軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秘密基地

「見つかったか!?」

「ダメだ、そっちもダメそうだな……」

「あのイタズラ小僧め、何処に行ったんだ?」

村の中心部にある広場には、いなくなったニキ少年を探す大人達が、絶え間なく出て行っては戻りを繰り返している。そんな大人達の中には、シクムの桟橋の皆さんもいた。

「リョウマ! そっちはどうだ!?」

「セインさん……少なくとも村の近くで、湖に出ている船はありません。他所の村の漁船は数隻見ましたが、どれも子供は乗せていませんでした。また、村の出入り口から続く道にも子供の姿、または隠れられる馬車もないです」

俺もリムールバード達に協力を頼み、視界を共有。

村の外を中心に高いところから捜索しているが、成果は出ていない……

「そうか……おっ! ペイロン! そっちはどうだ?」

「村の船は全て所在が確認できた。また、今日は他所から来た船もないそうだ」

「つーことは、湖にはいねぇってことか?」

ニキ少年が最後に目撃されたのは、俺にオクタを投げつけた直後だと見られている。

一度捕まえて叱りつけたところ、反抗してそのまま姿を消したそうだ。

それから既に4時間は経過。冬になり日も短くなっているので、外は暗くなり始めている。

「……誘拐でなければな……」

「確かに、何もなきゃこの時間には帰ってくるよな……」

「そうなんですか?」

「あの子は……イタズラの常習犯だが、いつも暗くなる前には帰ってきた。たとえ怒られることが分かっていても」

「最低限の言いつけは守ってたからな。俺らも昔は悪さをした覚えがあるし、本当に危ないことは言ったら聞く。だから、いつも拳骨1つと軽い説教で見逃してたわけだし」

へそを曲げてどこかに隠れているだけならいいが、何かが起こった可能性も否定できない。

「ごめんよぉ、私がちゃんとあの子を捕まえていれば」

「悪いのはうちの息子だよ。あんまり思いつめないで」

「ったくあの馬鹿! 自分で悪さしといて、叱られたら逃げるなんてどういう了見だっ。見つけたら徹底的に絞ってやる!」

荒々しい声が聞こえた方を見てみると、そこにはまだ若い男女が一組。会話の内容からしておそらくニキ少年のご両親だろう。2人の体に隠れてほとんど見えないが、昼間にニキ少年を探していたおばあさんもいるようだ。

おばあさんは広場にある古くてボロボロな、お地蔵様を安置する仏堂のようなものに向かって手を合わせ、泣いている。それだけ後悔、そして心配しているのだろう。

とにかく、早く見つけてあげたいが……村の中、街道、湖、そのどこでも見つからないとなると、残るは村のほぼ全方位を取り囲む森しかない。おまけにその森は冬にも関わらず、元気に枝葉を広げている。

試しに街道を捜索していたゼクスとフュンフに指示を出してみるが……厚い葉の層が空からの視線を遮っている。中に入ると、多すぎる枝で飛びづらいらしい。残念ながらリムールバードの力を借りるのも難しそうな環境だ。

何か手がかりが欲しい……俺が子供の頃はどうだった?

親父と反りが合わなくなってからは、何度か似たようなことがあったと思う。

たしかあの時は……家出をしたとしても、行き場がなかった。

行き着く先は適当な公園とか……そうだ、遠くに行こうとしても子供の脚では移動できる範囲も限られた。自分自身でその時は遠くまで来たと思っていても、実はそれほど家から離れていなかったりもした。

そういえば、家出をして友達の家に転がりこんだ子の話を聞いたな……俺にはそんな友達いなかったけど。……結局のところ、それなりに馴染みのある場所で身を潜める子が多い、ということだろうか?

