軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無限の可能性の一端

「次は……これか」

それは両手で抱えるほど大きな籠にまとめられた、3種類の魚。

姿はオコゼ、フグ、そしてウナギに似ている。俺としては全部高級魚に見えるのだが……

「改めて聞くけど、この辺では食べないんだよね?」

「だって、全部毒のある魚だぜ? 毒は食ったら危ないだろ」

「毒のある部位を取り除いて食べたり。僕の地元にも似た魚がいて、食べられてたんだけど」

「あー……天気が悪くて漁に出れないとか、魚が取れない時とか、食い物がなくなるとこれは食べる」

ニキ君が指し示すのはウナギに似た魚。これは籠の魚の大半を占めていることからも分かるように、数が多くてどんな時でも獲れる確率が高いらしい。

「でもこれ、血に毒があるだけじゃなくてすっげー泥臭いし、骨ばっかりでめちゃくちゃマズイぞ。今の時期は寄生虫もいるし……こっちのヒレに毒針がある方は小さくて食うとこほとんどない。漁ができればもっと美味い魚がいるから、こんなの誰も食わないよ。あ、こっちの膨らむ奴は死ぬほど強い毒があるから絶対に食べたらダメな奴な!」

「なるほど……」

調理もしてみたいけど、寄生虫の問題もあるし、今回はやめておこう。

「網にかかったものは仕方ないからこうやって分けてるけど、本当は食わない魚は獲らない方がいいし、父ちゃん達も獲りたくないんだって」

「そうなんだ。うちのスライムは喜んでるけどね」

反応しているのはポイズン、メディスン、そして先ほど寄生虫に反応したブラッディーの1匹。

これは毒と寄生虫で、新しい進化はないか……と、思っていたら、

「ん?」

「どうした? 兄ちゃん」

「いや、このポイズンスライムが」

ポイズンスライムの1匹が毒のある魚の中でもオコゼ似の魚だけに反応している。

さらに観察すると、ヒレの“毒針だけ”を食べていることが判明した!

「毒針か……っと、考えるのは後にしないと。次は?」

「えーっと、貝があるぜ。毒あるのとないの両方」

「じゃあ毒の貝から」

……ポイズンやメディスンたちは餌として認識しているが、それだけ。残念ながら、これはただの餌になりそうだ。

「じゃあ食用の方も」

「兄ちゃんごめん、これ中身入ってない……食った後の貝殻だ」

「あらら、まぁゴミでいいと言ったし。それに、早くも反応してるのがいるよ」

「えっ?」

貝殻の入った桶を抱えるニキ君の足元には、既に数匹のアシッドスライムが待ち構えていた。

その数匹にニキ君が貝殻を与えると、喜んで体内に取り込み、小さな泡を立てながらゆっくりと溶かしていく……

アシッドスライムが貝殻で進化する可能性あり。しかも反応した内の1匹は、毎日卵を食べたがる奴もいる……あれはまた別なのか? 卵の殻と貝殻なら、主成分が炭酸カルシウムという共通点があるけれど……要観察だな。

「そしてとうとう出てきたな、“蟹”」

生きた状態、殻だけの状態の2種類あるが……両方にスティッキースライムが反応した。

「片方は殻、もう片方は……これも要観察っと」

「今度は網にかかってた魚以外のゴミ。水草とか藻だな」

繰り返しの作業で慣れてきたんだろう。次の籠を、と思った時に。良いタイミングでニキ君が運んできてくれた!

助かるなぁ……で、これはたぶん……ああ、やっぱり。ウィードスライムが反応した。

彼らの一部が水草に反応するのは先日確認されている。

あと、水草とは別に藻に反応してるのもいるみたいだ。

「ほい、次はこれね」

「ボロボロの網……これはどうなるか…………意外な結果が出たな」

「どうしたんだ?」

「ん~……反応してるのはスティッキーとメタルなんだよ」

スティッキーは糸を吐けるからまだ関連がありそうだけど、メタルが反応するとは。

金属と網……金網? 分からないけど、進化してのお楽しみとも言えるか。これも要観察。

「この2つで最後だぜ!」

両手に1つずつ掲げられた、バケツのような木製の容器。片方には砂がぎっしり、もう片方には割れた陶器の破片が詰まっている。

「なるほど……両方ともにストーンスライム。砂にはポイズンも反応してるな」

砂に反応するポイズンは一匹。しかもこの個体は以前から毒の他に炭を食べて進化待ち中の1匹だ。炭と砂で共通する何かになるのか、それともまた別の進化か……今はとりあえず進化させて観察するしかないな。

