるだけで結構な熱が出るから、うまく使えば除雪にも役立てられると思うんだ」

雪を溶かすという1点だけを考えれば、雪の上に撒くだけでも十分だろう。

ただその場合は、雪を溶かしてできた水が蒸発した後に、燃えて火事になる可能性がある。

それなら普通の炭を砕いた粉を撒いた方がよっぽど安全だ。

黒色粉末ほどではなくても、魔法と組み合わせれば、安全でそれなりの効果が見込めるだろう。

しかし、安全対策をしっかりすれば、黒色粉末を使って、大きな効果が得られるかもしれない。

「その安全対策については何かアイデアはあるの?」

「そうですね。今年中になんとか、ということならあまり急ぐ必要もないと思いますが、次の雪の日から利用を始めたいというのであれば、あまり時間はありませんよ?」

ルルティアとウィリエリスの意見はもっともだ。

「一応、発火を防ぐ案はある。前世の、特に俺の子供の頃の明かりには“白熱電球”という物がよく使われていたんだけど」

白熱電球はフィラメントと呼ばれる発光部に電気を通すことで発光・発熱する。

そして、開発当初の白熱電球のフィラメントには、炭化させた紙が。

改良に改良を重ねて、実用レベルになった時には、炭化させた竹が使われていたそうだ。

炭化させた竹に電気を通し、光と熱が発生する。

にもかかわらず、どうしてフィラメントはその場で燃えないのか?

その答えは“真空”である。

火が燃えるためには、可燃物・熱・酸素という3つの要素が揃っていなければならない。

白熱電球は電球の内部を真空状態にすることで、物体が燃えるために必要な酸素を遮断。

結果として、通電しても燃えることなく、高温と光を発することが可能になる。

「なるほどな。その白熱電球と同じように、酸素を遮断して使うわけか。ならその素材に当たりはつけてるのか?」

「スティッキースライムの硬化液板。あれには耐熱性があるし、透明度が高くて光を通すから、その中に粉末を混ぜたらどうかと考えてる。黒色粉末も闇魔法で光を遮断した空間の中なら発熱しないことが分かってるから、混合は可能だと思う。

ただ、黒色粉末をスティッキーの吐く液に入れたら、別物になる可能性もあるんじゃないかという懸念があるんだけど」

「その点については問題ないと思うぞ。こっちの撥水性粉末だが、これは粉末になった時点でかなり安定した状態になってる。おそらく黒色粉末も物質として安定はしてるはずだ。ただぶち込んで混ぜるだけなら、これといった反応も変化もしないだろう。

もしこれが俺らのよく知ってる“似た物”だったらどうなるか分からんが……面白れぇな」

テクンの話す“似た物”がどんなものなのか知らないが、やけに興味深そうに撥水性粉末の入った小瓶を色々な方向から眺めている。

「もしよかったら、持っていくか? 帰ればすぐに作れるから、俺は全然構わないけど」

テクンには以前、成り行きとはいえ酒盃も貰っている。代わりと言ってはなんだけど。

「おっ、そうか? じゃあ、遠慮なく」

そう言うと同時に、小瓶がテクンのてのひらから消える。

本人(神)が楽しそうなので何よりだ。

「あ、そうだ」

「ん? まだ何かあるのか?」

「雪対策に使えそうなのは黒色粉末だけど、それとは別にもう1種類ね。クフォが冗談で言った爆弾、というか火薬みたいなやつ」

「あ、それは黒色粉末とは別のやつだったんだ……」

「まぁ、あれも黒色火薬みたいに見えるけども」

光に反応するので扱いづらいと――待てよ? 逆に考えれば、光に当てれば発火するのだから、光に反応する爆弾を作れるのではないだろうか? 誤爆を防ぐ仕組みさえできれば、時限爆弾的な用途に――

「竜馬君、思考が爆弾を作る方に向かってるよ。それより説明」

「おっと、ごめんクフォ。

問題の“火薬みたいな物”は、アシッドスライムの酸とフラッフスライムの綿毛を混ぜたもので、火をつけると激しく燃焼する綿みたいなものができるんだ」

地球にはそれと似た“硝化綿”とか“ニトロセルロース”と呼ばれる物があって、宴会芸で手品をやることになった時に使ったことがある。

「ちなみにそのニトロセルロースは加工次第で“シングルベース火薬”とも呼ばれ、拳銃の弾薬にも使われているらしい」

「火薬みたいなもの、じゃなくて完全に火薬じゃん」

「しかもそれ、とっても安価よね?」

「材料は飼ってるスライムが大量に出してくれるからな。作るのも簡単だし、正直コストパフォーマンスは抜群だと思う」

「銃を求める転移者は珍しくない。しかし、皆、火薬の製造や費用の問題に苦労し、諦める者もおったが……まさかこんな方法で火薬を手にするとは」

「俺も狙ってやったわけじゃないけどね。

それに、俺はそこまで銃とかミリタリー系知識に詳しいわけじゃないし、火薬は正直もてあますよ」

「そうなの?」

「そっちに詳しいのは田淵君、仲の良かった部下の方だったからな……さっきのニトロセルロースとシングルベース火薬の関係も彼から聞いた話だし、彼から聞いて知ってることはあるけど、断片的な情報が多いし……

銃に関して知ってるのは、リボルバーくらいかな……それにしたって、昔好きだった殺し屋とか泥棒の相棒のアニメキャラが持ってたって理由だし、最新鋭のはサッパリ分からん」

一応、昔海外出張が多かった時期に、機会があって何度か本物を撃ったことはある。

でも、しっくりこなかったから、話の種くらいの興味しかなかった。

道具として使うことはできるけど、肌に合わないというか、手ごたえがないというか。

実際に使うなら、俺はやっぱり弓の方が好みの飛び道具だった。

「だから火器で作れそうなのは……黒色火薬や焙烙玉、かの有名なダイナマイトに、マスケット銃あたりか? それにしたって多少知識があるというだけ。実際に作った経験、ましてや使用経験なんてない。

個人的には鉱山での採掘とか、発破工事とか、比較的平和な活用の方が興味はある。銃火器も時間があるときに研究してみてもいいけど……危険だし、やっぱり基本は秘匿。例外としてラインハルトさん達には相談、というかほぼ丸投げかな」

「うむ、それがよかろう」

ガインに続いて、クフォとルルティアも太鼓判を押してくれた。

しかし、その瞬間、頭を抱えるラインハルトさんの姿が見えた気がしたが……気のせいだろう。