軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結婚式(前編)

翌日

「おい! 新郎新婦の準備はいいか!?」

「準備できてます! いつでも入場可能!」

「フラワーシャワー用の花袋が足りません!」

「昨日置き場を移していたはずよ! 確認して!」

「料理の配膳八割完了!」

「午前の参列者、ほぼ全員集まっています!」

「あと20分もないぞ! 急げ!」

屋敷は朝から慌しかったが、式の直前になると最後の準備でひときわ騒がしさを増す。

そんな屋敷の喧騒を横目に、俺はスーツに身を包み結婚式場へと向かう。

運の良いことに今日の天気は快晴。今の時季にしては暖かな日差しを受けながら、林の小道を抜けていくと、皆で協力して作り上げた式場に大勢の人が集まっているのが見えてくる。さらに近づくと魔力を感じ、続いて気温の変化を感じた。

式当日は外でのパーティーにともなう寒さの緩和、そして天候の変化による雨などを防ぐため、有志の方々により雨除けや冷気除けの結界が張られると聞いていたので、そのおかげだろう。

しかし有志の方々も公爵家の警備兵。もっと言うと公爵家の守りを固める専属の結界魔法使い達なので、その腕前は一流か超一流。そんな方々が協力したそうで、必然的に張られる結界もレベルが高く広範囲をカバーできる代物になっている。俺も結界魔法は使えるが、こうして見ると個人で張る結界とは強度も規模も違うのが良く分かる。

「予定時刻の10分前です!」

おっと、魔法を見ている場合じゃなかった。

行きかう人々の間を抜けて、結婚式のステージの上へ。

「リョウマ君!」

「良かった、間に合ったのね」

「遅いから何かあったのかと思いやしたぜ」

「お待たせしました」

先に壇上にいたのは昨日一緒に飲んだカミルさん、ジルさん、ゼフさんの3人。

そして公爵夫妻とメイド長のアローネさんと料理長のバッツさん。

それぞれ4人がステージに上り、新郎新婦の家族役として左右から式を見守るのだ。

……尤も、俺も新郎側の家族役というのは今朝聞いて驚いた。

礼服として使えるスーツがあってよかった……あとやっぱりクリーナースライム便利。

「む……どうやら始まるらしいな」

ジルさんが呟き、その視線の先にあった鐘楼の鐘が一度、大きく鳴り響いた。

それによって広場に集まった人々が静まり、左右に分かれてステージまでの道を空ける。

さらにもう一度鐘が鳴り響く。

今度は林から白い衣に身を包んだ高齢そうな男性が、杖をつきゆっくり歩いてきた。

彼は現在この屋敷で最も高齢な方であり、今日の式の神父様役だ。

この世界の結婚は“神々が認めるもの”とされ、新郎新婦が第三者立ち会いの下、真摯な気持ちで神々に誓うことで成立する。またこの時に立ち会う者はかならずしも聖職者である必要はなく、時と場合によって村長であったり、鍛冶場の親方であったり。高齢者や集団のまとめ役など、一般人の中である程度地位のある者が務めることも多い。

そして今回神父様役に選ばれたあの方は、聞くところによるとエルフでなんと御年198歳。公爵家お抱えの薬学の技師であり、長命故に薬学に限らず様々な学問に精通しているらしく、色々な部署で顧問という立ち位置にいる方だそうだ。

そんな彼が転んだ時に支える役の人を1人伴って、ステージに上る。

前を通り抜ける際に会釈を交わし、中央に到達。

そして2人がそれぞれのステータスボードを提出すると、

「これより……新郎ヒューズと新婦ルルネーゼの結婚式を執り行う」

大きくはないが低くよく通る声で結婚式の開始が宣言された。

「新郎新婦……皆の祝福を受けてこちらへ」

まずは新郎新婦の入場である。

「ぶっ……! くくっ、何だアレは」

「ヒューズさんガチガチに緊張してますね」

「明らかに動きが固いですもんね」

「観客も気づいて笑ってやすぜ」

大勢の拍手とフラワーシャワーの中、先に出てきた新郎のヒューズさん。彼はこれまで見たこともない、きっちりしたタキシードのような服に身を包み、一人でステージの前まで歩いているが……錆びついたロボットのように見えてしまう。

もしかしてヒューズさん、本番に弱い?