進化の例を集めれば、そこから共通点や食べ物とは別の進化条件が見つかるかもしれないし……そうなるとポイズンスライムももっと増やして、また新しく炭を食べるスライムを探すかな……それとも増やせる種類はどんどん増やしていく?

ストーンスライムについては少し別に考えがあって、積極的に数を増やしている最中だったんだけど……進化実験も大切だし、もっと増やしていくことにしよう。流石にギムルの廃鉱山が平地になる前には結果が出るだろうし……

「これで全部だな!」

「ん、ああ、そうだね。じゃあ、進化するかもしれないスライムとその餌をまとめてみようか。『アイテムボックス』」

「おう!」

筆記用具を取り出して、スライムの種類ごとに進化の可能性を書き出してみる。

すると、

・スティッキー → 蟹スライム

→ 甲殻スライム

→ 網スライム

・アシッド → 貝スライム

→ 貝&卵スライム

・ポイズン → 炭&砂スライム

→ 毒針スライム

・メタル → 金網スライム

・ブラッディー → 寄生虫スライム

・ストーン → 砂スライム

→ 陶器スライム

・ウィード → 水草スライム

→ 藻スライム

「全部で13種類だね」

「元は7種類なのに、そんなに違うスライムになるんだな!」

「今はまだ可能性だけどね。しかし、1日でこんなに見つかるなんて……それにこうして見返してみると、蟹とか魚みたいに、ここでしか手に入らない餌も多いね……砂や陶器、あと水草や藻はここで採取してディメンションホームの中で増やしてみてもいいけど……毒針や寄生虫はここの魚のやつ限定なのか……」

「それってさ、兄ちゃんがここに住んじまえば解決するんじゃねーの?」

「確かにそうなんだけど、仕事があるからね……」

お店の経営はほとんど任せっきりとはいえ、確認しないといけない書類もあるし、定期的に廃坑を見回る必要もある。

誰かに世話と報告を任せるにしても、ニキ君はまだ幼いし、シクムの桟橋の皆さんも従魔術師じゃないしな……いっそこの村に支店を建てて、コーキンさんか誰かを派遣すれば……これは割と良い案ではないだろうか?

新しい環境で、今日のように進化の可能性が多数見つかったのだから、また別の土地、違う環境へ行けばまた違うスライムや進化の可能性を見つけるかもしれない。俺一人が現地へ行って実験をするのではあまりにも時間がかかりすぎる。

洗濯屋の規模を拡大し、各地に支店を置き、そこを拠点として俺の代わりにその地域のスライムを研究してくれる従魔術師や研究員を派遣。そして各地から集めた情報を基に研究を進める。

こうすれば店の経営とスライム研究を両立できそうだ。

これは帰ったらカルムさんに相談せねば!