森でニキ少年の馴染みの場所……ん? 森といえば、

「セインさん、ペイロンさん、昼に食べたオクタって、森にいるんですよね?」

「あ? そうだけど、急にどうした?」

「あのオクタは元々、ニキ君が僕に投げつけてきたものです。だけど彼はそれをどこで調達したんでしょうか? 大人がイタズラのために与えるとは思えませんし、自分で用意したなら彼は僕らと会うまでに“一回森の中に入って、オクタを獲って”戻ってきたのでは?」

「……言われてみれば、そうかもしれない」

「そういやあのイタズラは比較的よく見る方だが、家の夕食用とかのを盗んで使ったって話は聞いたことねぇな……ちょっと確認してくる」

セインさんが先ほどの男女とお婆さんのところへ走り、少しして戻ってきた。

彼の後から話を聞いた3人もついてきている。

「リョウマ! やっぱりイタズラ用のオクタはニキが自分で調達してたらしい!」

「その調達場所って分かりませんか?」

「それならたぶん東だよ。あの子、薪が足りなくなると自分から取りに行くって言っていたから、きっとその時に準備をしてるんだろうと」

お母さんから情報が出てきた!

「うちの馬鹿は東の森にいるのか?」

先ほど荒々しい声をあげていたお父さんは、一転して焦ったような声で聞いてきた。

息子に怒りは覚えているが、それはそれとして、息子の無事は心配なのだろう。

「確証はありませんが子供、いえ、僕が息子さんの立場なら、人目がなくて慣れ親しんだ場所に身を隠すと思います」

ガナの森で毎日のように狩りをしていた経験から言わせてもらうと、狩りというのは適当に森に入れば獲物が見つかるような、簡単な仕事ではない。

大抵の獲物は人が近づくと匂いや気配を察知して素早く逃げてしまうから、近づくときは風向きに注意したり、事前に通り道を見つけて罠を張ったりと工夫が必要になる。さらに安定して成果を挙げようと思えば、経験も必要になってくる。

ニキ少年はイタズラのために、しょっちゅうオクタを捕まえていた。

なら東の森の中にオクタ捕りの穴場かなにか、慣れ親しんだ場所があるのではないだろうか?

あくまでも、俺が彼の立場ならそうする、という話だけど……

「いいじゃねぇか。どうせ他に手がかりもないんだし、ここでウダウダ言ってるより行ってみようぜ」

「ちょうど良い。シン達も戻ってきた」

ここでシクムの桟橋の残り3人が合流。

「よし、行くぞ!」

「は?」

「何の話?」

「セイン? 説明して欲しいんだけど」

「歩きながらでもできる。とりあえず東の森へ」

「僕も行きます!」

事情を知らない3人に説明しながら、俺達は東の森へと向かう。

到着する頃には完全に日が暮れて、森の中は真っ暗になっていた。

「オクタ捕りの穴場があるとすれば、それなりに奥へ入ったところだと思う」

「同感だ。オクタは臆病で、ある程度人の生活圏から離れたところに多いからね」

ケイさんとシンさんが、オクタの生態から範囲を絞ってくれた。

「なるほど。逆にこれ以上先には行かない、そういうルールは」

「それなら“飛び出し岩”までだな」

「湖に面した崖の一部が、湖の方へ張り出てるところだ」

「ある程度奥まで一気に行こうぜ。リョウマ、見通しが悪いからはぐれるなよ!」

セインさんとペイロンさんの追加情報。

そしてカイさんが先陣を切って森に突入。

光魔法の明かりを頼りに、森の木々を掻き分けて前進すると……

「! 何か聞こえませんでしたか?」

「何? ……本当か?」

「いや、俺にも聞こえた。ニキかどうかはわからねぇが」

「魔獣の可能性もある。慎重に進むぞ」

シンさんの言葉に従って音のした方へ進むにつれて耳に届く音は大きくなり、やがてその原因も判明する。

「この声、ほぼ間違いなくゴブリンですね。5匹くらいだと思いますが、だいぶ興奮してるみたいです」

この暗闇の中、光は目立つはずなのに、近づいてくる気配がない。

それよりも何かに注意が向いているようだ。

「興奮ってまさか、あの子もそこに?」

「……子供の声は聞こえないが」

「居ないでくれよ……」

「……どのみち村の近くにいるゴブリンは放っておけない。行けるな?」

「念のため準備してきてよかったぜ」

5人がそれぞれ武器を構え、俺も小太刀になってもらったアイアンスライムを装備。

さらに進み、姿が見えるほどまで近づくと、

「ギギッ!」

「ギィ! ギィ!」

「来るぞ! 油断するなよ!」

『応ッ!』

森の木々の中でも特に太い1本を取り囲むように、騒いでいたゴブリン達はこちらに気づくと向かってきた。だが彼らは丸腰で、シクムの桟橋の皆さんはゴブリン相手に苦戦するほど弱くはない。