そんな疑いを抱いている間に、彼はステージの前で立ち止まり後ろを向く。

このタイミングで林から現れたのは新婦のルルネーゼさん。

純白のウェディングドレスの端をひらひらと風にたなびかせ、一歩一歩。

こちらも緊張した面持ちで、まっすぐに自らの夫となる男性のもとへ歩いていく。

そして二人は共に手を取り合い、腕を組んだ状態でステージの階段を登ってくる。

「うっ……」

「っ…………」

鼻をすする音が聞こえて見てみれば、アローネさんが泣きはじめ、バッツさんが支えるように立ちながら彼自身も涙をこらえているようだ。

「はるか昔、この世は何も存在しない“無”であったとされる……神々は“無”の中に“有”を、天と地を、太陽と月を、光と闇を作りたもうた」

この世界の人なら誰しも一度は聞いたことがあるだろう。

教会に伝わるこの世界の成り立ちの説話が朗々と語られ、終わると式は佳境に入る。

「――新郎ヒューズ、汝は新婦ルルネーゼを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを……神々の 御前(みまえ) にて誓うかね?」

「誓います」

「――新婦ルルネーゼ、汝は新郎ヒューズを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを……神々の 御前(みまえ) にて誓うかね?」

「はい。誓います」

「よろしい。2人の誓いはこのアラフラールが確かに聞き届けた。そして新たに生まれた1組の夫婦へ、神々も許しを――」

……? どうしたんだろうか? 神父様役のアラフラール氏が硬直する。

式の手順通りなら、この時点で2人のステータスボードの称号欄に“既婚者”と相手の名前が入った“~の夫”や“~の妻”という称号が増えているはず。これが2人の結婚を神々が認めた証となり、確認が取れた時点で結婚が成立したと宣言される、はずなんだけど……

1秒、2秒と時間が経過していくが、アラフラール氏は固まったまま動かない。

いや、厳密には視線だけを動かして2人のステータスボードを凝視している。

……なんだか嫌な予感がしてきた。

「どうしたんですかね?」

「まさか称号が出てないとか? 神々が認めなかったなんてことは」

「バカな。確かに結婚式で現れた称号により結婚詐欺師が捕まったこともあったらしいが、そんなことは稀な。いや、そもそもあのヒューズに限ってそんなことが」

ジルさんが滅茶苦茶動揺している……

本当に称号が出なかったのか? 出たらマズイ称号が出てしまったのか?

アラフラール氏が何度もステータスボードを凝視しているなら、後者か?

単純に老眼で文字が見えにくい、とかではないよな?

頼むから何か言ってもらいたい!

「…………………………むっ?」

俺の願いが通じたのか、それとも時間がざわめく参列者の声が届いたのか。何にしてもようやくアラフラール氏が顔をあげて、今の状況に気づいたようだ。

「うむっ、失礼……ああ……皆、安心してもらいたい。2人の結婚は神々に認められた!」

その一言で式場全体に安堵の空気が広がるが、そうなると彼は一体何を凝視していたのか?

「と、同時に!」

ん?

「2人は それぞれ3柱の(・・・・・・・) 神々から祝福を授かった。これは私の長い人生の中でも極めて珍しい出来事だ。今日の誓いを忘れず、神々に感謝し、これから2人で良い家庭を築けるよう、私は心から願っている」

自分が固まっていた理由を一言で説明し、そのまま式の進行へと軌道修正を図るアラフラール氏。

しかし、その進行についていけたのは諸事情により神々に対して慣れている俺だけのようだ。

このタイミングで3柱ってことは像を作ったクフォとルルティア、 それにウィリエリス様だろうか?

「……誰だとしても、見てて何かしてくれたな……」

思考停止から徐々に歓喜、そして狂喜乱舞へと変わっていく参列者達。

そんな彼らが力の限り叫ぶ祝福の言葉に、新郎新婦の2人は戸惑いつつ抱き合っていた。

これはこの後の、ある意味式の本番と言っても良い披露宴が大変なことになりそうだ。

いや、間違いなくそうなるだろう。

「おい、信じられるか? 神様が俺らを祝福してくれたってよ」

「ええ……あなたを選んで正解だったんですね。きっと」

肝心の2人は目を潤ませて、今にも泣きそうなほど喜んでいる。

思いがけないサプライズだが、きっとこれ以上ないほど記憶に残る式になっただろう。

心の底から良かったと思う。

しかしこの後が若干怖くなってきたのは、気のせいであってほしい。