「なぁ兄ちゃん、それ今すぐにはどうにもなんないと思うけど」

「ああ、将来的な話になるな。……声に出てた?」

「出てた。んで今はどうすんだよ?」

「とりあえず、滞在中はここで食べさせて、保管できるものは帰る前に、迷惑にならない程度に集める。あとは様子見だな」

基本的にスライムはなんでも食べるし、進化する餌がなくなれば他のものを食べるだろう。それでまた別のスライムに進化するなら、それも良し。

「少なくとも食糧不足で弱ったり死んだりはしないだろうし、何も絶対いますぐに進化させなきゃいけないわけじゃないからね。気長にやっていくよ」

「そっか。んじゃ次はどうする?」

「ん~……残念ながら、時間切れかな」

加工場の仕事が終わったらしく、広場には大勢の女性が、ちょうど子供を迎えに来たところだった。ニキ君もそろそろ帰る時間だろう。

と、思っていたら、

「ニキー、そろそろ帰りましょう」

「母ちゃん!」

「リョウマ君、うちの子の面倒をみてくれてありがとうございました」

「いえいえ、今日はニキ君がいてくれて本当に助かりました」

「母ちゃん、俺スライムの世話の手伝いしたんだぜ! いろんな種類がいて楽しかった!」

「そうかい、良かったねぇ」

「うん! そうだ兄ちゃん、スライムが今日見つけた進化をするのにどのくらいかかる? 俺、スライムが進化するとこ見てみたい!」

「残念だけど、これから数ヶ月はかかると思う」

協力してくれたし、滞在中に見せてあげたいとは思うけどね。

「そっか……じゃあまた明日もスライムの世話していいか?」

「それなら歓迎だよ! 僕も助かるしね」

「やった! じゃあ、また明日な!」

ニキ君はお母さんと手をつなぎ、逆の手を大きく振りながら帰っていった。

その夜

「――と、こんな感じでした」

今日の出来事を話すと、居間に朗らかな笑い声が響く。

「それで明日の約束もしたんだ」

「随分と懐かれたねぇ」

「まあ昨日のアレもあったしな」

ケイさん、メイさん、カイさんは、ニキくんが俺に懐いたと言う。

俺は趣味の話をしていただけなのだが、そうだと嬉しいな。

「ねぇリョウマ君。明日もあの子とゴミを集めるのかい?」

「そうなりますね」

「だったら家のゴミも持っていっておくれ。いいわよねお父さん」

「……」

お袋さんに問いかけられ、無口な親父さんは飲んでいたお酒の器を置いて頷いた。

「ご協力ありがとうございます。そろそろ料理がいい頃合いだと思うので、持ってきますね」

今日の夕飯は俺が担当。メイさんとお袋さんが気遣ってくれて、お米や色々な食材を集めてくれたお返しとして、寒い冬にピッタリな“ブリ大根”ならぬ、“ホネナシ大根”を作らせていただいた。

「お待たせしました!」

かまどから囲炉裏に鍋を移し、中の具を人数分の皿に取り分けて配る。

家長のホイさんから順に受け取って、皆さん興味深そうに食べ始めた。

「ん! ウメェ! 味が染みてるな」

「硬い根菜も柔らかく煮えてて美味しいね」

おっと、忘れていた。

「皆さん、これはお好みでどうぞ」

山葵のようなカラシのような、“ホラス”を摩り下ろして提供。

「やっぱりスープに溶くのとはまた違うねぇ」

「悪くない……ふーっ……酒に合う」

お袋さんが注いだ酒を一気に飲み干す親父さん。お酒が回り始めたのか、若干声が大きく、ホネナシ大根と酒を口にするテンポが早くなってきた。

皆さんの口に合ったようで一安心していると、

「リョウマも見てないで食えよ、なくなっちまうぞ」

「そうですね。では、いただきます!」

まずは気になる魚、ホネナシから……

じわりと汁を溢れさせながら、するりと身に箸が入った。

加熱調理をすると骨が溶けてなくなるから“ホネナシ”。

煮込む時点では確かにあったはずの骨が、本当になくなっている。

適度な大きさにして口へ入れると、食感が妙にトロリとしているが……まろやかで美味い!

「ふぅ、ふぅ……んん!」

今度は大根。暖かい湯気が立ち上り、ホッとする香りが鼻をくすぐる。

口の中へ入れた途端にホロリと崩れ、広がる魚介の風味豊かな出汁。我ながら良くできた。

さらにもう一切れ、今度はカラシを付けて……うん! ピリッとした辛味がまた良い!

……決めた。アレを開けよう。

「ちょっと失礼して……『アイテムボックス』!」

「あれ? それお酒?」

「はい。友人のドラゴニュートからの頂き物なんです」

アサギさんから大分前にいただいた大吟醸。大吟醸=高級品というイメージがあり、なんとなくもったいなくて大事に保管していたこの一本。きっとここが開ける時だ!