……故に戦いは一瞬だった。

全てのゴブリンが派手に血を撒き散らしながら倒れると、森は再び静かになる。

「……これだけみたいだな」

「ニキ君は?」

「おーい! ニキ! いるか!?」

セインさんが声を張り上げると。

「……あ……」

「おい今の」

「ああ! 確かに聞こえた!」

「でもどこから?」

「出てきてくれ! ……返事をしてくれ!」

周囲はもちろん、木の上にも目を向けるが、子供が隠れている様子はない。

しかし、声は確かに聞こえた。

横でも上でもないとなると……まさか、

「『アースソナー』……!!」

以前開発した地中探査用の魔法を使用、

地面が純粋な土ではなく泥だからか、いまいち距離が広がらない。

しかし、

「何だ?」

「リョウマ君、どうしたの?」

「魔法で調べました、この木の下に広い空洞があります」

「なんだって!?」

「空洞って、じゃあどこかに入り口か何かあるの?」

「っ! ここに穴があるぞ!」

「マジかよ!」

「狭くて入れんし、ろくに先が見えないが……」

「代わってください、僕なら何とか入れるかも」

ペイロンさんの見つけたのは、マングローブのような木の根の隙間。

地面に張り出た根が絡み合う中に、ひっそりと泥の掻き出された空洞があった。

動物の巣穴のようにも見えるそれを覗き込むと、狭い空洞は奥へと続いている。

子供の体を活かして穴に潜るが、この道は俺でもギリギリだ。

頭を上げる隙間もないので、ひたすら匍匐前進で進んでいく。

「そういえば昔、自衛隊研修って、あったな」

新入社員の研修に自衛隊への体験入隊を取り入れる企業があるらしいが、前世の会社でもそれを取り入れよう! という意見が一時期あった。

そしてそれを検討するために、“休日返上で実際に体験してこい”という本来の業務とまったく関係のない業務命令を受けて参加した体験入隊……ぶっちゃけ普段の仕事より楽だった。

もちろん体験入隊ということで手加減はあったのだろうけど、体力面ではまったく問題がなかったし、何より指示が明確で分かりやすいのが良かった。

うちの課長の場合、指示が具体的でなく曖昧でわかりにくいため、仕事を与えられてからもう一度確認を取り、情報を引き出してからでないと、なにをどうすればいいのかわからない。

確認を取る段階でいちいち言われなくても分かれよと怒られるが、想像でやって間違っても後で怒られる。挙句の果てに言われた通りの仕事をしても、最初の指示が間違っていたために、やった仕事も間違っていて怒られるという理不尽もある。

それに比べれば、自衛隊の指示は明確で、さらに適切でちゃんと従えば否定されることがなく、素晴らしいと俺は心から思った。そして同時に、研修でこんな指示に慣れてしまってはうちの会社では働けないとも思った。

研修後に求められたレポートでは“自衛隊研修を取り入れる意味は感じられない、むしろ逆効果だと思う”という内容を遠まわしに書いたっけ……もちろん自衛隊を否定してるわけじゃないけど。

ただ気になることが1つ。あの研修の内容、ネットで見る他の研修体験者の内容とはだいぶ違ったんだよな……

「おっと」

緩やかに曲がりくねる道を進んだ先に、灯りが照らし出したものを見て驚いた。

そこにあったのは……“扉”。

木の枝を並べて結びつけたすだれのような、簡素なものだけれど、間違いなく人の手で作られたもの。

「なるほど、ただの穴じゃなくて、ニキ君の“秘密基地”だったわけか……そりゃ見つからんわ」

よくもまぁこんな所を見つけて作ったものだと感心しながら、声をかける。

「リョウマ、じゃ分からないかな? スライムの兄ちゃんです。ニキ君、そこにいるよね?」

「……」

返事はないが、中から多少の音が聞こえる。

扉に鍵のようなものはついていないので、そっと押してみる。

すると扉はあっさりと開く。

そしてその先に……見つけた。

「ニキ君!」

「……」