器も出して、まず一杯。

雑味のない、澄んだ味わいの後に酒精が心地よく鼻を抜けていく。

味の染みた大根を食べて、この大吟醸の酒を飲む……

「ふぅ――美味い! 今日は熱燗だとなおいいかな」

魔法道具のコンロで湯を沸かす準備を整えて……

「よければ皆さんもいかがですか?」

「お? いいのか? んじゃ遠慮なく」

「飲みすぎないでよ、カイ兄さん」

「……坊主、お前さんいける口だったのか」

「育ての親がドワーフでして。酒の神の加護もいただいています」

「酒の神様の加護か! なるほどなぁ……ならその酒の用意ができるまで、この酒も飲んでみないか? 上等なもんじゃないが、この辺の地酒なんだ」

「ありがたく頂戴します」

饒舌になってきた親父さんが薦めてくれた地酒をいただく。

ぐい呑みのような器に満たされたお酒は牛乳のように白く、とろみがついている。まるで日本の“どぶろく”のようだ。口に含むと原料だろう細かい粒の感触に、ほのかな酸味と強めの甘み。なんとなく甘酒を思い出す味わい……だけどかすかに、覚えのある苦味が混じっている。

「もしかしてこれ、コツブヤリクサのお酒ですか?」

「分かったか。その通りだ」

「へぇ~……ちょっと驚きました。あれでお酒が造れるなんて」

鑑定にも出てこなかったし、長いこと食べていたのに、まったく気づかなかった。

「ああ、コツブヤリクサだけじゃダメだね。それをお酒にする草を使わないと」

「そんなのがあるんですか? ケイさん」

「別に珍しくもないぜ? そこらじゅうに生えてるし」

言うが早いか、カイさんが玄関へ向かい、扉を開けた――かと思えば腰を屈め、足元の草を素早く摘み取り戻ってきた。

「ぅう、さぶっ! ほれ、こいつだよ」

本当にそこらへんから採ってきたな……

犬がおしっこ引っ掛けそうな角に生えてるような、雑草にしか見えない……

少なくとも俺の知識にある薬草や毒草には該当しない……

「アタシらにとっても雑草みたいなもんだよ。酒造りに使えるだけで」

「雑草と食べ物を混ぜて酒にするなんて、一体誰が考えたんだろうねぇ」

雑草……ウィードスライムに食べさせたら、栽培できるだろうか?

これは滞在中に実験することが1つ増えた。

そしてコツブヤリクサでお酒が造れたら、正直、かなり助かる。

ドランクスライムの 餌(酒) 代が浮くし、街で補給する必要がなくなる!

「このお酒の作り方を教えていただける場所はありませんか?」

「興味があるのかい? それなら明日にでも作って見せようかね」

「あれ? 母さん作れたの?」

「メイ、女たるもの白酒くらい作れなくてどうすんだい」

お袋さんの話によると、この白酒と呼ばれる酒は彼女の母親の代あたりまで、各家庭で作るのが当たり前。嫁入りには必須の技能だったらしい。ただし美味しく作るにはコツが必要で手間もかかるので、村が裕福になり、村人の懐に余裕ができるにつれて、酒造りの上手い人の家から購入するようになったのだそうだ。

「私も家で白酒を作らなくなっていたし……この機会に、メイにも我が家に伝わる白酒の味を伝授しようかね」

「そんな味があったなんて初耳なんだけど?」

「まぁ、今飲んでるのより美味けりゃ、うちが酒屋になってただろうからね」

「期待できそうにねぇな!」

親父さんの一言で、再び居間が笑いに包まれる。

そうこうしているうちに、熱燗もできた。

「さぁ、もっと飲んで食べましょう! はい、カイさん」

「ありがとな……カーッ! おいケイ、この酒、美味いぞ。お前も飲んどけよ」

「え、そんなに? じゃあ……僕も少しだけいいかな?」

「もちろんです」

こうして俺達は、会話に花を咲かせながら、美味しいホネナシ大根とお酒を楽しんだ。

外は寒いが、心と体は温かく。

新たなスライムの餌の調達もできた満足感からか、寝床に就くとたちまち眠気に誘われる……